アヴァロムの戦い④
戦場の誰もが感じていた。
肌に刺すような、ピリピリとした感覚を。
戦場の、あの何もかも夢中にさせる、敵を殺すという一種快感にも似たあの感覚をも忘れさせてしまうような。戦場の真っ只中に、それとは似ているようで似つかない感情ーー
興奮からの、恐怖。
アレだ。
誰かがそれに気付く、それに気づいたのは、ジャンに率いられた義勇軍の1人で、ウォルテシアで狩を主にしていた男だった。
そんな老年の男は、長年の経験を元にその気配の正体に気付いた。
『捕食者』に狙われている、猛獣に、怪物に。
そんな感覚だった。
その老年の男が感じた確かな気配は、中央軍であるパンドラの箱の面々。英雄と言われて然るべき突如行方不明になった戦士達を数多く含んでいた特殊部隊。
その眼前に広がった。
獣神隊
亜人種最強の部隊と言われているその部隊は、ケテル=マルクトの死後、理想郷の崩壊から少し後に産み出された怒りの部隊と言ってもいい。
指揮官の死により衰退したその部隊は、確かに戦争では負け無しだったのだ。
指揮官は神9柱、イシュタリア・ランスロード
その男は先頭に立ち、槍を構えて叫ぶ
『ここに立つは我らが部隊!誇り高き我ら獣人の!!!「怒り」を目に焼き付けるがいい!我らは『獣神隊』!!!人族の禁忌に触れし貴様等を討たんがために黄泉の国より舞い戻った!!!』
戦場にいる冥界軍の中央の面々が、人の海を割るように道を開ける。
それは、敵であらねばならない、パンドラの箱の面々ですら同じてあった。畏敬、カリスマと呼ぶのであろうか。決して必死で叫んでいるようには見えない、その大声は
この場の、戦場全体にいる兵士の動きを止め、彼に注視させていた。
少なくとも、今戦っている兵士等の中で、獣神隊の名前を知らぬものはいない。少しでも教育を受けている者や、仮に受けていなかったとしても、物語で獣神隊の名前は知っているのだ。
物語上では人類に牙を向く悪者として、歴史上では卑怯な手を使い理想郷を滅ぼした愚かな国を全滅一歩手前まで追い込めた廃エルフと共に、獣神隊の名前は世界に轟いていた。
『もしランスロードが5年、いや後3年生きていたら、人間の歴史は180度変わっていた』というのはこの国の上層部レベルなら誰もが知る話だ。
逆に聞きたい。
・・こんな化け物、どーやって殺したんだ?と
『全軍!!!!奮戦せよ!!!!突撃!!!』
最高のカリスマを持つ大英雄が今、彼ら人間種を滅ぼさんと今牙を向く。
寿命も無い、糧食もいらない最高の部隊を引き連れて。
その蹂躙は、まさしく人間から見れば悪魔であったに違いない。
世界最強、その名を欲しいままにしてきたラトライダ子爵の私設部隊。3年の月日の中で、王国のみならず全世界に最強であると認められた筈のその部隊は今、劣勢に立たされていた。
先頭に立つたった1人の男に。
「こんなものか!今代の戦士等は!中々の武勇を誇っているが、所詮は人間か!」
そう言いながら槍を振り回して敵を威嚇する、そのただの威嚇でさえ、一般兵からは荒れ狂う暴風に見え、パンドラの箱の面々でさえ竜巻に思え思わず目を瞑る。
そんな暴風の中に入って行く勇者がいた。
その名はベリアス
「人族が禁忌を犯したとはどういう意味だ!!」
「ふむ、まともそうなのが来たな」
ガキィ!!という槍旗と槍のぶつかり合いが戦場に響く。
「なっ!?これは神器だぞ?」
「だからどうした!!これは神器では無い、宝具ですら無い!これは一般兵士と同じただの槍よ!」
そう、ベリアスがこれまで冥界軍の精鋭相手に無双できていたのは一重に神器による影響が大きい。敵が持っているのもが宝具クラス以下であれば紙のように貫通してしまうほどの威力を神器は持っているのだ。
しかし目の前にいるこの獣人は、ただの槍で神器を受け止めた。
「ということは、武器を強化しているのか?」
「違うな、私は魔法は使えん。ただの膂力の違いよ。」
そこまで言うとランスロードはベリアスに向けて槍を振るう。ベリアスはその槍さばきを受けきることが出来ずに押されている。
神器も無しに!これで下位神か・・
「人族の1人が罪を犯したからと言ってその責任を他の者にまで押し付ける行為が許されるのか!?」
「1人、それができると言うことを知ってしまえばお前たちはそれを当然と捉えてし続ける!死ぬとわかっていても蘇生をするものもいるだろう!お前たち人間とはそう言うものだ!だからこそアヌビスもお前たちを殺そうとしたのだろうよ」
「力より前に話し合うということはできないのか?」
「何故話し合わねばならん?我々は神ぞ?禁忌を作り、これを犯してはならぬと人々に言い渡した。それを破ったのだ、滅ぼされても仕方がない」
「だが!人族全員にその罰を課すのはやりすぎでは」
「その考えが傲慢だと何故気付かん?」
そこまで言うと、槍がぶつかり、隙のできたベリアスの顔面をランスロードの槍が掠る。
ギリギリで顔を掠った程度の怪我で済んだが、一歩間違えれば顔を貫かれ即死していた。
(やはり私では勝てんか・・戦局的にも右左両陣営の中央の援護がなくなったことにより戦線が崩壊し始めている・・!!このままでは城が落とされてしまう!)
既に右陣と左陣は限界だ、左陣はライト王の砲撃により一時期は敵を押しとどめたものの時間稼ぎにしかならなかった。左陣も引き始めている。
こんな状況では、反撃のしようもない。
その前に、目の前にいる絶対的な死の予感を、ベリアスの実力で回避できる術は無かった。
「さらばだ若者よ、死んだら私を訪ねて来るがいい」
「断る」
「ますます気に入った」
槍が一直線に振るわれる、避ける術も、防ぐ術もない。
死を直感し、目を瞑ろうとしたその感覚を、一筋の黒い風が防いだ。
「おいおい、久しぶりに会ったと思ったらやられてるじゃないか」
その女は、万力にも等しいランスロードの一撃を、確かに受け止めていた。
「何者だ貴様!スアレスが集めた情報の中に貴様は入っていない!私の一撃を止められるものなど!」
その逃れられない『死』を受け止めたのは彼女だった。
神器を、手に握りしめているこの旗槍を手に入れる前まではとてもじゃないが制御できていたとは言えない感情、嫉妬を向けていた相手。
神器を使いこなしているとはお世辞にも言えないのに、尋常じゃない力を誇る女性。
色気の無い長ズボンと上着は、まさに戦いから帰って来たばかりのように薄汚れており、長い髪はひとまとめにして下げてある。
武器はベリアスの持つ旗槍シャルトスと同程度に長い剣で、バスターソードと呼ぶに相応しい重厚な厚みを持った剣だった。
この者は、共もいらず、仲間をも持たず、この世界で3年間、修行と創世の四聖に本気で挑んだ女。
グリーンのような知性はなく
ホワイトのような力もなく
イエローのような権謀術数の類に疎く
ピンクのような魔法も使えない。
あるのは、彼女が主人と崇める男と同じ運と武の才覚のみ。
「そうか、君がグリーンの言っていたクロか!」
「ご名答だ、ベリアス!久しぶりだな!!!」
人格最強、クロがこうしてこの場に参上した。そしてその出現は戦場を揺らす台風の目になるのだ。
「さぁ、やろうか!強そうなそこのオマエ!」
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