アヴァロムの戦い①
「まぁ、ある程度はグリーンの読み次第か。」
ライト王は眼前に広がる敵軍を見ながらそう呟く、その数は留まるところを知らず大きくなっていた。
10万...数10万...100万?
もっとか。
数は既に人間という種族の収まる範疇を過ぎている、魔族や亜人。エルフすらにも救援を求めたが無為に終わった。
全て断られた、今ここにいるのは人間種とグリーンに救われたパンドラの箱の面々率いるメンバーのみである。
パンドラの箱の面々も、人間種のために戦う訳ではない。あくまでもグリーンに従ってのことだ。
「これが人種の限界、か」
ライトはそこまで言うと、ふぅとため息をつく。他種族から救援が来ないのはライトのせいでは無い、むしろこれまでライトは全種族の融和のために全力を尽くして来たとも言ってもいい。
時間が、ライトが大国の王として実績を積み上げていくためには、まだまだ時間が必要なのだ。
だが戦場というものは得てして無情である、経験不足など少しも考えないまるっきり無慈悲な部隊が、次々とゲートから出現してくる。
対策をしていないとは言えない、あの頃より王国騎士団も強化が施された。騎士一人一人の実力もあのアイテールとの戦い後より飛躍的に上昇、私個人としても策が無いとは言えない。
だがそれでも恐らく足りないだろう、この肌が、歴戦の勇士とは言えない、それでも十分な訓練を受けた私の肌が。
1秒でも早くここから逃げたいと思っている。
だが逃げない、時を1秒でも長く稼ぐ。
それしか矜持を見せる方法は存在しない。
「グリーン砲は残り30数発か、大丈夫な気がして来たな」
1発目であれだけの威力を見せてくれたグリーン砲だ、今回も役に立ってくれるだろう。
「・・・勝つぞ」
かつて幼少に、兄の出生に難癖をつけて出世したい貴族にゴマを擦られたことがあった。
それにまんまと乗せられ、愚かにも王を目指した。
婚約者に、「世界の王となろう」と誓った。
思えば私は何故王になったのだろうか?
研究者を夢見てきた、ごく普通の青年が王を目指した。
そして誓いは守られる、人種の代表が人間軍の総大将は、確かに私である。
武勇が優れている訳でも無い
統治能力が優れている訳でも無い。
それがどうした
治世では今も王都にいる頼れる妻がやる
武では、神殺しの英雄がいる
私は何もできない、だが私の代わりは誰もできない。
「全軍前へ!!!敵が集結しきる前に攻勢を仕掛ける!!」
ライト王の号令が響き、兵士の声がエリアド荒原中に響く。
大地の軍勢が動き出そうとしていた。
◇◇◇◇
「ふん」
冥界軍としてゲートをくぐるとそこには、自らの求める戦場が彼を待っていた。
彼は9柱、下位神。
『獣否獅王』名をランスと言った
イシュタリア・ランスロード
槍道という名前の通り、槍を小脇に抱えた元この世界の亜人王である。
彼の生存時にできた亜人種の国は、国としての寿命は彼の存命時のみとなってしまったが。それでも亜人種の希望として彼自身は高名な王として知られている。
ちなみに元超越者でもある。
そんな彼もまた、人間種を滅ぼすために今回の戦争に参加していた。
ゲートをくぐり、地上に降り立つ。
幾年も夢想した大地の感触、その感触に冥界軍の何名かが嬉しさを隠さず叫び出した。それはランスとて同じことではあったが。
しかし、そんな感動的な場面に、横槍を入れて来た黒い球体のものがあった
それが、まるで雨のように空中に無数に浮かぶ
恐らくあれが、報告にあった超爆発を起こすなにかか。
「原理を調査して我々も使いたいが時間がない、悪いが対策をさせて貰っている。」
超爆発を引き起こす砲撃
これをマルクから聞いた時の興奮はランスロード、通称ランスは中々のものだった。
原理は不明、魔法ではないその正体不明の攻撃は、されど軍勢を一瞬で殺しきる。
まさしく最高の武器だ、少なくとも自分が死んでから数百年は経っている大地だ。原始的な弓やクロスボウが主流だった時代から多少なり兵器の開発も進んだということか。
・・敢えて補足させて貰うならば、王国の兵器産業はそんなに進歩していない、この場で評価されている武器は全てグリーンが作成したものである。
ともかく、その正体不明の黒い玉に向けて、冥界軍が弓を射かける。弓が正しくその黒い玉に刺さると、黒い玉は冥界軍のちょうど真上で超爆発を引き起こした。
ドォォォォォォン!
数十もの爆発が上空で起きる。
やはりか
衝撃によって爆発したと見ていたマルクの眼はどうやら間違いではなかったようだ。
ついでに言うと、グリーン砲こと黒い玉はそれなりの衝撃を受けなければ爆発しないように設定されているため、普通の弓ならば爆発などしない。
あくまで冥界軍に所属している超一流の猟師達がいてこその神業である。
さて、ここからか
ランスは槍を高々と上げて叫ぶ
「お前達、続け!冥界神アヌビス、そしてこの獣王の怒りを人間どもに見せつけてやるのだ!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
またも軍勢がエリアド荒原にポツリとある、時間が経ちようやく城と呼んで差し支え無くなったこの城に向けて押しかけ始めた。
砲撃は味方を巻き込む危険性があるため、近づかれると撃てなくなる。
つまりここからが本当の勝負である。
今世の種族がどれほどの力を持つのか、ランスは楽しみに身体中を震わせるのだった。




