悪魔大帝vsアヌビス③
「ふむ・・冥界之地獄・・冥界に存在する、冥界で罪を犯したものが放り込まれる地獄の炎カ。緩いナ。何をそんなに焦っていル?アヌビス」
「お前も武器を持っているではないか大帝、これをまともに喰らうのは流石のお前でも恐怖したか?」
「埃をはらったまでのことヨ」
そう、大帝もまた武器を抜いていた。彼の武器は霧のように靄がかかり、その全貌を捉えることは不可能だったが、アヌビスの宝具アフェナと悪魔大帝にある隙間、そして悪魔大帝が何か武器を持っている様子から、ようやく大帝が武器を持っているのがわかる。
『悪魔之王』
これこそが実は悪魔大王そのもの、悪魔大王を屈服させた悪魔大帝が扱う不可視の武器。それは悪魔大王の反骨の相を表すかのように不可視であり、大帝自身しかその武器の全体を知らない。
悪魔大王が自分に挑んで来た際、倒して自らの武器とし、絶対の忠誠を誓わせてその命を許したという秘伝の逸品で、特殊であるという点において神器級の価値を持つ。
「ふぅん!」
「ふム」
爆発音にも似た剣のぶつかり合いがその場に響くと同時に悪魔や冥界軍の面々が吹き飛ばされていく。その場に留まりこの戦いを無事に見ることが許されたのは、悪魔大帝に仕える4名の熾悪魔と、5名ほどの冥界軍幹部のみであった。
2人の戦い方も、また似て非なるもの。悪魔大帝の戦い方は言うなれば暴力。大柄な剣を上下左右に振り回しているのみ、それは剣を嗜んだことのある者が見れば一目瞭然なほどの素人と思えるだろう。
一方アヌビスは洗練された剣術で悪魔大帝の剣を捌いていく。こちらは無駄なく大帝の動きを躱し、確実に一撃を加えていっている。
神々という莫大な実力を持つもの同士の戦いに限っては、精神力のぶつかり合いで総量の大きいものが勝利するという話は伝えたように思う。
この2人のエネルギーがいつ無くなるかは、誰にもわからないが、この果てしないエネルギーのぶつかり合いは、約一週間続いた。この間に人間達は戦力を整え、フレイヤ以下は冥界に渡るための時間を稼げたのだった。
「久しぶりに楽しめタゾ、十二分に。」
「・・・・・・・・・」
冥界軍と悪魔の戦いが始まってからアヴァロムの時間軸で10日。決着はついたように見えた。
大帝は、地面に伏せ、ピクりとも動かない負け犬を見下ろしながら話を続ける
アヌビスの近くには、冥界之幹部達がアヌビスを助けんと次々と出現するも、熾悪魔達が参戦し向こうで熱戦を繰り広げている。
「魔法も、剣術も、ありとあらゆる冥界の主としての権能を使ったとて、届かない頂きもある。第三世界の王、この空間、この世界において我は正しく無敵。この世界に限定するなら、我は1柱にとて送れは取らん。」
そう言いながら悪魔大帝は、目の前に伏している男を見下ろしそう呟く、第三世界に生きる悪魔族は。重力、自分の現在位置も把握できないこの何もない空間に対して絶対の免疫を持っている。
常人であれば数時間も持たずに発狂してしまうほどのこの空虚のような空間も、住み慣れた故郷である悪魔族ならば問題ない。むしろこの空間であれば使える技術も多い。
悪魔大帝も、その枠に漏れることはなかった。鍛えない、技術を徹底的に排除した圧倒的な力で踏み潰すを是とした悪魔大帝のその戦闘能力は、遮蔽物などを使った戦いのできないここだからこそ生かされる。
なんの障害物もない1対1という局面において、大帝に帰る種族が、この世に何人いるのだろうか。それを支えるのは大帝自身の圧倒的タフネスである。
「そう・・だな、手前、愚か故。貴殿と一対一での勝負などという暴挙に出てしまった。久しく戦いなどしてなかったのでな、それによりによって同格との戦いなど。」
ゆっくりと、身体のところどころが欠損しながらもアヌビスは立ち上がった。その姿に、先程まで見えていた戦いへの興奮や、驚愕などと言った心の躍動はない。ただゆらりと立ち上がり彼は悪魔大帝を見ていた、その目に、悪魔大帝は少しばかりの寒気を覚える。
(馬鹿な...我が...怯えた?)
「あぁ...悪魔の王よ、確かに冥界之王としては手前は無力なのかもしれんな。この世界という領域に直接攻め込む。愚かなことだとマルクからは散々止められたよ。それよりも悪魔族を葬るならいい方法が沢山あると、だが手前はこの世界に来ることを選んだ。」
そこまで言うと、アヌビスはゆっくりと息を吐く。既に体にあった傷は元どおりになっていた。
「友に謝らねばな・・それよりお前だ、悪魔大帝。お前を殺し、館にいる人間を殺す。見せてやろう」
「お前に死を与える」
そこまで言うと、アヌビスの体は少しずつ変化を始めていった。
熾悪魔の男は、大帝とアヌビスの戦いを、屋敷へと退避しつつ見ていた。まさしく頂上決戦、そんな激闘を当然のごとく制したのは自らの主人。
流石は大帝ってとこかよ...ったく。
しかし、それまでだった。アヌビスと大帝が話し合うのが見え、アヌビスがゆっくりと立つ。
その直後、アヌビスの持つ雰囲気がまた一段階上がり始めた。雰囲気などと言う不透明なものではない。魔力そのものの量、濃密な気配がアヌビス全体を包み、アヌビスの体全体を囲う
こりゃあ、進化か?
確かに種族的に見る「進化」という現象に、アヌビスの今回の現象は似ている気がした。しかしありえない、神という存在はそれそのものが種族としての限界の象徴。それ以上はどうあがいても強くなりはしない。
無論強くならないというのは筋力や魔力的絶対値のことであって、技術はいくらでも伸ばす方ができるのに違いはないが。
え、つまりなんだ?アヌビスは、進化する
そう言う事だな、えぇ?まだあの姿が真の姿じゃねぇと?
アヌビスに仮の姿はない、ウルフィアスやフレイヤがアヴァロムという脆弱な世界で存在出来ているのは一重にウルフィアス開発の特性体のおかげである。アヌビスやマルクなどといった神にそのような仮の姿はない。
熾悪魔の男の予想は、当たりでもあり、外れでもあった。アヌビスがこれから行うのは決して進化などという高尚なものではない。第7柱、ケテル=マルクトの弟、ウェザーが魔導の極みにおいて達成した反魔法に近い所業。己の命を燃やして自らを強化する身体強化系統の極みとも言えるものの極致が、今アヌビスが再現したものである。
『超獣化・冥狼王』
アヌビス自身は、己の魔法をそう呼んでいる。
彼の体がゆっくりと霧から出てくる、その姿は変わり果てていた。犬の頭こそ無事なものの、その手は4本に増え、肌も硬質的で刺々しいものに変貌している。口からは2本の長い牙がのぞき、服装はお遊びで着ていた和装が消え失せて死神の着るボロ切れのような服に変貌している。
身体のところどころに、青い炎のようなものが燻っていた。
右手に持っているアフェナも、アヌビスの様子に呼応するかのように刀身のみが巨大化し、今はアヌビスの肩に担いでいるように持っている。武器はそれのみ、それ以外は持っていなかった。
冥犬族、そう呼ばれていた一族が魔物としてアヴァロムにいたのは、かなり昔の話だ。この姿は、そんなアヌビスが5人の仲間と共にある種族を皆殺しにした頃の姿である。まだアヴァロムが、神々が本来の姿に戻っても大丈夫なくらいに頑健だった頃の。
ともかく、そんな姿形が完全に変貌したアヌビスが悪魔大帝に向けた殺意は、直接向けられた訳でもない男にまで届き鳥肌を立てさせたと言えば十分か。
「お前に死を与える」
そんな自らの主人に向けた絶対的殺意を前に、男は震えた。
悪魔大帝
不死の悪魔を殺せる唯一の存在
2階だてのお家ぐらいの大きさ
悪魔、第三世界を率いる首領であり、大帝に付き従っていない悪魔は大抵弱い悪魔か自立行動が好きな悪魔である。
フォルテやギールなど、息子が一杯いる。
支配者っぽく振る舞ってはいるが、ギールやフォルテの父親なので性格は色々とお察し。
神々に勝るとも劣らない強さを持ちながら神に選ばれなかった理由は人に害を成す反英雄であるから。
元ネタはFGOのイヴァン雷帝。




