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悲しき兄弟対決

美しい緑と、昔の基準で言えばそれなりに発展していたであろう我が国、理想郷(エルドラド)という名を掲げたこの国は、確かに数百年前、ここにあった。


美しい、現在のケイアポリス王国の王城に負けずとも劣らない白亜の城、理想郷の廊下に、その風紀に似合わない走るような音が聞こえる。


コッコッと、跳ねるようなステップで走る軽快な音、この国の王城でそんなことができる人物は1人しかいない。


「ウェザー!ウェザー!」


白と金を基調としたゆったりとした服装をし、長い髪をなびかせながら走るこの男が、かつての僕。ケテル=マルクトだった、そしてノックもせずに大扉を開ける。


「どうしたんだい、兄さん。そんなに慌てて」


扉をノックもせずに開ける...そんな無礼なことができる人物は、自分の兄ぐらいだと確信した様子でウェザーは声をかけてきた。


当時の学者風な服装である茶を主とした厚着をしながら、懸命に書類に向かう。体は当時よりハイエルフとして進化を果たしていた自分に比べてひと回りほど細く、しかしながら書類仕事に取り組む様は鳥が止まってしまいそうなほどに静か。


このときの弟はまだ、普通のどこにでもいるエルフであった。学者肌で、真面目な。これが、私が想像していた、我が弟であるウェザーの全てだ。自分の右腕として、長い間裏方仕事に勤しんで来た自慢の弟であった。


ちなみに今回の要件は、ケイアポリス王国と亜人との同盟に尽力しいずれは魔族とも手を取り合えるその足掛けの会議であり、その成功を弟へと伝えに来たのだった。


「やったじゃないか兄さん!平和か、悪くないね」


「あぁ、これでやっと戦乱の時代は終わる。人と亜人種、いずれは魔族とだって手を繋いで見せるさ」


戦争のない国を、それが僕たちが、戦争によって運命を狂わされ続けていた僕たち2人の総意だった。その為に戦い、その為に多くの命を犠牲にしてきた。


「そうだ兄さん、嬉しいこともあったし、クロムウェルとかライアさんも呼んでさ。ちょっとしたパーティでもしようよ」


「またあの狂科学者(マッド野郎)を呼ぶのか!?お前いい加減にしないと、体を弄られるぞ?」


・・・・・


・・・・・


やめだ、辛い。


記憶を掘り起こすのは不快だ。












僕は既に見えてしまっていた。


いずれ理想郷の崩壊が訪れることに、僕たちが作り上げてきた平和が、ほんの30年ほどしか続かずに破綻することに。この白亜の城がものの見事に崩壊する未来が見えてしまっていた。


そして僕の死まで。


しかし、それでいいと僕は思う。たかだか30年、しかしこの動乱の世界で30年もの間戦争が起きない。


貧しい農民が兵役に駆り出される必要もなくなる。それで結構だ、たかが30年、されどその30年のために僕は生きているのだ。


謀略・知略の天才と言われ、諸国に恐れられていた男でも、この世界に大小国が入り乱れ互いに王を名乗っていたこの動乱の時代。魔物が世界を牛耳る世界など忘却の彼方、人間の時代、互いに手を取り合い細々としかしながら協力し合っていたあの頃とはもう違う。


この天才が、国を作り全てを捧げたところで世界にもたらすことのできるパワーバランスは30年程度。それを皮切りに理想郷は崩壊するだろう。そしてその終焉は僕の死から始まる。


しかしこの30年は、人類にとって1000年、いや永劫に続く栄光の前日譚となるだろう。少なくともマルクにはそう見えていた。


より未来に、より多くの人々が幸せに暮らすことのできる世界。それこそが彼の目標であった。意外にもそうした人柄と能力が評価されて神柱の1人として加えられているのだが、彼はそれに気づいていない。


より多くの人?


より多くの幸福を守るために?


その未来の中に、多くの人々の中に。


自分の弟は入っていないと言うのに。


弟は、理想郷が壊れる様を見て心が死んだ。全てを見通すマルクが見通せなかったのが弟の心だとは皮肉な話だが。ともかく弟は、自分の身全てを捧げて反英雄となった。


あの美しかった髪はちぢれるように禿げ、あの美しい顔立ちは全身に火傷を負った人のように醜く焼けただれ。動かずに横たわっていれば確実に死体と認識されるであろう、さながら幽鬼とも思われるような少なくともエルフには見えなくなっていた。


種族名・黒耳長族(ダークエルフ)


ダークエルフ族という種族が生まれた瞬間であった。


そこにいたのは、ただの化け物だった。


大多数の幸福を願い、少数を切り捨て、それでもなお見捨てられなかった弟の為に。僕はフォルテの企み...アヌビスとフレイヤの全面戦争という地獄に乗った。


人の死、それにウェザーが飛びついてくると信じて。


完敗した以外は、というか完敗した可能性も含めて、マルクの全て予想通りに動いていた。


全ては、今なお目的もなくうろつく哀れな弟を救う為に。


「さぁこい!!終わりにしてやる!!」


鞭を構え、既に理性のタガを失くした弟と、マルクは激突するのだった。


「僕が不幸にした人生もあった、僕が殺した命だってある。後悔はしていない。だがお前は違うぞウェザー!お前は未来を見なかった!理想郷が壊れたとて、僕が死んだとて、僕たちの理想は続いていくんだ!」


「A aaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!」


「これが、最初で最後の兄弟喧嘩だ!」


ちなみに、ビネルはウェザーの子孫なので、実はケテル=マルクトさんとビネルは遠い親戚です。


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読んでくれてありがとうございます! これから全10章、毎日投稿させていただきますので、是非よろしくお願いします @kurokonngame くろこんでツイッターもやってますので、繋がりに来てください。
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