奇襲大失敗
「お代は〜遊んでる余裕ないわぁ!」
「それ、遊んでたんですか!?」
「そうだよ、なんか文句あるか?」
「フシュ〜〜。喋ってる余裕はあるのですね...」
「こんな化け物の中にいたら、私まで化け物になっちゃう...もうやだぁ!そもそも戦いたくないのにぃ!もう飛べないのに!」
(言えない...お前が一番の化け物だよだなんて言えない...)
軍の中心で各々の武器を振っているのはジャック、ファムルス、エルザ、そしてイヴァンに騎乗したレッドである。冥界軍との戦い、その初戦は、見た感じ圧倒的だ。
レッド指揮下(実質やってるのはディナス)のパンドラの箱のメンバーが人外魔境のこの面々でも特に最たる精鋭であることは言うまでもない。
ちなみにこのメンバーの中でレッドの扱いは少々特殊である、現在ジャック、ファムルスのご主人は間違いなくグリーンだ。しかしエルザとイヴァンはレッドを主人、本物の主人であり旅をした人物と見定めており、グリーンはイエローもそのような素振りを見せている。
ジャックとファムルスにしてみれば少々ややこしい事態なのだ、今は。ディナスは全員を主人と言って憚らないが。
ジャックが奇術で人を惑わし倒し
ファムルスがその豪腕で敵を蹴散らしていく。
「クソッ「義賊」と「豪腕」だとぉ!?なんで死んでねぇんだよ?」
「どうりで冥界にいないと思ったんだ!アヌビスさんの幹部の中にもいねぇからまさかとは思ったがよぉ!まだ生きてるなんて聞いてねぇぞ?」
冥界軍の一部からそんな声が聞こえてくる。
「ジャックとファムルスって結構有名なんだね。」
「いや〜俺は裏社会では有名人だったからなぁ」
「名声では飯は食えません!邪魔です」
さいですか、ちなみにレッドも今回はイヴァンの上に騎乗して何もしてない訳ではない。
バハムートの試練で修練を重ね、久々にも関わらず息ぴったりの2人の戦闘は、既に完璧に近いものとなっていた。
イヴァンの更に進化したどう猛な爪と牙が冥界軍の肌を切り裂き、上空からの攻撃をレッドが守護する。
上から飛んできた無数の矢を、レッドがイヴァンに当たりそうなものだけを刀で弾く。神器を全てつけていた時のあの体の動かし方を、レッドは覚えていた。
体が覚えているという奴である、だがここまで完璧に、それに近い形で再現できるものがいるだろうか?馬上...いや龍上で戦うレッドを見ながらもイヴァンは戦慄を禁じ得ない
(主人は気づいているのか?自分の強さに、あの時の全ての神器が揃っている時の主人の強さに近づいているということに!主人が強くなる可能性は、クロという女が持っていると言う話だが、恐らくそれ以上なのではないのか?)
松岡輝赤、彼はあくまでも平凡である。だがそこから生み出されたクロ、グリーンなどは可能性、レッドが本来選べる全ての可能性の具現がグリーン、クロ以下の人格達である。
平凡が...いつまでも平凡なままとは限らない。彼が無限の可能性を持っていることに気づいているのは、現状一握りの人間のみであった。
「ジャック、ファムルスは左右を頼む。作戦通り敵を分断させることに成功したから、あとは挟み討ちにされないように敵を分散させたまま数で押し切っちゃって!」
全体の指揮は本陣にいるディナスに任せて、前線での指示をレッドが出していく。普通逆じゃね?とグリーンがいたらいいそうなのだが、イヴァンという駒はレッドが近くにいなければ動かせない。エルザも然り。戦えるものが前に出るのは当たり前だと、レッドは思っている。
まぁ、死ぬことはないだろうしね
2人が手持ちの場所に行くと、レッド、エルザ、イヴァン、ディナスの4名は進み始める。
冥界軍を次々と屠りながらも、その歩みは誰にも止められない。敵が次々と彼らの行く手を阻むも、数10秒と持たずに彼らは光となって消えてゆく。
機械の体を持ってして限界を超えた機械
鍛錬を持って限界を超えた龍人
『強き種族であるからこそ強い』龍種
3人の理不尽と、1人の凡人の歩みは冥界軍本陣にまで迫り...
「マルクさん、やっぱりここにいたんですね...」
「やぁ、レッド君。思ってたよりもすぐに再開したねぇ」
とうとう、木の椅子に座り、物憂げにエリアド荒原の戦場跡を眺めている1人のエルフ、ケテル=マルクトと、レッドは再開したのだった。
「マルクさん...」
「やぁ、レッド君。個人的に...お話でもしない?」
「ここ戦場ですよ」
あたりに鮮血が散り、怒声と悲鳴の両方が鳴るこの戦場で、マルスはあまりに自然に。街角で偶然会ったかのような気軽さで僕に話しかけてきた。マルクさんが持っているのは鞭、神具と言われる、マルクさんオリジナルの武器である。
「なに、気にすることはない。あと3分ほどでこの場がちょっと揺れるかも知れないからそれまで時間でも潰そうかとね。安心したまえ、君たちの誰かが死ぬ確率はほぼゼロだ」
そう言うと、マルクは椅子に座りポンポンと隣の席を叩いた。座れと言うことかな?
あ、はい失礼します。
エルザとイヴァンも座ってて良いよ〜
「え...何その雑感」
「まぁ、寝てるか」
「戦場で!?死ぬとか考えないの?」
「龍種は基本的に不滅だ、どこかで新しい龍が生まれるのみだな。死は恐れん」
後ろでアホな会話をしている2人を極力無視して僕は椅子に座る。
「いや、強いな君達は。お陰で先遣隊は完敗だよ、もうちょっと情報を集めてから挑むべきだったかな〜」
「・・わざと負けたくせに良く言いますよ、深淵賢帝が、たかが大量殺戮兵器に負けるはずがない」
「おぉ〜買いかぶられてるねぇ、そうだな。僕はここで僕の目的が来るのを待っていた、実のところこの世に一つだけは嘘だけど、中々の心残りがあってね。それを回収しに来たんだ。」
「貴方ほどの人物でも後悔なんてするんですか」
「当たり前だろう?神だなんだと言われたところで、僕はただのエルフだよ?種族としてはハイエルフとして昇華されたけど、それでも僕は生物の理から抜け出せてない。神さまなんて烏滸がましいよ。」
そう言いながら、マルクさんは目の前のクレーターを見つめる。あれをやったのはグリーンだ、彼の兵器は多分だけどこの世界の魔法を凌駕しているだろう。それが全部で10、球が30発、残り29発アレが撃てるってんだから凄いよな。
「凄いな、僕も魔法が使えるけど。アレは一体なんなんだ?」
「企業秘密です、アレはこの世界には早すぎる」
「そうだね、どちらにせよ。僕たちの手でアレは作れないな、なんてったって冥界には何にもないのが売りだからね」
マルクさんはそれを聴くと、薄っすらと目を細めてそう言った。彼の中で殺気のようなものが高まっていくのを感じる。今この人と戦って勝つ想像をしている僕が馬鹿らしく見えるほどに。
「最後に一つだけ、聞いてもいいかな?」
「どうぞ」
「・・・・アヌビスは強いよ、恐らくあの兵器をぶち込んでもアイツを殺すことはできない。君がもし大切な人を連れて元の世界に戻ると言うのなら、その面々だけは見逃すように僕がアヌビスを説得しよう。」
その面々は、本気だった。本気でアヌビスを説得やるとそう決意している目だ。つまり、エルザも、イヴァンも、連れていけば安全は保証してもらえるってことか。
いやぁ、でもなぁ。
結局いい人なんだよなぁ、この人も。敵だけど
そう思うしかなかった、エルザやイヴァンがなんの敵意も抱かず悠々と話をしている時点でも察せるかと思うが。ケテル=マルクトという人間は、どこまで言ってもお人好しなのだ。
だからこそ
「大丈夫です、僕たちは、この世界を守ります!」
僕は決意できる、マルクさんよりもずっと強い奴を倒そうと思える。
守護るという点において、僕の右に出るものはいないのだから。この世界でという点だけだけど。
「そうかい、では行きなさい。もう戦争は終わる」
「え?それってどういう意味ーーー」
マルクさんはそれだけ言って立ち上がった、アスクロルを僕たちのために回収してくれたあの時のようにあっさりと。
戦争が終わりって、一体どういうことなんだろう
説明を、そう言おうとしたが言えなかった。マルクさんの背中を見たからだ。
エルフは、貧弱で、弱い生き物だ。しかしマルクさんの体はそんな貧弱なイメージのあるエルフとは一線を画していた。服の間から少しだけ見える肌に、隠しきれないほどの膨大な筋肉が無駄なく敷き詰められていることを、彼と間近で会話した僕だけが知っている。
彼の背中は、殺気などという陳腐な表現では表せなかった。表情を見ることはできない、だが彼の背中から、発せられた雰囲気から。彼が激怒しているのであろうということは察せた。
憤怒、怨念、憎悪、全てが陳腐に見えるほどの圧を放ちながら少しずつマルクさんは歩いていく。
しばらくして、僕達の目の前から、マルクさんは消えた。
「戻ろう、ディナスにも知らせて。撤退だ」
それだけ言うと、僕はディナスのいる本陣に戻る
そのたった数十分後、確認された全ての冥界軍が撤退したという報告がイエローから上がった。
ここに先遣隊として遣わされた冥界軍は、ほぼ完全に死滅したのである。
歩く、歩く、歩く
気配が近づいてくる、消す
気配が近づいてくる、消す
気配が近づいてくる、消す
気配が近づいて...消滅した。
エルフは静寂を好む、そこに現れたのは騒音の化身とも言える男だが。昔はそんな男では無かったと神柱第7柱・ケテル=マルクトは思う。
昔は思慮深く内政向きで、僕を支えた偉大な男だった。
何がお前を変えたのかは...いやいい
「もう言葉も何もいらない、僕が冥界からずっと探してたのはお前だよ、そんな姿になって、いつまでも彷徨い続けて。やっと見つけた、必ずお前を殺して、冥界で共に暮らそう!お前はもう!苦しまなくていいんだ!ウェザー!!」
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
戦場に狼の声など生ぬるいと言うような絶叫が響き渡る。
肌な火傷のようなものが広がり、以前イエロー達と対峙した時よりも遥かに醜さが増している。身体中を絶え間なくガシガシとかいている。
ダークエルフ、光輝く神器ヴェザリアの持ち主
変わり果てたマルクトの弟、ウェザーがそこにはいた。




