スアレスvsイエロー
静かな森林に、2つの金属の音が聞こえる。
それはこの幻想なる森への冒涜にも思える戦闘音。
一瞬の空間の揺らめき、金属音
また少し離れた場所で空間が揺らめき、ギャリンという大鎌とナイフのぶつかる音が森の中に木霊する。
既に数十分と続いたこの光景は、彼らが同時に立ち止まったことにより終焉を迎える。
1人は全身にスーツを着込んだ若人である。この世界の一般的な格好からはかなりかけ離れており、その挙動の1つ1つに熟練の戦士を思わせる。
ご存知、グリーンにスーツを与えられたイエローである。
対するは全方向にだらしなく髪が伸びており、目元が完全に隠れている男である。全体的に皺のついた服装が目立ち、全身から胡散臭さがただよっている。両手には大鎌を装備し、2振りのナイフを持つイエローに互角に立ち回っている。
こちらもご存知スアレス、冥界軍幹部の1人であった。
面倒臭いですな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
イエローが第一に感じた感想はまさしくそれだった。達人じみた身のこなし、扱いの難しい大鎌を難なく使いこなしている。というか、ルーツを辿れば大鎌って武器でも何でもないのですがな!?どこをどうしたらあそこまで戦闘に特化できるように昇華できるのですかな。
そして極めつけは大鎌に込められた殺気である、魔力に疎いイエローでも、大鎌に何か仕掛けられているのは丸わかりだ。そしてそれはおおよその予想はついていた。
(あれ........これ、パンドラの箱のメンバーに似たような戦法を使ってくる御仁がいたような。良くも悪くも超人集団ですからなあそこ、あまり覚えてはいないのですが)
その予想は物忘れの激しいイエローにしては大正解である、パンドラの箱には確かに死神交奏曲を扱う老人がいる。そしてその技はパンドラの箱内部で更に研磨され、スアレス本人をも超えるほどのものとなっていた。
実はそれはスアレスの実子なのだが、本人は現在レッグと共にコレットの護衛に張り付いているため、対面することははっきり言ってないのだが。
怠いな〜〜〜〜〜〜〜〜〜
逆に、スアレスが思っていたことも得てしてイエローと同意見であった。老練じみた動き、見た目から察することができる若人にありがちな荒々しく力で押してくるような粗さが一切ない。いかに最低限の動きで敵を倒すか、それ一本に集約された武の完成形とも言えそうなアンバランス加減がスアレスを襲う。
(厳しいスーツ、奇天烈な格好、う〜ん、アヌビスさんから聞いていたグリーンとかいう英雄か。なら技の英雄あたりかな?)
スアレス、大正解。大鎌の刃が規則正しい動きでイエローの首元を狙うも、イエローはそれを上に大きく跳躍する事で回避する。
「て、なるよね。うん」
「........これは!?」
これはスアレスのフェイントであった、横に薙ぎ払われた大鎌がすぐさま手元に戻り、そのまま上空にいるイエローを串刺しにせんと肉薄する。だがそれを刃の上に乗って回避するイエローもまた達人。難なくとは言わないが、服が少し刃に掠る程度でかわす。
「嫌になるねぇ」
「全く持って同意見ですな、その大鎌、触れたら即死する奴でしょう?」
「大当たり、良く知ってるね。歴史の研究家とかそんな感じなのかな?技の英雄」
「右に同じですね、いや歴史の研究家などではなく、ただそれと同じ武器を扱う御仁を知っているだけなのですが。今日びそれを覚えている自分に感謝したことはございませんよ」
スアレスの息子は、現在『コレットちゃん見守り隊』という孫を見つめるような感じでコレットを見守る会に入っている。隊長がアストルフ伯爵、副隊長がファムルスだ。
一体何をしてるんだよ、とツッコミたくはあったがそのおかげでイエローも敵の情報がわかったのだ
あまり怒れませんな...
そう思いつつ、イエローは再度死地に飛び込んでいく。大鎌のリーチは広い、だが一度振ってしまえばそこに大きな隙ができる。しかしスアレスはそこの僅かな隙すら利用して相手を殺しに行く
それを知っていてなお、イエローは飛び込む。そこの刹那の間合い、そこにこそ活路があると信じて。
スアレスも、それは十二分に理解していた。相手が達人の域に達しており、相手が全力で防御を固められれば自分にそれを打開する方法がないのを良く理解していた。
自分が参戦することができなければ、非常に遺憾な事態ではあるが、この戦いは負ける。既に冥界軍の本隊がグリーンに叩き潰されたことでも理解してはいたが、この部隊すらも、我々冥界軍よりも僅かに上なのだ。実力的意味で
信じがたい、認められない。選りすぐりの魔族、選りすぐりの英雄たち、選りすぐりのモンスターが集うこの冥界軍が押されることなどあり得ない。スアレスは少し前までそう信じていた。
しかし現実は無情だ、目の前の敵が引き連れて来た部隊が次々と冥界の面々を撃破し、数を減らしていく。既に人数は最初に来た別働隊としての人数から半分に減っている。
(何故だ...賢人であるマルクさんが指揮している部隊だぞ!?負けるはずもない、まさか僕たちが負けることすらマルクさんの計算通りとでも言うのか?それにしてもこの部隊の強さは異常だ、育てた?いやそれにしては種族も年齢もバラバラすぎる。軍隊を作るにしてはあまりにも不合理だ。)
パンドラの箱のメンバーはグリーンがそれぞれに準備した特性武器と鎧に包まれている。おまけに彼らは元々素養があった者たちがパンドラの箱で生き残っていたのだ。弱い筈もない。
おまけに長いものは数千年、少なくとも数百年は閉じ込められていたのだ。各々が確実強さに磨きをかけたことは言うまでもなく、強さは従来のものより遥かに増している。
(強い...これはいくらなんでも強すぎるだろう?!こんな軍隊が人間にはゴロゴロいるとなればアヌビスさん、敵は悪魔族だけではないようですよ)
思考しながらもスアレスは大鎌を振り続ける、しかし無心にて万物を見定め、ナイフを一本のみにし究極の一閃を打たんとしていたイエローに対しては通用しなかった。
イエローは実は、魔力量があまり多くなかった。なのでイエローも魔法が使える訳ではない、ただイエローは努力した。この魔力を何かに使えないかと。グリーンよりは流石に多いかな?程度のこの微量の魔力を、グリーンの作製したスーツに込める。
微量の魔力を消費し、重大な肉体的負担を引き換えに
イエローは、時を、超える。
そう錯覚させるほどの超加速を生み出す。
『肉体超過Ⅱ』
次の瞬間、イエローの姿は一陣の風となった。
スアレスの顔に一陣の風が吹き抜ける。
彼の腹部を、強い衝撃が通りすぎた。痛みはない、そんなものを感じている余裕など彼にはなかった。
ーーああ、そうか。
この風が
この暖かい風こそが
死んでから味わえなかった、暖かい風、森の風か。
冥界で生き、本当に自分は生きているのか?本当は自分だと思っているのは自分ではなく、ただのアヌビスさんに作られたニセモノではないのか?そんな疑問が頭から離れなかった。
目の前の人物を見る、自分でさえ、捉えられないほどの超スピードを見せたこの男を。
・・なるほど、これが今代の英雄か
強いなぁ
「ねぇ、技の英雄」
「その暗喩、結構冥界軍に浸透してますな」
「あぁ、君たちは冥界でもそれなりに有名人だよ。それよりさ英雄くん、何故この世界を救う?」
冥界軍にまでその呼び名が浸透してることに若干の抵抗を覚えつつ、イエローはそう答える。既にスアレスは消えかけだ。死神交奏曲も消え去り、もう1分も持たないだろう。
武器も殺気も敵意も、もうスアレスは持っていなかった。
そんな彼にイエローは答える、スアレスはきっと知っているのだろう。自分たちがこの世界の住人ではないことを、彼らが帰ろうと思えばいつでも自分たちの世界へと帰ることができることを。
アヌビスは強大だ、アイテールなどとも一線を画す神、そんな彼に挑もうなど正気の沙汰じゃない。僕なら真っ先に逃げ出す。
何故だ、何故君は逃げない?
「そんなこと、わかりきっていますな」
悲嘆に暮れているようにも見えるスアレスに対して、イエローは話す。
「現実的な話をすれば、もう元の世界に儂の、否我々の居場所が無いからですな。」
もうイエロー達に、自分たちの居場所が無いことをイエローは既に悟っていた。たまに向こうの世界に行くことはできても、永住はできない。そこには日本という社会の超えられない厚さがあった。
「それに、儂は知っているのです」
イエローは、訝しむような表情のスアレスを尻目に続ける
「好きな女の為に逃げる選択をせずに、戦えもしないのに懸命に戦おうとする男を」
ーーグリーンは、影でコレットに相談していた。安全な場所があると。そこでなら暮らせると、だがコレットはそれを拒んだ。父は、母は?愛する国はどうなるのだと。だからこそグリーンは戦いを選ぶ。
彼自身は戦いの嫌いなただの凡人なのに
「どこまでも高みを目指し、強さを求め続けた強い女を」
ーークロは強さを求めた、それは彼女が決して弱いという訳ではない。アイテール戦においてクロは出番が無かった、しかし今は自分の体がある。役に立てる。次こそは全て自分が破壊する。
敵を、自らの主人の敵を
「我々全ての為に王都に囚われることを選択した聡明な子を」
ーーピンクは王国の人質だ、アストルフと同じく。グリーンを手駒にするための、それを彼女は自ら選んだ。全ては他のみんなの為に
「ホワイトは単純に可愛いもの探しの旅ですので無視でいいですな」
ーーいいのか?それで
「最後に...なんだかんだ言ってこの世界を、儂らがいるこの世界を愛している主人の為に」
レッドのこの世界の思い出は最悪と言っていいだろう。何も知らない平凡な人間が、いきなりこんな世界に飛ばされ見知らぬ人の運命を賭けて戦う。想像を絶する責め苦だ。イエローは知っている、レッドがアイテール戦後眠れない日々を過ごしたことを。あの肉を切る感触が忘れられず涙したことを。
今回も、叔父の命がかかっていなくても、請われれば彼はこの世界に来ただろう。だって主人はーー
「底無しのお人好しですから、な」
イエローは、人格の中で最も優れているのはレッドであると確信している。ただ問題は、彼がそのことに気付いていないということなのだがーー
「そういうことで、儂は世界を救います。誰に請われることなく世界を救った誰よりもすごい英雄を儂は知ってますからな!」
「そうかい?」
スアレスは何も言わずに聞いていた、時に少し笑い、時にはその毛の間から何故だか羨ましげな視線を送りながら。
「いいねぇ...今代の英雄は、冥界で会うのが楽しみだ」
あぁ
いいね、こんな死に方も
悪くない。
スアレスは最後まで残っていた光の残滓を愛おしげに見つめながら、姿を消した
「儂は死にませんぞ、グリーンが不死を与えるまで。英雄スアレスよ、安らかに眠れ...ですな」
イエローはいつになく真面目な顔でそう呟く
いつか冥界で、スアレスと再会できる日が来るのだろうか。
「来る訳ありませんな!!!!儂はグリーンに不死身の体を作ってもらってハーレムを作るまで死なないですからな!!うひょひょひよーーーーい!!!!!!」
イエローは、やっぱりどこまでいってもイエローだった。
最後にネタに走るのは僕の悪いクセ




