冥界、敵対
ドォォォォン!!
机を叩くような気がして、木の破壊されるような鈍い音が、マリス辺境伯邸の屋敷に響く。事実マリス辺境伯邸の机が完全に破壊されるのはこれで3つ目だ。流石に騎士達も、苦笑いで新しい机を運ぶための準備を進めている。
机をぶっ壊したのは、この世界の女神、フレイヤ。最高神に負けず劣らずの脳筋鍛冶女神で、武器を司る神さまである。そんな女神様は、現在顎に手を当てながら何やら呪詛のような文言をを呟いている。
超怖い、だがフレイヤがそれほど緊迫するような状況に現在人間はなってしまっているのだ。
いや、オレのせいじゃねぇぞ?
ーー現状冥界の面々とは完全に敵対してしまった、つまりは2柱アヌビス、7柱ケテルマルクト、そして死んで冥界にいるであろう11柱フォルテ。その他にも8柱、9柱は既に生命を終え、冥界にいる。
冥界にいるものはそのものの力にもよるが、任意でアヌビスの指揮下に入るらしい。つまり、冥界にいるほぼ全ての戦闘自慢達がアヌビスの指揮下に入るということだ。
絶望的と言っていい、この世界で生物は一体何兆人死という結末を迎えたのだろう。その中からアヌビスは戦闘に秀でたものを選ぶだろう。それを各時代からの選りすぐりの精兵を。
それは何千万人?何億人?
いかに悪魔族が永遠を生きる一族とはいえ、無敵ではない。悪魔は普通、完全に滅殺ことは不可能とされているが、それでも力を取り戻すのに数百年はかかる。つまり倒すことはできるのだ。そして数の差は、もしかすれば質の差でも圧倒的であり、悪魔族が冥界と完全に敵対したとはいえ、アヌビスの敵にはなり得ないだろう。
ちなみにアヌビスにとって人間は完全に戦力外、塵芥もいいところ。
まぁわかるけど。
人間族は明確な軍を持たない5柱、アイテールにボコボコにされている実績?を持つのだ。しかもぶっちゃけて言わせてもらうなら、相手にもされていない。本体のアイテールならともかく、作り物のアイテールにさえ、人間族、魔族共にかなりの数の死傷者が出たのだ。
創り者のアイテールでさえ、レッドや創世の四聖が弱らせたのを神器を手に入れたベリアス達がようやく倒せたレベルなのだ。
正直悪魔族のついでに滅ぼされるだろう。
明確な敵はフレイヤ、そしてまだフォルテだった者と戦っているのであろうウルフィアス。ヴィヴィ、この3名は少なくとも人間側の戦力ではあるが、この3名は人間領では本領を発揮できない。いやヴィヴィは出しても大丈夫らしいが、それでも100%の100%は出せないらしい。
全力を出したらこの世界が壊れるってどういう状況よ。
まぁ取り敢えず、アヌビスが現状本腰を入れて取り組まねばならないのは悪魔族との決戦であり、人間達の住むアヴァロムではない。というのも、悪魔族の方に、召喚した本人であるマリス辺境伯がいるらしいので、悪魔族に先に矛先が向けられるということではあるだろう。
だが、アヌビス達の本体、冥界軍の本軍が来た時、対抗するすべがないのが、現在の人間の現状だった。ちなみに、現在グリーン達はマリス辺境伯家の家にいるのだが、その者達は全員洗脳されていた。
フォルテは基本能力が洗脳魔法、転移魔法の二重魔法使いである。その他にも様々な技能があったらしいが...既に死んでいるので判明することはない。
机を運んでいるということから察することができるように、マリス辺境伯邸の者達はマリス辺境伯が居なくなった瞬間に全員が気絶し、その後目を覚ました時には、グリーン達と戦っていた間のことはおろか、過去2日間のことを何も記憶していなかった。
それは、辺境伯邸の冒険者達にも言えたことで、ともかく全員拘束と言うかグリーンの指揮下に入れることにした。ただ、御者を射った『アーラシュ』の2人組には取り敢えずパンチを入れておいた。御者は身寄りもいない人物だったので、故郷に墓を作って埋葬してやるとしよう。
それと、屋敷の周りに轟音が来た際、全く騒ぎにならなかったのもフォルテの仕業である。
さて、目の前にはフレイヤ。隣で震えているジャック、それが現在の状況だ
オレ?
オレは上司に状況を説明中だよ
『おい!どーーなってるんだ?』
これはライト、ケイアポリス王国の王様な。フランクすぎねぇか?
『こういう特殊状況は確実にお前がらみだと思うが...何か知っているのか?』
これはベリアス、相変わらず硬いな。
「いや〜なんかやばそうだね〜」
これは魔王ゲンム、軽い。適当を地で行く男である。
「おいグリーン!お前が作った電話をウォルテシアの王様に自慢してたんだけどな!なんかヤバイこと起きてないか!?」
「おいグリーン!これを私にも作ってくれ!」
これはジャンと、なんかウォルテシアの王様か。てか何王様相手に自慢したんだよジャン...
こんな感じで、大体のメンバーが連絡をしてきたので、まぁ一応こう答えておいた。
『あの〜なんか、アヌビスっていう神様?に喧嘩売っちゃったから。人間全部殺すって、頑張れ♡』
それで大体の反応はこう
『ハァァァァァァ!?!?!?!?』
ブツッ
めんどくさいから電話切ろ、なんか折り返し電話かかって来るけど無視で。
「で?何か決まったか、フレイヤ」
オレはやかましい携帯を無視してフレイヤに話しかける。まぁ、戦うことは決定なんだがな。
レッドから聞いた感じだと、気のいいおっさんなんだがな...仕方ねぇな
「取り敢えず防衛、冥界からアヴァロムへと繋ぐ扉を作るのは、アイテールとて難しいはず。グリーン達が防衛してる間に私とウルフィアスとヴィヴィがアヌビスを叩く。」
成る程、そしてどうやら冥界軍...そう呼ぶことにするが冥界軍は、もうアヴァロムに来る際に、出現する場所が決まっているらしい。
そこは、帝国軍と魔族領の境にある、作物が育たないとされる魔族領においても最も不毛とされ、誰も棲みつかなくなった場所。
『エリアド荒野』
ここが何故不毛の地になったのか?フレイヤに言わせれば、その原因はアヌビスが数千年前にこの地を支配していた一族を滅ぼす際に冥界の者達を総動員してこの地に降り立ち、その臭気で地面が荒廃したと伝えられている。
ここに再度アヌビスは本拠地を構えるはずだとフレイヤは推測する。
向こうは質も量も圧倒的、おまけに糧食などの心配もない。死人に飯なんか要らないだろうからな。まさしく大人と子供の喧嘩だ、だからこそ、子供がナイフを持ったなら大人をも殺せるってことを証明しなきゃな。
「てことなら、まずはエリアドに防衛のための施設を作らないといけないですね。」
「そうだな、すぐに魔王に連絡を頼む。」
エリアド荒野は魔族領と帝国領の境にある。帝国にあるベリアスに協力を頼むのは勿論だが、その前にゲンムに応援を整えるのは当然だ。
それには理由がある、まずグリーンの作り出した様々な用具、具体的に言えば運送用の魔導トラックだったり、クレーン車などと言った発明品は、帝国ではストップをかけられていたためである。そのために職を失うものががいたため、規制をかけられていたわけである。
魔王軍に壊された街並で帝国は、散々オレの発明品使ってたくせによく言うとは思っていたが、ともかく帝国や王都が現在そんなに文化レベルが上昇してないのはそのためだ。
それに金欲しかったしな、領土開発には金がかかるんですよ、カネカネ¥
魔族は違う、彼らは変革に迷いがない。「父が君に開発を任せてもいいと言っていたのでね」というのがゲンムの言い訳らしい。父の遺言を見て堂々と他国の人間の内政干渉(に近いこと)を許してしまう現魔王も中々大物だと思うのだが...
ということで、現状魔族領がメキメキ発展を遂げているので、その力を借りようということだ。
むしろ力貸してくれ、いや下さい。
電話してみよ
『いや、今回の戦争、魔族は不参加だよ?』
『は?』
なんでやねん
『いや、まだ復興を始めて3年しか経ってないのに、いきなり戦争とか言われても困っちゃうよね〜。それに、アヌビスが指定してるのは人間族でしょ?無理ッ。』
ま、マジか...確かにこの戦争は魔族側にとってはなんのメリットもない。
友人がプロレスラーにいじめられようとしてるのに、助けに行くものがいるというのか。そんな無謀が許せるのは強者のみ。あいにくゲンムは、自分の実力を実力以下に...見積もって判断してる節がある。それは、決して自分を卑下してるのではなく、「自分ならここまではできるけど、これ以上はリスキーだ」という線引きができていることを意味する。自分にできないことをやろうとするものは滅びる。ゲンムは、その線引きの才能があるという意味では稀有な王だあった。
交渉相手としてゲンムが素晴らしい取引相手なのは良いことなんだが、流石に今回はアホでいて欲しかった・・
『でもまぁ、グリーンには散々迷惑かけたし、ちょっとだけなら手伝いしよっかな』
あぁ?
悪手じゃね?この現状で。
アヌビスは、人間に味方するもの全てが粛清対象と言い放った。その中でどの程度の味方は情状酌量の余地があるのかは話していない。アヌビスの性格...レッドから聞いた感じだとアヌビスは『白か黒か』の性格だ。つまりグレーはない。半端な助けは身を滅ぼすだけだと思うが
『冥界に行って、交渉してくるよ。アヌビスと』
ん?
どうやって冥界に行くんだよ
『冥界に行く方法なんか決まってるじゃない?』
そこまで言うと、ゲンムは笑い声を響かせる。それはまるで自分の悪戯が親にバレたのを誇る、かのようなそんな感じだった。
『死ぬんだよ』




