悪魔の始動
「みんな早く帰ってこねぇかなぁ、そしてオレも早く帰りてーなぁ。」
オレはそう呟きながら、雨の降るこの世界を見る。この世界では当たり前のように四季というものが存在する。緯度や経度の問題などなんのそので、普通に春と秋は涼しく夏は暑く、冬は寒い。
そう考えると、人間たちが現在暮らしているこのウォルテシアという世界は意外と小せぇのかもしれないななどという妄想も膨らんできており、それと同時に山を越えたその先、海を渡ったその先に一体何があるのかなどという話は楽に想像ができる話だ。
「イエローさんとかはまだウォルテシアから帰って来れないでしょうし、レッドもまだ魔族領なんでしょ?まだ帰ってこれないよ」
そうなのだ、イエローの方は解決して現在グリーン領に歩いて帰ってくる途中で、レッド達はまだ魔族領で観光をしているらしい。
・・魔族領の問題は1ヶ月程度で解決したのに、あの野郎、2ヶ月ぐらい何やってるんだマジで。
確実にバカンスをしていたな、それもオレが作ったビルで。
自分が作ったであろうビルでバカンスを楽しんでいたレッド達に軽く怒りを覚える。絶対に後でしばこう、特にイヴァンをと狙いを定めて、グリーンは拳を硬く握った。
イエローはまだ許せる、というか彼は何故か歩いてウォルテシアに渡ることを選んだ。
そういうのの理由はグリーンは一切わからないままだが、別に馬車を使えとか、魔導車使った方がいいかなんでわざわざ言う必要もないのでやめた。
一見無意味なことに見えるが、それ以上の何かがあるんだろうしな。
そう言う意味ではグリーンはイエローを非常に尊敬していた。
彼に関して信用できないのは女絡みだけだった。
このままだとイエローの娘や息子を名乗る人物が死ぬまでに100人はできるんじゃねぇかと心配である。
さて、今回何故馬車移動をしているか。オワリの国の視察は、バウムクーフンという巨大な木を動かすのにもそれなりに時間を要したが、1ヶ月ほどという、他に比べればかなり短い期間で終了した。レッド達より少しズレたタイミングではあったが、時間的には同じぐらいで全ての事案は終了したのだ。
まぁレッド達はアスクロルと戦い続けたのに対して、グリーンはバウムクーフンについてのあれこれや、そもそもの目的である新婚旅行もといオワリ領の親善団が目的ではあり、その辺に時間を割かれたということもあるのだが。
今回の行き先はマリス辺境伯領、みんなご存知この王国で有数の地位につく辺境伯達である。一応義兄にあたる人に挨拶に伺うのには理由があった。
フレイヤから連絡があったのだ、普通もっぱら話すのはウルフィアスであったが、フレイヤからの連絡が来たことにグリーンは驚いた。
正直彼女は・・・・寡黙であったからだ。
何も喋らない訳ではないが、必要なこと以外は何も喋らない。結構軽口が好きなウルフィアスやアヌビスなどのメンバーと異なり、彼女は非常に寡黙であった。
それもかなり不自然なほどに、こちらから話を振っても喋らなかったり、他のものが知っていたりすると口を開かなかったりするからだ。
そんな彼女から出た指令、それが「マリス辺境伯屋敷に向かえ」という指示だった。
オレとて、いくらなんでも奴隷ではないので、何故と問いかけたくもある。てか他の神々が結構フレンドリーなので、ついこの世界の神々についての常識を忘れかけていた。本来神とは、神官が一生を神に捧げようやく天啓を頂けるほどの尊いものであり、「神からの言葉を賜った」として過去には戦争すら起きたほどらしい。
大体のそういうのが原因で起きた戦争は実は神の声を賜ったとかいう大嘘だったりするのだが、正直神々と戦ったり、普通にふざけあったりしてるので忘れかけていた。
「不思議...気配、屋敷に満ちている。中が確認できない。行きなさい」
それで電話は切れてしまった。
あ?????
持っていた電話を投げなくなるほどの激情がグリーンを支配して、すぐさま最新武器の作製にかかろうとするが、愛妻コレットに某ポケットに入るモンスターの空手チョップで止められる。
結局、少し前にマリス辺境伯の奥さんであり自分の義理の姉の息子、回りくどいが自分の甥にあたる子を見に行くという名目・・というか元から辺境伯より招待されていたので、マリス辺境伯領へと向かうことになった。
マリス辺境伯の正室には会えたのだが、その息子には会えなかったのだ。まぁそんなのは建前で、周りの視線が痛くて親善団の時にできなかったマリス領とラトランダ領の交易の話をより密にしたいんだろうね。
再度言おう、仕方なくだからね!
フレイヤが言っていた不思議な気配?あの義兄が変なことをしているということか?正直言って謎な言葉を発したフレイヤの話が気になると言っては嘘になるしな。
オレのマリス辺境伯についてのイメージは「有能なホスト」だ、まず話が上手い。正直いっしょにいるだけでも楽しいし、何をやらせても、具体的には狩猟やゲームなども一流と言って差し支えない。それでいて勝ちすぎないようにこちらに留意してゲームを楽しんでいるようにも見える。
正直ゲームの話に関してはイエローに言われて初めて気づいたことであり、貴族としては無能なオレは普通に楽しんでた。イエローがいなかったらぶっちゃけ利権の話とかよくわかんなくて放り投げていたのかもしれない。いや全く恐ろしい世界だ、貴族の世界って。正直手を出したくないな。
そんな義兄だが、コレットの姉さんとは相思相愛だと聞くし、なんなら若干尻に敷かれているという話まで聞く。善良で有能な王国の一般的な貴族、オレの義兄に対する気持ちはそんな印象だ。
余談だが、グリーンはフレイヤからの連絡のことをイエローに話ししてない。もしグリーンがイエローにマリス辺境伯の様子がおかしいということをイエローに教えていたら、そもそもフレイヤがイエローに連絡を取っていれば、イエローならまた違う選択を選んだのだろうが、それは今更なことであり、後にこの状況となったイエローが苦虫を踏み潰したような顔になるのは少し後の話である。
ともかく、そんな義兄がなんかやらかすようなことはないとは断言できないが3年の間にそれなりに交友はあったはずだ。正直ゼロだと思いたいところだった。
「もうすぐ辺境伯邸に到着します」
御者からの知らせを受けてグリーン達は、心地いいとはお世辞にも言えない馬の荷馬車の振動から解放されると思いつつ、頭をコキコキと鳴らす。
馬の嘶く音と共に馬車が止まり、御者の男が馬車から降りてこちらに歩いている音が聞こえる。
マリス辺境伯領もまた、王国には劣る規模ではあったが壁を四方に囲まれているそれなりに栄えた地である。
そんな所の一等地に住む辺境伯の館もまた、貴族の頂点に位置するものらしく素晴らしい、白亜の宮殿と呼んで差し支えない見事な場所だった。
場所が原因だったのだろうか。
それとも、雨が降っているとはいえこんな真昼間だからだったのだろうか。
オレは
いきなりとも言っていいほどに真っ直ぐな悪意に
気がつかなかった。
屋敷の方向から飛んできたその一矢は、御者の男の頭を容易く貫き、御者の男ごと馬車に突き刺さった。
いや、正確には御者の男が窓ガラスに向けて放った矢に当たったという方が正しいか。
つまり狙われたのはグリーンだった。
御者の男は、実は怪我にて走ることがほぼ不可能になったために御者をやっていたが、それでも元はアルノ領で騎士を勤めていた男である。
それを、気配をも掴ませず一矢で仕留めた。
(しかも、こんな雨の日に正確に狙った射撃!?そんなことできる奴は、冒険者で言えばAランク...そもそも飛んできたのは屋敷からかよ!?)
「伏せてろ!」
コレットにそう指示を出して、自分は武器を出して屋敷とは逆向きの馬車から飛び出す。
護衛として連れてきたジャック、ファムルス、レッグもこちらに駆け寄り周りを固め出す。
屋敷から武装した人間が少なくとも30名以上、屋敷の中から出てくる。
マリス辺境伯、その裏切りが確定した瞬間であった。




