外伝 悪魔族王 ギール
「召喚とはこれ即ち我が復讐の糧となるべきを」
「「召喚とはこれ即ち我が復讐の糧となるべきを」」
「この世界の深淵に潜む我が僕に捧げん」
「「この世界の深淵に潜む我が僕に捧げん」」
1人の男が言う言葉を、その後ろに追随する者達が唱和を始める。
場所は神殿、だが表立って人々が入れるような場所ではなく、ケイアポリス国内の寂れた神殿の1つに、この怪しげな集団はいた。
先頭に立つ男は、黒いフードを深々と被り、なにやら笑顔の作りをした仮面を被っている。
その後ろで先頭に立つ男の言葉を復唱しているもの達も、服装や仮面は似通ったものばかりだ。
無論、その仮面の下は老若男女問わずというところであったが。
先頭に立つ男の名はブレッドソーという名前である。28歳の髭の濃い、濁ったような目を持つ彼は魔法使いとしてはかなり珍しい部類にある「召喚魔法」を扱う男である。
例えばウルフィアスの持つ空間魔法のように、ものを自由に送ったり取ったりすることはできず、その召喚は自らの元に引き寄せるという一点のみである。
彼は元冒険者ではあったが、この能力は輸送などに実力を発揮する。例えばこの能力を伸ばせば、人や、荷物などをすぐに持って来ることができる。戦闘では役に立つことがあまりない能力ではあったが、輸送などを一手に引き受けることにより、ブレッドソーは4つの貴族のお抱え冒険者となり、人生の絶頂を味わった。
しかしそれを、1人の男の発明が奪い去った。
それこそがグリーン、彼の復讐の相手。彼の作成した大型車の技術は、わずか3年で彼の仕事を大きく奪った。
彼の召喚魔法はダンボール1箱分の輸送、それも遠ければ遠いほど時間がかかるという制約つき、おまけに魔力の消費も激しく、1日に1回程度、明らかに大量の荷物の運搬には向かない能力だ。
だがグリーンのトラックは、驚くべき速さでその地に届く。魔力消費も最低限で住み、魔法を使えるようなレベルではなくても、100人に1人はいる「魔法は使えないけど魔力はちょっと持ってる」ような人がいれば動かせる燃費の良さ
それはまさしく革命で、ブレッドソーには地獄の始まりだった。仕事はすぐさま奪い去られ、全ての貴族から手切れ金を渡されて解雇された。
そもそも、彼の召喚魔法は上記の通り微妙で、あまり使えなかったというのも事実だが。
彼の魔法は戦闘では使えない。下級貴族にも誘われたが全て断った。収入が前の10分の1以下で生きろ?そんなこと許せると思うか!?
無論、それでもブレッドソーの魔法は需要はあった。魔力による制限があるとはいえ、彼の魔法の方がグリーンの運搬技術よりまだ早いし、住み分けや、彼自身の鍛錬で挽回は可能だったのだ。
だがその発想には至らず、彼は復讐するための力を欲した。
そこで彼が考えたのは、召喚魔法を利用した「悪魔召喚
彼の狂気は悪魔儀式という禁忌に足を突っ込ませた。悪魔を召喚し、使役するという大罪、召喚魔法の使い手自体が少ないものの、王国の魔法局でも禁止されている行為である。
職を失ってから1年、ブレッドソーは試しに自分だけの力で悪魔を呼び出し制御に成功した。
その悪魔は「権悪魔」級の悪魔だった。
悪魔にすら階層ごとに特徴があることが、ブレッドソーは調査により判明している。
自らの能力はゴブリンにも劣る弱小種族「小悪魔」人々に悪夢を見せる「夢魔」人々に悪さをする「悪霊」
それらの上に立ち、管理を行うのが上の階級から
「熾天使」
「能悪魔」
「主悪魔」
「能悪魔」
「権悪魔」
「悪魔」
これである、その他に伝説と達した悪魔が『悪魔大帝』や『悪魔大王』を名乗る。これらは伝説級の存在であり、まだ勇者が蔓延る前、この地上に神の如く君臨していたとされるが真偽は定かではない。
前回は権悪魔を召喚し、運良く人魔大戦を生き残った貴族を呪い殺してやった。
貴族に復讐を果たした私は、王国の忌々しい魔導局の者達に悪魔使いとしてその身がバレ、すぐにお尋ね者となり王国から追われる身となったが、その後すぐに私に接触してくるもの達がいた。
それが反グリーンの貴族達だ、国王からの覚えも良く、利権を独り占めする成り上がりものを成敗しようとしてくる者、グリーンの持つ科学技術によって職を追われたもの達。そんなもの達に依頼を受けて、今度は俺は、新しい階級の悪魔を召喚せんと企む。
『能悪魔』、権悪魔を超す最強の悪魔、恐らく自分が召喚できる最高ランクの悪魔である
彼の持つ全ての知識を総動員し、世界各国から生きのイイ素材を集めてもらい、準備は完了した。
「今召喚の時!『召喚魔法』」
作成した、魔法の効果を高める魔法陣が輝き始める。この日のために準備した道具や素材が一瞬で溶ける。
魔法は成功した、後は悪魔が応えてくれることを祈るのみ。
そして、ブレッドソーの願いは成就することになる。
魔法陣が、自分が想定していたよりも遥かに強いまたたきを見せる。背後の群衆どもからも歓声が上がる。
これは、能悪魔どころではない!ひょっとしたら主悪魔、もしや、悪魔大帝まで我が物に・・!?
紫色の光がまたたき、背後の歓声がピークに達した時、それは現れた。
「よくぞ呼んだ、いや仕事中だけどな。我こそは未来の悪魔大帝!現在は魔王に『幸運悪魔』の称号を頂く我が名はギール!さてどんな願いを我にするか!答えよ、さぁさぁ答えよ。」
悪魔と言うにはどこまでも派手な金ピカな服を纏い、悪魔と言うにはあまりにも短慮に見えるアホそうな顔。全く格好のついてない謎のポーズ、だがしかしその悪魔としてのランクは主悪魔クラス。
魔王軍第9位、ギールがその場に召喚された。
◇◇◇◇
「流石!流石だブレッドソー!この悪魔ならばあの若造を殺すことも容易いのだな」
勿論です、そう短く言い換えてブレッドソーはそう言う。
馬鹿を言うな、この悪魔は主悪魔クラスの悪魔。伝説通りならこの場にいる全員を皆殺しにし、ケイアポリス王国全ての騎士を相手取ってもお釣りが出るんだぞ!
そう言うとブレッドソーはギールに向き直る
ギールは人々からの歓声・・「ギール様だ!」「我々の救世主!」ともてはやされて満更でもない顔で手を振っていた。
「さて、主悪魔『ギール』よ、お前に捧げた供物には満足したか?」
「全く足りん!この程度我を召喚しただけで消えてなくなるわ!悪魔の契約は需要と供給この程度では満たされることなどないと知れ!」
まずはジャブだ、こいつに自分は利点のある男であるとアピールする。前の時もそうだった、前回は同じく悪魔研究をした仲間を裏切り供物にした。それでも足りないと言っていたので、その辺の墓場を漁り供物に捧げた。
今回は、そうだな。この神殿内にいる全員で満足してもらえるだろうか。
「この神殿の私以外全員を供物に捧げる!これで私に力を貸せ悪魔!!!」
神殿にいる者に激震が走る
「なんだと!?どういうことだ」
「裏切ったかブレッドソー!」
「ははは!悪魔を使役する贄になってもらうぞお前たち!」
「そうか、ならば遠慮なく頂いておこう」
ギールが大きくマントをはためかせ、マントから小悪魔を召喚する
「あぁぁぁぁぁ!」
「ぎぇぇぇぇぇ!」
「こっちに来るな!そんな、ただ見に来ただけなのに」
「私は王国貴族だぞ!こんなところで!」
グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャベチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグベチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグベチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチ
気づけば小悪魔の咀嚼音が、神殿を支配し、この場に残っているのはギールとブレッドソーのみとなった。
「不味い、がこの程度で我慢するか。それで人間、我に願いとはなんだ?」
「1人の男の死だ、それが済めば後は自由にするがいい」
「何者だ?」
「邪神を倒した者、悪魔達の間でも話は伝わっていよう。神を倒した男グリーン。私がお前を現界させることのできる魔力量も限界があるから、その辺も含めればかなり厳しいものになるが、やれるか?」
とは言っても、悪魔は契約を遵守する。既に対価は受け取っているのだ。これを果たさない訳にはいかないだろう。
毒物
呪い
悪魔には人間の魔法とはまた異なるスキルがある、これらを駆使すれば、力尽くではなくてもいくらでも奴を殺す手段はあるはずだ
「私に力を貸し、必ずや奴を葬れ!大悪魔ギールよ!」
必ず、必ず奴だけはこの私自らが葬る!
見てろよ、見てろよグリーー
「いや、契約ナシで」
そう言うと、ギールは大きくマントをたなびかせると、そのマントから次々と何かを吐き出す。
ベチャ
ベチャ
汚らしい音が聞こえるたびに、1人ずつ人間の形をした何者かが落ちてくる。
「はっ?何故儂は女の姿に?」
「嫌、嫌よ、なんで私がオッサンなんかにーー!」
「やった!儂は若い体を手に入れたじょい!」
「あぁぁぁ、なんで俺の体がおばあちゃんになってるんだよ!」
ギールのマントから零れ落ちた者達が、それぞれちんぷんかんぷんなことを言いながら落ちてくる。
まさか、マントの中で供物を強制的に還元させた?
悪魔の契約の力、クーリングオフ可能なのかよ!
最後にベチャりと、全裸のおっさんを戻しギールは言う
「よし、服はまぁ許せ、グリーンと敵対するとか絶対無理なんで、いやマジで私的には無理です。虚勢張っててすいませんでした。」
そう言うと雲のようにギールの姿が消える。
馬鹿な!!!!
あの大悪魔を恐れさせるなど、それじゃあまるで、まるで本当に過去の英雄のようじゃないか!
今回のブレッドソーの不幸は、呼び出したのが野良悪魔ではなく、魔王軍所属の悪魔であったという事実、また彼がグリーンを異常に恐れているという事であった。
彼の類いまれなる才能があれば届いたであろう主悪魔の召喚、その召喚ガチャは、最悪の形で成ってしまった。
彼の目の前に残るのは、供物に捧げられた自分に恨み浸透の人間数十人
そんな、そんな
一体何故ーーーーーーー?
わからない、自分は悪魔召喚の分野で世界最高峰の知識を持っていたはずだ、それが何故?
答えのない彼の思考は、次の瞬間目の前に降りかかった拳の前に、意識ごと消失することになる。
後日、悪魔召喚を行なった凶悪犯が捕縛された。死体ではあったが、死因は撲殺であったと言う。
その後、各地で
「自分は男だと言う老婆」
「貴族と言い張る乞食」が続出。
中には神官や、王国の重鎮など法則性のないものが多く、騎士団の捜査は混迷を極め、魔導局ですら「悪魔の仕業である」ということしか判明しない。
実は、ギールのクーリングオフの反動で、精神と肉体がぐちゃぐちゃになった人々であるのだが、まぁそれは誰にも理解できない話であった。
王国に大きな謎を残し、この事件は終焉を迎えた。
・・後にギールの元に王国が話を聞きに来た際に証言が取れ、捕縛祭りが始まったことは言うまでもない話。
ギール「いや、仕事さぼってないから!ちょっと召喚されただけだから!?」
ウーフィル「言い訳は許さん、仕事拳、10倍だぁぁぁぁ!」




