困った時のなんとやら
あれ、レッド役立たなくね?
「大丈夫か?ここからは僕が預かろう。」
安心できる声、恐らく僕たちの人生の中で最も耳障りの良い声。
そんな声は、僕たちの戦闘中に急に、混戦をていしていた僕たちの動きを、アスクロル含め全員止めた。
7柱・『深淵賢帝』 ケテル・マルクト
その正体は、エルフの美しさを全て凝縮したかのような顔と、その高貴な佇まいには似合わない白い布をそのまま体に纏ったかのような服装の王様だった。
長髪の美しく整えられた髪の1つ1つが、夜闇の月に照らされ、銀色に輝き、揺らめいていた。
月にちょうど彼の影が重なり、幻想的な絵を生み出している。
「死んだと聞いていた筈だが...そうか、奴がアヌビスからの使者か」
「知ってるんですか、クロムウェルさん?」
「あぁ、奴は俺がまだ幽霊族に堕ちる前・・生前の知り合いだ。ケテル・マルクト、魔族、エルフ族の英雄、その叡智と使役の能力で神の1人に数えられる男だ」
その男は、素手でアスクロルの足を強引に掴むと、ぶん回して遠くへ放り投げる。先ほどまで自分たちが苦戦していたアスクロルを軽々と彼はいなしてみせた。
「その不躾な紹介の仕方は、クロムウェルか。久しぶりだね、何百年ぶりかな。個人的にはすごく嬉しいよ。」
「その謎の言い回しもいつも通りか...そっちにゃみんないるんだろうけどな」
「あぁ、百獣王レアン、青色幸鳥ホルス。魔族の面々は寿命でみーんなこっちさ。来てないのは君だけだよクロムウェル」
「まだ死ねない理由があってね。それにどうもアヌビス神も、僕を見逃してくれてるっぽいしね」
「そうかい」
そう言うと、マルクトは向こうを振り返る。アスクロルが再度、咆哮をあげながらこちらへと向かってくる姿が見えた。
「構えろ!」
ディナスの鋭い声がかかり、全体に緊張が走る。その雰囲気を、マルクトは一瞬で和らげて見せた。
「もう君達はいい、アヌビスの責任だから。ここは使いである僕が責任を取るよ」
そう言うと、マルクトは地上に降り立つ
オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
アスクロルの、馬並みの速さでの超突進を、真っ正面から彼は受け止めた。
アスクロルの体が急停止し、その勢いのままバランスを崩して後ろに倒れこもうとする。
その空いた隙を、深淵賢帝は見逃さない。
「お疲れ様、冥界の番人よ。ゆっくりとお休み」
『眠れ我が理想の国
神々にはそれぞれ、神器とは別に『神具』というものを持っている。それはアイテールにとっての水晶のような。
その神が持っている有名な何か、武器や愛用していた道具などである。
マルクトの神具は、現在エルフの里にて眠っている。彼の帰りを待つかのように。だからこそ彼は彼の権能を十全には発揮できない。
だが彼は猛獣使い、自分の愛用の神具がなくても彼は戦うことはできる。
この技は、自分より格下の敵を例外なく味方にする。対抗できない意志の弱い者、心が折れたものはすべからくだ。
今回はアスクロルのみを対象に放たれたこの技にしても、弱ったアスクロルでは抵抗できるはずもなく。
次の瞬間、アスクロルは慎重1メートルもない可愛らしい子犬サイズに変貌を遂げていた。
◇◇◇◇
「すまないね、野暮用があって遅れてしまったよ!」
「相変わらずだなお前は!どれだけ時間を取られたと思っている!」
向こうではまだマルクトさんとクロムウェルが喧嘩している。2人は顔見知りだったらしい。
クロムウェルさん...何歳よ、本当。
「クロムウェル、まだこっちに来る気は無いんだな?」
「お前にしてはくどいな、ない。果て無き魔導の『深淵』究極魔術を覗くまでは死ねん、おまけに最近面白い若造が『科学』なる理を生み出した。あと数千年は死ねんなぁ』
「ふふっそうかい、君がいいならそれで良い。彼らも酒の肴ができて喜ばしいだろう」
「私のことよりもお前の話をしようじゃないかケテルマルクトよ、何故死を選んだ?お前は不死に近い体へと進化を経てなっていたのではなかったのか?」
「買いかぶり過ぎだよ、君のように英雄とはならずに陰で生きている実力者だっているんだ。僕はそういう人とも話がしたいから冥界に行った、あそこは、僕にとっても居心地がいい。」
「嘘だな、だがまぁいい。久々に親友に会えたことを祝おう。」
グラスを鳴らすと、2人で一斉にそれを飲み干す。クロムウェルは飲めないのが残念だが、2人ともこれから談義に花を咲かせるのだろう。
久々に会った親友、いいねぇ。
ーーートータルで言えば、魔王軍は死者は出たものの機械族の居住区は無事という軽微な内容に終わった。死者が出ないなんて甘っちょろいことは無かったけど。創世の四聖級相手に健闘した方だと思う。
それにしても僕はまるで役に立たなかったな、アスクロル相手に十分な決定打を与えられなかった。
エルザのような出力もイヴァンのような力も無い。魔力があるにはあるが魔法の発言のない、ただの剣士だ。正直ついていくのが精一杯だった。
「いや・・アスクロルを1人で長時間足止めし、魔族領から押し上げられるのは主人しかいなかった故。誇って良いところだと思うが」
アスクロルはマルクトさんが回収してくれるだろう。
魔族で何日か滞在して、僕たちはグリーン領に戻る。
きっとそして、僕は叔父を助けるだろう。
これにて僕の2度目の、トンデモ異世界転移は終わる。
元の世界の、またふつうの日々が始まるんだ。
3つの世界崩壊の危機。それらはオワリの国で、魔族領で、ウォルテシアで。それぞれ伝説となり、後の歴史研究家達を唸らせることになる。
一体なぜ、これほどの災害が立て続けに起こったのか。
しかし、この意見に対しての歴史家の見解は、驚くほどに一致していた。
『全ては、あの未曾有の災害の、ほんの余震に過ぎなかったのだ』とーー




