閑話 辺境伯の悩み
マリス辺境伯ーーこの国を担うようになってしまった男の心中とはーー?
「辺境伯様、商人が訪ねていますが」
「待たせろ、借金の催促だろう」
「辺境伯様、また領民の数が減りました・・」
「わかった、対策を考えよう。」
マリス辺境伯領、かつては農業などを主にしていたが、あることがきっかけで運送業にも手を出しそこそこの成功を収めている一族の館がそこにはあった。
そんな館の執務室でハァ、そうため息をついているのはマリス辺境伯その人だ。
本名、マリス・ジョン=バイロンと言い、本来は辺境伯の次男として辺境伯家長男のお控えのまま死ぬはずだった男だ。
しかし人魔戦争は、そんな平凡な男に災難を与えた。王国内でも重鎮だった、彼の父と長男が殺されてしまったのだ。
その際、父とともに従軍していた重臣達も誰も戻らず。
急遽次男の彼が辺境伯として音頭をとることになったということだ。
だがーー広大な土地、圧倒的な人材不足、それは人魔戦争に参加していないもう1つの辺境伯を除けばほぼ全ての貴族が抱えた問題であり、中にはラトランダ領のように、一族が全て滅亡したなどと言う例もある。それに比べればだいぶマシな結末と言えるだろう。
だが彼は不満だった、これが野心溢れる愚かな男だったら、自分の不遇な立場に絶望していたところに起きた奇跡に小躍りしかも知れないが、彼は良くも悪くも人並みな男だった。
野望は無かった訳ではないが、あまりのその仕事量の多さ、そしてあまりのその困難さに猫の手も借りたいレベルの忙しさに、彼の心は折れかけた。というより折れてしまった。
辺境伯として行った事業のほとんどは失敗、唯一の成功がグリーンの開発品を輸出する運送業。そのために早くから車を買えたことは幸運だった。
その他にもグリーンの発明品を運送するなどの業務で利益を得ているので、ラトランダ領にグリーンが来たのは幸運だったと言えよう。
アストルフ伯爵の娘を妻に娶っておいて本当に良かった...グリーン君弟だし...。
気が強い妻には正直尻に敷かれているがこれで中々、流石はアストルフ伯爵の娘と思わせるところも多い。
しかし、これからやることは家内にもいや、この家の誰にも秘密の話である。
気づけばマリス辺境伯は1人になっていた、彼が人をはけさせたのだ。これからする話は誰にも知れてはいけない、そう彼の方に厳命されていたために。
時がたち、刻限きっかりに彼は現れた。
「あぁ、フォルテ様・・・・!!」
「そう畏まらないで下さイ、私は貴方に忠誠を誓った身なのですかラ。」
そう言うと、その影はゆっくりと現実世界に姿を現した。何色もの色が散りばめられた服と、主に黒と白、赤で彩られた顔。まさしくイエローと遺跡で戦闘を繰り広げた神の1人、フォルテその人である。
「残念ながら神器は手に入れることができませんでしたガ、儀式に支障はありませン。生命を生き返らす『呼魂魔法』の創造はまもなく完成致しまス。辺境伯様におきましてはそれまでの間資材の準備をしてお待ちヲ」
そう言うとフォルテは恭しく臣下の礼を取る。
今代で彼が興味を持った男。強欲とは呼ばずとも醜欲で、適度にフォルテに金と権力を与えてくれる者。
彼はまさに彼が求める主人に相応しい男だった。
生命を生き返らせると言われた、魂呼魔法、蘇生魔法とはまた違う。蘇生魔法は未だ冥界に至らない魂をこちらに呼び戻す魔法。
魂呼魔法は違う、それは蘇生魔法よりも圧倒的に簡単。選ばれた魂を冥界から強制的に取り返すことだ。
「あぁ、既に秘密裏に準備は整えさせてもらっている。あとはフォルテ様の合図を待つだけだ」
そう言うと彼は笑う、ようやく解放される。父を、兄を取り戻し、家臣をも取り戻して。私は自分の鞘に戻るのだ。
そのためなら、多少の資金を使うことなど厭わない。父や兄も喜んで下さるだろう。
「畏まりました。私の方も、もう暫くで。それまでお待ち下さいレ」
何もわかっていなイ!この男は神の教えを信じていなイ!だからわからないのダ。冥界から魂を取り出せばどうなるか。
一体誰を怒らせるのカ。だが私は主人の望みは必ず叶える、それが何を意味するのかは教えぬまマ。
フォルテーーその者は、人の心理を見ようと欲する。人に対して忠義を尽くさずにはいられないが、そんな忠誠、絶対の忠義の中に一雫のみ、彼の場合は劇薬を含んでいる。
それは悪意なのか、それともただの「うっかり」なのかーーそれは彼にもあずかり知らぬところだった。
ククク、キャーーッハッハッ!
物語は更に加速する!




