魔王と魔王
新魔王 ゲンム
前魔王の長男
灰色の武器「灰熊」を操る男。
性格は優しげで温和そうに見えるが、計算高い一面も併せ持つ。
「それで、そんな体で僕のところに来たんだ、父上」
「あぁ、これでお前と会うのも最後かも知れん。故郷に帰るからな」
「僕も行きたいなぁ、いいね。化学か、僕も経験して見たかったよ」
「ふふっ、その足がかりはクロムウェルに全て託した。あの男なら、必ず今後の歴史を作ってくれるだろう。我はそれを見ることはできんが」
「そうかよ、そっちの世界より、もっともっとすごい場所にしてやるからさ。見守っててくれよ、父上」
「勿論だ。」
これが、僕と父上の最期の会話だった。
僕は魔王、魔族として最初の聖人となるために生まれた男、名はゲンム
父上の故郷では幻夢、父は僕を夢か幻のような者だとでも思ったのであろうか?ともかくそう名付けられた。
「あと、人魔戦争のことだけど全部父上に罪は押し付けるから。歴史書に名が残るよ、大規模な犠牲者を出した極悪非道の魔王ってね。勿論魔族にもその噂は流す、父上の名は末代まで残るよ。」
「ハハッいいだろう、好きにすれば良い。時代は熱き者が残すもの、歴史は生きた者が残す物なのだ。どう書いてくれても構わない。」
「父上らしい」
「お前は私に似なかった、似なくていい。」
「たった今、その息子は貴方をスケープゴートに人間と和解してるように見えますが?」
「それでもだ、全くボンクラぶりを家臣に見せつけおって。お前がダメな奴だとわかれば我が何が何でも生き残ろうとする、そうとでも思ったのか?お陰でここからお前が魔王として魔族に認められるには時間がかかるぞ」
あぁ、やっぱりバレていたのか。僕はそう思いながらもため息をつく。
魔族内での僕の評判は、必ずしもいいとは言えなかった。剣術を極め、魔族としては頂点に位置する地位を手に入れはしたが、あまりにも奇行が目立つ男、と。そのせいで、幹部にすらなれていないと。
そう噂されてしまっているのだ、しかも人魔戦争にも不参戦。まぁそれは仕方ないけど。
「まだなんだよ、僕がきちんと実績を挙げて、皆んなに認められて魔王になる。時間も予定も全部予想外だ、全くあの肉ダルマは、僕の予定を崩しすぎだよ。」
肉ダルマとは、アイテールのことである。
「ほら、そうやって物事を堅実に考える。そういうところは母親譲りだな」
そう言うと、父上はニヤリと笑って、側に置いてあった紅茶に口をつけた。自分を殺した男の姿で良く笑えるよ、大体交渉するとは言ったが僕はあの男にすら若干の各位がある。なんせ父を殺した奴だ、交渉ではそのことが尾を引いて有利になるかも知らんが、それはグリーンの性格しだいだな。
「で、本題は?まさか魔王になれとかそんな話程度で僕のところまで来るわけないでしょう。心配されなくても魔王にはなってやりますよ、嫌ですけど」
「うむ、今回はな、お前にある物を渡そうと思って来たのだ。魔王の就任祝いと言う奴だな」
「・・・これは!?父上の剣」
「そうだ、この剣はフレイヤからもらった者でな。私には2振りの剣が、神器より前にあった。一振りは今私が使っている剣、そしてもう一振りがこれだ。」
父が立ち上がり、これを放ってよこす。それを私はぶっきらぼうに受け取るしかなかった。
女神からの剣、そんな物を私に!?
「この剣はな、フレイヤ曰く神器になり得る代物らしい。これが神器となるためには、もう一押し。お前の強さに答えるだろう。私の黒剣はついぞ神器へはならなかったが・・お前ならばやれるかもしれん。」
僕はその剣を、ゆっくりと抜きはなった。重い剣だった。こんなものを父上は戦場でぶん回し続けていたのか。
鞘から刀身を抜き出すと、そこには艶やかに光る灰色の剣があった。どことなく透明感のある刀身が、晴れ渡った魔族の大地に照らされ、刀身に反射されて僕の目に入る。
「すごいな、これが父上の剣か」
「そうだ、『灰熊』この剣を抜くことが無いように鍛錬しろ。その威圧のみで雰囲気を支配しろ、お前は戦士ではない。王なのだから」
「わかりましたよ、父上。」
そう言って父の姿をもう一度見ようと向き直ると、既に父の姿はなかった。あの人は、本当に息子に祝賀を言いに来ただけかよ。
だけど、あの人らしい。去り際と
あの人らしい、生き方だ。
僕はもう一度剣を持ち上げると、一度だけそれを思いっきりぶん回す
台風を思い出すほどの暴風で、先ほどまで父や僕が座っていた椅子と机が吹き飛ぶ。だがそんなものはもう目に入らない。
灰色のマントが宙に浮いた隙をついて、僕は背中に父より賜った剣を背中に背負い込む
おお、重いな
これが国を背負うと言うことか。これが民を預かると言うことなのか。
「カゲ、と言ったな。まだそこにいるのか?」
「はっここに」
僕の一言で、王国より派遣されて来たと言っていた、全身黒ずくめの男が姿を現した。その背格好は父上のいうところの忍者そっくりだった。
「アイテールが駆逐され次第、王国、引いては人間達との条約を結ぶ。」
「承知しました、人間達が勝つとお信じになられてるのですね」
「当然だ、お前も主人を信じてるからこそここにいるのだろう?それに・・・・僕の父は、強いよ」




