*70* 偉大なる時計塔の魔女リーゼルさまとの会話(2)
「……あっちじゃ色々あった。向こうがどんなところだったかって言うなら……あんたに答えたいことは山ほどある」
目に見えないフォークとナイフを両手に【俺】というごちそうを楽しみに待ちわびている時計塔の魔女へとまず何を差し出すか。
「くひひ、そうか。では1つずつ聞いていくとしよう。答えられなければ答えなくともよい」
「わかった」
気が付けばミコが、ムツキが、ここに居るみんなが俺をじっと見ていた。
意地の悪そうな魔女は、すぐ後ろでずっと突っ立っているデュラハンのメイドと一緒に「ニタリ」と不気味に笑っている。
何があったって? 何をしてきたって?
やまほどだ。
そんなにお望みなら俺の持つありったけをその耳に叩き込んでやりたいぐらいだ。
「して、異世界とやらはどんな世界じゃ? この世界とどう違う?」
最初の質問は単純で、そして無難だった。
「……魔法が存在していない、最終戦争で文明が崩壊した世界だ」
俺はFallenOutlawの世界基準で答えた。
いや、自分はあっちの世界のキャラクターとして答えているのかもしれない。
「……くひひ、魔法がない上に最終戦争、じゃと? 冗談みたいな話じゃなあ?」
「本当だ。あんたがいってた鉄の化け物とか、鉄の船は向こうの世界で作られてたものだ。あれは全部魔法も使わず作られてるんだ」
「ふん、ぬしのいう世界はオートマトンどもに支配でもされておるのか? つまらん場所じゃのう……」
「もう支配する奴もいない。人類のほとんどが150年ぐらい前に死んでる世界だ」
「ほう……人類のほとんどが? 150年も? それは面白い話じゃ。して、魔法もなしにどうしてそこまで人が死んだ? 飢饉か? 戦乱か? それとも疫病か? くひっ」
魔女は人が死んだ、という点に興味津々な様子で喰いついてきた。
あっちの技術や文明なんて全くどうでもいいようで、大量に死んだ人類の方が気になってるようだ。
「いろいろだ。あんたのいうように病気で沢山の人間が死んだし、資源が枯渇して奪い合って、世界中で食料が不足して、最後は人が山ほど死ぬ兵器が世界中でぶっ放されて沢山の人間が死んだよ。人類のほとんどがな」
リーゼル様だけじゃない、周りにいる全員に聞かせるように言った。
あたかも俺がその世界の代表として語ってる気分だった。
悪趣味な魔女とメイド以外は「信じられない」といった感じになっている。
「くひひひっ……♪ なんじゃそれ、最高じゃな。思いつく限り悪いものをぶち込んだような世界じゃのう」
「ウチ、知ってるッスよー。それって世紀末って言うんスよね? 楽しそうッス……イヒヒヒ♪」
「世紀末って言ってしまえばその通りかもしれないな。でも俺がいたのは最終戦争が終わってから長い時間が経った後の世界だ。文明は消えて生き残った人々が必死に生きようとしてた。俺もそうだった」
「崩壊した世界、というわけか。どんな様子じゃったか教えてくれぬか?」
「最悪だった。まともに食べるものもなかったし、水は汚染されてて飲める水が貴重だった。生きるために人間が殺し合うのも普通で……とにかくこっちよりは豊かじゃないのは確かだ」
「くひっ、なんじゃそりゃ……つまらん世界じゃのう」
「否定はしない。でもあっちの世界にいる賊はラーベ社の奴らよりもっと過激だったな。こっちが可愛く見えるぐらいに」
「くひひっ、そうかそうか……まあ奴らは所詮は烏合の衆じゃ、生粋の賊ではない。ユーフィーンとかいう馬鹿がいるからこそ成り立ってたようなもんじゃし、二人も指導者を失った途端に面白いように散っていったわ。ざまあみろ」
こんな話をしているのにこの魔女は相変わらずにやけたまま話を聞いている。
……そういえばあの後、ラーベ社はどうなったんだろうか。
「では次の質問じゃ。ぬしはあのお告げを聞いたようじゃが、あの時グラナートの城下町ではなく【異世界】に送られたのか?」
次の質問が来た。
忘れもしない。真っ黒になったPCの画面に、あの助けを求める声は今でもよく覚えてる。
でもその後、俺はあのクソ寒いシェルターの中で目を覚まして――
「……そうだ、気づいたら知らない世界の地下室に閉じ込められてた。でもこいつから誰かが俺を呼んでた」
答えながらダークグレーの機械を取り出した。
ボタンを押して画面を出すと、リーゼル様はこれが一体なんなのかと興味深そうに身を乗り出してくる。
「ほう……それはなんじゃ? またオートマトンどもが変なものを作ったのか?」
「PDAだ。あっちの世界で作られた機械……っていえば分かるか? 突然こいつから女性の声がしたんだ」
「ふむ。見せてくれんか?」
「ほら」
俺は興味津々な小さな魔女へとPDAを差し出した。
こうしてみれば、ただの小さな女の子が見たこともないものに無邪気に好奇心を向けている、という様子にも見える。
「……ううむ、なんじゃこれは。これから声が聞こえたというのか?」
「そうだ。こいつ越しじゃないと声が届けられない、とか言ってたな」
そんな小さな機械を見て仕組みも分からず、かといって触るのすら面倒くさそうにじっくり眺めた後……目の前の相手はそれを手放した。
……まあ手放すといっても、PDAがふわっと宙に浮いていたけれども。
「そうか。して……その声とやらはぬしになんと言っていた?」
小さな手からすっぽ抜けたそれが、見えない手に運ばれるようにゆっくりとこっちに戻ってくる。
手でつかむとPDAの重さが遅れて伝わって来た。
まさに魔法だ。でも胸の内で誓った通りにもう驚きやしない。
「フランメリアに危機が訪れたとか、手違いで別の世界に連れてきてしまったとか……色々言ってたな。あとは……この世界への道を作り出したから来い、とも言ってた気がする。ちゃんと俺の名前も呼んでたな、112って」
「……ふむ」
あの切羽詰まった声を思い出しながら答えると、魔女様が少しばかり考え込んでしまった。
にやけた顔じゃないのが気味悪く感じた。
「して、その世界からどうやってここまで来たんじゃ?」
相手の顔が少し真面目なものになった。
ギザギザの歯が見えないように口を閉じた相手に、俺は横にいるサンディを親指で示した。
「PDAから指示が飛んできたんだ。デイビッドダムに行けってな。道中色々あったけどこいつに助けてもらったりしながらなんとかたどり着いたんだ」
「そう言えばさっきから変わった人間がここにおるが、そやつは向こうの世界から連れて来たのか?」
「そういうことになる。こいつはサンディっていうんだ」
「……どう、も」
「人間のくせにやけに乳がでかいのう」
「……生まれ、つき」
サンディは眠そうだ。
「それで辿り着いたらあいつがいた」
「あいつ、とはなんじゃ?」
「ああ……【マスターリッチ】だ。こっちの世界に行ける道を守ってたみたいで、ずっと俺を待ってたみたいだ」
「……なんじゃと?」
この世界に来る前に出会ったあいつのことを話した途端、リーゼル様の表情が少しだけ驚いたものになった。
「……それは本当か?」
「本当だ。俺が通った後どうなったかは知らないけど……何故か俺のことを良く知ってた」
「くひひっ、そうかそうか……。面白いことになってるのう」
……というより、何故か嬉しそうだ。
「面白いこと?」
「ああ……アンデッドどものいる都市が遠いところにあるんじゃが、ひと月ほど前からそこを治めていた【マスターリッチ】が行方不明になっていてのお……」
アンデッドの都市、というと確かゲームにそう言う場所があった気がする。
大きな穴倉の中に作られた、毎日がハロウィンみたいな雰囲気の場所だ。
たしかアンデッド系ヒロインが良く集まる場所だったはずだ。
もっともそこの指導者があのフランクな骨だったなんて聞いたこともないけれども。
「……そうか、そうか、あやつはあっちの世界へ行ったのか……」
するとギザっとした歯をまた見せて、
「くひひひっ! ざまあみろ! やつは昔から気が合わん相手で嫌いじゃったからな、いなくなるとは最高じゃな! マジざまあみろ! 良くやった異世界!くひひひひっ!」
「そんなに嫌いだったんスか? リーゼルさまぁ」
「当たり前じゃ。あの怠け者は人の街にくだらない悪戯をしかけるわ、魔女の集会にしれっと勝手についてくるわ、前から気に食わん若造だったわ。しかしこれでもう悩まされずに済むじゃろうな、くひひひっ……♪」
「マスターリッチって結構お茶目だったんスねえ。でもウチそういうお茶目な人って大好きッスよぉ、アヒヒヒ……♪」
「貴様の好みなど知らんわ!死ね!」
「そんなぁ~、ひどいッスよぉ」
……どうやらこっちの世界は完全にゲームと同じじゃない上に、色々な事情が絡んでるみたいだ。
「……そうだ、あっちの世界にこの世界の化け物がいた。サンドゴーレムとかファイアエレメンタルとか……他にも色々来てたみたいだ」
「ふむ、やはりか。他に何か見なかったか?」
「ああ。あっちはもう植物も育たないぐらい荒れてたのに……緑が戻ってる場所があった。綺麗な水も湧き出る場所も出来てた」
「ほう。となると……やはりこの世界とあちらの世界は繋がってしまっているようじゃのう」
一通り答えると、リーゼル様は満足したようにギザっとした笑顔を浮かべていた。
けれども周りにいる奴ら――ミコやムツキは複雑な表情で聞き入っている。
それもそうだ、ついこの前まで一緒に遊んでいた奴がまさかこんなことに大きく関わっているなんて誰が思うもんか。
「……ぬしの話は実に興味深いのう。儂は何百年も生きてきたが、まさかこんな面白い出来事に巡り合えるとは……最高じゃ。くひひひひっ♪」
ともあれギザ歯の魔女はとても楽しげだ。
俺からすれば「楽しい思い出でした」とでもいえるようなものじゃないけども、こいつにとっては刺激的でとても愉快な話に聞こえるんだろう。
「……さて、もっと沢山話したいところじゃが……これで最後の質問にしよう」
「もういいのか?」
「うむ。ぬしだって目の前に美味しい馳走が山のようにあるとして、無理して腹に詰め込まんじゃろう? そのとき必要な分だけじっくり味わえば良いだけじゃ、くひひ」
――俺はあんたにとって食べ物みたいなもんなのか。
果たして他人にごちそうと呼ばれるのは良いことなのか悪いことなのか。
「聞けば聞くほどずいぶんと過酷な世界のようじゃが、どうやって生き抜いてきた?」
……最後にやってきた質問はある意味、みんなに聞かせたいようで聞かせたくないような話だった。
向こうで「死ぬ思いしながらサバイバルして人殺して元気にやってました」なんて再会した友人に言う訳にもいかないし、ましてミコにそれを聞かせたくはなかった。
しかしこの時が来てしまった。
でも向こうが求めているんだ、もう言うしかない。
「あっちはひどいところだった。悪意をもって殺しに来る奴がうじゃうじゃいたし、食べ物もロクなものがない、水も汚染されててクソみたいな場所だったよ」
「くひひっ、そんな過酷な世界じゃよほどのことがない限りは生きてられんのう?」
「……確かにそうだ」
この場合、俺がそのよほどだ。
このギザ歯の魔女に、ここに居る全員に、あっちでどうなっていたのか包み隠さず伝えよう。
「……俺は向こうで何度も死んだんだ。数え切れないぐらいにな」
最初にそう言った。
するとずっと口を閉じていたミコたちが、わずかな呼吸の音すらも消えたと思うぐらいに静まり返るのを感じた。
リーゼル様は口だけ笑ったまま、
「ほう、死んだ?」
と、俺の言った言葉について更に問いかけてきた。
「ああ、死んだ……というか殺された」
「くひひひ。殺された? ぬしはこうして生きておるじゃろう?」
「本当だ。何度も何度も殺されたんだ。撃たれて殺された、刺されて殺された、化け物に噛みつかれて死んだり、足が吹っ飛んで死んだこともある」
一体どうしてだろう、目の前にいる人物にひどく冷静にこれほど語っている自分がいる。
確かに死んだことは嫌でも忘れられないし、その時に感じた痛みも最悪の思い出として残ってる。
けれどもそれをどうにかして伝えないといけない、と思った。
この魔女に全て話せば何か分かるんじゃないか、という期待とでも言うべきか。
「その割には随分と元気じゃのう。さてはぬしは幽霊かなんかか?」
「嘘はついちゃいない。あいつらに数え切れないぐらい殺されたはずだったのに生き返ってるんだ。死んだら最初に送られた場所に戻されて……」
「くひひっ、儂ら魔女ならいくら殺そうとも死なんもんじゃが、ただの人間が死んで生き返るなどありえん話じゃ」
流石にこの話はリーゼル様にとっても信じがたい話だったようだ。
「っていうか旅人って死んだらお墓の中ッスよねえ、おかしくないッスか?」
「うむ、その通りじゃな。この世界で死んだよそ者はみな【封印】されるというのは知らんのか?」
ムツキもムネと顔を見合わせて「どういうことなの?」と戸惑っているし、ミコもどう反応すればいいか分からなくなってる。
だけど俺には、本当だっていうことを認めさせないといけない。
それにこの意地の悪そうな魔女には何もかも教えてやる、と意気込んでたわけだ。
「……見てほしいものがある」
だったら……これしかない。
「む? なんじゃいきなり」
そういって、俺は上着の裾を指でつまんだ。
やることはいたってシンプルだ。この傷を見せる、ただそれだけのこと。
「俺が死んで生き返った時の傷が残ってる。見てくれないか?」
しかしこの傷を見せるのはとても嫌なもんだ。
あれからずっと俺に残っていて、ことあるごとに自分を苦しめに来るものだから。
出来ることならミコみたいなやつには絶対に見せたくはないし、まして他人の目に晒すのも可能な限り避けたかった。
「……ほう、面白い。儂に見せてみよ」
――それでも、いつまでも隠しているわけにはいかない。
いや、これからいくら隠し続けようとしてもいずれはバレるんだと思う。
だったら、いっそのことここで傷を見せてしまおうと決心した。
「証拠になるか分からない、でもこれを見てくれ」
あの忌まわしい傷がどこから見てもはっきり見えるように、上着を思い切り捲りあげた。
「……イチさん……っ、その傷、どうしたんだ……」
「えっ……? それ……どうしたの?」
「ごっ……ご主人……さま?」
周りから色々な声が漏れていくのを感じた。
目の前にいるギザギザ歯の魔女はこれを良く見たんだと思う。
とても興味深そうにねっとりと俺の胸を見て、それからまるで関心したかのように。
「……これはこれは、中々に悪趣味な傷じゃのう。くひひ」
「お~~……グロいッスね。何したらこうなるんスかね、これ」
楽しそうにギザ歯を見せている。
引いてもいないし、特別驚いてもいないみたいだ。
俺にとってはある意味一番まともな反応だったかもしれないけれども……。
「背中から心臓ぶち抜かれてイカれた野郎に生きたまま食われた」
そう言葉を続けながら胸元を指でなぞってみた。
ヘビがうねって上に登っていくような傷がしっかり刻まれていて、背中から357マグナムの弾が胸を突き破っていった痕がかさかさと残っている。
「生きたままって……!」
リーゼル様の反応を伺っていると、すぐ隣でミコが裏返った声を上げてきた。
胸のあたりをきゅっと抑えながら顔を覗き込んできている。
「死んだと言っておったな。ぬしは何度死んだか分かるか?」
「数え切れないぐらい死んだのは確かだ。でもこうして生きてる」
「……くひひ、ぬしも相当面白い奴じゃな。そんな身体で良くここまで来た」
「流石に死にっぱなしは良くないからな。仕返しして、奪って、生き延びた。それだけだ」
「実に良い。そういうのは儂の好きな生きざまじゃ。実にな」
「そりゃどうも」
相手の言葉の調子が確実に良くなってるのを耳にして、たくし上げていた上着を降ろした。
「本当にひどかった……けど、別にそこまで絶望的だったわけじゃない。ちゃんと理性のある人間にも会えたし、助けてくれる人だっていた。あっちから連れてきたサンディだってそうだ」
「……もちつ、もたれつ?」
「くひひっ。なんじゃ、ちゃんとした人間もおったわけか……つまらんのう」
「そういえばサンディさん胸デカすぎッスよねえ、ミノタウロス種ッスか?」
「……みの?」
「牛みたいなヒロインのことッスよぉ。前いたギルドのマスターを思い出して懐かしいッス、アヒヒヒ……♥」
とはいえ……不安が蘇ってくる。
例えば万が一この世界で俺が死んでしまったらどうなるのか?
またあっちの世界に戻されて冷たいシェルターの中で目覚めるんだろうか。
或いはあの墓場でぐっすり休んでいる奴らの仲間入りを果たすのか――分からない。
「あとは人も殺してきた。この際「仕方がない」なんて甘ったれたこと言うつもりはないけどな」
駄目押しとばかりにテーブルに立てかけていた自動小銃を持ち上げて、見せつけた。
部屋の空気はすっかり凍り付いているように感じた、目の前の魔女とメイド以外は。
「くひひ、意気がるだけだったラーベ社の奴らも気の毒じゃな。上には上がいたという訳か。ところでさっきから気になってたこの筒はなんじゃ?」
「ああー、リーゼルさまぁ。これはー……あれッスよー、銃とかいうやつです。火薬で打ち出すクロスボウみたいな……アヒヒ……」
すると手から自動小銃がすっぽ抜けていった。
まるで誰かに掴みとられるような――また魔法だ。
薬室に初弾の込められていない銃がふわふわ向こうに飛んでいって、ギザ歯の小さな魔女の前へと到着すると。
「……ふうむ。ずいぶん汚い見た目じゃが……」
それを少し見たあと、あろうことか迷うことなく弾倉を取り外してしまった。
それから中を覗いたり、装填用のボルトを軽く弄ったり、ついには軽々とそれっぽくに構えて向けてきた。
「難しいように見えてしくみは単純じゃな。これは……火薬で金属を飛ばして、その通り道に細工を施して通過したら回転を加えて真っすぐ飛ぶようにしておるな。そして火薬の力を利用し、バネで押し出されたものを押し込んで自動的に次が撃てるようにすると……」
「あー……リーゼル様?」
……なんてこった、俺より仕組みを理解している。
正面で不釣り合いな大きさの銃を振り回すギザ歯の魔女は「本当は知ってるんじゃないか?」というぐらいに良く分かっているようだ。
そうやって一通り触れたりしたところで、抜いた弾倉をこれまた慣れた手つきで叩き込んで、
「それで、これがどうした? 儂が『なんじゃこれは! わあ!すごい! これが異世界の武器なのか!』とでも言うと思ったのか? 馬鹿もんが、いらんわこんなの」
「おっと……!?」
とても不機嫌な様子でこっちに向かって自動小銃を放り投げてきた。
両手を上げて慌ててキャッチするとずっしりときた。
「言っておくがこんなもの、オートマトンどもがその気になればとうの昔に作っておったろうな」
「おいおい……マジで言ってんのか?」
「くひひひ……当たり前じゃ。奴らのからくりと魔術を合わせればいちいちこんな冗長で面倒なものよりずっと強力なものがたくさん作れるわ。まあ……あの馬鹿どもはたとえ拷問にかけても絶対にこのようなものは作らんじゃろうが」
「いいなぁ~いいなぁ~、ウチも銃とか使いたいッスよぉ。アヒヒヒッ……」
……この世界、下手したらあっちの世界よりもずっとヤバイんじゃないか?
俺は戻ってきた自動小銃をテーブルの下に捻じりこみながら、しみじみとそう思った。
「……さて、今日はこの辺りでおしまいにするとしようか。くひひひっ」
質問が終わった。
リーゼル様がそれはもう爽やかな顔で締めの言葉を口にすると、それまで身体に入っていた力があっという間に何処かに抜けてどっと疲れを感じた。
サンディはともかく、周りのミコたちもぐったりしてる。
「……それで、あんたは何が望みなんだ? 俺に何をしてほしいんだ?」
質問が終わってすぐに、俺は『魔女リーゼル』という名前を聞いてからずっと思っていたことを迷わずぶつけた。
まさかこんな質問をしあうためだけに呼んだわけじゃないはずだ。
すると銀髪の魔女はぐーっと気持ちよさそうに背伸びを始めて、
「くひひひっ……ぬしには今日から色々と仕事をしてもらうぞ。この地にやってきたあちら側の世界のものの調査。この地の異変への対処。ついでに儂の暇つぶし。なんでもじゃ」
まるで選択肢が一つしかないような感じで、俺に向かってきっぱりとそう言い切ってきた。
流石に勢いが良すぎて、俺はミコやムツキと思わず「どうしよう」と顔を見合わせてしまった。
「これは……嫌でもやってもらうぞっていう感じのお誘いか?」
「その通り。タダで働けなどと気持ちの悪いことは言わん。対価はちゃんと払うと約束しよう、魔女の名のもとに。まあもちろん拒否権などないんじゃがな。くひひひっ……」
「わーい、仲間が増えたッスよぉ。やりましたねぇリーゼルさまぁ……イヒヒヒ……」
これはつまり、断ってもいいけど断ったら許さんし後からやっぱりというのは絶対にない、という流れだと思った。
どちらにせよ目の前のリーゼル様はこの世界のことをよく知っているし、俺が何をするべきなのか知っているはずだ。
「……はあ。わかった」
「くひひっ、分かったか。ぬしは今日から儂の仲間じゃな! では早速ぬしらにやってもらうことがあるから準備をしてもらおうかの。もちろん……他の者たちは異論はないな?」
「えっと……僕はないです」
「わ、わたしもない……です」
「ミコもありません」
「……ない」
『ありません!』
考える時間も与えられず、俺はこうして魔女の仲間になりましたとさ。
どうせこいつのことだ、どうせ「考える時間をくれ」とでも言ったところで「考える時間ならくれてやったろう?儂と会った瞬間からな」とか絶対にドヤ顔で言うに違いない。




