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モンスターガールズオンライン!  作者: ウィル・テネブリス
モンスターガールズオンラインへ!
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*62* 親愛なる友と優しい心

 【クラングル】の街並みはしばらく騒々しかったけど、じっくり時間をかけて落ち着き始めている。

 なんでも、タイミングが良いことにこの街にある様々なギルドが結託(けったく)してついにラーベ社へと立ち向かったらしい。

 その結果どんなことが起きたか?

 街のいたるところで戦って、捕まえて、鎮圧されて、ついでに俺がラーベ社の残党と何度も勘違いされまくったということぐらいだ。


「まさかこんな大変なことになってるタイミングで来てしまうなんて……俺もツイてないな。いや、こうしてまた会えるのはラッキーだったかな?」


 俺たちは今、この街にある塔の屋上にいた。

 その理由は現在進行形でとても騒がしいからというわけであって、落ち着いて話せる場所がなかったからだ。

 少し歩けば「ラーベ社だ!」と何度も指をさされるのでたまったもんじゃない。

 なのでわざわざ、クソ長い階段をぞろぞろ上って街が見渡せる場所へと来たわけである。


「うん、僕もまさかここで会えるなんて思ってもなかったよ」

「そっちだって良く俺だと分かったな。まあ、あんだけ周りにイチ、イチって呼ばれてれば嫌でも分かるか」


 塔の上からは街並みが良く見えて、改めてここが広大な街だということに気づかされた。

 状況はだいぶ落ち着いてきているようだ。

 地上では黒い鎧の連中がどんどんやられて騒ぎが収まりつつある。

 更にあたりを見回してみるとここから露天広場がはっきり見下ろせて、ようやくラーベ社の連中がいなくなったのが見える。

 俺は双眼鏡を降ろした。


「僕たちここで活動してたんだけど……いきなりこんなことになって逃げようとしたらたまたまイチさんを見かけたんだ」

「ここを拠点にしてたのか」

「うん。人も多いし、色々便利だしね。ここでイチさんをずっと探してた」


 ツイている、とはいったけど実際のところはそうでもないかもしれないな、と思った。

 こうして会えたのも偶然じゃなくてPDAのクエストの導きなのかもしれないからだ。

 いや、今はもうこれ以上は考えないようにしよう。


「それで……これから」


 で、思った以上に広い街並みから目を外すと、


「……で、なんですかこのおっぱいの怪物は!? しかも可愛い妖精さんもいるしご主人さま守備範囲広すぎです!」

「おい」


 ぷんすか状態のミコが早速食らいついてきた。

 とりあえず余韻もクソもねえ、と思った。

 さっきまで感動の再開ムードに包まれた俺たちを真っ先に裏切ってこの有様だ。

 あるいは期待を裏切らないともいう。


「いや……なんだろうね?」

「これは浮気ですか!?」

「いや……仲間になりたそうに見てたから……」

「はっ……まさかお二人にバニースーツ着せるつもりですか!?」

「着せねーよ!」

「イチさん……バニーさん好きだったの忘れてたな」

「よっ、妖精さんにも着せるつもりだったの……? うわあ……」

「おいお前ら、俺を何だと思ってんだ!?」


 次々と襲いくる自分のヒロインのお陰で今や塔の上は混沌としている。

 いや、でもこれが俺の知ってるミコだ。

 やっぱりミコはこうでなきゃとは思うけどせめて感傷ぐらいは味わいたかった。


「……相棒」

「ああ、そう……相棒だ」


 そんな空気をぶったぎるように、ずっと壁に寄りかかっていたサンディが拳をこっちに近づけてくる。

 握った拳の裏をこつんと合わせた。

 ついでに頭の上にぺたっとレフレクが乗っかってきた。


「あ、相棒ですとー!? ミコがいるじゃありませんか!」

「あの、その……向こうの世界から連れて来たって言うか」

「はっ! まさか!? ゲームの中にこんなおっぱい大きい子がいるからハマってたんですか!? だから別ゲーに浮気してたんですか! こんな破壊兵器みたいなおっぱい目当てで!」


 ああ、間違いなく自分のヒロインが良くも悪くもそのまま存在している。

 ゲームの画面越しに見る姿そのものだったけどまさかここまで忠実すぎるとは。

 声が凄く可愛いし、イメージ通りのミコがそこにいたけれども……安心と不安が二人三脚で襲い掛かってきた気分だ。


「俺、お前のそういう雰囲気とかぶち壊す性格大好きだよ」

「ふっ、さすがミコのご主人様ですね、わかってるぜ。どやぁ!」

「調子乗んな!」

「ふにゃー」


 あまりにやかましいのでミコの頬を優しく引っ張った、思いのほか柔らかくてもちっと伸びる。

 離すとぷるぷるしながらいつものドヤ顔に戻ってしまった。


「ゲームの登場人物かどうかは分からないけど……いや、なんとなく連れてきただけなんだけど……つーかお前……女の子なのにおっぱいとかいうなよ。品がないぞ」

「女の子だから言ってもセーフなんですよ! でもご主人様、申し上げますが女性の魅力は胸ではなく、心ですよ! ミコはまだ未発達だけど女子力たっぷりだもん! 女子力高すぎて死人が出るレベルです!」

「殺そうとするなバカヤロウ」


 ……俺、これから大丈夫なのか。

 ハイテンションなミコを見て可愛いだとか無事で良かっただとか思ったのはほんの一瞬で、もう全てこれから先の不安に置き換わってる。


「ふふっ、良かったー♪ これでミコちゃんも平常運転だね!」

「うん。元気なミコさんとイチさんが戻ってきた、って感じだね」


 そんな様子を見てムネとムツキは「とても微笑ましいですね」とばかりに眺めてる始末だ。

 おめーら後で覚えてろ。


「ではお尋ねしますけど! サンディさんは何が出来るんですか!? お料理? お掃除? それとも夜のお、せ、おふっ!」

「おいやめろっ!」


 今度はミコが近くにいたサンディの胸を手でぺちぺちし始めたので、凄まじく下品なことを言う前にむにっと口を塞いだ。

 とうの本人は気にしていないようだけど興味深そうにじーっとミコを見つめていて、


「……狩り」


 サンディは相変らず無表情のまま、得物(ライフル)のボルトを引いて薬室を見せ付けた。

 別に敵意だのがあるというわけじゃなさそうだ。

 どちらかというと本人は「それしか出来ませんが何か?」といいたそうにアピールしている。


「……狩り? あの、その銃……本物ですか? まさかのおーばーてくのろじー?」

「……うん、ほんもの。イチに作ってもらった」

「ええっ!? それご主人様が作ったの!? 何時からそんな男子力つけたんですか!? ご主人様ぱねえです!」

「男子力ってなんだよ……!」


 ミコのいう男子力という謎のパワーはさておいて、まあ確かに作ったのは事実だ。

 そしてそのライフル――というか、サンディの持つ狙撃の技術で助けられてきたのもまた事実だ。

 もしもサンディがいなかったたら今頃こうして再開することは絶対になかったと思う。


「……つまりご主人様のハートもその銃で射止めたというわけですね。くぅ……おっぱいの大きいセクシーな女性に肉食系の嗜み……これがライバルという奴ですね! いいでしょうむしろ燃えてきます!」


 そして物凄く曲解されている。

 むしろサンディは俺の心臓(ハート)というかで可愛そうな盗賊(レイダー)の頭を見事に横からぶち抜いた気がする。


「やいやーい! ミコはご主人様のすっごく……とにかくすごいパートナーですよう! 勝負だむぎゅっ」

「……えーい」


 巨大な胸をぺちぺちしてたミコが褐色の狙撃手を見上げて宣戦布告を始める。

 が、サンディに抱き寄せられて胸の谷間に見事に押さえ込まれた。

 しかも本人(サンディ)は面白半分、もう半分は狩りで獲物を見つけたときのような目つきだ。


「ふぎゃー」


 巨大な乳に捕食されたヒロインがじたばたしている。

 ただし加減が分かっているのか シメてるというよりはじゃれついてる部類だ。


「ふふっ、こんなに元気なミコちゃん初めて見たかも?」

「こいつが相変らず元気そうで安心したよ畜生」

「……うさぎみたいで、かわいい」

「ぎゃー」


 うさぎ――言われてみればそうかもしれない。共通する点が幾つか思い当たる。

 だけどサンディの言っているそのうさぎというのはきっと愛玩するほうのうさぎじゃない。

 つまり狩られて皮剥がれて丸焼きにされるかシチューの具にされる意味合いでのうさぎだ。


「うぎゃー」

「うさぎさん……確かにそうかもね? ミコちゃんにんじん大好きだし、イチさんがいなくて寂しくて死にそう、とかいってたし……」

「ぎゃー」

「そうか……おいサンディ、窒息するからやめなさい」


 このままだとうさぎがやられかねないのでサンディにやめるように指示した。

 解放すると……ミコがこっちに向くなりきっ!と迫真の表情で、


「くっ、ご主人様! ミコに加減などいらぬ! あ、でもバニーってうさぎですよね? つまりバニー好きなご主人様にとってこれは好都合だという」


 とかいってきた。

 俺は褐色の相棒に手で合図した。


「やれ」

「……むぎゅむぎゅ」

「むぎゃー」

「さっ……サンディさん……そろそろミコちゃん放してあげてー!?」


 まあそれはさておいて、だ。


「それで……これからどうするんだ?」


 俺は時計台の上からクラングルの様子を眺めながら聞いてみた。

 本当に広くて、きっちり並んだ風景だ。


「とりあえず僕たちの拠点に行こう。ちょっと前にギルドを作ったからみんなでギルドハウスで暮らしてるんだ」


 後ろからムツキが答えてくれた。

 でもモンスターガールズオンラインだとギルドを作る……ましてギルドハウスを手に入れるとなるとそれなりの資金だの手続きだのが必要だった気がする。

 この世界がどうなっているのかはまだ分からないけれども、簡単ではないではないのは確かだ。


「ギルド作ったのか。マスターは誰なんだ?」

「僕だよ。まだ小さなギルドで三人しかいないけどね」

「じゃあこれから六人だな」

「そうだね。ちゃんとミコさんがイチさんの部屋を作ってくれたよ」

「そりゃありがたい。ぶっ続けでここまできたから疲れて死にそうだったんだ」


 ともあれ、今日のところは寝床に困る心配もないみたいだ。

 俺は降ろしていた荷物を拾い集めた。


「くっ……今日のところはこのへんで勘弁してやりますっ!」

「……よしよし」

「どやぁ!」


 移動の準備が終わると褐色VS桃色の決着がついたみたいだった。

 結果、俺のヒロインは勝者に頭をなでなでされて何故かドヤ顔だ。

 しかもサンディの頭上にちょこんとレフレクが座っている。これがカオスか。


「それでムツキ、ギルドの名前はなんていうんだ?」


 他の面々も荷物を持って立ち去る準備を始めたので、移動する前にちょっとギルド名を尋ねてみた。

 すると何故かムツキは「えっ」と言葉を詰まらせて、


「……く、クルースニクベーカリーだよ」


 少し間を置いてからとても言い辛そうにそう答えた。しかも小声で。

 ……ん? 今こいつ()()()()()って言わなかったか?


「……クルースニク……ベーカリー?」

「えーと……うん、ベーカリー」


 念のため後半の部分を強調させて問いかけると、更に自信のなさそうな声が返ってきた。

 近くにいたムネですら何故か同じような反応だ。

 それだけならともかく、ミコもちょっと気まずそうだ。

 そうか、ベーカリーか、まるでパン屋だな。


「ああ、ベーカリーね……」


 ……いやまて、パン屋じゃねえか!!


「え!? パン屋!?」

「……パン屋さんだね」

「マジでパン屋さん!? 一体何があったんだ!?」


 ちょっと待て、何でパン屋なんだ。


「い、色々あったんだよ……。ちょっと僕がミスっちゃって……」

「わ、わたしにも責任があるっていうか……」

「ミコたちでミスってしまったといいますか……」

「お前たちは一体何をやらかしたんだよ!?」


 とりあえずこいつらの反応からして何かやらかしてしまったのは分かった。

 まあ、仕方ない、この際俺がパン屋の従業員になるにしても帰る場所があるということは幸せなことなのだから。

 でもパン屋はねえよ……と思った。


「……ふふっ。今日からみんなで一緒だね」


 誰かが笑った。いや、もうみんな笑っていた。

 全員、移動する準備はできたみたいだ。

 かなり賑やかになってしまったけども、一人よりはずっといいさ。


「さて、行くか! 明日から頑張るぞおめーら!」

「ふひひ、明日から忙しくなりますよぉ!」

「とりあえずイチさんにこの世界の事とか色々話さないと駄目だね。あーでも何から説明すればいいんだろうこれは……」

「これから賑やかになっちゃうね。ふふっ、なんだか楽しみだなあ」

「……釣り、したい」

『わたしもたのしみです!』


 ……おっと。

 早速新たな一歩、といったところで足がちくっと痛んだ。

 こんな時にまた出鼻をくじかれてしまったけども、慌てず靴を脱いだ。

 どうやら小石か何かが入っていたみたいだ。

 中に入っていたものを振り落として、俺は黒いブーツを履き直した。


reboot

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