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モンスターガールズオンライン!  作者: ウィル・テネブリス
ポストアポカリプスな生活
6/96

*6* 物資と資源を集めろ

 そろりそろり。

 足音を立てないように、外に繋がる階段を上っていく。

 ジャンプスーツの胸にあったポケットの中にしっかりPDIY-1500を納めながら、夕日が沈み始めた地上へと向かっていた。


 あれから色々考えたけど特に理由があって外に出たわけじゃない。

 むしろあの冷たい部屋の中でじっと閉じこもっていても何も生まれない、と思った。外に出る理由といえば今はそれだけだ。


 階段を上りきると、バーベキューが終わったあとの炭みたいな民家の残骸をぱきぱき踏み潰しながら前に進んだ。

 ここは地下に小型シェルターを保有していた家庭だったらしい。


 見上げると夕日が見えた。

 オレンジ色の太陽から目を落とすと、壊れて荒らされ巨大なゴミのようになった建造物がなんとか原型を保ちながら寂れた町の形をひねり出していた。


 俺は日本人だから外国の街の雰囲気なんて良く分からない。

 だけど、もしここが核戦争で寂れる前だったらきっと雰囲気の良い田舎町だったに違いない。

 まともな草木すら育たなくなった荒野の姿と、何故か見ていると虚しさを強く感じる町を見比べて、ここは本当にゲームの中なのかと疑問が生まれた。


 とにかく気をつけて探索してみよう。

 本当だったらこのままシェルターの中に引っ込んだほうが安全なのかもしれない。


 でも外の空気に自分の身がさらされた直後、その考えはすぐに変わった。

 あれだけ頭の中がごちゃごちゃとしてたのに新鮮な空気を吸って少しは気楽になれたからだ。

 人間は黙ってじっとしているよりも、身体を動かしたり何か感情に影響を与えるような風景を目にして刺激を感じたほうが、神経が解れてよりいい思考が導き出されると聞いた事がある。


 まさにそのとおりだ。

 シェルターでぐだぐだと考えるよりも動いた方が気持ちよく考えれるに決まってる。


 車が大量に置き去りにされた道路を避けて歩き回っていると、少し離れたところにガソリンスタンドがあった。

 当然車が乗り捨てられた状態でさび付いているし、その近くには――白骨化した死体が幾つもある。


 運転席に座ってハンドルを握ったままの姿。

 車から脱出しようとしたのか窓から半身を乗り出してだらりと下にうつむいている姿。

 ボンネットの上で大の字に広がって空に向きあっている姿。


 どれもこれもが道路の上で死んでいた。

 この時ばかりは『これはゲームだ!』と考えようとしたけど、近くから嫌というほどに香っているガソリン独特の匂いが残っているせいで中々定まらない。


 周囲に誰もいないか、誰かいたとして俺に気付いていないか、そういった事を頭に叩き込みながら慎重にガソリンスタンドの入り口へと近づくと。


「……う゛っ……」


 開いたままの扉を潜り抜けようとした矢先、とんでもない匂いが鼻をつく。

これは、あれだ。

 夏場に生肉をテーブルの上でたっぷり放置したあとのような、肉の生臭さと腐敗臭を四対六の割合でミックスしたような。


 ……何が言いたいかというと腐臭だった。それも生き物の。

 しかもその発生源はすぐに見つかった。カウンターで突っ伏していたのだから。


 これはゲームなんだというおまじないが段々と薄れていってしまう。

 少しでも気を緩めたら俺は今目の前にある『それ』を本物だと認めてしまうはめになる。

 無理矢理に意識を背けてごちゃっと倒れた椅子やテーブルを避けて歩いていると自動販売機が倒れている事に気付いた。


 "Meka"とかいう架空の会社の自動販売機みたいだ。

 誰かがこじ開けようとしたのか扉は半分開きかかっている。


 良く見ると引っ張れば開きそうだった。

 好奇心に駆られて開きかけの自動販売機に手をやって開いてみれば……まだ手付かずの炭酸飲料と思しき缶が数本あった。


 ――そういえば喉が乾いたな。


 思わず中に残っていた缶に手を指し伸ばすと、指先がちょっとだけ触れた瞬間。


【コーラ250ml】


 視界の中で突然、緑色の文字が浮かんだ。

 これは一体なんなんだ?

 まるで目の前の缶から浮き出てきたような文字に驚きつつも、指でその文字に触れようとすると――手ごたえなし。


 缶そのものを掴んでみると――文字は消えた。

 顔に近づけて青と赤の縞模様の缶をじっくり観察するけど、その文字は浮かばなかった。


 もしかしてアイテムの名前を表してるのか?

 片手でコーラの缶を握ったまま、もう1本の缶に手を近づけるとまた【コーラ250ml】と出てきた。

 どうやらそうらしい。ということはどうやら本当にゲームの中みたいだ。


 こんな状況ながらなんだか面白くなってきた。

 近くに転がっていた空き缶に手を伸ばせば【空き缶】と表示されるし、部屋の隅で転がっていた消火器を調べれば【古い消火器】と表示される。

 おもしれーとか思ってしまった。たかだか名前が表示されるだけでそんな言葉が胸いっぱいに広がっていた。

 丁度目の前にあった古い消火器とやらに両手を伸ばして持ち上げようとしたその時。


 【分解可能!】


 消火器にそんな文字が浮かび上がってきたのだ。


 いきなり出てきたんだからまたも驚く。

 驚いてばかりじゃこの先やっていけない気がするけど、未知の体験というのはいつだって楽しみが詰まっている。

 両手で消火器を持つ。中々冷たくずっしり重い。


 しっかりと消火器を持っていると何やら【分解可能】という文字が表示されたまま消えなかった。

 だけどその【分解】という文字には記憶があった。

 これはFallenOutlawのゲームシステムの一つだ。


 FallenOutlawは過酷なサバイバルをするゲームだ。

 武器も防具も乗り物も自分で確保するのが基本で、その為にクラフトというシステムで作らなければならない。

 中には武器や防具、果てには食料から車までぽつんと置いてある事もあるが、基本は『なけりゃ自分で作れ』の精神でいく。

 しかしだからといって出てくる全てのアイテムがクラフトの材料になるというわけでもなく――むしろ材料になるのは一部だけだ。


 それ以外のアイテムはゴミ!……じゃない。

 クラフトに直接使わないアイテムは【分解】という手段によって破壊して、資源(リソース)というものに変えることが出来る。

 例えば鉄パイプが目の前にあったとして、それを【分解】すれば、金属というリソースに変換される。これで晴れてクラフトの材料の仲間入りだ。


 ということは……?

 俺は消火器をいそいそと地面に立てて、片手で触れながら【分解可能!】の文字を指で突いた。


【分解しますか?】

【YES/NO】


 迷わず空中に浮かんだYESを押した。

 そうすると消火器が少し輝き、ぼろぼろと崩れて――物凄い速度で風化したように姿を消してしまう。


 ……それで?

 何も起きない。てっきり目の前に分解された消火器でも出てくると思ったけど、本当に何も起きないままだ。


 いいや、まだ諦めちゃいけない。

 悩もうとするよりも早く自然と手が動いて専用ポケットに突っ込んでいたPDAを引き抜いた。

 スイッチを押して画面を出して、インベントリを開いて指先で画面下の『リソース』を押してみると……。


 【リソース入手:金属40 化学物質20】


 予想通りだ。

 PDAに向かって得意げな笑みを浮かべてしまった。

 そうと分かれば、とりあえず可能な限りこの当たりにあるものを片っ端から【分解】していく事にしよう。


 視界内での分解の結果表示というのがあったのでオンにして、そこら辺に転がってた空き缶を分解。

 金属たったの5か……ゴミだ。


 だけど忘れちゃいけない。空き缶というものは何かをつめるもの、空っぽだからこそ何かをつめることが出来る入れ物なのだと。

 桃とシロップが入ってたら桃の缶詰になるし、カニが詰め込んであればカニ缶になる、空き缶は夢を詰め込む為の無限の可能性を秘めたスペースなのだ。

 まあ今この状況だと缶詰でもジュースでもいいから何か詰まってるほうが嬉しいけれども。


 陳列棚に置いてあった空になったオレンジジュースの容器(洗剤の容器のようなあれ)を分解。

 PDAの中でプラスチックと化した。


 容器を見て思い出したもののここは一応文明が崩壊した大国という設定だった。

 シェルターの中にあった風呂も西洋式だったし、ゲームの中とはいえ文化の違いにやはり強い違和感がある。


 カウンターの上に車のバッテリーがあったので分解。

 金属がたっぷり、化学物質もたっぷり。

 ……もちろんカウンターで突っ伏している遺体は極力見ないようにする。

 死因は調べたくは無いけれども、床に2発分の空薬莢が落ちていたからなんとなく察した。

 空薬莢も分解した。スズメの涙ほどの金属。


 ウォッシャー液のボトルが何本もあったのでまとめて分解。

 化学物質と粘着剤になった。化学物質ならともかく一体どうして粘着剤になるのか理解に苦しむ。

 最後にまさかと思って足が折れたり炭化したりと散々な目にあっている椅子と机を見つけて触れてみたら……出来た。木材がたっぷり手に入った。


 一通り探索と分解が終わったあとには、汚かったガソリンスタンドの中は文字通りすっきりした状態だった。

 細かいゴミは落ちていたものの、目立つものはあらかた分解してリソースに変えてしまった。

 もし現実での生活でこんな能力が使えたら、家の掃除やゴミ捨てに一生困らなさそうだ。

 もっとも、今の俺の家はあの寒くて狭いシェルターの中だけども。


 それに他にも収穫はある。

 『MRE:パスタ』と書かれた濃いモスグリーンのパックだ。

 確かMREといえば、どこかの国の軍隊の戦闘糧食だとか聞いた事がある。

 詳しくは知らないけど食べ物だって事は分かる。

 こうして手に入ったのは数本の炭酸飲料とMRE、そして布以外の沢山のリソース。ちょっとした探索のつもりが結構な収穫だ。


 今日はとりあえずシェルターに戻ろうか。


 外を見ると暗くなっていて、ガソリンスタンドの中も随分と冷え込み始めている。

 ただでさえ寒いシェルターの中はもっと寒いに違いない。

 周りの状況が分からない今、安全なところに戻ってじっとするのが正しい選択だ――何かトラブルに鉢合わせする前に、さっさと帰ろう。


 そっと扉を開けるとやっぱり外は暗かった。

 明かりすらなくて、夜空の星と月の光だけが頼りだ。

 両手で拾ったものを抱えたままゆっくりと、音を立てず、口を丸くあけて呼吸の音すらも押さえながら歩いていると。


「ここでやったんすよ! 自慢のショットガンでバーンと!」


 道路の方から男の声が響く。

 声のした方向から何人分も濃く重なった足音がこちらに向かってやってくる。

 それは途中で止まって、


「殺したやつが急に消えただとぉ? そんなバカな話があるわけねぇだろうがよぉ!」

「う、嘘じゃないっすよぅ!! 確かに頭を綺麗にフッ飛ばしてやったのに消えたんすよ!」

「ひゃははははははっ! こいつ幽霊と戦って勝ったんだとよ! 新入りの癖にやるなぁおい!?」


 あまり穏やかではない部類の印象をまとった男達の声が耳に届いてきた。

 攻撃的な調子の声に、野太くて品のない笑い声のオーケストラ。

 それも三人四人のレベルじゃなくその倍ぐらいはいるような感じがする。


 車の陰に隠れながら声のする方向をこっそりと確認すると……たいまつを持った誰かがいた。暗闇の中で火がゆらっと踊っている。

 良く分からないけど、パンツ1枚と何が違うんだといった具合に肌が露出していたり、ガラクタをとにかく寄せ集めて全身に鎧の如くまとっていたり、そんな奇抜な格好な連中が銃やら斧やら木の棒やらをもって固まっている。


 しかも会話の内容からして俺の頭をぶち抜いた奴がいるらしい。

 というかこれでまた一つはっきりとしないことがはっきりした。

 やっぱり俺は射殺された――ああ、知りたくなかった。


 そいつらはあれだ、あれである。

 あのクソ野郎たちは盗賊(レイダー)だ。

 主人公がぶち殺すべき略奪者のことで、そいつらは平気で人を殺し、犯し、酷いときは食料として食べてしまう。人の頭をねじ切るのが大好きなロクデナシだ。



 俺が主人公としてこのゲームの中にいるのならば倒さないといけない存在という事になるけど……これじゃ無理な話である。


 決してそいつ等に襲い掛かろうだなんてバカな考えを起こすつもりは全く起きない。

 むしろうわー嫌なものを見て聞いてしまった逃げよう、という程度だ。


 車に隠れながらカメのようにゆっくりと、シェルターへの帰り道を慎重に進んでいった。



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