*54* 悪者が得をする
俺たちの目の前にヒロインが突き出される。
ついでに、目が隠れた女の子も腕を掴まれて無理やりに連れてこられたみたいだ。
「……ボクはお前たちを絶対に許さないぞ!」
ハーピーの女の子はかわいらしい見てくれに決して合わない、怒りの籠った瞳でぎりっと俺たちを見ていた。
二人がかりで右も左も押さえつけられても、絶対に屈してやるものかと義憤をこっちに向けている。
「はぁ? 許さない? お前さあ、今自分がどんな立場か分かってんのかァ?」
「身動き取れねーのに絶対に許さないぞ!とか馬鹿じゃねーの! ぎゃははッ! ハーピーってほんと馬鹿しかいねーなぁ!」
もっとも、そんな彼女を目にしたところでラーベ社の面々は鼻で笑っているが。
「……お願いします。欲しいものはなんでも……なんでも差し上げますから……ピナちゃんには手を出さないで……!」
茶色いハーピーの友達か何かなんだろうか。
前髪で目が隠れている女の子は喉をすり潰したような弱弱しい声で懇願していた。
全体的にちょっとだけ肉付きが良い、という点を含めてもどう見ても普通の人間のように見える。
「ああ!? さっきからごちゃごちゃうるせえ! こんなド低能な友達をもったテメエも同罪なんだぜぇ! 根暗ちゃんよぉ!」
「……やっ……! 掴まないで……っ! 痛いです!」
そんな今にも消え入りそうな声も、こいつらにとっては耳元で蚊が飛ぶような不快なものなんだろう。
ラーベ社の男が何倍も大きな声で威圧して、かき消して、その子の髪を乱暴に掴んで引っ張り上げた。
「あっ……やっ、やめてください! 髪だけは……!」
「うるせえ! なんだよその根暗な前髪はよぉ!?」
だが、目元を隠す前髪が持ちあげられると。
艶の良い髪の裏側には蒼くて大きい、大きな一つ目があったのだ。
「……うおっ!? な、なんだこいつ!?」
「おいおいどうした……ってうわっ!? なんだこりゃ!?」
例えば人間には目が二つある。
それを顔から取っ払って何倍も大きな一つの目を代わりに置いたような、そんな作りの顔をしている。
「……き……気持ち悪いぞこれ!? 一つ目だ!」
「げっ……単眼かよ。すげえキモいな……」
髪の裏側から大きく蒼い瞳が出てくると、男は害虫でも見つけたように「ぎょっ」として手放した。
俺だってちょっとびっくりした。
ゲームの中でしか見ないような一つ目が、こうして実際に目の前にあるのだから。
「やっ、やめて……っ! み、見ないでくださいっ! 離してぇっ!!」
それはきっと彼女にとっても相当なコンプレックスだったんだろう。
隠していたものが裸になると、一つ目の女の子は今にも泣きだしてしまいそうな声を上げて抵抗する。
ところが周りにいるやつらはそんなことすら聞き入れないどころか、
「おい、見ろよお前ら! こいつマジやべえ!」
もっと酷いことを平然とやるような下衆な連中だ。
髪を掴んでいた男は略奪中の仲間を呼び出して、その子の大きな単眼を周りに見せびらかし始めた。
「うっわ~……見てくださいよ、イチさん、兄さん。あれキュクロプスですよね? 初めて見るんですが……ヤバいですね」
「本当に目が1つしかねえなぁ。良くあんな気持ち悪いバケモンを実装したな、このゲームは」
すぐ近くにいる眼鏡の男と灰色髪の大男だってニヤニヤしている。
サブマスターのユキノがいうように、あの子はキュクロプスとかいう一つ目の種族のヒロインだ。
鍛冶スキルにボーナスがつく種族……ということなのだが、その特殊な見た目から不気味がられるような不遇な存在だったのは間違いなかった。
「げっ……、キュクロプスだったのかよ。本当に目が一つしかねえ」
「き……気持ち悪すぎるだろこいつ。こんな奇形野郎が鍛冶やってんのか?」
「うっっわ……見てると呪われちまいそうだ。こんなやつが作ってる武器とか使いたくねえわ」
「きもちわりー! おい奇形! 呪われるからこっち見んなよ! ぶっ殺すからな!」
男たちが思い思いに酷い言葉を吐きかけると、キュクロプスの少女がぴたりと動きを止めてしまう。
「……っっ! うっ…………うう……~~~~っっ!!」
怒りか、悲しみか、どちらにせよ色々なものを堪えているんだろう。
次々とやって来る心ない罵倒に言葉が止まって、代わりにふるふると全身を震えさせていた。
顔が熟した果物みたいに真っ赤で、少し指で突けば決壊して中身が全て流れ出してしまいそうなほど目をぱんぱんに潤ませている。
目が大きい分、彼女が泣き出してしまいそうなのが良く分かった。
「……」
「おいおい……どうしたんだおチビちゃん? 急に元気がなくなったぞ? 大丈夫、殺しはしねえから怖がらなくていいんだぜ? へっへっへ……」
そして。
あの時の妖精もいた。
相変わらず何一つ喋らないが、汚らしい手の中でしくしくと小さく泣いている。
「……? ……?」
きっと俺を見て、こいつらの仲間かなんかだと思ったに違いない。
始めて会った時のあの健気な態度も、励まそうとしてくれた時のあの明るい笑顔も、もう二度とその子の顔に戻ってこないような気がした。
酷く胸が痛んだ。胸の傷がど真ん中から抉り返されるようだった。
俺は今、自分の身体が散弾銃で吹き飛ばされた時以上に強い喪失感を感じている。
「へへ……、ちょうどいい、あの件のこともあるしな。見せしめにやっちまうか」
目の前に三人のヒロインが揃うと、遂にラーベ社が動いた。
ユキノが抑え込まれている茶色いハーピーの女の子へと近づいていく。
「ええ、実にちょうどいいですね……兄さん。お任せしちゃいますよ」
「殺していいか?」
「駄目です。その子には私からもちょっと用があるので……10のうちの3か4かあたり、それくらいに留めてください。優しくね♥」
「分かったぜ、我が兄弟。お楽しみはちゃーんと取っておくから見ててくれ」
一体こいつらは何をする気なんだ?
短い打ち合わせを終えたユキノが、にやつきながら捕らえられたヒロインの目の前へ立つと、
「さあイチさん。これから我が社の演説が始まりますよ! 楽しみましょうね!」
ユーフィーンは吐き気を催す笑顔を浮かべて……俺にぎゅっと迫って肩を組んできた。
相変わらず、血生臭い奴だ。
「……何が始まるんだ?」
そっと、投げナイフのホルダーに手を伸ばそうとすると、
「死なない程度に痛めつけるだけですよ。ああ……あの子たちの命が惜しければ、変なことはしちゃだめですよ? 今ここでいきなり私や兄を殺す、とかね? その点はちゃんと打ち合わせしてありますから」
こいつは俺の耳元で、聞き取りやすく、それでいて耳奥に絡みつくような調子で囁いてきた。
やっぱりだ。ラーベ社のマスターはナイフを隠し持ってから握手をするような人種だったわけか。
「……よう、鳥のガキ。うちの奴らが世話になったな?」
ユキノの後ろ姿を目で追っていると、ハーピーの子がまた暴れだそうとした。
キュクロプスの女の子と比べてまだ強気で、隙あらば一撃をお見舞いしてやる勢いだ。
「うるさい馬鹿! お前たちはどうしてそんな酷いことをするんだよ! みんなの大切なものを何度も何度も奪って、友達もころして、みんなの街を滅茶苦茶にして……何が楽しいのさ! ボクはお前たちなんかにぜっっっったいに負けないからなっ! 」
「ちょっと黙れや」
ところが、ユキノはその勢いをすぐにへし折った。
彼女の言葉なんかに一瞬たりとも耳を貸さず、ふわふわの毛に覆われた片方の腕を両手で掴んで、
「さっきからうるせーんだよ、このクソ鳥女が!」
……押さえつけていたハーピーの羽を思い切り捻じった。
ぱきり、ともつかない軽い音がした。
「っっ、ぎゃああああああああッ!?」
「……!! ぴ、ピナちゃん!? い、いやああぁぁ! やめて! やめてぇぇッ!」
その見た目からは到底想像できない、不快な声がハーピーの小さな口から広場に絞り出されてきた。
それを間近で見せられていたキュクロプスのヒロインが悲痛な声を上げた。
広場にいる沢山の見物人から戸惑いの声が届く。
ラーベ社の奴らが愉快にげらげら笑った。
――この、クソ野郎ども。
今、久々に自分の中で怒りが形作られていくのを感じた。
この世界に来るまで麻痺してしまった心が火であぶられて熱くなっていくようだった。
そのヒロインがどんな奴なのかは知る余地もない。
だがあんなミコと同じぐらいの子が、なんでここまで酷いことをされなきゃいけないんだ?
俺の胸の中で、けっして言葉では表せない怒りがじわじわ湧き出てくる。
「おー、鳥の羽って簡単に脱臼するなあ。ほら、これに懲りたら俺たちにナメた真似するんじゃねえぞ? クソ鳥が」
「う……っ、うう……ぼ、ぼくの……羽がぁぁ……!」
羽を折られたその子はさすがに強気を保っていられるわけもなく、裏返った声で悲鳴を上げ始める。
「うるせえんだよ少し黙れ! 汚らしい鳥の分際で人間さまに逆らうんじゃねえ!」
だ が、すかさずそこへユキノの膝がハーピーの女の子の平べったいお腹へと叩き込まれた。
「おっ……ごぉ……っっ!? げぇ……っ!」
「いいかクソ鳥? これ以上喋ったら今度はもう片方をやっちまうからな。3度目はその眼をくりぬいて鳥の餌にしてやる。わかったら黙ってろ」
「やめ……て。もう、やめて……! お願い、します……、ピナちゃんにひどいこと、しないで……、わたしの友達をもう、傷つけないで……ッ!!」
「おめーも黙れや。黙らねえとこいつにペナルティだぞ」
「……っっ!!」
思わず武器を抜いてそいつをぶちのめしてやろうと思った。
やめろ!と叫んで掴みかかって強引にでも止めてやろうとも思った。
でも、まだ冷静な俺はユーフィーンの隣でじっと攻撃のチャンスを伺っている。
やり場のない怒りが腹の奥から次々こみ上げてくるが、抑えた。
「いいかぁ! 良く聞けェ! 近頃ここで俺たちに歯向かおうとするやつらがいるそうだが、俺たちがその気になればこんな街なんざ三日もしないうちにぶっ壊せるってことを良く頭に叩き込んでおけ! お前たちは俺達によって生かされてることを忘れるんじゃねえぞ! このトリ女みたいになりたくなきゃ黙って俺たちに貢ぎ続けやがれ!」
ユキノが広場にいる人々へと大声で叫ぶ。
その内容はかみ砕けばとても下らないものだった。
でも荒っぽい調子でずっしり響くような低音の声は誰かを脅すには十分すぎるだろう。
周囲にいた人間の列がどよめくと、銀髪の男は満足したように引っ込んだ。
「さて、さて」
するとユーフィーンが俺から離れていった。
此方に背を向けると悪趣味な杖をくるくると回しながら、
「やあ、君はえらいねえ、友達が困ってたからちゃんと助けに入った……。そういう態度は実にいいと思いますよ。とても感動してしまって、本当だったら君のお友達と一緒に逃げしてあげるつもりでした」
羽を折られたハーピーの下へと近づいていく。
その後ろ姿を見送っている間にも周りの奴らはもちろん、ユキノもこっちに注意を払っている。
下手に動けば、こいつらは一斉に俺を殺しに来るだろうと思う。
「それで、君の名前は? 殺す前に聞いておきたいんです」
片方の羽があらぬ方向を向いているハーピーの前で、あいつはしゃがんで顔の位置を合わせていく。
きっと、今の表情はニッコリと笑っているに違いない。
その言葉に対して、
「…………お前……なんかに、負けないぞ……!」
ハーピーの女の子の口からそんなセリフが聞こえてきた。
目の前でそういわれた胡散臭い眼鏡の男は「そうかそうか」とゆっくりと立ち上がっていく。
「ああ、うん……うん……とっても威勢があって……勇気のある鳥ちゃんですねえ」
そして一度だけくるりとこちらを向いた。
特別に俺だけに見せつけるように、目だけが笑っていない笑顔を浮かべていて。
「……それだけか!?」
振り向いた。
同時に、杖でハーピーの頭を殴った。叩いた。また殴った。
「あ、がっ!?」
「何が! 許さない! だっ! このっ! ボケがッ! 」
「いっ!! ぎぃぃ!」
「別にお前が邪魔しようがいい! でも! 俺はイチさんと話してたの! それを! 邪魔するなんて! お前は! どんだけっ! 常識がないんだっ!」
――やめてくれ。頼む、もうやめろ!!
喉の奥から声が出かける。
が、周りの奴らは俺に「黙れ」睨みを効かせてきて、声を出すどころか指先一本も動かせなかった。
「二度とっ! 邪魔っ! するなってっ! いってるでしょうがっ!!」
「…ぐっ…う……、あっ……い……ぎぃ……」
ハーピーの少女が杖で何度も何度も頭をぼこぼこ殴られ続けていく。
押さえつけていた男が思わず手放して地面に転がっても、怒り狂ったユーフィーンはしつこく、滅茶苦茶な言葉を浴びせかけながらひたすら叩き続けた。
「……はあ、はあ……。まあ、私からは以上です。おわりっ」
けれどもそれはすぐに終わった。
地面の上に倒れたヒロインの頭からじわじわと血が流れて広がり始めて、そこで落ち着いたのか杖を投げ捨てていく。
「うっわ~……さすがユーフィーンさん、えぐいことしやがるぜ」
「ユーフィーンさん! そいつ殺しちゃったんですかい?」
「あっはっはっは、まあ私は兄さんと比べてそんなに力ありませんし? まだ生きてるんじゃないですかね? ってことでそこら辺に捨てといてください」
「うぃーっす」
ユーフィーンが「ふう」と満足したように汗をぬぐいながらこっちに戻ってきた。
後ろで取り巻きがぐったりと動かなくなったハーピーを広場の群衆の中へと雑に投げ込んでいく。
「あ……!あ……!嘘……、うそでしょ……ピナちゃん……、ピナちゃん……あ、ああああああああ!?」
「あー……そこのさっきからうるさい一つ目の子も一緒に。もうぶっ壊れてるからいらないです。あとキモいし」
「うぃーっす!」
そんな様子を見て呆然と力なく崩れ落ちていた一つ目のヒロインも引きずられて行って、その後に続くように放り込まれる。
周囲のざわめきが強くなっていく。
同時に街のあちこちから聞こえていた喧騒が引っ込み始めていくのを感じた。
「さあさあ、後は……その妖精さんだけですね。私がやるにはちょっと可愛すぎるので……どうぞ、あなたがやってください」
するとユーフィーンは、最後に残っていた妖精に目をつけ始めた。
スッキリした笑顔の先には先ほどからずっと、小さな彼女を大事そうに掴んでいた男がいる。
「お、俺ですかい?」
「そうです。さあどうぞ!」
まずい。
男が僅かにうろたえるものの、すぐにニヤっと下衆な笑みを浮かべて妖精へと矛先を向けた。
「――――!!? ……!! ……!?」
悲惨なリンチを無理やりに見せつけられていた彼女は今までずっと泣いていたんだろう。
真っ赤な目から更に涙を絞り出して、首を必死に振って、じたばたしながら逃げようとしていた。
その声は聞こえない。
でも一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女は俺に向けて「助けて」というような視線を送ってきた気がする。
「私が満足するように痛めつけてくれたら報酬を上げますよ! 2000メルタでどうでしょう?」
「おっ……おお! やりますやります! やらせてください!」
クズ野郎が腰から吊るしていた革袋の中に妖精を頭から無理やり放り込んだ。
彼女はそれでも何とか逃げようとしたが、結局、押し込まれてきゅっと袋の口が閉じられてしまった。
中でもまだ抵抗しているようで、手や足の動きに合わせてまるで何かの生き物みたいに袋がぐねぐね動いている。
「ひゃははははっ! このチビちゃんは~……こうだぜ!」
金に目がくらんだ男はあの妖精を閉じ込めた袋を掴んで、俺たちに見せつけるように持ち上げる。
そして、勢いをつけて。
「ぐちゃぐちゃになるまで混ぜてやるぜぇっ!」
「うひゃひゃひゃ! ひでえことしやがるぜあいつ!」
「ミンチになるまで良く混ぜろよぉ!」
「もっと早くやれ! おせーぞお前! ぎゃははははっ!」
革袋を滅茶苦茶に振り始めた。
容赦のない動きであらゆる方向に向けて振りまくり、それを見ていた仲間がもっとやれと促す。
「……お前ら……っ!」
「うわーすっごい混ぜてますねえ。イチさん、ああいうのみると興奮しません? 中でぐっちゃぐちゃになるんですよ? ぐっちゃぐちゃに」
この……クソ野郎ども!
呼吸を忘れるほど、全身が鉄みたいに強張るほど、心臓が質の良い怒りで満杯になっていく。
ずっと行き場が分からなかった怒りが心臓から全身へ行き渡っていく。
俺は今、怒っている。
小さなハーピーの女の子たちが、妖精のあの子が、目の前で傷つけられて怒っているんだ。
「……! …!? …! …!」
袋を上に、横に、下に、滅茶苦茶に振り回されると袋の中で妖精の動きが鈍っていくのが分かる。
逃げようと必死に動いていた身体が動かなくなって、男が腕を止める頃にはほぼ動かなくなっていた。
「さーて……おチビちゃん、具合はどうかな~?」
振り回されていた袋が止まると袋の口が開けられた。
だが、それでも彼女はまだ意識があったようだ。
中で散々振り回された妖精は青ざめて苦しそうな表情で、自力で這いあがってきたのだ。
「おーおー、耐えたか。……でもそういう顔はムカつくんだよなあッ!」
何とか上半身まで袋の外で出せたところで、薄い水晶のような羽を広げて逃げようとしたのが見えた。
だがそんなこともお構いなしに、報酬のために小さな彼女の頭を指で思い切りはじく。
ばちんと小気味いい音が響いた。
「……ッ!」
額をやられた妖精がぐらっと袋の中にずり落ちそうになった。
目もどこを向いているのか分からないほどもうろうとしていて、相当のダメージがだったのが分かる。
それでもだ、彼女はまだ、しがみついている。
「おっ……おお……っ、いい、すごく、いい……ふ~~~~……っ!」
その様子を見ていたユーフィーンがぶるるっ、と身震いしたように見えた。
この悪趣味な男はゾクゾクしているのだ。
誰が見ても異様な姿のまま、妖精をいたぶっていた男にそいつは近づいていって、
「ああ……おお……妖精って結構頑丈なんですねえ! よしよしよしよしすっごく…………良し! なんだか私もやってみたくなりましたし私と変わってもらいましょう。約束通り2000メルタ、きっちり差し上げますので大事に使ってくださいね?」
興奮で早口に褒めたたえつつ、手にしていた獲物をひったくってしまった。
それから金貨を二枚取り出して、貯金箱に硬貨を落とすように男の服の中へと放り込んでいった。
「おほっ……そんなに!?」
「ええ、あなたの働きへの正当な報酬ということで」
男は顔をゆるめてにっこりと笑った。
この悪趣味なギルドマスターのそれと同じように不愉快な笑みだ。
「あざっす! 大事に使います! えへへへへへへへへ!」
報酬を手に入れた奴は大事そうに服の上から金貨を抑えながら俺に向かって、
「おい見たかお前!? 2000メルタも貰っちゃったぜ! うらやましいだろ!?」
と一言残して通り過ぎていった。
今度はユーフィーンの番だ。
「……こういう可哀そうな子を見ると、殺して楽にしてあげたくなりますよね?」
袋ごと掴まれた妖精の上半身が指で強引に戻されていく。
もう彼女には抵抗する力が残ってないんだろう。
中に捻じりこまれて、それでも片腕が必死に出口を掴んで、けれどもそれすら押し込まれてしまい。
「……もうやめろッ!! ユーフィーン!!」
もう、我慢の限界だ。
俺は腰から散弾銃を引き抜いて、好き放題やっているクソ野郎どもへと構えた。
「んん……んーーー? なんでしょうか?」
肝心の俺の倒すべき相手は――かくんと首を傾けた。
それと同時に周りの取り巻きたちが一斉に身構えて、
「おおっと! こいつ、やっと本性を現したみたいだぜ!」
「ひひっ! おせーんだよ馬鹿が! 手遅れなんだよぉ!」
その隣でユキノが「やっとか」といわんばかりに俺を睨みつける。
あいつはこれすら想定していたってことか。
どこまでも気に食わない野郎だ、本当に。
人質を取られたときに向けちゃいけないものリスト。
大砲
散弾銃(特に銃身を切り詰めたもの)
手榴弾などの爆発物
善意と容赦
指




