*43* ただいま加速中!
オークの騎馬兵たちは走りながら戦っていた。
その手に握った斧や槍できっと誰かを屠ったんだろうか。
馬の走る音よりも喧しい豚の雄叫びが一斉に向こうで上がると、オークたちを乗せた茶色い馬が足を速めていく。
対して追われる二匹の馬はへばっていた。
金髪の男が走らせる馬に追いついたオークたちが武器を向けて迫る。
左右から伸びた槍が男を刺そうとする。
でも外れた。
男が背負っていた大剣を一瞬で振り抜くと同時に、左から右へと振って槍の軌道を逸らしたのだ。
そこへ前を走っていた白い女の騎士が馬上で上半身を逸らして、銀色の細剣を後ろに向けた。
『――、――!』
拡大された視界の中でぱくぱくと彼女が口を動かせば、細剣の先端に魔力の青い光が集まる。
そしてそれは形を変えながら射出。
さながら純白の矢のような形状と色に変わった魔力の塊がオークの騎兵に飛んでいく。
あれは魔力の矢だ。
槍を捨てて予備の剣で金髪の男の脇腹を掻っ捌こうとしていた騎兵の身体が馬上から吹き飛んだ。
すかさず男が大剣を軽々と片手で翻し、もう一体のオークを横に薙いで馬上から弾いてしまう。
オークたちはまだ彼らを追い続けている。
縦列を作って二人を追いかける騎兵の塊の中で――その風貌には見合わない銀色の兜を被っている奴を見つけた。
白金で作られた羽飾りつきの兜だ。
額に真っ赤な返り血がこびりついていて、どうやら拾い物のようだった
そして他のオークたちがリーチの長い槍や戦斧を持っているのにも関わらず、そいつだけ刀身が深い海のような色の長剣を握っている。
ミスリル製の剣だ。恐らく略奪でもして"戦利品"を着飾っているに違いない。
着実にこっちに向かって近づきつつあるそれを見て、俺はケッテンクラートの裏に身を屈めながら。
「サンディ、偉そうなやつを狙え! 列の"首"あたりにいる奴!」
後部座席に小銃を乗せて構えている相棒に指示を飛ばした。
こういう時はサンディの出番だ。
「ふあ……」
返事がわりの可愛らしい欠伸が始まった。
双眼鏡の中に捉えた派手な格好のオークが剣を持ち上げると、それに応じて残った騎兵が二手に分かれようとする。
*ダンッ!*
そこへいきなり308口径の強烈な破裂の音がこの世界に響き渡っていく。
多分、この世界に初めて響き渡るであろう野太い銃声だった。
視界の中で此方に走っていたオークの頭が後ろに弾けた。
驚いた。初弾からの脳天直撃だ。
背中からオークがずり落ちていって、自由になった馬は何処かへ行ってしまった。
【XP+400】
見慣れた形式で経験値が入ってきた。
そいつが死んでやはり正解だったみたいだ。
恐らくリーダー格だったに違いない奴を殺されて、今まさに散開しようとしていたオークたちの動きに戸惑いが生まれる。
その隙に二人の騎士はオークたちをうまく引き離して、どんどんこっちに近づいてくる。
「よし、いいぞサンディ。リーダーの頭に命中した。残り七匹。一番前にいる奴をぶち抜け」
「……つか、まえた」
片手でぽんとサンディの背中をさすると、ボルトを動かして次弾の装填が始まった。
空になった薬莢がケッテンクラートの上にころんと落ちる。
「……よし、びびらせてやれ」
そして浅い一呼吸のあと――小銃から強烈な銃声が響く。
*ダンッ!*
焦りを生じ始めたオーク騎兵達の一番先頭にいた奴が腹をぶち抜かれた。
「ぶ」と「ぎ」と「い」で組み合わされた甲高い豚の悲鳴が聞こえた。
声と血と肉を撒き散らし終えると、苦しそうに痙攣しながら馬からそいつが転がり落ちていく。
「よくやった。肺の下に命中」
それだけやられればもう効果は十分だ。
突然苦しみながら落馬した仲間を見てオークたちが明らかに戸惑い始める。
「あいつら助かったみたいだな。射撃中止」
「……らく、しょう」
しかしやつらの前進は止まらない。
落伍者を避けようともせず、腹を貫かれた仲間を踏み潰しながら進み続ける。
間もなく【XP+150】と表示された。
距離をすっかり離されたものの、あの騎士達をまだまだしつこく追いかけるつもりだ。
「あとは俺が指示するか、危険な時以外まで撃つな」
「……あい」
俺はサンディの背中をもう一度撫でてから立ち上がった。
かちゃりとボルトを引いて薬莢がはじき出される音がした。
そこへちょうど良く、金と銀の騎士が石橋の上に飛び込んできて、
「助けてくれたのは貴方たちですか!?」
銀色の髪の女性――多分20代にも満たないであろう見てくれの、とても戦いには向いていなさそうなほど可憐な騎士が馬を停めて問いかけてきた。
そのあとに続くように、今度は金髪の髪の男が大剣を担ぎながらゆっくり近づいてきて、
「た、助かった……! まさか君たちがやってくれたのかい?」
親しさを感じるような落ち着いた口調で、敵意が無いとばかりにこっちに片手を挙げた。
うっすら髭をたくわえて軽いウェーブの掛かった金髪の男性だ。
年齢は恐らく30代ほどかもしれない。
後ろ髪をゆるく結んでいて、血の気が失せ始めている顔立ちは端正なものだった。
「ああそうだ。それより大丈夫か? 腕が真っ赤だぞあんた」
「あ、ああ……ありがとう、助かったよ。う、腕は……感覚がないかな……はは」
良く見ると篭手の関節部分から血がどろどろとこぼれている。
興奮した白馬の鬣が綺麗に赤く染まって、恐ろしい未知の化け物のようにも見えた。
「大丈夫ですか、おじさん!? 腕から血が……!」
「は、はは……ちょーっと今回ばかりはおじさん死ぬかと思ったよ。今日はラッキーだね」
「もうこれ以上は無茶しないでください! すぐ魔法で治しますから!」
「わ、分かったよ……なんか血が少なくなってきて、おじさんそろそろ墓にぶち込まれちゃいそう……」
この二人はプレイヤーとヒロインなんだろうか?
……いや、それを確認するのは後回しだ。
今は残った奴らをどうにかしなければいけない。
「あとは俺達に任せろ! ここから下がって早く回復してやれ!」
自動小銃の照準を近距離に調整しながら二人にそう言った。
すると何故か二人が驚いたような目つきで俺の両手を見てくる。
「すまない! 恩に着るよ……って銃!?」
「じゅ、銃!? このゲームって銃なんてありましたか!? クロスボウぐらいしかなかったような……」
「あ、あれー? モンスターガールズオンラインじゃ銃は出さないってGMの座談会で言ってたよね……しかもなんかやたら近代的だし……」
二人の驚きでいっぱいの視線の先にあるのは――俺の作った自動小銃だ。
……そう言えばモンスターガールズオンラインだと色々な武器はあれど銃だけは無かった。
「別の世界から持ってきたんだよ、んなことどうでもいいから早く後ろに下がって回復してやれ! そいつが失血死してもいいのか!?」
相手の言葉からしてここは間違いなくお目当ての世界だと思ってもいいらしい。
とはいえ反応を見るからに、どうやらこの世界にとても場違いなものを持ち込んでしまったようだ。
「わ、わかりました! おじさん、早く馬から下りて治療しますよ!」
「はは……なんかおじさん意識が朦朧としてきたかも……」
さっさといけとばかりに親指で後ろ側を差すと二人はその場から下がっていく。
「迎撃するぞ! 」
そうしている内に石橋の近くにまでオークたちが一気に迫ってきた。
統率が取れなくなってから自暴自棄になったんだろうか。
さっきよりも明らかに勢いを増したオークの騎兵集団が、一つの塊となって一斉にこっちに向かって走ってくる。
『ウウオオオオアアアアアアアアアアアーーーッ!』
脳みそまで筋肉にやられてしまったようなひどい豚の声がした。
馬上で構えた武器、殺気立った目つき、馬の頭が向かう先は――しとめ損ねた二人の騎士じゃなく俺そのものに向けられている。
面白い。受けて立ってやる。
俺はセレクターを押して"連射"から"単射"に切り替えて、先頭にいる奴に目掛けてピープサイトで狙いを定めようとした。
――そこでふと思い出した。
そういえばついさっき、昼食ついでにPDAで新しい称号を手に入れたんだった。
『RAAAGE!』とかいう称号だ。
説明文で唯一理解できた事は『無茶苦茶強くなる』と『怒りすぎは良くない』ぐらいだけど、何か戦闘の手助けになるに違いない。
『Eeeesubutowarutayyyyyyyy!』
着々とオークの騎兵集団が騒々しい音を立てて近づいてくる。
PDAを咄嗟に取り出してステータス画面に浮かぶ歯車のアイコンを見た。
緑色の歯車がマイペースにぐるぐると回っている。
それを見ていると不思議なことにそいつの使い方が分かってきた。
画面をタッチ。指先で弾くように歯車を擦りあげると激しい勢いで回転を始めていく。
緑色は段々と血のような色に染まって、画面の中でパンクな吹き出しを使って俺にこう告げる。
『加速開始!』
歯車は凄まじい回転を少しだけ見せた直後、急にゆっくりとした動きに変わった。
なんだろう、頭の中が少しびりびりする。
それになんだか身体が急に軽くなってきた。
目の奥で静電気でも起きたようなぴりっとした痛みが一瞬走ったと思うと、ぴりっとした痛みに驚いてPDAを手放してしまった。
ところが……PDAはゆっくりと落ちていく。
まるでスローモーション映像を再生するように、長方形のPDAがのろのろと地面に向かっていく。
腕を伸ばそうとするだけで、まるで重力の制約を普段の半分は免除されているみたいに"軽く"感じる。
それになんだか、心臓が物凄く動いている感覚がする。
血液が凄まじい勢いで体内を循環しているような、体中が熱いような……。
一体何が起きているのか分からない。
どうであれこんな時に起動するんじゃなかった。
舌打ちを起こそうとしても舌がうまく動かない。
自動小銃を構えなおそうとすると、そこで俺はようやく異変に気づいた。
オークの騎兵集団がゆっくりと走っている。
馬の足の挙動が一本一本、事細かに伺えるほどゆっくりと。
雄叫びを上げるオークたちの口の動きまではっきり分かるほどゆっくりと。
そいつらが起こす土煙すら、再生スピードを四分の一以下に落としてしまった映像のごとく――緩やかに動いていた。
振り返ると二人の騎士の姿が見えた。
銀髪の騎士が回復の魔法を発動して、マナの光の筋が目で追えるほど遅い動きで金髪の男の腕を包み込み始めている。
治療を受けている男は驚愕した顔を作りながら、俺の後ろに向けて恐ろしいほど遅い動きで指先を持ち上げつつあった。
もう一度振り返るとサンディがこくり……と徐々に首を傾げる姿が目に付いた。
まさか――。
オークたちに向かって一歩踏み締めると異様に軽く感じる足がすいすい進んだ。
もう一歩を踏むと更に早く。もっと早く。まだまだ早く!!
どんどんどんどん距離が縮まる。
相手はゆっくり動いていた。
それは老人がよたよた歩く程度の速度で、反対に身軽に動ける俺はあっという間にすぐ目の前まで近づいてしまった。
時間がゆっくりと流れているんじゃない。
時間をゆっくりと受け取っているのだ。
全ての神経がフル稼働して、流れる時間を一秒ずつ入念に噛み締めている。
一秒をぐちゃぐちゃに噛み潰して、0.1秒を少しずつ味わうように。
そんな中だというのに、気持ちが悪いぐらい身体が早く動くのだ。
銃を構えた。
照準を先頭のオークの頭に向けて引き金を引いた。
自動小銃から引き伸ばされたような軽い銃声がした。
直後、反動が緩やかな波を打つように肩から腰の奥まで広がっていく。
がこんと音を立てて露出したボルトが後退する。弾き出される小さな空薬莢の姿も見えた。
粗末な照準器の中で、一発の銃弾を叩き込まれたオークの頭に穴が空く。
間違いない。周囲がゆっくり動いている。
次のオークの頭に自動小銃を構えて引き金を引いて撃つ。
反動がのろのろと伝わったあと、そいつの眉間をぶち抜いた。
こっちに突っ込んでくる馬を避けて、左右のオークの頭を狙って撃つ。
頭を射抜かれて仰け反る姿がはっきり見える。
正面にいる奴に向けて引き金を二度引く。
一発が喉に当たって、もう一発が心臓に当たって馬からずり落ち始める。
馬を避けて更に踏み込むとラスト一匹となったオーク騎兵と鉢合わせた。
俺は自動小銃を右手で握ったまま、左手でジャンプスーツのホルダーからナイフを抜く。
半身を右に捻って勢いをつけてオークの喉を狙って投げた。
ナイフが指の間を離れて、横にぐるりと回転をしながら空気を切り裂いて――
【XP+900】
【射撃スキル5増加】
――そこで空気が変わった。
『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaug!?』
目の前にいたオークが急に喉を押さえて馬から転がり落ちていく。
馬達の駆け出す音がどっと聞こえてきて、石橋を砕いてしまいそうなほどの振動がいきなり全身に伝わって転びそうになった。
そこへ主を失った茶色い馬が眼前まで迫ってきた。
慌てて後ろにステップを踏んで距離を離すと、それは暴走気味に目の前を過ぎっていく。
橋の上に残っていたのは無数の馬蹄の跡と、馬に置いていかれたオーク達の新鮮な死体だけだった。
「……いまの、すごい」
後ろからサンディの声がした。
小銃を担いだままとてとて俺に近づいてきて、『信じられない』といいたそうな様子を漂わせている。
その声を聞いた途端に力が抜けた。なんだか腹も減った。
それ以前に全身から力が余分に抜けて膝が完全に笑ってしまっている。ダメだもう立てない。
大人しくその場で尻餅をついた。ごつごつして尻が痛い。
「……い、いまのどうだった?」
近づいてくるサンディに思わず尋ねてしまった。
相手は返答の前に俺が投げ捨てたPDAを手渡してきて。
「……すごい、はやさ……いっしゅん、だった」
「……そ、そうか……」
一体どうしてこうなったのかはわからないけれども、胸に手を当てて興奮を抑えながらなんとかそう答えた。
サンディには俺が滅茶苦茶早く動いていたように見えたんだろうか。
ともあれこれで【RAAAAGE!】の効果が分かった。
一体どういう仕組みなのかは置いといて、身体の動きを加速させて、更に時間の流れを劇的に遅く感じ取らせる力があるみたいだ。
「はっ……腹減った」
ただ……滅茶苦茶疲れる。
さっき昼飯を食べたはずなのに物凄く腹が減っていて力が出ない。
「……イチ、だいじょうぶ?」
「ごめんちょっと……力が抜けて動けない。足が立たない。マジもう無理」
べたりと座ったままの俺にサンディが心配そうに顔を除きこんできた。
ふくらはぎは変に強張ってぴくぴくと痙攣しているし、腰に力が入らなくて気を抜けば身体が横に他おrそうだった。
「……むふーっ」
そんな俺を見て一体何を思いついたのか。
サンディは両手を広げて、下乳が一杯に溢れる胸を見せつけながら迫ってくる。
マスク越しに意地悪そうに口元を綻ばせてどんどん近づいてきて。
「……きゅうけい、する?」
「おい、なんだその構え」
「……くす。わたしが、まくら……」
「やめろォ! せめて肩貸す程度にしてくれよ!?」
今にもこっちを押し倒そうとするサンディから身を守っていると、
「あー……君たち?」
横から少し申し訳なさそうな声が割り込んでくる。
二人で一緒に振り向くと、そこにはすっかり顔色の良くなった金髪の騎士が苦笑していた。
その隣で呆れたようにこっちを見る銀髪の少女も見えた。どうやら二人とも無事みたいだ。
「いちゃいちゃしているところ悪いけど、おじさんほんと助かったよ。本当にありがとう。あのままだったらおじさん串刺しになってたかもね」
「私からも……助けて頂いてありがとうございます。危うく封印されてしまうところでした。で、でもそういうふしだらな行為は人前でするようなものではないと思いますよ!?」
二人の騎士は深々と礼をする。
しかし何故だろう、そういう仲だと誤解されている。
「どういたしまして。ご忠告もどうも。それからそういう指摘はこいつに言ってやってくれ」
「……まくら、ぷれい?」
「……なんだか戦闘終わったあとなのに目の前で中々のプレイを始めてておじさんびっくりだよ。というかその子は君のヒロインかい? ヒロインにしちゃ身体つきは素晴らしいし胸でかすぎない? まあおじさん男の子の方が好きなんだけど」
金髪の騎士の脇腹に細剣の柄が叩き込まれた。割と本格的に苦しそうな声が上がった。
「あんた等はなんなんだ?」
「……私達は近くの魔法使いの街【クラングル】を拠点に活動しているギルドの者です。普段は街の守備に回っているのですが……ダンジョン攻略のために向かった仲間が戻らず、救出に向かったところオーク達が大群を率いて待ち伏せていて……」
「おっ……おじさんはギルドマスターで、うちの子がサブマスの……おおう……。相変らずうちの子のツッコミは痛いトコを的確に突くね、うちの子の優秀さにおじさん感無量だよ」
「おじさんが節操もなしにセクハラ発言をするから悪いんですよ! 大体ギルドの規模も拡大してると言うのにマスターがそれじゃ示しがつきませんからね!? この前は魔法学校の先生や生徒を口説こうとするし……!」
「あーはー、大丈夫だよイングリッド。おじさんは男でもいけるからね! 今度は男の先生を狙うよ」
「……はぁ」
クラングルというと。
確か大きな時計塔がある街の名前だ。
魔法学校に魔法スキル屋に魔法道具屋と魔法に関する施設が山ほどある。
魔法なんて全く使わない俺には無縁な場所だったけど、ミコが好きな街だったから良く覚えている。
空飛ぶ箒を手に入れるためにムツキたちを連れてたった四人で魔法学校の地下に出現するボスを毎晩倒し続けたものだ。
結局箒は出なかったもののボスが落とした貴重な魔法スキル収得アイテムを売り捌いて買って――無事に空を飛べたミコは初飛行で、
『ご主人様にマニューバを見せてあげましょう!』
といってきりもみ回転しながら池に突っ込んだ記憶がある。
正直そんな街の名前を聞けてこの世界に来て早々ツイてると思った。
だって俺たちミコと一緒にその街を拠点にしていて、街の郊外に家を建てていたのだから。
「……そうか、クラングルが近いのか」
きっとPDAの地図もそこを示しているに違いない。
マーカーを辿った先にはミコ達がいるんだろうか?
「……あの、そういえば見慣れない格好をしていますけど……プレイヤーの方ですか?」
「俺はプレイヤーだよ。訳あって別の世界から来てしまったみたいだけど」
「別の……世界ですか?」
イングリッドと呼ばれた銀髪の騎士に問われると、ようやく立ち上がることができた。
俺は自動小銃を担ぎながら近くにあったオークの死体を調べた。
獣臭さを腐らせたような酷い臭いだ。
「ああ、気にしないでくれ。サンディ、お楽しみタイムだ。使えそうなものはどんどん剥ぎ取れ」
「……うぇい」
「なんだその返事」
「えっ……あ、あのー?」
鉄製の武具に緑色のポーションの小瓶、金貨や銀貨の入った皮袋があった。
倒したのは俺達だし遠慮なく頂いていく。
「……すごく、くさい」
「確かに。おっ、こいつらオークのくせに結構金もってるな。ミスリル・ロングソードなんてもってるぞ」
こいつらは本当に色々なものをもっているみたいだ。
鉱石に薬草の束に予備の武器から金属のインゴットまで……豚がネギを背負ってやってきた、とでもいうべきか。
しかもミスリル製の剣もあった。
「……みす、りる?」
「すごい金属のことだよ。ミスリルで作った武具は性能も良くて魔法で強化できて高値で取引されてる。へへへ、こいつは大当たり」
ゲームの中だと加工にかなりの鍛冶や製錬のスキルが必要で、希少な鉱石をかなり集めないといけないことから『強いけどロマン』な武器の素材だった。
武器ですら消耗するゲームゆえにその強みはあまり生かされなかったものの、ここぞという時や廃人自慢をするときには欠かせないものだ。
「……なんだけどな。なんだこれ、軽すぎないか?」
しかし実際に持ってみると……思ったよりも軽い。
この軽さじゃこいつで敵の頭をぶっ叩き割る、という感じの使い方は出来なさそうに感じた。
まあ剣は置いといて、橋の上に転がったオークたちから思うがままに物色していると、
「えーと……お二人さん、楽しそうなところほんとーに申し訳ないんだけどいいかな」
金髪の男がまたばつの悪い様子で割り込んできた。
「なんだ?」
「良かったら名前を教えてくれないかなー? おじさんはリク、こっちの子はおじさんのヒロインのイングリッド」
「あっ……私はイングリッドと申します。おじさんと一緒にギルド【フィデリテ騎士団】を指揮してます」
やっぱりプレイヤーとヒロインだったか。
自己紹介をしてきたリクに続いて、イングリッドというヒロインが遅れてぺこりと頭を下げてきた。
ヒロインの方はよく見ると耳が横に尖っていた――少なくとも人間じゃないのは確かだ。
「ああ……俺は112(イチイチニ)。こいつはサンディって言う俺の相棒、最高の狙撃手だ」
お金の入った皮袋に鞘ごと頂いた片手剣、雑多なものを両手一杯に抱えながら名乗った。
「……どやぁ」
サンディはオーク達が持っていた槍を両手にそれぞれもって何故か得意げな顔を浮かべている。
身体つきはともかく槍を持っている姿も意外と様になってた。。
でもはたからみれば野蛮人二人が殺したオークから略奪している光景にしか見えないだろうと思う。
「イチイチニ……!?」
「イチイチニ……確かその名前って……」
「ああ……。おじさん良く知ってるよ」
ケッテンクラートに集めたものを運ぼうとするとリクが驚きの声を上げていた。
その反応を見て「まさか」と思った。
「……まさか俺を知ってるのか?」
もしかしたらこいつは俺の名前を知っているんじゃないんだろうか?
正直そういった反応のされ方は今一番嬉しかった。
やっと"同郷"に会えて話ができるのだから、これほど嬉しい話なんてそうそう――
「知ってるとも! おじさんたち何度か君を見たよ! バニースーツをきた小さな女の子が大好物で、各地で漫才やってたあの人だったのか!! こんなところで会えるなんておじさん光栄だよ!」
……。
バニースーツと結びつけられていた。
「どんな記憶のされ方してるんだよオイ!? バニースーツで覚えられてるんだけど!? つーかなんか余計なの付け足されてんぞ!?」
「……うわあ。バニースーツで小さな子って……変態だったんですね。なんて業の深い……」
あの野郎、再開したらしばいてやる。
◇




