*32* 残った部品は責任をもって処分しました
ああクソ、酷いありさまだ。
俺はその辺りに散らかされたものを取り返して、無人になったガレージの中で荷物を整理していた。
あの盗賊どもが乱暴に剥ぎ取ろうとしてくれたおかげで服がぼろぼろだ。
酷いところだと胸や腰の部分に穴が空いて素肌が丸見えな状態だ。
ともかく、ケッテンクラートがバッテリーを引っこ抜かれた程度で済んだのが唯一の奇跡か。
「ちくしょう、あの野蛮人どもめ! 滅茶苦茶にしやがって……!」
ともあれこれで全員死んだ。そして物資が戻った。それだけでも幸せなほうだ。
ただ一つだけ例外があるとすれば――。
「……じー」
作業台の上に荷物を乗せて点検していると、後ろから突き刺さるような視線がやってくる。
狙撃手のような瞳が……いや、本当に狙撃手そのものの瞳が背中に刺さっている。
「……あの、ちょっとこっち見るのやめてくれないか?」
「……なん、で?」
「気が散る」
不安になって振り返ってみれば、そこにいるのは褐色の少女。
下から見ていけばまず黒いニーハイブーツに覆われた足が見。
ブーツの上を目で追えば、むっちりとした質感の太腿の上に白い下着が一枚。
程よく引き締まった腰は(へそ)まで丸見えで、極めつけはもういつ見ても変わらない姿を見せてくれる包帯でぐるっと巻かれた巨大な胸。
「……じー」
「……はあ」
そして顔は黒いマスクで口元だけを隠していて、ぼさっとしていた黒い髪は自分で切ったのか前より短くなっていた。
そんな彼女は今、タイヤを外されたままそこに残されていたトラックに寄りかかっている。
錆びた銃身が目立って、取り付けられたスコープもヒビが入っているようなボロボロの猟銃をしっかり持っていた。
「お前、なんでここにいるんだ?」
「……ついて、きた」
「ついてきたって……」
そいつは良く知っている人物だ。
サーチの町で助けて、去ろうとした際についてこようとしたあの胸のでかい褐色肌の少女だ。
そのサンディに今度は助けられた。
盗賊どもの頭を七人もぶち抜いて、殆ど一人で壊滅させた。
正直なところ自分が酷い目にあったことよりもよっぽどショッキングな出来事だった。
「……あぶな、かった。もう少しで、死んでた」
そいつの視線と、ぼそりと出てきた言葉を背中で受けながら荷物をバックパックに詰めた。
ああなんてことだ、携帯食料が殆ど食われてる。水筒もごっそり減っていた。
これから食料と水をどうするか考えていると。
「……イチ、一人も倒せなかった」
貴重な食料が減っていることに嘆くより早く、またサンディの言葉が来る。
こいつは俺が一人も倒せなかったって言うのか?
バカ言うな。あの時俺は近距離から45口径の弾をたっぷり浴びせてやった。
「何言ってんだよ。一人ぐらいはやれたぞ。見てなかったのか?」
「……むう」
振り返る気はない。
作業台に置いたバックパックを退かしながらそう言ってやった。
不満を示すような声がしたと思ったら後ろで靴底がこつこつと硬い地面を叩く音がした。
外に出て行ったらしい。
「……はぁ、ここに来てからハプニングだらけだな」
とにかくだ。
武器は無事。弾がちゃんとある。チップも道具も残ってる。
水は飲まれて食料も食われた。そしてジャンプスーツに穴が空いた。
ケッテンクラートと燃料が手付かずだったのが幸いだ。
あとは盗賊たちの持っていた武器と弾薬と、このガレージに残されていたパーツの山に、修理を諦めてぶん投げられたトラックと作業台ぐらいか。
あいつらが持っていた銃はこのガレージの中に根こそぎかき集めた。
そこにまともに使える銃はなかった。
厳密に言えば弾は出る、その気になれば離れた相手をぶち抜ける、けれども常に弾詰まりか暴発の危険性が付き纏っている。
とはいえ分解してパーツと金属、あと弾薬を取れるぐらいの価値はある。
「……見て、これ」
ガレージの片隅に山積みにした盗賊たちの銃を片っ端から作業台に乗せていると、実に嫌なタイミングであいつの声がした。
「あ?」
何だと思って振り返ってみると。
「……敵」
ごろんと何かが地に落ちた。
それはあれだった。小銃を持って俺を殺そうと突っ込んできた奴だ。
もっとも今じゃ生きちゃいない、つまり『元盗賊』だ。
「おい……なんてもん持ってくるんだお前は!? それ死体だぞ!?」
こいつはその死体をなんでわざわざ俺のところに持ってきたんだ?
人間だったものの腕を人形のように引っ張ってきた狙撃手の顔を見ると何故か得意げ。
まるで飼い主のためにネズミでも捕まえてきた猫だ。
飼い主が喜ぶと思って死体を持ってきても、貰った身からすればただ処分に困るだけである。
「……良く、みて?」
それ以前に怖かった。
あんな眠そうな顔とおぼつかない足取りの奴が、どうして平然と死体を持ってくるのか。
「……で、それがどうしたんだ?」
「……傷、みて?」
「傷?」
しかしサンディという褐色の猫は、別に捕らえた獲物のおすそ分けにきたわけじゃないようだ。
必要最低限の言葉と細くてしなやかな指先で、散々な目にあわせてくれた盗賊の一人の身体を示していて。
「……やっつ、けた」
負い紐でぶら下げていた小銃を腕ごと持ち上げる。
ああ、つまり俺にこう言いたいわけだ。
あれだけ至近距離から撃ったのに『お前の弾は一発も当たっちゃいない。』と。
バカなこと言いやがって。あの時俺はしっかりと撃ちまくってやったはずなのに。
「おいおい! こいつは俺がやったんだぞ? あの距離から撃ちまくったんだからちゃんと当たって――」
サンディは口元を覆ったマスク越しに『むふー』と自信の溢れた息を漏らしている。
無駄に得意げな様子にいらっときた、のに。
「……あー、デカい穴があいてるな」
よく見るとそれはぽっかりと左胸に穴が空いている。
45口径程度の銃弾じゃ到底できないようなサイズの着弾痕があった。
これは斜め後ろから何かに撃たれて、身体の前から弾丸が出て行ったような……。
「……当たって、ない」
「――ああ、当たってないと思う」
ぱっと調べた。良く分かった、俺の撃った弾は掠りもしていない。
綺麗に片方の胸だけをぶち抜かれてる以外に傷はついていない。
つまりこうだ。サンディが一人で全員片付けてしまったと。
「……私の、おかげ」
全て分かった途端にさーっと体から血の気が引いていった。
手足の傷が開いてそこから滲み出てしているほどに血は有り余ってるものの、深夜に心霊ホラー映画でも見たときみたいに背筋が冷たく感じる。
俺の射撃は一発も当たらなかったわけで、サンディがいなきゃ死んでいたってことだ。
「……はぁ。助けてくれてどうも」
「……むふー」
そんな下手糞な腕を持つ俺の背中で、恩人は大きな胸を抱きかかえながらじっと待っていた。
まるで今から再開する旅路に死ぬまでついていくといわんばかりだ。
「……なあ、この際どうやってついてきたかは置いといてだ。どうして俺についてきた?」
その様子を目にして、狙撃手に質問した。
「……あなたと、一緒にいたい」
すると偉くシンプルに、素早く返事が返ってきた。
その動機はともかく、この狙撃手の言葉を無視して置いてきたことは忘れちゃいない。
酷い事をいってしまえば役に立たないと思ったからだ。
あの時の俺はしつこくついてくる彼女をケッテンクラートの荷台に積むお荷物か何かと認識していたのは確かだ。
「俺なんかと?」
「……そう、だよ」
拒絶するにも関わらず、一体どうしてここまでついてきて、助けてくれたのか。
だけどサンディは『深くは語らぬ』といった様子で仲間になりたそうにしている。
今度は俺が助けられた。
助けて、助けられて、こうも信頼されてしまったらもはや断る理由なんてなかった。
「……サンディ。ついてくるか?」
負けた。こいつには勝てない。
ここでようやく俺は折れて、それからサンディの顔を見てそういった。
「……いく!」
やっと願いが叶ったとばかりにサンディの目が輝く。
声の調子も跳ね上がって、俺の言葉に強く応じてくれた。
「よろしくな、サンディ」
「……よろ、しく」
今日から二人の旅が始まる。
決して長い旅じゃないけど、一人で寂しい思いをしなくて済みそうだ。
そうと決まれば早速作業台に武器を乗せて、解体を済ませてしまおうと思うと。
【サンディが仲間になりました!】
視界の中にいきなり緑の文字が浮かんできた。
見慣れないメッセージだけど、これでサンディは正式に仲間になったみたいだ。
「よし、じゃあ早速準備だ。ちょっと待っててくれ」
「……わか、った」
それがちょっとだけ嬉しかったのはサンディにはいえない秘密だ。
じっと出発を持っている相棒を待たせて、さっさと【解体】を始めようとするものの――ホルスターにあった銃を見てふと思い立った。
「まずは武器作成のお時間だな」
「……武器?」
「ああ、武器だ。レパートリーがないもんでね」
武器だ。武器が必要だ。
これから先、奥へ進めば進むほど敵は強くなっていくはずだ。
だけど今の俺の手持ちの武器はあまり良い品揃えじゃない。
「……わたしの、つかう?」
「いや、いい。お前と違って俺は長物は慣れてないんだ」
ホルスターやホルダーに手を触れて一つずつ確認。
切り詰めた散弾銃、45口径のリボルバーが、鋭い投げナイフが数本、パイプボム。
改めてこうしてみてみると豊かじゃなかった。
これらは全て近距離で使うもので、小銃のように遠くを狙えたり短機関銃のように近距離をなぎ払えるものでもない。
「……散弾銃には助けられたな」
「……そーど、おふ?」
「ああ、貰いものだけど改造して使ってる。お気に入りだ」
この中で唯一決定打になるのは散弾銃だ。
相手が近づいてくれれば一発お見舞いしてやるだけで大抵はどうにかなる。
でもさっきの盗賊たちと交戦したときはどうだった?
ナイフは取られ、散弾銃は手元にない、45口径の拳銃は一発も当たらず。
おまけに敵は全て銃で武装していた。本当にサンディがいなければあのまま死んでいたところだ。
「よし、決めた。出発する前にちょっと武器を作らせてくれ」
つまり……もっと武器が必要だ。
幸いにも【製作】スキルが70もあるので色々な武器を作ることができる。
「……つく、れるの?」
「多分作れるさ」
まずはPDAのステータス画面を開いた。
STRが23。DEXが37。INTが26。この辺りはまだ変わっちゃいない。
その代わり【運転】が75まで上がってAGIが27も上がっている。
今のうちにボーナスポイントも振ってしまおう。
まずINTが増えて11もあるスキルポイントを全て【製作】にぶち込む。これでINTも1増えた。
そしていつものようにステータスはLUCKに全振り。LUCKが19になった。
称号もレベル5になってからまた色々増えている。
いよいよこのFallenOutlawならではの効果を持つ称号が幾つかあった。
自分より弱い動物や怪物が友好的になるという面白いものを筆頭に、【投擲】スキルの高さを生かして敵を掴んでぶん投げれるようになるもの、操縦している乗り物の性能を上げて速度も増加させるものなどなど。
どれもこれも中々の性能だったものの、その中で一番際立っていたのが。
【クナイシューター!】
という、投擲武器を使用する際に様々なボーナスが付く効果のある変わった名前の称号だった。
画面を押してその称号の詳細を見てみると。
『あなたは別にニンジャでもありませんが投擲武器に精通してますね! これからは発展した投げナイフを作って的確に投げられますよ! 根拠はありませんが銃の早撃ちだって出来るはず! え? どうしてだって? 考えすぎるとハゲますよ? 投擲、射撃、製作に特別なボーナスが付与されます』
相変らず文面が軽いのはともかくとして、効果を見る限りはお得な称号みたいだ。
俺は【クナイシューター!】を押して収得した。これでOKだ。
「……サンディ、ちょっとその銃見せてくれ」
お次は武器だ。その前にちょっと試してみようと思った事がある。
俺は手でサンディの持っている武器を見せるように促してみた。
「……これ?」
「そう。それだ」
サンディが首を傾げた。それから少し間をおいてこっちに近づいてくる。
本当にボロボロだ。テープで銃身が固定されていたり、スコープはワイヤーか何かで無理矢理繋ぎとめられている粗末な銃だ。
「……どう、するの?」
「ちょっと直してやるよ。ついでに"強化"をと」
「……やだ」
だけどサンディは嫌がっていた。ふるふる首を横に振って大事そうに銃を抱き締める。
別に壊すつもりじゃない。むしろ【製作】スキルで修理と改造をしてみたかっただけだ。
まあこの場合は善意でやるというより実験台にするという方が正しいかも知れない。
「……ほら、壊しはしないから早く」
「……むう」
包帯に覆われた胸の間に挟んで我が身と一体、とばかりに引き渡そうとしないので結局無理矢理引き剥がす事にした。
「どれどれ……」
銃身を掴むと一瞬【解体】がでてきてうっかり押しそうになってしまう。
少しの間のあと、色々な情報が流れ込んでくる――。
名前と状態が出た。【308口径小銃】だ。
ストックの木材は中が腐って折れそう。機関部もバネが錆びている上に力が弱っている。
弾が五発入る弾倉はバネが緩んで装弾不良気味、スコープは固定する部分が緩んでそもそもレンズが片面ヒビが入って……総評するとゴミみたいな銃だった。
「あー……こりゃ最高だな、味のある骨とう品みたいだ」
「……これ、まちのひとから、もらった」
……こんな粗悪な銃で盗賊たちの頭をぶち抜いたのか。
ここまで酷い状態の銃は始めてみた、これなら盗賊が使っていた銃の方が何倍もマシだ。
「サンディ、良く聞け。その銃はぶっ壊れそうだ。特に発射機構が壊れかけてるからそのまま使うと大変なことになる」
「……ほん、と?」
だけどそれなら尚更都合がいい。
銃の一番悪い部分の状態を教えるとサンディは少し戸惑い始めて。
「……わか、った」
よしよし。分かってくれたか。
渋々ではあるけども手にしていた小銃を引き渡してくれた。ずっしり重くて弾倉にはまだ弾が詰まっているようだ。
「大丈夫だ。むしろ強くしてやるよ」
俺は受け取った銃のスリングを肩に引っ掛けてから褐色肌の相棒に背を向けた。
それから作業台にあった盗賊たちのボロ銃に手を触れて――根こそぎ解体。
すると資源の金属や木材、パーツが沢山できた。
八人分の武器をまとめて解体したのだから当然である。
「……つよ、く?」
「まあ待ってろ」
さあ、お次はこのボロボロの銃だ。
小銃のボルトを引いて装填してあった弾を取り外して、機関部を開けたまま台の上に置いた。
「……銃が、きえた?」
「気のせいだろ」
「……気の、せい?」
「気のせい気のせい!」
解体の現場をしっかり見られていたようだけど無視。
まずPDAのインベントリから【P"DIY"クラフトアシスト】を起動、そうして目の前にある武器に対応した部品をリストから探す。
あった、押した、小銃に使えるパーツがごろごろ出てきた。
「うおっ……なんかごちゃごちゃ出てきたな」
リソースやアイテムを使って作成できるパーツだ。
ゲームのシステムそのままで、プレイヤーが拾ったり作ったりした武器はクラフトシステムで作った部品を取り付けたり換装したりできる。
例えば回転式拳銃があったとして、そこに本来の銃身を延長した銃身と交換して、追加で肩に当てるストックを取り付けて照準装置も変えられる――そういった具合だ。
「……どう?」
「ひどいの一言しか思いつかない具合だ。まあ任せろよ相棒」
この場合は無事な部分を探す事すらできないぐらい全部損傷している。
まずはストックを選んだ。
金属製の折り畳みのものからプラスチックを使った伸縮するタイプのものまであったけど、とりあえずは今と同じ木製のストックを選ぶ。
ごとっと何かが作業台の上に落ちてきた。
「……ほんとにいきなり出て来るのかよ」
それは銃の『骨格』とでも言うべき木製の骨組だ。
まだ銃身や機関部もはめられていない。
肩に当てる部分であるストックは茶色い木材で出来たスタンダードな形だ。
「……いま、いきなり出てきた……」
「気のせい!!」
サンディにしっかり見られてた。もう何言われても無視だ。
次に銃の発射機構を選ぶ。リストに【改良型ボルトアクション】というのがあったので選択。
金属と接着剤と若干のパーツがなくなった。かわりに小銃の機関部が丸ごと落ちてくる。
「……また、でてきた」
「そういうもんだからいちいち気にしなくていい」
「……そう、なんだ」
全体的にしっかりとした見てくれで堅牢な感じがする。
それは日光を反射しないように黒く染められたボルトハンドルが斜めに突き出ていた。
これは一発撃つたびにこのハンドルを操作して空薬莢の排出と装填を行うタイプだ。
頑丈な造りだから、火薬を沢山詰めた銃弾も使えるという。
「おい、今から集中するから邪魔しないでくれよ?」
「……ひま」
さあ、どんどんやってくぞ。
念のために邪魔をしないようにと促すものの、本当に暇そうなサンディがつまらなそうに横からしっかり覗いてきた。
だけど今は無視だ。やるべき事をやる。
「銃身はどうする? 良く当たるのと強いのどっちがいい?」
「……良く、当たるの」
「分かった」
今度は【高精度型バレル】を選択。小銃用の長い銃身が無造作に落ちてきた。
【延長マガジン】と【中距離用スコープ】をクラフト、黒い弾倉といかにもお手製と分かる無骨なスコープがサンディの銃の上に落下していく。
これで準備は出来たというわけだ。
俺はこれから何をするべきかよく分かっていた。
クラフトアシストシステムの恩恵でどう分解して組み立てれば良いかは分かっているからだ。
無意識のうちに指が動いて、身体がこの銃のパーツをどうすればいいか教えてくれている。
「さーて……行くぞ!」
銃身を繋ぎとめていた金具やテープを外して、スコープを固定していたワイヤーを抜き取る。
ドライバーで銃身を固定している部分も外して、銃身を取り外したら機関部も取り外す。
全て取り終えたら使えそうにないボロボロの部品を全部横に押しのけて、先ほど作った木製のフレームの中にクラフトしたばかりのマガジン部分とレシーバーユニットを差し込んでネジで固定。
機関部にしっかり接続するように長い銃身を本体に取り付けて金具やネジで押さえ付け、一通り組み立てたら最後に機関部の上にスコープをマウントして固定。
そんなこんなで新品同様の――あれ?
こうして作業台の上に新しいサンディの銃が出来た。
ただし、サンディの今まで使っていたゴミみたいな小銃は……もう一度組み立てるのが面倒なぐらい見事にバラバラになって、完全なるゴミと化していた。
違う、修理したんじゃない。
無意識のうちに使い物にならないと判断してしまって、一から新しい銃を作ってしまったようだ。
「……私の、銃は?」
横から差し込んでくるサンディの視線と言葉は、その時ばかりはいつもより鋭く感じた。
横目で見ると相変らず眠そうな顔が見えたけど、自分が使っていた銃がバラバラのままになっているのを見て不機嫌そうにも見えた。
まずい。サンディの機嫌が無茶苦茶悪くなっている。
「……こ、これ?」
だけど出来てしまったものはしょうがない。
声が震えて折れそうになるのを必死に堪えながらも、恐る恐る完成した新しい銃を手にとって手渡そうとした。
「あー、その、前の銃は……損傷が酷すぎて使い物にならなかった。でもこっちの方がなんかこう、強いぞ、多分」
その時アイテムの名前も浮かんだ。名前は【ハープーン】だった、意味は銛だ。
魚を捕るには向いていなそうだけど、308口径の銃弾なら人間の頭ぐらいは吹っ飛ばせるだろう。
「……これ、が?」
サンディがまた首を傾げる。
そんな俺の作った銃と、目の前でバラバラ殺人事件状態になった自分の銃を見比べて。
「……気に、いった」
彼女はマスクの向こうからはっきり分かるぐらい、くすりと可愛く笑った。
そうして俺の手から銃を取ると銃弾をつまんで手馴れた手つきでボルトを開放、中にかちゃかちゃと弾を入れ始める。
命拾いしたようだ。
「……そりゃよかった。じゃあもうちょっと待っててくれないか? ついでに他の銃も作るから」
旅を続ける前にまずは自分の武器も作ってしまおう。
新しいおもちゃを手に入れたサンディにそういって、またクラフト画面を開いて色々なパーツのリストを開いていると。
「……じゃあ、見張る。ゆっくり、作ってて」
彼女――いや、俺の頼れる相棒は新しい武器をぎゅっと抱き締めたままガレージの外へと向かっていく。
「ああ、そうだ。助けてくれてありがとう、サンディ」
「……どう、いたしまして」
今日から背中はサンディに預けよう。
俺たちはもうお互いに命を助け合った仲だ。
もう細かいことは考えずに、一人じゃない短い旅をこれからも続けていこう。
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