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モンスターガールズオンライン!  作者: ウィル・テネブリス
ケッテンクラートと世紀末男の短い旅路
31/96

*31* 来とったんかいワレ!!

 *二十七日目*


 キッドの町から更に南下、ひとまず道路に沿って走り続けていた。

 途中で仮眠を頻繁に挟んで、【キュクロプス】を使って暗視機能を駆使したまま走ることもあった。

 この暗視装置は素晴らしい。

 バッテリーの減りは決して遅くはないものの、万能充電器を使ってハンドルをしばらく回せば簡単に充電ができるからだ。


 そんなわけで夜通し走り続けていたせいか、【運転】スキルはすっかり75に達している。

 スキルが上がったおかげなのか、それとも走り続けていたためか、運転にすっかり慣れてきた。

 スロットルを絞る具合、走るルートの選別、ハンドル操作の加減、そういったものが不思議と自然に分かってきて、特に事故もなく進めた。


 途中で脅威になるものは特に見当たらなかった。

 むしろ変化に乏しくて何でもいいから出てきて欲しいと思ったぐらいだ。

 ケッテンクラートを走らせてもを何も見えず、延々と道が続いているだけというのもかえって辛い。

 日照りも強かった。乾いた空気に加えて容赦の無い太陽の光が来るのだから暑くてたまらない。

 そして仮眠が五回目を迎えてから再び走り出したあと――すっかり昼頃になった荒野の上にぽつんとあるものが浮かんでいたのである。


 それはガソリンスタンドとガレージが一体化したようなものだった。

 規模は小さい。いつか見た他のガソリンスタンドを一回りぐらい小さくしたようなものだ。

 開きっぱなしのガレージがメインで粗末な給油装置がつけあわせといえば正しいのかもしれなかった。


 ……丁度いい、PDAでボーナスポイントを振るついでに休憩といこうか。


 ケッテンクラートのスピードを少し速めて近づいていく。

 荒野にいきなり現れたそれは本当にあてにならない状態だった。

 看板は根元から折れていて、周りを覆っていたはずの壁はまるで戦車でも突っ込んできたかのように全て崩壊していた。

 更に近づくと給油装置がぐしゃっと潰されていて、屋根を支えていた柱からガレージの壁までが綺麗に抉れている。


 そして極めつけは履帯の跡だった。

 見覚えのある跡が深々とアスファルトの上に刻まれていて、それはキッドの方角へ続いている。

 しかも壁には鉄の杭が何本か刺さって薬莢すら転がっている始末だ。


 ……なるほどなと納得した。


 こんな派手に壊れたところに敵なんているわけがない。

 そう判断して、無人戦車が派手にやったと思われるガソリンスタンドに入った。

 ガレージの前に停車させてエンジンを切ると、早速PDAを開いてマップを確認。


 【サウス・サービス・ステーション】とだけ文字が浮かんでいる。付近にはそれ以外に何も無い。


 周りを念のため確認しても荒野がただ続くのみ。

 遠くはなれた場所が時々ちかちかと光って見えるほど、この世界の太陽は眩しかった。

 しかも黒いジャンプスーツを着ているから余計に日光が集まる。

 ケッテンクラートに至っては太陽の光を受けすぎて肉でも焼けるほど表面が熱されている始末だ。


 さてと……朝飯だ。

 朝の食事は盗賊から拾った携帯食料――【ポテトバー】とかいうやつだった。

 真っ白な箱型のパッケージを開けると最初に待っているのは銀色の袋。

 中にはクリーム色をした滑らかな表面のブロックが五本詰まっている。


「んっ……ぐっ……ぼっそぼっそだ」


 試しに一口齧ると口の中が物凄く"もそもそ"した。

 味を感じる以前にぼそっとしている。

 水が欲しい。なくても食べれるけどなければ地獄だ。

 仕方がなく水筒から綺麗な水を思い切り煽れば、ようやく味が分かってきた。


 これはまるで……薄味気味のじゃがいものポタージュを粉末にして固めてしっとりさせたような。

 パッケージの裏にはバターと小麦粉にじゃがいもを加えて若干のチーズや砕いたナッツを混ぜたものと書いてある。

 ぼそぼそした感じがして水がないと食べ辛い。

 でも齧るたびに香草のような香りや塩の粒を感じるし、程よい塩加減のじゃがいも料理を食べているような感じがする。


 結果としてはうまい。食べ応えもあって腹の中に溜まる感じがする。

 ただしPDAの画面をふと見てみると、ステータスの喉の乾きのゲージがびっくりするほど減っていたけれども。


「よーし相棒……お前も燃料補給だ、たっぷり食えよ」


 そうやって水筒とポテトバーを交互に食べてから、ケッテンクラートにも【朝飯(ガソリン)】を食べさせようと思った。

 後部座席に積んだ20Lのジェリ缶を地面に降ろす。

 ずっしり重くて、まだ癒えてない片腕片足がずきりと痛んだ。


「いっ……てぇ……!」


 そしてケッテンクラートの運転席の左右についているカバーをあけた。

 早速貰ったばかりのジェリ缶に給油ノズルを取り付けて、お腹を空かせた相棒の給油口に注いでやろうとした。

 その時だった。


「これはこれは! 誰かと思えば獲物じゃねえか!」


 こんな状況で絶対耳にしたくない類の声がした。

 高い調子の男のもので、この手の声は飽きるほど聞いてきた。

 反射的にヒップホルスターに手が伸びる。

 声のした方向は上。つまりガレージの上だ。

 そのまま引き抜くと同時に敵を探して、一発ぐらいはお見舞いしてやろうかと思った。

 でも今回ばかりはそうもいかないみたいだった。


「へへへ……こんなところにのこのこ一人でやってきて、しかも暢気に朝食かぁ?」

「動くんじゃねえ! 下手に動いたらその頭をミンチにしてやるぜ!」


 まるで最初の声が合図となったようにぞろぞろとガレージの中から人間が出てきた。

 一人、二人、四人……いや、八人!?

 果たしてそいつらは一体、この場所の何処でどうやって隠れていたんだろうか。


 ずらりと現れたそいつらは全員が銃を持っていた。

 髑髏のような模様のあるフェイスマスクを挙って顔につけている。

 ラフな格好だったりカジュアルな服装だったりと格好はバラバラだ。

 けれどそんな奴らには確固たる共通点はあった。

 それはこいつらが全員、俺をうまい()()だと認識していることだ。


「武器を捨てな! その変な乗り物からも離れろ!」

「少しでもおかしな真似をしたらぶち殺してやるぜぇ!」

「ヒャッハー! 新鮮な獲物だぁぁぁ!」


 しかも最悪だ。全員が銃を持っている。

 錆だらけのものやテープで無理矢理補強されていたりと粗悪なものばかりだ。

 しかし幾ら粗悪で質の低い武器でも銃は銃だ。

 離れた場所から攻撃できると言う利点がある限り、八人という人数は今の俺には到底覆(くつがえ)せない。


――つまり戦いは数とかいうやつである。こればっかりはどうにもならない。


「なんだ? 俺になんか用か?」

「いいからもってる武器を捨てろや! 殺されてえのか!?」


 品の無い言葉遣いの男たちは四方八方を取り囲んでいる。

 せめてものあがきに一言いってやろうとしたけれども、発言権がないとばかりに拒まれた。

 銃身が上下に二本並んだ散弾銃が言葉と共に突きつけられる。


「……ちっ、分かったよ」

「偉いじゃねえか。気に入った、あとでよーく甚振ってから殺してやるわ」


 ……悔しいけど仕方ない。

 ここで殺されたらやり直しになる。

 それにまだ反撃のチャンスがどこかにあるはずだ。


 勢いに任せて目の前にいる奴にナイフでも刺してやりたいけど我慢。

 手始めに腰のホルダーごと投げナイフを落とした。

 すると誰かが嬉しそうに口笛を吹いた。俺をぐるりと囲っていた奴の一人が進んできて、俺の捨てたナイフを拾って。


「おおっ! なんだこのナイフ!? すげえ切れそう!」

「ずるいぞてめえ! 俺にも一本よこせや!」

「ああ!? これは俺のだ!」


 向こうでホルダーに差したナイフの奪い合いになった。もちろん他の奴等はしっかりと銃口を向けている。

 自分で作った投げナイフごときでここまで喜ばれるとは、嬉しいのか悔しいのか微妙な気持ちになる。

 次に足元に回転式拳銃(リボルバー)を差していたヒップホルスターを落とした。

 目の前にいた散弾銃(ショットガン)の男は喜んでそれを拾う。相変らずにやついた表情で腹が立つ。


「ほほう! いいもの持ってるじゃねーか! 今日から俺が使わせてもらうぜ! おめーら、こいつの持ってるもんを全部剥ぎ取れ!」

『うぇーい!』


 クソが。

 拳銃を手に入れて上機嫌になったそいつはリーダーだったようだ。

 そいつの一言を聞き入れて周囲の奴等が一斉に飛び掛ってくる。どいつもこいつも獣のように飢えた目をしていて、まさしく俺は『獲物』といった感じになっている。


「わーお、水と食料があるぜ! みんなで仲良く分けようぜ!」

「これもーらい! 今日から俺のな!」

「なんだこりゃ……爆弾か? あぶねえな、俺が預かっておいてやる!」

「早いもん勝ちだ! 奪え奪え!」


 バックパックが剥がされる。汚い男が地面にそれを置いて中身を汚くあさり始める。


「おっ、ソードオフじゃねえか! お前にゃもう必要ないな、頂くぜ!」


 散弾銃(ショットガン)のホルスターが剥ぎ取られる…

 弾の入ったポケットを乱暴に開けられて根こそぎもっていかれた。

 散弾と拳銃の弾がこぼれて、憎たらしい男たちが砂糖に群がるアリのように集まる。


「うおっ、こいつチップ持ってるぜ!」

「おい! 独り占めすんな! 山分けだ!」


 ポケットにまとめていたチップが全てもっていかれて、三人分の手が何度も往復して空っぽになる。

 腰につけていた万能充電器が剥がされて、バックパックの中の【キュクロプス】も見知らぬ誰かが奪ってこれ見よがしに頭に装着する。

 切り札のパイプボムも全部もっていかれた。

 これでもう胸のポケットにあるPDAぐらいしか残ってない。

 いつかの生きたまま解体されるような死に様よりはマシだったものの、自分の全てが持っていかれて我が物にされていて冷静でいられるわけない。


「おい、他に何か持ってねえのかよ!」

「……ぐっ!」


 おまけに怪我をしている部分を蹴られた。

 骨に染み渡るように痛くて、転びそうになる。

 そんな様子を見て俺の怪我にでも気付いたのか、特に小太りな男がにやにやしながら近づいて。


「おおっと、お前怪我してんのか? じゃあ直してやるよっ!!」


 手にしていた小銃(ライフル)のストックで足をぶん殴られた

 松葉杖をそのまま使ったようなストックが左足のふくらはぎに当たる。

 狙ってやったのかは分からないけど、よりによって怪我をした部分の中央だ。


「――――ぎッ!?」

「ひゃははははっ! 随分荒い治療だな!? その患者さんはもう手遅れだ、片足切断してやらないと治らねぇぞ!」

「誰がやるんだ!? お前か!?」

「骨ってどうやって切るんだ? ハンマーでぐっちゃぐちゃにすりゃいいのか?」

「どうせだし両足もやっちまおうぜぇ!」


 骨にヒビが入ったんじゃないかというぐらいに滅茶苦茶痛い。

 しかもこいつらはそんな俺を見て笑っていやがる。

 何が患者さんだ、お前らはいつから医者になったんだ? このイカれ野郎ども。


 このクソ野郎たちは何が何でも殺したい。

 今すぐにでも適当な奴に飛び掛って目に指でも突っ込んでかき回して()ってしまいたい。

 だけどこうなってしまえばもはや何も出来ない。

 足も自由に動かないし、利き腕だって撃たれたばっかりだ。

 そんな俺を見てリーダー格の男はマスクを外しながら、


「いいか良く聞きな! 俺達はこの辺りを仕切る盗賊団【ビジター】だ! トレーダーかと思ったら違うみてぇだが別にいい、こんなに良いものをもってたからなぁ!」


 奪った回転式拳銃(リボルバー)を西部劇気取りのつもりなのか、俺より器用に指でくるくる回して偉そうに言った。

 男たちが今度はケッテンクラートに群がる。

 詰んでいたジェリ缶を降ろして、車体の横を開いてバッテリーを外そうとがちゃがちゃ弄り始める。


「……それで? ここのお偉いさんが俺に何の用だ?」

「ああ……つまりお前もう用済みだわ。(わり)ぃけどここで死ねや」

「そりゃごめんだ。てめえがくたばれ、クソ野郎」

「ひゃははぁっ! お前はもう詰んでるんだよォ! バーーカッ!」


 拳を握った。こいつの顔面に一撃お見舞いしてやる。

 だけどそいつは手遅れな俺の覚悟なんかよりもずっと早く拳銃の撃鉄をかちりと落として、その銃口をはっきりと俺に向けて――


「おほっふ……!?」


その頭がいきなり、ばつっと音を立てて爆ぜた。

僅か一瞬(いっしゅん)、遅れて遠くから銃声みたいなものが聞こえた気がする。

そいつは息を詰まらせたような声を出して、目の前にリボルバーを手落としていく。


「な、なんだぁ!? 誰か暴発させたのか!?」

「ぼ、ボース!! ボスが死んだぞ!?」

「おいおい誰だよ撃ったの? どうすんだよこれ?」

「あーあ死んじまった……次のリーダーどうするんだ? 今決めちまおうぜ」

「あんだけカッコつけてたのに死ぬとかだっせえ、マジうけるぜ」


 俺の荷物とケッテンクラートを好き放題に荒らしていた奴らは暢気だった。

 自分たちを纏める奴が死んだというのにさほど驚いていない。

 いやそれよりも何が起きてるのか理解していないみたいだ。

 こっちだって理解が追いついていない。


「……くそっ!」


 いや、チャンスだ。

 俺は床に転がった拳銃を拾おうとした。弾は全部入っている、まだやれる。

 片足を引きずってアスファルトの上に転がった拳銃へ近づく、腕を伸ばす、グリップを掴む。

 バックパックを漁っていた男がこっちに気付いた。

 狙いを定める――ダメだ力が入らない。右腕が持ち上がらない。


「あっ! あいつ銃をほう!?」


 するとほんの一瞬のあと、こっちに短機関銃を向けていた一人が変な声を上げて地面に吹っ飛ぶ。

 また何処かから銃声が聞こえた。

 これで目の前でまた一人死んだ。

 二人目の死人の前に、カラスのように群がっていた男たちが一斉に立ち上がり始める。


「なっ……なんなんだ!? また死んだぞ!?」

「おい! てめえか!? てめえの仕業かぁ!?」


 ……一体何が起きてるんだ?

 左腕で拳銃を構えようとしていると、散弾銃(ショットガン)を奪った男が怒鳴り散らしながらこっちに向く。


「野郎ォォ! ぶっころしゃあああっ!?」


 今にも俺に向かって飛びかかろうとした一人が綺麗に頭のど真ん中をぶち抜かれる。

 コントロールを失った男が派手に転んで、ケッテンクラートを真っ赤に汚した。

 そこでまた銃声が届いてきた、ガソリンスタンドから離れた場所からだ。


「ま……まさか狙撃かひゅっ!?」


 俺から奪った弾を自分の銃にこめていた男が立ち上がった。

 何もない荒野の方を向いた途端に頭がぼふっと小さく爆ぜて、仰向けに倒れた。

 まさか……誰かが狙撃している?


「ど、どうなってんだよぉ!? 何が起きてやがる!?」


 盗賊たちはパニックに(おちい)っている。


「狙撃だ! 伏せろ!! 頭ぶち抜かれるぞォ!」


 ……どうであれ今がチャンスだ!

 慣れない左手で握ったリボルバーを構える。

 一人の男がこっちに気がつく、目が合う、弾倉が横に伸びた小銃がこっちに向けられた。


「て、てめえッ! 狙撃手でも連れてやがった――」


 引き金を引く。撃つ。

 右手で払うように撃鉄を起こす、撃つ。

 起こす、撃つ、起こす、撃つ、起こす撃つ。

 弾倉に詰まった弾を全て吐き出す勢いで、銃を向けてくるそいつに連続で弾を叩き込む。

 闇雲に撃った弾が一体何発当たったのかは知らない、だけど男は無言でびくびく身体を震わせてから黙って倒れた。


「あ、あいつも撃ちやがった!」


 残った三人の矛先が此方にやってきた。


「よくも俺たちの仲間をやりやがったなァ! その足二度と歩けねえようにぐちゃぐちゃにしてごばっ!?」


 真っ先にこっちに向かって駆け出そうとした一人の頭がまた綺麗に弾け飛ぶ。

 片足を引きずってケッテンクラートの影に飛んで転がる。

 ぱきぱきと独特の音を立てる銃声が響く。

 遮蔽物にしたそれの装甲にそれが当たって弾かれて、ばちっと(ひど)い音がした。


「あいつだ! 先にあいつをやれ!」


 残った敵は二人――。

 まだ安全なそこに背中を預けるように伏せつつ撃鉄を起こした。

 だが弾がまだ残ってるのか分からない。それに相手はまだ二人いる。

 それに相手は連射の出来る銃だって持ってる。こんな状況で下手に頭を出したら簡単に頭をぶち抜かれるのがオチだ。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおッ! 出てこい! 臆病ものがぁぁぁ!」


 突然の状況にどうするべきか定まらないまま隠れていると、盗賊(レイダー)の持つ銃がバカみたいに滅茶苦茶に此方めがけて打ち込まれる。

 小さな弾がケッテンクラートに当たってぱつぱつと音を立てて、すぐ上を弾が掠める音もした。


「おらぁ!でてこいやぁ! 隠れてるんじゃねばっ!?」


 けれども、ぱしっと何かが当たる音がした。

 間の抜けた断末魔の声と、僅かに遅れてやって来た銃声が響いて。


「あ、あ、あ……ま、まってくれ! こ、降参するよ!! 分かった俺の負けだ!」


 頭をぶち抜かれまくった仲間を散々見せ付けられてすっかり縮こまった一人が声を上げた。

 思わず物陰から身を乗り出してみると、小銃(ライフル)を手放し両手を上げていて。


「頼む! もういいだろ!? 頼むからこのあたりでやめにしまひゅっ!」


 今度はびしっと音を立ててその頭が吹き飛んだ。

 何処に向けて命乞いをすればいいか分からず、明後日の方向に降参していた最後の男が死んだ。


「…………は、はは」


 変な笑いが漏れた。

 もはや何があったのか脳が追いつかない。


「たっ……助かった……のか?」


 でも一体誰がこんなことを?

 しかも的確に頭をぶち抜かれてるわけで、こんなことが出来るのは狙撃手か何かだ。

 実際の狙撃手がどんなものなのかは知らないけど、そうじゃないと理由がつかない。

 じゃあ、その狙撃手は今何処に――?


「く……くそっ! 今度は俺か!?」


 何とか力を振り絞ってもう一度ケッテンクラートの影に隠れた。

 ひょっとしたら"そいつ"は気まぐれに盗賊を撃っただけで、次は俺の頭を狙ってる可能性だってある。



「……いや、まさか」


 だけど一瞬、もしやと思った。

 ここに来る途中、俺は一瞬だけ荒野の方がちかちかと光るのを見たからだ。

 もしかしてアレは狙撃手がいたということじゃないんだろうか?

 ということは、ということは……ここに来た時点で、そいつはここに照準をあわせていた?

 イコール、その気になればのんきにポテトバーを齧っていた俺をぶち抜けたのでは?

 そいつは何で俺を撃たなかった? 何で盗賊だけを殺した?


 *かつっ*


 そうやって物陰でじっとしていると、遠くからほんのかすかに別の音が聞こえる。

 硬いブーツの底が地面を叩く音だ。

 それははっきりとこっちに近づいていて、うっすらと穏やかな呼吸音も感じた。


「……おいっ! 誰だ!?」


 まさかあの狙撃手か?

 敵かどうか分からない、でも相手は銃を持っているのだ。

 警戒する事に越したことはない。弾の入っちゃいない銃だって少しは脅しに使えるはずだ。

 銃を手にやけくそ気味に立ち上がろうとした直後。


「……イチ?」


 なんだろうか、物凄く聞き覚えのある声が聞こえた。

 眠そうな、それでいて無気力さが芯に残っている声。

 それに続いて足音が一層近づいてくる。ゆったりとした足音のペースも、それはもう俺の良く知っているものだ。


「……まさか、お前……」


 まさかとは思うけど、まさかとは思うけど!!

 もう我慢できない。俺は痛む足の事も忘れて銃も構えずに飛び上がるように起きた。

 そして見えた姿は――ばるん、と揺れる包帯に包まれた巨大な胸だった。


「……助けに、きた」

「……はあああっ!?」


 視界に飛び込んできたもの、それから完全に聞き覚えのある声を受けて横に転びそうになった。

 いや駄目だ転んだ。


「……置いてくの、だめ」


 俺の目の前にはあいつがいた、忘れもしないあいつだった。

 マスクに包帯、黒いブーツと下着だけという格好のサンディがふらふらと立っていたのだ。

 とてもまともに動くとも思えない、ボロボロの小銃(ライフル)をその手に握ったまま。


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