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モンスターガールズオンライン!  作者: ウィル・テネブリス
ポストアポカリプスな生活
17/96

*17* 南へ旅立てよそ者よ

 *十六日目*


 温かいシェルターの中は快適だ。

 生きる為の知識が増えて食料も確保できるようになった。

 物資も沢山集まった。このまましばらくシェルターの中に篭っていることもできるぐらいに貯えはある。


 スキルだって上がった、回収した装備や武器、使えないゴミに至るまでを分解しまくって製作スキルが60にもなった。

 身を守る手段も完璧だ。より質の良いものをクラフトできるようになって、今の自分は簡単な爆弾や手製の銃弾すら難なく作れる。


 ここはもう小さな要塞だ。

 ここにいる限り誰も俺を倒す事できない。

 仮に外で死んでも持っているアイテムを落としてここに帰ってくるだけ。


 しかし出来る事はただそれだけである。

 この誰もいなくなった廃墟の中でちょっと豊かに暮らせるようになるだけで、根本的な部分である俺の目的へは一歩も近づいていない。


 そう。PDAのクエストに表示されているフランメリアへの旅路だ。

 マップに浮かんだマーカーはここからかなり遠く離れた場所にあるダムを示している。

 徒歩で辿り着ける距離かと聞かれたら絶対にノーと答える場所にある、それくらい遠い。


 徒歩で行くには果てしなく遠い上に盗賊(レイダー)だってうろついている世界だ、自分の身を守るだけじゃなく食べ物も寝床も確保しながら進まないといけないのだから楽なわけない。


 この寂れた町の外を俺はまだ知らない。

 だから外の世界に旅立っても、土地勘のない俺は慣れない地を歩いて、いざというときはそこで戦わなくちゃいけない。


 それでも。

 それでもだ。

 停滞していたクエストを進めるために外に出る必要がある。

 届いていないメールの中で何度も何度も、俺はミコの待つ世界へ行くと決めたんだ。

 自分の中で誓ったことを守るため、そしてメッセージを送ってくれたあいつに会うために前に進まなければ。


 覚悟は決まった。まだ少しここに迷いがあるけど、もうこのシェルターの中で繰り広げられる物語はこの世界には必要ないだろう。

 主人公だったらシェルターのただ中で生きるだけじゃ物語は先へ進まない。

 FallenOutlawというゲームの主人公が行く先は、まだ見ぬ外の世界での冒険だ。


 俺はテーブルの上の数本のナイフを手に取った。

 新しくクラフトした、前よりも一段と仕上がりが良くなって重量感も程よく備えた投擲用武器だ。


 それをジャンプスーツの腰部分の両脇に増設した専用のポケットに束ねて収納する。

 次に自作のヒップホルスターに【ナガン】という拳銃を差込み、ワンサイズ大きなホルスターに切り詰めた散弾銃(ソードオフ)を納める。

 弾はとりやすい場所にあるポケットに詰め込んで、電池を取り替えたフラッシュライトを肩につける。


 先日、盗賊(レイダー)のリーダーとその愉快な仲間(バカ)たちが落とした装備は不要なもの以外は全て分解。

 武器は金属とパーツに、服は布、使い道のないガラクタすら綺麗さっぱりリソースに変換。

 ジャンプスーツは裁縫スキルによって新しい姿に生まれ変わっていた。

 化学物質や接着剤、少しの金属と沢山の布を使って傷を修繕、そのついでに防水性を持たせてポケットを増やした。


 つまり、ぼろぼろだったそれを材料に新たなアイテムをクラフトしたわけである。

 今までずっと着ていたそれは【サバイバージャンプスーツ】というアイテムに生まれ変わっている。ついでに綺麗に洗ったのでとても清潔。


 荷物を運ぶのには欠かせないバックパックとダッフルバッグもクラフトの材料にして、リソースと組み合わせて改良してある。

 ダッフルバッグは可能な限り荷物をつめ込められるように形を調整して、紐で身体に結び付けられるようにした。

 バックパックも幾つかポケットを増やしてしっかり身体にフィットするように形を整えた。


 勿論両方ともいざというときにはすぐ脱げるようにしてあるし、防水性を持たせてある。少しでも旅を快適にしなければいけないからだ。

 食料も詰め込んだ。綺麗な水もボトルにつめておいた。クラフトに必要な道具も入れた。

 あとは――。


>>『ごめん、ちょっと遅いスタートになったけど……今からそっちへ行く』


 PDAのメール画面でいつものようにミコへのメッセージを作った。

 画面をつついた。送信が始まる。


 *ERROR422*


 メッセージは届かない。何度も見てきたからよく知っている。

 今からこのシェルターを出よう。

 別世界(フランメリア)を助けるために、長い旅路を進んでいこう。


 俺を呼んだ声の持ち主にはたっぷりと報酬を要求しないとな。

 ボランティアで世界を救うなんてごめんだ、然るべき報酬をしっかり貰わないと釣り合わないからだ。


 PDAを開いた。ステータス画面を開いてレベルアップボーナスを振り分ける。

 ……ボーナスポイントが増えていた。スキルに振り分ける事ができるポイントが5から11に増えている。ステータスと称号ポイントはそのままだ。


 一体なんで増えたんだろうと思ったもののすぐに分かった。

 INT(知性)ボーナスだ。INTが上昇するとボーナスとしてスキルポイントが増える仕様で、INTが5ごとにスキルポイント値が1増える。

 今は【製作】と【裁縫】のスキルが双方とも70に上昇していたからか、対応するステータスのINTが30を超えていたので、結果使用可能なスキルポイントは6追加で合計11。


 これは嬉しい。上げるのが面倒になりそうなスキルに振り分けようかと思ったものの、ここは自分の長所を伸ばすべきだ。

 ということで中々上がらなくなってきた【投擲】に全て振り分けた。

これによって投擲は91。数値上だけじゃ効果の程は分からないけど、自信は湧くものだ。


 対応したステータスも上昇した。STR(力強さ)とDEX(器用さ)がそれぞれ23、37と順調に上がっている。

 DEXだけがもりもり上がっていくのは仕方ない。クラフト系から戦闘まで幅広くカバーするステータスなのだから嫌でも上がる。


 3ポイントあるステータスボーナスの方はLUCK(運)に全て振った。

 運が13、これから先ずっとLUCKに振り続けたら一体どうなるんだろうか。


 称号を開けば色々な効果のタイトルがずらっと出てきた。

 色々あれど、中でも目立つものは複雑な道でも快適に走れるようになる【パル"キュール"!!】という称号、どんなにまずい食事でも美味しく食べて効率よく空腹を改善できる【バカな舌】、暗い場所も見渡せるようになる【猫の目】あたりだ。


 他は前のレベルで見たもの同性愛者になれる称号や女装でパワーアップだのどうでもいいものばかりだ。残念だけど野郎同士の恋愛は今後一生するつもりはない。


 まずい食事――たとえばあのぐちゃぐちゃのミートパスタを美味しくいただけるようになるのはどうなんだろうか。

 収得すればあの見てくれが好きになって、文字通りしたが他の美味しくないものもむしゃむしゃ食べるのか。たとえそれが人肉とか生ゴミでも。


 【バカな舌】は気持ち悪いので却下。【猫の目】もフラッシュライトがあるし、今のところまだ暗闇には困っちゃいないのでパス。


 そうなると答えは絞られる。

 なので【パル"キュール"!!】をクリックすると画面に詳細が出た。


『あなたの足は下手な乗り物よりずっとはやーい! 走って飛んで登って、自分だけの道を開拓しちゃいましょう! 移動力にボーナスがついて複雑な地形も難なく進めます』


 と軽いノリで書かれている。

 丁度いい、自分だけの道を開拓するなんていう言葉は特に今の状態にぴったりじゃないか。

 収得。これによって【パル"キュール"!!】は俺のものになった。


 荷物を全て回収する。

 バッグを身に着けPDAをしまって入り口に振り向いた。

 シェルターを固く閉ざしている丸型の扉に近づく。ロックを外す。ハンドルをぐるりと回して扉を開けた。


 赤い非常灯の点いた階段は冷たく埃っぽい。けれども階段を上った先ではうっすら光が満ちていて、朝の香りが風となって届いている。


 階段を上る。登りきると階段の下から自動的に扉が閉まる音がして、冷たい風と朝日が出迎えてくれた。

 この辺をうろつく無法者達の気配はしない。この町はあらかた探索して、物資も残らず怪物すら狩りつくしてしまった。


 さあ旅に出よう。

 俺を呼んだ声の持ち主にあって、文句を言いつけるついでにその世界を救ってやるために。


 道路に入って廃車の間を潜り抜けながら町の外に向かって歩く。

 途中で図書館が見えた、あの時のガソリンスタンドも見つかった。

 町の中心を通り過ぎると爆発で焦げた車が見えた。盗賊(レイダー)の親玉が死んだ場所だ、でもこの世にはもう存在しない人物となっている。


 ……なんだろう、色々な思い出が蘇ってきた。


 初めてこの世界に来て物資をかき集めたこと。

 MREが滅茶苦茶まずかったこと。

 敵に追われて追い詰められて逆襲したこと。

 初めて作ったナイフで盗賊(レイダー)をこの手で仕留めたこと……。


 この世界に放り込まれてから時間の感覚が滅茶苦茶になっているけど、PDAの中の時計はまだ三週間も経っていないという。

 信じられないけど俺にはそれ以上の時間を過ごしてきたような気がした。

半年か一年、ずっと狭いシェルターの中で過ごしてきた気がしてならない。


 このPDAはメールが送れないというエラーを除けば正確だ。

 だからたった十六日しか経っていないのも本当なんだろう、要するに気持ちの問題である。

 熱いストーブの上に手を一分間置いていれば一時間に感じるなんて名言があるけれども、それに近いものだ。


 そんなことを考えているうちにあっという間に町の終わりが見えてきた。

 マップの南にずっと伸びた荒れ果てた道路が外へと続いていて、そこから先はオレンジ色の不毛な大地と静寂しかない。


 沢山の荷物をもった俺は何も考えず、振り返らないで町の外へ出た。

 俺を見送ってくれる人間も、外で俺を出迎える人間もいない。


 目指すは南。

 クエストのマーカーが示すデイビッドダムに向けて、ヒビだらけの道路を歩いていった。



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