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モンスターガールズオンライン!  作者: ウィル・テネブリス
ポストアポカリプスな生活
13/96

*13* くさいご飯の作り方。

 *十一日目*


 この日はあらかた探索が終わった周辺を後にして、まだ俺が踏み込んでいない町の中心部にいた。


 盗賊たちは見えない。

 変異して犬のようになった黒いネズミが路上に放置された車の間をがさがさと縫うように逃げる姿が見えるぐらいだ。


 背中には奪ったバックパックがある。

 ベルトでしっかり固定して、ついでにフラッシュライトを身体に固定して暗いところにも行けるようになった。


 そして今は町の中心地にあった警察署の中にいる――といってもガラスは壊れてパトカーなんかも無いし、中でドーナツが大好きなあっちの国の警察官が出迎えてくれたりもしない。


 文字通り中身は空っぽ。

 誰かが荒らしまわったのか紙一枚も残っておらず、仕方がなく入り口付近の壁で倒れていた自動販売機に腰を掛けていた。


 まだ危険があるとはいえ、晴れた天気の外は気持ちがいい。

 そうやって暢気にバックパックに入れていた本――ゲームの設定上では若干のスキルボーナスとレシピを収得できるアイテムを読んでいる。


 囚人達の反乱、という本だ。

 小難しそうで柄の悪い男達の画像が乗っている本だけど、不思議とすらすらと頭に入る。

 中でも目を引いたのは脱獄する囚人が刑務所の中で武器を作って、警備員を襲撃して一斉蜂起の末に脱獄したという部分だ。

 金属片をせっせと削って研磨してナイフを作り、ポリ塩化ビニル管にドライヤーを当てて殺傷力のある弓を作ったり、酷いものだと火薬を作って鉄パイプにつめて爆弾にしたという。


 この本の内容が実際にあったものかどうかはさておいて、武器の項目だけはイラストつきで構造から見た目まで事細かに描かれていて実に興味深い。


 ……そしてふと頭の中で何か閃いた。


 なんだか言葉では言い表せないけど根拠のない自信が湧き出る。

 イラストにあった武器を作れるだのという思考や、その工程すら勝手に頭の中に何処かから入り込んで『作れる』と認識してしまう。


 まさか。

 本を閉じて念のためPDAのインベントリからクラフトアシスト機能を起動させてみた。


 武器の項目を調べると【火薬】や【強化弓】、【自作槍】【トンファー】などなど、色々なものが増えている。

 ステータス画面のスキルを見れば製作が2も上がっているようだ。

 なんだかゲームのキャラになってきているようで自分でも恐ろしい。

 苦笑しながら物騒な本をそこらに投げ捨てると。


 *ぐるるるる。*


 小さな警察署の入り口から真っ黒な毛に覆われた犬――じゃなく、足が発達して犬のような姿勢と造形で歩くネズミの化け物がこちらを見ていた。


 ミュータントだ。

 行動は気まぐれで雑食、プレイヤーを見ると少し様子を見たあとに足に噛み付いてくる面倒臭い敵である。

 バックパックを背負いなおして立ち上がると、そいつはざざっと足を擦りながら一歩退いた。

 このまま逃げられてもすぐに襲うチャンスを伺いに戻って来るから面倒だ。


 ということで。

 腰のホルダーから一本ナイフを引き抜く。

 ホルダーは裁縫スキル上げも兼ねてジャンプスーツに増設した部分だ。ついでに衣服は修繕して綺麗にした。


 黒ネズミが更に退く。

 慌てずナイフをそっと右手で構えて、左手を突き出して指で狙いを定める。

 親指と人さし指の間に、ネズミの真っ赤な目が挟まった――今だ。


「しッ!!」


 腹に力を入れて、地面を蹴って……手首に力を流して投げる!


 ひゅんとナイフが飛んだ。瞬きをすれば小さな悲鳴が聞こえた。

 急所にうまく刺さったようだ。


 距離は4メートルほど、投げたナイフは綺麗にネズミのミュータントの眼窩(がんか)を貫いている。

 じたばた。ばたばた。感覚を失ったネズミがダンスを見せるように床を歩き回って、ぐるりと見事な回転を見せたかと思えば横向きに倒れてしまう。


 【XP+30】

 【投擲スキル1増加】


 経験値(XP)が入る。3匹倒せばぎりぎり盗賊(レイダー)一人分ってところか。

 盗賊を一人倒して得られる経験値がこんな化け物三匹分と考えると、盗賊の価値がどれだけ微妙な設定にされているのか考えさせられる。


 死んで経験値となったぴくりとも動かないネズミに近づいて、目に刺さったナイフを引き抜こうとすると急に緑の文字が浮かんだ。


 【解体可能】


 ちょっと待て。

 思わず戸惑った。そういえば忘れていたけど動物は殆ど【解体】という行為ができるようになっていたんだった。


 文字通りのアクションだ。

 死体を解体すれば食用可能な肉や骨、それから皮までも手に入る。使用可能な対象は『食べれる』ものだけである。


 でもちょっと待ってもらいたい。

 まず解体するというのは、この明らかに食べられそうにない化け物を?

 念のため顔を近づけてナイフを抜きながら様子を見てみるものの、なんだかすごく臭い。


 獣臭いとか言うやつじゃない、ドブそのものの匂いがする。

 食べれるかどうかはいい。更なる問題はそれを解体するということだ。


 どうやって? アイテムの分解みたいに押せば自動的に皮と肉になるのか?

 俺は動物の解体なんてやったことがない、知識としてないどころか動物をバラして解体するという行為そのものがダメだ。

 第一にグロい。スーパーに並んでるような肉しか知らない俺には、自らの手で動物の皮を剥いだり肉を刻んだり内臓を取り出すなんてできっこない――。


 【YES】


 でも押した。

 どうにでもなれと好奇心で浮かんだ文字を選択して指で突いた。


 が……何も起きない。

 ということは自動的に【分解】みたいになるのかなと思っていたらうわなんだこれ身体が勝手に動いてナイフが。


「ちょっ……!? マジで!? まっ、まてまてまてまて止まれえええええええ!!」


 一体どういうつもりなんだろう。

 まるでどうやって解体すればいいか身体が知っているようで、気付けば俺は無意識のうちに手にした粗悪なナイフで仰向けにしたネズミの怪物の股間に切っ先を――。


 【生存術スキル1増加】




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