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モンスターガールズオンライン!  作者: ウィル・テネブリス
ポストアポカリプスな生活
12/96

*12* スキルを上げればいい。

 スカーフ兄弟は死んだ。


 持っていたもの全て――形見ともいうべきかレバーのついた長い銃から、そいつが身に着けていたもの全てをはぎ取った。

 そうして俺は【レバーアクション小銃】と表示されている銃を手に入れた。

 残念な事に銃に関しては詳しくない上に、これをどうやって使うのかは良く分からない。


 念のためPDIY1500の画面で状態を調べてみると、内部のパーツの状態が表示されて「チャンバーの調子が悪い」だの「銃身のお掃除が行き届いていない」から「引き金が汚いです」まで色々表示された。


 お陰さまで使う気にはなれなかった。

 弾も手に入ったのに、こうまで状態が悪いといわれるとなんだか持っているのも嫌だ。


 シェルターに戻ってテーブルの上に『戦利品』をばら撒くとあの男はいいものを持っていたと分かった。

 まずは缶詰に入った食料がいくつか、チーズバーガーとチリビーンズと書かれている。

 まだ食べてはいないものの絶対MREのパスタよりマシだ。


 表紙に銃が描かれていたり、『古き良き時代』とばかりの典型的なアメリカ人兵士の勇しい姿が描かれた本が数冊。

 357マグナムと表示される銃弾が十発分に、裁縫の趣味でもあったのか手のひらサイズの裁縫キットが綺麗な状態で残っていた。


 あとはペットボトルに入った水が二本分と、肩に取り付けるタイプのフラッシュライトが一つ。

今日は大漁だ、きっとこれらの品々はスカーフ男がこの町でかき集めたんだろう。


 最後に……カジノのチップが色々出てきた。

 これはあれだ、お金である、おかしい話かもしれないけどこの荒廃した世界の通貨がカジノのチップだ。


 FallenOutlawの世界で生きる人間はなにも全てが文明を捨てた野蛮人ばかりじゃない。

 善良な(盗賊と比較してだが)NPCや、文明をなんとか再建しようとしている地域にいけばちゃんとした取引が出来る場所がある。


 そういったところで何をお金として使うか。

 物々交換? それもある。

 略奪する手段だってあるけどここでチップの出番だ。


 このカジノのチップこそが通貨なのだ。

 つまり一体どういうわけか、この世界の人々はカジノで使っていたチップで取引をするようになっているということなのだ。


 俺は【100$】と書かれた幾つかのチップを大事にとっておくことにした。

 いつかこれを使うときが来るはずだ。まあ、その取引できる人間がいればの話だけど。


 ……ああ、疲れた。


 気分だってあんまり良くない。

 でも正直すっきりしている、ゲームの中とは言え憎たらしいやつ二人を殺せたから憂さ晴らしにはなった。


 喉が乾いたので早速ペットボトルの水を飲んだ。薬で浄化済みの飲料水だ。

 直前にちゃんと【綺麗な水】と視界に表示されたから飲んでも安心、ただし飲むと夏場のプールの味がした。


 だけど久々にマトモな水を飲んだ気分だ。

 辛うじて回収した炭酸飲料か、それすらなかったら赤褐色の水を頑張って飲むしかなかったからだ。


 バックパックに入っていた缶も開けた。

  中にはなんだかぱさぱさしたパンの表面が見えて、奥に何かがずっしりと詰まっている。


 缶のラベルには暖めてくださいとか書いてたけど無視。

 振って中身を取り出すと、冷たくて硬そうなチーズバーガーがぼてっと出てきた。


 正直なところこの見た目だけでも十分、MREのパスタよりは全然美味しそうだ。

 躊躇もしないで齧った。冷たいケチャップと刻まれたピクルスが多いし、肉が冷たくて味が良く分からない、ぼそぼそして食べ辛い。


 でもはっきりいって『スパゲティ惨殺事件』よりは全然ましだ。むしろ美味しい。


 食べ物っていうのは不思議だ。

 ろくでなしとはいえ、ゲームの中とはいえ『敵』をこの手で殺した。

 ナイフを投げて当てたときの達成感や、自分の手でナイフを突き立てた感触もしぶとく残ってる。


 だけど、おいしいと思うものを食べたら少しは罪悪感や、いまだ残っている嫌な感覚が薄れて頭の中がマトモになる。

 現金な奴かもしれないけれども、この世界じゃ食べる事は数少ない自分を保つ手段なんだと思ってる。


 少しはマトモになった食事を済ませてPDAを確認。

 ステータス画面では使用可能なボーナスポイントが表示されている。

 スキルに5、ステータスに3、そして称号というものを1つ収得できる。


 STR(力強さ)が8、DEX(器用さ)も8、それ以外は全て初期値の4。

 スキルに連動しているだけあって中途半端に上がっているものの、これからスキルを上げてしまえばどんどん上がっていく。


 特殊なのはLUCKだ。

 これはスキルを上げても上がらず、ボーナスポイントを振り分けるか【幸運な】出来事にめぐり合えば上がっていくという仕様だ。


 それが上がって一体この世界にいる俺に対してどんな恩恵があるか分からない。

 それどころかこのステータスというものが上がって今の俺にどんな効果を発揮しているのかすら謎。


 でも忘れてはならない、LUCK以外のステータスはスキルが上がればどんどん上がるもの。

 画面を指でいじった。LUCKに全振り。ジャックポット狙いのつもりで3ポイント全てをぶち込む。


 さて問題はスキルと称号だ。

 最初に目に付いたのは基本射撃、これは銃を使うときのダメージや照準の付けやすさに関わるものだった。

 これは手元に銃と弾が沢山あれば勝手に上がるスキルなので無視。


近接武器、重火器、罠、格闘、話術、製作、運転、投擲、水泳、裁縫、生存術、機械工作、電子技術、治療技術――などなど。

ずらりと羅列(られつ)する文字を見ても、今の俺にはどれも欲しいものばかりだ。


 FallenOutlawでは近接武器が上がれば体力と近接武器の攻撃力が上がる。

 罠なら罠を作って解除できるようになる。

 運転なら車の操縦に恩恵が。

 裁縫ならより良い衣装やバックパックを作ることができて、生存術なら鍵開けから食料調達まで……。


 ああもうとにかく! キリがない!


 今の自分の状況を見ても全て欲しい。だけど冷静になって考えた。

 でも一番いいのは何かと考えればそれはすぐに浮かんだ。


 【機械工作】である。

 物品の修理からマップ上にあるオブジェクトの修理、車の整備や修理改造まで幅広く対応しているスキルだ。

 実際俺も困ったらこれを上げていた。

 ということで全部機械工作に振った。これで15だ。


 お次は……称号。

 これはレベルが一つ上がるたびにもらえるもので、レベルやスキル状況に応じて種類は増えていく。

 どんなものかといえば永続的に続く特殊な効果を持つものだ。

 つまり一つ覚えればその効果がキャラに付与される。結果レベルを上げれば上げるほど沢山収得してどんどん強くなるってことだ。


 【筋肉質な足腰】とかかれたものを見れば、


『生存のために走り回った結果、両脚がすごく丈夫になっちゃいましたね! 走るスピードが増えて最大所持重量などにボーナスがつきます』


 などと軽い文面で説明されている。

 でも正直、レベルも低い、スキルもないとなると……先ほど見つけた【筋肉質な足腰】以外にいいものがない。


 他は足が汚いので巨大ゴキブリが現れて仲間になりますとか、謎の魅力が覚醒し同性愛者になれますとか、酷いものだと女装をしていると強くなります、なんて出ている程度。

 生憎ゴキブリの仲間はいらないし同性愛に目覚めたくない、それに女装する趣味も度胸もないので大人しく【筋肉質な足腰】を押して覚えた。


 スキルを十分上げて出直すという手段もあったけど、事情が事情だ、のんびりしちゃいられない。


 ……収得した。特に変化なし。

 ジャンプスーツ越しに自分の腰や足を触っても特に変化はなかった。そりゃそうか。

 収得した瞬間にいきなりボディビルダー真っ青の下半身を授かっても嫌な話だけど、変化が感じられないのも中々に嫌なものだ。


 そして今日も、いつもの習慣を行う事にした。

 PDAのメールを立ち上げて、ERRORの文字を浮かばせるだけだ。


>>『112だ。なんていうかな、あんまり良くないことをしてしまった。多分お前が聞いたらがっかりするようなことをしてしまった。だけど仕方ないんだ、俺は生きないといけない。ミコに会いたい、ムツキたちにも会いたい。寂しい。ちゃんと俺のこと、待っててくれよ?』


 どんな事情と背景があるとはいえ、あいつが俺を誰か殺したなんて聞いたらがっかりするかな?

 不安は不安で覆い隠されていく。

 気を紛らわすには、送信を押して出来上がったメッセージを送って。


 *ERROR422*


 この文字を見る事だけが頼りだ。

 PDAをジャンプスーツのポケットにしまった。

 テーブルの上は片付けないで、シーツが破れたベッドの上に寝転がった。


 今日は寝よう。おやすみ、不毛な世界。


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