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モンスターガールズオンライン!  作者: ウィル・テネブリス
ポストアポカリプスな生活
10/96

*10* PDIYで粗悪な投げナイフを作ろう。

 *八日目*


 シェルターの中ではクラシックが大音量で流れている。

 PDAから発せられているラジオによるものだ。

 パッヘルベルのカノンはとてもじゃないけど不毛な世界と、冷気を発するコンクリート製の壁に覆われた棺桶のようなシェルターの中には見合わない。


 かこん。


 遠くから乾いた音がした。空き缶が地面を転がって側にころんと石が落ちる。


 【投擲スキル1増加!】


 俺はベッドから立ち上がって落ちた石を拾った。

 ついでにテーブルの位置をずらして、その上に空っぽの缶を置く。

 そしてまたベッドに座った。


 テーブルの上に立たされた空き缶に狙いを定めて、呼吸を整えて、「ふっ」と息を吐くと同時に石を投げた。


 かこん。


 また同じ音が聞こえた。5m以上離れた場所にある空き缶が弾かれて、また落ちた。


 【投擲スキル1増加!】


 文字が浮かんだ。手で払った。

 また立ち上がって石を拾って、テーブルの位置はそのままに空き缶を立てた。

 5cmにも満たない石を握りながら缶を見ると……丁度真ん中が集中的にへこんでいて、穴が生まれ始めている。


 硬いベッドに腰を掛けてもう1度――といったところで中断。


 今日で三日目だった。

 人間として最低の死に方をした日から三日経っていた。

 今日のこの時間まで俺は外へ出て、死んで、生き返って、このシェルターの中に可能な限りモノをかき集めていた。


 あれから色々な死に様を経験した。


 二重に重ねられた地雷を踏んで片足どころか下半身ごと吹っ飛ぶ。

 町に巣食う盗賊(レイダー)どもに幽霊と間違えられて蜂の巣にされる。

 夜に二足で立つ犬のような怪物に喉を噛み千切られる。

 金属のトゲが貼られた板が飛び込んでくる罠に引っかかって上半身を串刺しに。


 怖いし痛いし辛い。

 でも食料として腹を掻っ捌かれるよりは全然マシだ。

 折角集めたものもその度に落としてベッドの上で目が覚める。

 いい加減生きてるのが嫌になってくるけど、だからといってまだ希望がないとは限らない。


 PDIY1500の画面を起動してスキルタブを開く。


 投擲が40まで上がっている、ステータスも見てみればSTR(力)とDEX(器用さ)が4ずつ上がっていた。

 それが実際我が身にどんな効果を及ぼすかは正直分からない。

 でも成果が見えるというのは嬉しい事だ、何も動かないよりは動いた方がいい。


 FallenOutlawのシステムを理解しているからステータスの項目は良く分かっている。

 銃を撃てば射撃のスキルが、物を投げれば投擲スキルが、物を作れば製作が勝手に上がっていくといった具合だ。


 そしてスキル値が10ごとに、対応したステータス――つまるところSTR(力)だのDEX(器用さ)だのが1ずつ上がる。

 よって、スキルを上げれば上げるほどキャラは自然と強くなっていくということ。


 更にレベルが上がればボーナスポイントとやらがもらえて――まあ、つまるところ、ステータスとスキルに任意の値を追加する事ができる。

 レベルが上がりきり、スキルが全て最大値である200に達するまでキャラは成長し続ける。

 上がり辛いけど上がれば強い、ゲームとしてはそんなシステムは果たして成功したかどうか分からないけど、やりこみ要素の1つだ。


 けれども今はそんなことどうだっていい。

 一旦考えるのをやめて外に出て持ち帰ってきた貴重な食料を食べるとしよう。


 唯一"まとも"といえるモスグリーンでずっしりと重いパックを枕元から手に取った。いわずもがな、軍用糧食(MRE)だ。


 みんな大嫌い、俺はことさら大嫌いなMRE(パスタ)のパックを開けた。

ディナーの時間という奴である。


 真っ先に最悪の印象を持つメインディッシュを抜いて、くっ付いていたヒートパックを引き剥がした。

 開封してなんでもいいから少量の水をぶち込んで切り口を折ればヒーターになる道具だ。

 水ならなんでもいい、茶褐色色の水だろうが泥水だろうが尿だろうがそれで科学反応を起こして暖まる。


 洗面台の汚い水をぶち込んでしっかり封を閉じて、空になったMREのパックにパスタのパックと一緒に放り込んだ。

 しばらくして熱々の蒸気のようなものを発し始めたのでーブルの上に置いて、離れて他のものを片っ端から開けていく。


 タバスコ、塩、チーズ、クラッカー、こんなところか。

 チョコバーはとっておこう。貴重だ。


 しばらくして熱々の美味しくないパスタができると、封を開けて中に調味料とタバスコ全部、それから砕いて粉のようになったクラッカーも注いでグチャグチャに。

 出来上がり。とても食べられたものではないものが完成。


 香りはいいけど味は最悪。なるべく見ないようにしてかっ込んだ。


>>『ミコ、見てるか? 今そっちがどうなってるか気になるけど、こっちは本当に酷い。メシがまずいし文字通り死ぬような思いをしてる。でも大分慣れてきた、まだまだそっちにはいけそうにないけど少なくともまだ生きてる』


 今日もまたPDAでミコにメールを送る、これは俺の精神安定剤みたいなものだ。

 送られちゃいないし返事だって来ないけど、これがなければ俺はとうの昔に心が折れていたと思う。


 *ERROR422*


 言われなくても知ってるよ。出てきた文字を押して消した。

 最後の一口をスポークで掬って食べて、溢れそうなゴミ箱にゴミを捨てた。


 腹さえ減ってれば奇抜な料理でもとりあえず胃に収められるから不思議である。


 ……さて。


 朝飯なのか昼飯なのか分からない食事を済ませた俺は、少し緊張していた。深呼吸をして解した。

 テーブルの上の穴が空いた空き缶を掴む、分解、【金属を5入手。】した。

 綺麗になったところで軋む椅子に座った。


 PDAを置く。

 画面を開いてインベントリを選択。そして一番端にある【Craft(製作)】を押すと画面が変わる。

 何やらハンマーのマークが浮かんできて、


 【P"DIY"-クラフト・アシスト・システムへようこそ!】


 と文字で歓迎された。ゲームじゃこれを使ってアイテムを作っている。

 左にアイテムの名前が書かれたリストが雑多に表示され始めた。

 ナイフ、たいまつ、弓、飲用水、バンダナ……それぞれがイラストつきで表示されていて、製作に必要なものが描かれている。


 尖った鉄棒、というのがあったので押してみると……詳細が浮かんで、ハンマーと金属製の棒にあてはまるものなどが必要だと出てきた。


 鉄筋かそれに類するものが一本。(ある)いは資源(リソース)の金属が200個と熱源が必要とある。

 それからハンマーとなるもの。叩けるならなんでもいいようだけど、質の良い道具――この場合はちゃんとしたハンマーを使ったほうがいい。


 このゲームの生産システムは独特だ。

 アイテムとして存在する部品や材料を使うものや、資源(リソース)を使うもの、どちらでも作れるもの、そういったレシピが存在する。


 この場合(尖った棒)は鉄筋を加工して作るか、金属を分解して得られるリソースを使って作るかの二択だ。


 どちらで作っても効果は変わらないが、リソースだと大量に消費する。

 むしろ大事なのはスキル値と加工に使う道具だ。【製作】スキルが高くてちゃんとした道具を使えば性能は上がるし、長持ちする。


 だけど今はそれを作る材料がない。ハンマーなんてないし、金属リソースも100しかない、そもそも製作スキルに至っては初期値の10のままだ。


 まあ別に作るわけじゃないからいい。


 くいくいと画面を指で動かしていると目当てのものが載っていた。


 【粗悪な投げナイフ】


 粗悪な、という文字が随分といやらしさを付け足しているけど、丁度いいことに俺との相性が良さそうだった。

 このクラフト画面で発見してから作ろうと思っていたものだ。


 リソースでもいいから布に類するもの、そして金属のリソースを50。それから研ぎ石になるものがあればいいらしい。

 それで5本の投げナイフが作れるという。

 画面のイラストを見ると鉄の欠片を形成して研いだ上で、グリップに布を巻いただけにみえるナイフが数本。


 これを作ってみようと思う。


 今の俺がこのクラフトをゲームの主人公のようにやったら一体どうなるのか――試してみたかったわけだ。

 条件は満たしているので作成が可能らしい。

 少しどきどきしつつも画面のクラフトスタートを押すと、PDAが一瞬じじっと電子的な音を立てた。


 ……するといきなり目の前のテーブルに何かがごろっと転がる。とても無造作に、とても不自然に。


 それは金属板をとりあえず丸ごとナイフの形に形成して、切っ先を鋭くしてやったとばかりの簡素なもの。ただそれだけである。


 試しに持って触ってみた。先端がとにかく鋭い以外は刃が全くついてなくて、それになんだか持つとバランスが悪く感じる。

 だけど何故だろうか? 手に握っていると何故か、それをこれからどうすればいいか頭の中に次々と浮かんでくる。


 ナイフを1本手に取ったまま、テーブルの下から長方形の研ぎ石を取り出す。

 外の世界――心臓をぶち抜かれた家のキッチンにあったものだ。

 しっかりナイフの原型を握って、傾けたまま刃を必要とするべき部分をこすり付ける。


 勿論俺は刃物の研ぎ方なんて知らないし、そもそも研ぎ石がどんなものなのかすら知らない。

 でも手は勝手に動いていく。

 ごりごり、ざらざら、しゃりしゃりと。


 ナイフを手前に向けながら、今度は向こうに向けながら、硬いアイスを滑らかにするようにこすり付けて(ほぐ)していく。

 音が気持ちいい。刃がざらりとこすられる音で耳がくすぐったい。

 今まであった嫌な事が削られるようだった。


 一本、二本、三本、四本、五本。

 やった事もないはずなのに、俺は確かにそれを研いでいく。

 そして一体どれくらいの時間を用意したのは分からないけど、俺の中ではあっという間に終わってしまった。


 綺麗とはいえない。だけど鋭いナイフが5本できた。

 試しに一本手にとって、クソも役に立たないベッドのシーツを掴んで刃を立ててみた。

 引くとざっくりと布が裂かれて物を切る感触がした。


 真っ白な布の切れ端を千切ってナイフで切り分ける。

 細長く揃えた布きれをぐるぐるとナイフのグリップに巻いて、仕上げにきゅっと結んで完成。


 【製作スキル1増加!】


 粗悪な投げナイフが出来た。製作スキルも上がった。

 俺がこの世界で始めて作った、記念すべき最初の武器だ。



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