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8・挙兵を聞きし候

 装術、それは戦闘用の鎧の事を指し、何よりもその防御力と人並外れた膂力こそが第一とされている。それを扱う人間に求められるのも、当然ながら、装術を操る妖力を持ち、なおかつ武術に優れたものである必要がある。

 

 と、京や比叡山では考えられているのだが、奥州ではまるで違った。


 装術とは元来が体の気の流れを用いて体に添えた支柱を動かす技として伝えられているという。


 妖力というが、実際には誰もが持つ「気」を操るので、実は特殊なものではないという。なぜ、それが京においては選ばれた人間のモノとされているのかといえば、はじめっから膨大な力を要する防具への気の流れを当然としているかららしい。

 そう、なぜ静が簡単に僕の妖装を扱えたのか、脚部アシストだけなら荷役全員が扱えたのか。

 実は当然の事だったらしい。


 しかし、その様な基本的な話はほとんど忘れ去られている。なおかつ、装術師(そうじ)の役割については、鎧師と混同されて鎧を作れなければ装術師ではないという様な誤解から、装術師が途絶えたらしい。


「本来装術師(そうじ)とは、他者の気と親和性がある物ならば誰でも良く、まず、扱う者へと簡単な装術を与え、気を一つにすることで、他者への装術製作が可能になる。貴殿はその過程を自然と経た事で、装術師の力を得たのであろう。静殿は元から妖装を扱う素養を持って居たので例外ではあるが」


 との事だった。


「では、叡山の装術師というのは?」


「それは其方同様、偶然に周囲の者の気と親和した者が装術を拵えているのではないか?」


 まあ、偶然で出来るものらしい。


「ただ、妖装や装術は体を外から支える構造を必要とする。鎧のように個別の備えを着込めばよいというモノではない。なぜ、其方がその原理を知っていたのか疑問ではあるが、叡山もその秘術を秘伝として伝えておるのだろう」


 僕は21世紀のパワーアシスト装置をイメージして妖装を組み上げた。だが、この時代といえば胴や手足に個別の防具を着ける鎧の発想が普通だ。いくら気の親和性が高い人物でも、妖装の基本を知らなければ作れない。


「現在の妖装というのは家宝といって良く、人に構造を見せびらかすものではない。人に見せることはその防護力を知らせる事にもなりかねず、わざわざ相手に弱点を晒すなど、誰もしない。使う材料は鎧と変わらないモノだから、お抱えの職人たちでも直せてしまう。もちろん、構造が分かる事もなく、全身を一人で作ろうとも思わない彼らが装術師(そうじ)となる事も出来ない」


 実は能力を持つ人々はそこら中に居るらしいが、基本が失伝しているがために、誰も作れなくなったというのが正しいらしい。


「そうすると、叡山では基本を伝えているというより、妖装があるから作れている可能性もあると」


 そう聞くと奥州の装術師は頷いていた。


 あれだな、コロンブスの卵的なモノなんだろうな。


「そうすると、僕が拵えたあの脚装はむやみに造らない方が良いですね」


 そう聞くと、少し悩んでから


「其方が仲間に与えた分はともかく、仮に他に作ったとして、どれほどの価値をもって売るつもりか?一般の妖装は一家の家宝。脚部のみとて、民には買えまい。商家とて荷役に与える様な扱いは出来まい?」


 そう言われるとそうかもしれない。その価値を考えればそうなる。


 例えば、それが数千万円の品だとしよう。トラックを自社の運転手に与えるのは仕事のために必要だが、高級乗用車を与えるだろうか?まあ、そう言う話だ。脚装なんて荷役用のはずだが、この時代の価値観からすれば、トラックではなく乗用車に当たる事だろう。家人が家宝としても荷役に与える事は無いんだろう。


「なるほど。では、作る意味はないですね」


 そういうと頷いていた。


 ただ、さらに言えばこの装術師から教わることは何もなかった。逆に、僕が彼に教えることが幾つかあったくらいだ。




 それから五年、僕は装術師として奥州十七万騎のために様々な妖装の研究開発を行った。

 中でも特に重視したのが、この時代の一般的な戦い方である騎射についてだった。


 妖装による騎射において、一般的には八人張りを最高として標準は五人張りを扱う事だったのだが、多少腕部の構造を弄る事で十人張りの弓すら扱えるようになった。


 ただ、その為には骨格材料を木ではなく鉄にしなければいけない。奥州では鉄もあるのだが、やはり高価にすぎる。


 そこで、この時代には発見されていなかった釜石の鉱山を発見することによって、その問題解決を促した。


 しかし、それでも足りなかったので常磐炭鉱も見付けて骸炭にして製鉄燃料にするところまでやった。


 結局、鉱山探索に二年かかり、骸炭開発にも一年を要したので十人張り妖装の完成は伊豆での挙兵を聞いた頃というありさまだったが、まあ、僕は別に行く気が無かったのでどうでも良かった。


「戦だ、戦の匂いがするぞ、弁慶!」


 コイツの存在を忘れていられたらだが。


「静、お前は母親なんだから戦へ行くわけにはいかないだろう?」


 そう、静には子供が居る。俺が襲われて出来た子供だ。


 男でなくとも襲う快感を味わえたと訳の分からない事をのたまっていやがった。かといって、僕が押し倒そうにも妖装無しでは敵うはずもなく。完全に静の気が向いた時に襲われただけだ。


「すでに歩けるんだ、問題ない」


 あっけらかんとそんな事を言い出す始末だ。どうしたらそうなるのかよく分からん。まあ、最近は僕が妖装を作った佐藤兄弟と弓の練習なんかやってるわけだから、子供は既に佐藤家で育てられていたりするんだが。 


 つまり、行かない選択肢は無いという事らしい。


「どうやら、お前の兄というのが一度負けたらしいが、周りと組んで盛り返したらしいぞ。行くなら今だろ!」


 見て来たように言う静。


 違った。実際に坂東まで出かけて見て来た奴が実況しやがった。


 例の脚部妖装を使えば伊豆周辺までわずか二日で往復可能だ。改めてとんでもないモノだ。


 僕自身、探鉱に使用したからその利便性を理解しているし、奥州では広く出回っている。コレのおかげで随分手広く製鉄が行われて鍛冶も増えたし鉄器も潤沢だ。


「佐藤家から十騎出せるそうだ、どうだ?」


 僕の事などお構いなく戦いたいバカがノリノリだ。


「わかった。ただし、静が義経役な。僕は僧兵として付き従うだけだ」


 そう、僕には史実義経の戦術眼は無いからこの世界で大活躍は無理だ。静に気が済むまで暴れさせて、とっとと奥州に帰って来ようと思っている。



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