16・奥州の妖装はバケモノにて候
そして、宣言通りに夜陰に紛れて静かに峠へと向かった。
もう少し敵方が警戒しているかと思ったらそうでもない。
「どうした?こんなところに平家が居るわけないだろう。連中はもっと西から来ると騒ぎになってるだろう」
そんな事を言う。
確かに、僕たちが夢野口へ抜けることを悟られないようにワザと西へと動く陽動をやっている。おかげで現在の僕たちはいつぞやと同じく40騎しかいない。
まさか、こんな少数で突っ込むとは思わなかったが、僕ら奥州の10騎ならば平家の妖装を一人で3騎相手にしても平気だし、他の30騎も妖装の性能自体が2騎程度と戦えるだけのものがある。
それだけ僕の作った妖装が隔絶している訳だ。
さて、残りは何処へ行ったかというと鉄拐山辺りへと目立つようにウロウロしているだろう。更に西回りで騎兵や歩兵の部隊が動いても居る。
そう言えば平家物語の鵯越論争はあちこち場所が違うんだったか。しかも、静の狙っている教経も、この一の谷の合戦で討ち取られたなんて話もあるくらいだ。なぜ書かれた書物ごとにバラバラなんだろうな。
あたりが白みだしてきた。
「よし、止まれ」
静が先頭でそう指示を出す。
ここで完全に明るくなるまで待つつもりらしいな。
「平家の連中、かがり火を焚いてなかなか厳重に陣を敷いてるじゃねぇか。源氏を山猿程度に思ってる他の連中と違うんだな、教経の奴は」
平教経といえばゲームでも最強伝説ある程度には有名だ。なかなか強かったらしい。
今の僕が知ってる範囲でも、水島の戦いでは教経一人で義仲が差し向けた軍を押し返したとか言われている。
まあ、誇張もあるだろうが、妖装とはえてしてそう言うもんだ。僕や静の妖装だってそう言う事はきっとできる。実際、夜襲ではあったが三草山ではそれをやったしな。
あたりが完全に明るくなると平家の陣がはっきりと見えるようになる。なるほど、弛緩してだらけているような陣ではないな。
「やるじゃねぇか。それに免じてもう少し待ってやろうか」
静は何やら余裕を見せて平家の陣が十全に動けるようになるまで待つつもりらしい。
「なんだ?不満そうな顔だな。心配すんな。狙いは教経一人。アイツを倒して蹴散らせば俺らの勝ちだ」
そう言って獰猛な顔で笑ってやがる。
朝日が昇って寝ていた兵士も起きただろう。どうやら陽動部隊が気になるのか盛んに西の方へと斥候が送り出されている様だ。計画は順調らしい。
「西より敵襲!」
ここにまで聞こえるほどの声が聞こえてくる。
「崖を這いおりてきた150の妖装。どう見たってそれが奇襲部隊だろうな。さて、行くぞ!」
そう言うと静は峠へと躍り出て堂々と真正面から突撃していく。僕らもそれに付き従った。
「峠からも敵だ!」
平家の陣が慌ただしくなる。だが、そもそも来るのが分かっていた方角からの敵だけにその対処は迅速といって良い。
「源が義経見参!!平教経!出て来いやぁ」
バカが名乗りを上げた。
まあ、源平の頃にゃあこれも通用するんだよな。もっと後になると完全な集団戦になるからこんな個人の名乗りは無くなって行くはずだ。
ざわつく平家の陣を前にデンとかまえる静。
暫く右往左往する平家の雑兵たちばかりだったが、何という演出か、さっそうと現れる妖装が一騎。
「我が教経だ。木曾義仲を討ち取ったというツワモノはお前か」
なるほど、そこいらの妖装じゃない。しかもかなり新しいんじゃないのか、あれ。
山伏型妖装が主体の叡山とはまるで違う。かと言って源氏に多い古めかしい拵えでもない。双方の良いとこ取りをした感じの妖装。
「ほう。見たことが無いな。平家の装術師とは違う作か」
どうやら教経も静の妖装が叡山や旧型と違う事を一目で見抜きやがった。
「目が高いな。というか、平家に装術師が居るんだな。初耳だ」
「そうか、冥途の土産に覚えておくがよい」
そう言うと一瞬で静へと間合いを詰めてきやがった。かなり速いじゃないか。
「はっ、やるじゃねぇか。どうでなきゃな!」
義仲の時はこんな伯仲した戦いには出来ていなかった。が、そもそも僕が作った妖装だ、身軽な静の動きをしっかり引き出す事が出来る。
「ほっ、と。やるな。速さは互角といったところかな。だが、これならどうだ!」
うまく静が躱して体勢を建て直すタイミングを計ったように教経が槍を振り下ろした。
ドンと土煙が上がる。
「避けてばかりでは勝負にならんぞ?身軽なのは良い事だが、我が力を超えんと一振りも出来んぞ?」
教経が煽る様に静にそんな事を言うが静は無言だ。
確かに、僕との稽古に比べ遅いのだが、一振りごとの重さは上の様な気がする。
「確かに、重いな。だが、それだけだな」
静がようやく声を上げた。そして、槍を突きだす教経へと肉薄していく。
「速さだけでは勝てんといったはずだ!」
槍を突きだしながらでも素早く引く事も出来る教経。さらにその状態から新たな突きまで繰り出してくる。
「なかなか面白いな。やるじゃねぇか。こうでなきゃな」
静はどこか涼しげにそう言う。
そして、教経の突きや振り下ろしをヒラヒラと避けて踊っている。
「フン、弁慶の気分が分かった気がするぜ。コイツはなかなか楽しいじゃねぇか」
あのバカ、一騎打ちを楽しんでやがる。
「冥途の土産に教えてやるよ。俺の妖装の強さという奴をな!」
そう言って静が攻撃に出る。
ガンと重い音がして弾かれる静の長刀。驚いた様子はない。出来て当然の表情をしている。
さらに弾かれた長刀が軌道を変えて教経を襲うが、コレを紙一重で躱して間合いを取る。
「なるほど、少し見せすぎたかもしれんな」
まだ教経も余裕らしい。
「では、終らそうではないか」
教経は平たんにそう言うと先ほどとは比較にならない速度で静へと飛んでいく、そう、飛んだ。
静はそれをどこか落胆した表情で眺めている。一見隙だらけである。教経はその隙を逃すことなく素早く槍を振り上げ、振り下ろす。ドン。
衝撃波だ。槍が音速を超えやがってるじゃないか。トンでもねえバケモンだな、アイツは。
静は他のモノが見ていたならば真正面から受けたように思っただろう。普通に考えれば助かる余地はない。
「奥州の妖装は格がちげぇんだよ、そんな時代遅れとはな」
土煙の中でどこか落胆したような声を上げる静。
「あ、あれは・・・」
僕の隣で見ていた佐藤兄弟が目を丸くしている。
そりゃあそうだろう。静は避けることなく教経の槍を受けていたが、全くダメージが入っていないように見える。
「奥州?その妖装はバケモノか・・・」
教経は全くダメージがなさそうな静を見て一瞬動きを止めた。そして、そうこぼすと後方へ飛んだ。
「だから!遅すぎんだよ!!」
土を蹴った訳でもなく、風のように一気に加速する静。飛び退いたはずの教経より速い。
パンと何かがはじける音がしたかと思うと教経の胴が上下に別れてしまう。
そのまま踵を返して僕の前へとやって来る静。
「おい、やっぱりこれは強すぎだろ」
そう文句を言うと戦いは終わったとばかりにどっかへと歩いて行ってしまう。
大将倒したって戦い終わってねぇーんだぞ。だいたい、教経一人が平家じゃねぇんだ。勝手に終わってんじゃねぇよ!あのバカ。
夢野口の残敵掃討は僕たち39騎で何とかやり遂げた。平家の一門と有力武将をいく人か討ち取り、福原へと向かった。
ああ、後の言い方で電撃戦という奴だな。奥州9騎が稲妻のように平家の陣を駆け抜けて、残った妖装を魔改造脚装の連中が討ち取った。




