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14・夜襲を仕掛けて候

 出発前に軍監二人が話し合って後背地の豪族たちににらみを利かせたり、平氏側に着く豪族を蹴散らすべきではという事で亀岡からさらに北回りで動く鎮撫集団を編成することになった。それは甲斐の軍団に依頼するというのでこちらには関係がないが、より僕たちの動きを悟られずに済みそうだ。


 月が変わるかどうかという僅かな準備期間で範頼は福原進攻を始めると言い出した。まあ、予定通りだからいい。脳筋(バカ)に深慮などという言葉はふさわしくないからな。動けるようになったら速攻動いて当然だ。


「いざ福原へ!」


 平氏側にも伝えるかのように派手な出陣となっている。


 それを横目に見ながら僕たちは甲斐の軍勢と亀岡を目指す。


 と、途中までは見せかけて山の中で分かれて速攻で南下した。


「なんだ、連中まだ来てないのかよ」


 大騒ぎしながら派手に出陣したからここの準備もすでにしているのかと思ったらそうではなかった。


 遠くに見える平地をぞろぞろ動く線が見えるが、アレが源氏軍だろう。


 それを見ながらその日は暮れてしまった。


 僕と静は村人を偽装した脚装で山を徘徊して平氏を探していたのだが、どうやら源氏の搦め手を警戒していたらしい。


「なんだ、源氏の連中、本当に北の鎮撫に向かっただけでここには気付いてないらしいな」


「仕方ねぇさ。連中は京より西の事なんざ何も知らないんだ。鎮撫だってそのうち道に迷うんじゃねぇか?」


 少し下でそんな事を言っている声が聞こえる。まさか、真上にその源氏の最精鋭が居るとは思うまい。


 静にその場を離れて少し西進してみると隠れるように進んでくる平氏軍であろう集団を見る事が出来たので、三草山近傍の拠点へと取って返した。


「さすがに弁慶が気付くような作戦だから連中も警戒していたみたいだな」


 拠点で平氏側の斥候が拠点周辺にも探りに来ていたことを報告してきた。まさか、たかが40そこらしか居ないなどとは考えない彼らは軍勢を探す事に集中してこんな猟師のたまり場程度の場所には目もくれなかったらしい。


「あの様子なら妖装も100や200は居るんだろう。俺たちの敵ではないが時間がかかるのは確かだ」


 だから、何故うれしそうなんだこの狂戦士(バカ)は。


「静殿、流石に白昼に攻めては不味いと思われます。仮にも搦め手。であれば、平氏方は連絡のために宝塚近辺に物見や伝令を潜ませているでしょうから、すぐさま搦め手敗走を平氏が知ることになってしまいかねません」


 継信がそう苦言を呈すとひきつった笑顔で見返す静。このバカ、白昼攻める気だったのな。僕もそれを当然と思ってたが。


「夜襲か。この場合仕方がないだろうな」


 どこか嫌そうに静が夜襲を了承したあと平氏軍の監視を続けていると、次第に集結しつつあるようだった。それを見て僕は後続の妖装に停止の伝令を出すことにした。ここで見つかってはせっかく夜襲と決めたのに意味が無くなる。


「なんだ、弁慶もやる気だな。まあ、40も居れば十分だろうが」


 好きに勘違いしてればいい。あれだけ集まって警戒線を敷かれたらこちらが200も居たら見つかるだろうに。まさか、それに期待していたとか?ありそうで怖いな。


 夕暮れ時になると近隣に村がある事を良い事に平氏軍は普通に食事の準備を始めている。煙を上げても警戒されないと油断しているらしかった。


「おい、さすがにアレはないだろ。あの連中はバカすぎだろう」


 そうは言っても、範頼軍にしろ甲斐の軍勢にしろあまりに目立ち過ぎだ。悪目立ちといって良い。平氏が油断するのも仕方がないだろう。つい先月には平氏そっちのけで内輪揉めしてたんだから、そこを付け込まれなくて本当に良かったよ。


 夜の帳が下りても連中は火を焚いたままだ。油断と言うか、まあ、かがり火で夜襲に警戒ということかもしれんがどうなんだろう?


「夜襲が暗がりでなくて何よりだ。同士討ちしなくて済みそうだな」


 ああ、確かにこのバカなら相手など誰であれ打ち込んでいきそうだよ。誰が敵か味方かではなく、目の前に居る奴が敵って認識しそうだしな。 


 しばらく様子を見て夜番以外が静かになったころ、僕たちは動き出すことにした。


「行くぞ!お前ら遅れんなよ」


 静が大声で叫ぶ。そして飛ぶ。いや、文字通りにだ。


 アニメの主題歌よろしく山を飛んで超えて敵陣へとなだれ込む40騎の妖装。


 静の声に警戒しようとした夜番を飛び越えて陣幕へと突っ込む僕たち。


 事態が把握できていない雑兵たちを蹴散らしてそれなりの地位だと思われる妖装を探すが


「おい、妖装居ねぇぞ」


 静がかがり火の灯で妖装を探そうとしたが大半が鎧や妖装を脱いでいるらしく、ただ逃げ惑う雑兵と薄着で走る一部の不審者が見えるだけだった。


 妖装を着ようとする人物を見付けて頸を刎ねておく。近くに見える持ち主不明の妖装も破壊しておく。


 気が付いたら頚の無い薄着や明らかに用をなしていない鎧を着た武将が疎らに見えるだけだ。


「お前の妖装は既に破壊している」


「はっ、そんな見慣れぬ鎧が何を言うか!」


 ほら、手近にある妖装仕様の槍が持てないじゃないか。


「ぐ、なぜだ」


 だから、破壊したと言ったじゃないか。信じて無かったんかこいつは。


 ちょっと憐れみながら頸を刎ねておいた。当然だが、ヒデブとかいう猶予は与えていない。


「陣幕に火を付けるなよ。ここが襲撃されたことを朝まで悟られるんじゃない!」


 周りを固めて彼者誰(かわたれ)時に僕らは宝塚へと一気に駆けだす。


 ハッキリと周りの色が分かる訳ではなく、どこか白黒写真の様な風景の中を全力で疾走するうちに周りが色を取り戻してくる。


「いたぞ、奴らを潰せぇ」


 静がそう言う。予想通りに伝令か何かの小集団がそこに居る。後方へ伝えられる前にこいつらも潰す。


 まさに蹂躙だった。逃げる者もすべて真っ二つにする僕たち。


「生き残りは居ないな?」


 それを確認して一路有馬を目指した。


「平家は居ねぇのかよ!」


 唖然とすることにそこには平氏は居なかった。のんびり後続が追い付くのをここで待つとしようか。

三草山の位置は違えど、後衛であろう山田荘を落として六甲から襲撃するという本筋は同じ。

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