11・初陣なりて候
兄に会ってから僕は鎌倉においては何もすることが無く、奥州との往復ばかりしていた。静は何処へともなくフラフラしているようだが、あまり問い詰めるのも怖いので見ないふりをしていた。
「おい、木曾の御人が上洛しやがったぞ」
ある日、静がそんな事を言ってきた。僕も京へ行こうと思えば行けるのだが、流石にそれは控えていた。
つかお前、居なくなっていたのは西国へ行ってたからかよ。油断も隙も無いなコイツだけは。
静の行動力に呆れていると正式な情報として木曾義仲が上洛したとの報が届けられた。
「京では木曾よりアレの上洛を期待しているらしいが、坂東平定に忙しいアレは動けそうにないな」
静にとって頼朝はアレ呼ばわりである。まあ、仕方ないだろう。
「ちなみに、アレは今すぐにでも上洛したいと周りに言っているらしいが、そうはいっても東海路は源氏とはいえ他の勢力が根を張りすぎているからな。アレも動きにくいんだろう」
実際、武田氏辺りが優勢であって頼朝の工作で何とか権勢を確保してるような状態らしい。
そんな折、京から頼朝へと坂東支配のお墨付きが届き、得体のしれない笑い声をあげていたらしい。
当然だが、それに伴い上洛の支度が行われ、威風堂々の上洛が開始される。
が、あっという間に中止となって引き返してしまう。
「九郎!そなたに代官を命じる」
それは鬼気迫るものだった。出来ればやりたくない。自分が行きたい。そう全身で主張しながらの命令だった。
そんなに行きたいなら行けば良いだろ?行ったところで飢饉で食料が無いから略奪が横行するかもしれんがな。
なぜ、鬼気迫るアレを間近に見てるかって。静のバカがこんな時に居ないからだよ。変装がばれなくて本当に良かった。
「おい、木曾軍が瀬戸内で平氏にやられたぞ。平教経とかいう奴が木曾軍を圧倒していた」
お前は何をやってるんだ?
そう問い詰めたかったがそれどころではなく、京へ向かう準備を行った。
妖装でならばあっという間なのだが、武士団を引き連れての上洛という事で遅々として進まなかった。
「なあ、教経とか言うヤツと戦ってきて良いか?」
全く持ってこいつは何を考えてるのか分らん。いや、狂戦士に常識は通用しない。
とりあえずバカを宥めながらゆっくり京を目指すことになった。
「おい、何で負けた木曾軍は数が在るんだよ。こちとら少数だってのに」
近江に入る辺りでどうしようもなくなった。そりゃあ、奥州勢と僕と静で掛かればどうにか出来なくはないだろう。が、戦いに来た訳ではないハズなんだ。
結局、京に入れないから伊勢で善後策を練ることになったのだが、そこに昔見た顔が現れた。
「遮那王さま!」
いや、今の僕はシャナオーではないんだがな?その顔はおぼろげに記憶があった。確か鞍馬寺で置いて逃げた三郎ではないだろうか?
「三郎か?生きていたのか」
僕がそう声を掛けると喜んでいる。
「よくぞご無事で、私も何とか伊勢に帰り着く事が出来ておったのです」
どうやら三郎は伊勢の出身だったらしく、反平家の蜂起を画策して人集めをしていたらしい。
「旗頭が居らず、決起しようにも纏める事が出来ませんでした。源氏嫡流が目の前に居ることでようやくそれが可能になってございます」
嬉しそうにそう言って伊勢の有力な勢力に声を掛けて回るようだった。当然だが、表向きは静が義経を演じることを三郎にも伝え、公的にはそう振舞う様にしてもらった。
「我らとしては旗頭が居れば構いません!」
源氏ってその程度の存在なのかと思ってしまったが、少なくとも地方の勢力、支配にはその程度でしかないんだろう。
「院と帝が木曾に押込められたぞ」
いちいち戦争ショーを見に行っている静がまたそんな報告をして来た。だから、少しはじっとしてろよ。
それから数日、正式な報が届いたのでアレにもその旨を連絡することにした。ここからであれば船の方が早いかな?
勢力の構築と義仲討伐軍の到着を待って、年越しから少し後、とうとう戦が始まった。
「っしゃ!暴れ回ってやろうか」
さんざん走り回っているバカが元気にそんな事を叫んでいる。少しは落ち着いて欲しいもんだ。
討伐軍との軍議の結果、討伐軍本体は瀬田を攻めるらしい。伊勢の軍勢は宇治へ進撃せよとのことだった。
「宇治か」
僕にとってはそれは知識通りの話で、確か此処が義経の初陣だったはずだ。何か他にもあった気はするが、まあ良いだろう。
宇治へと進軍すると川の対岸に陣が見える。どうやら木曾軍らしいが少数過ぎないか?
「もしかして、何か罠でも仕掛けているのか?」
あまりに敵が少ないので僕は考えてしまった。
「数が少ない?んな事ったどうでも良いじゃねぇか。蹴散らしゃ良いんだよ」
このバカにもはや言葉は通じない。
いちおう大将のはずだが、真っ先に川に飛び込んでいく。違った。飛び越えたよ。
「まて!単騎で駆けるんじゃない!」
僕は静を追いかけて敵陣へと飛び込んでいった。
が、すでに遅かった。雑兵を長刀の柄で弾き飛ばしてアニメのように人が宙に舞う。
「オラオラ、雑兵に用はねぇ。大将出て来いやぁ~」
止めるだけ無駄だった。
そうこうしているうちに佐藤兄弟はじめ奥州勢が揃う。余裕が出来たので川を見るとようやく押っ取り刀で川を渡ろうとする伊勢の軍勢の姿があったが、すでに戦いは終わったようなもんだった。
「チッ、強ぇ奴がねぇ。京だ、京へ行くぞ」
張り合いがない戦いに飽きた静は戦場を放り出して京へと駆けだす。
「僕たちもあのバカを追うぞ。後の事は三郎に任せて置けば良い」
そう言って僕たちは静を追った。
全速で駆ける静に追いつけるのは奥州妖装を身に着けた僅か十騎でしかない。その少数で京を目指し、院や帝が押込められたという寺へと向かった。
「ん?」
僕はふと強力な妖装の気配を感じた。
僕たちほどではないが馬も無く駆ける二騎を発見した。
「止まれ、そこの妖装衆」
だが、まるで止まる様子がない。
静も気が付いたらしく、急角度でその妖装を追いかけだす。野生の勘だけはあるんだな。
「弁慶、こっち行くと粟津じゃねぇか?」
駆けながら静が疑問を口にした。まあ、それがどこかは詳しく知らないが、追いかけるべきは前を駆ける二騎で間違いは無い筈だ。
「どこでも良いじゃないか。あの妖装の内一人は木曾の御仁かもしれん」
そう言うと何やら静が喜んでいた。
まあ、そう言うヤツだよな。
が、二騎の行く先には新たな軍勢が見えている。
「甲斐の連中じゃねぇか!」
静が歯ぎしりしながらさらに加速する。おい、壊れるぞ流石に。
そう思いながらも僕も追いすがる。
「木曾殿とお見受けいたす!」
静が叫んだ。




