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46 犬の人攻略

 新たなる愛の旅人となった私は、改めて攻略対象を考え直した。

 佐藤ゲス人をとりあえずクリアーしたので、残っているのは……。


・都市伝説、高橋先輩。

・犬の散歩の人(推定。二人いるが両方ともに攻略対象なのかは不明)

・担任(推定)

・相撲部(推定)


 とりあえず相撲部はやめよう。色物の香りしかしない。

 高橋先輩もなあ。まず実体を捕捉するところから始めなくてはならないのが、大変危険な香りである。

 担任……攻略対象だとしても、今の私が求めているラブラブ幸せ展開にはなりそうもない。いつも眉間にしわ寄せてるし面倒くさそう。



 ここは、犬の人ね!

 犬の散歩の人に行こう。



 ここで説明しておこう。

 私が『犬の散歩の人』と呼んでいるのは、家の近くでやたら見かける男性二人組である。

 犬を連れているのはそのうちの一人。ラプラドール・レトリーバーといつも一緒だ。


 年齢は大学生くらいだろうか。二人とも上の下、または中の上くらいのビミョウなイケメン。

 犬を連れている方は落ち着いた雰囲気。もう一人の人は少し軽そう。

 どちらも挨拶するとにこやかに返してくれる。

 モブとしては完璧なまでの爽やかさを持った二人組だ。


 問題は、攻略対象となった時に彼らがどのような罠を隠し持っているかということなんだが。

 お願いだから佐藤ゲス人の時のようなのは勘弁してほしい。ああいうキャラはひとりで十分。

 それに晴がその傷口をいっそうえぐってくれた……アレ、いや逆か?

 とにかく晴のことまでまとめて思い出させられるから、あの手のキャラとは今は接触したくない。



 気を取り直して、とりあえず接近を試みてみましょう。

 データは伊藤くんトゥルーエンド後の物を使います。こればっかりですが、一年間鍛え上げ筋肉の鎧をまとい、顔相も変わって巌のように生まれ変わったアバターで佐藤ゲス人以外のキャラを落とせるとは思っていません。

 ということで、かわいい(当社比)女子高生山田サキに戻って攻略スタートだよ!


「おはようございます!」

 登校時に見かけた彼らに、ニッコリ笑顔で挨拶。

「おはよう」

「おはよう」

 笑顔で声を返してくれる二人。


 …………。

 …………。

 あれ。

 これ以上、やることないな。

 仕方ないので、学校行った。



 夕方、また歩いている二人を見かける。

「こんにちは!」

「こんにちは」

「こんにちは」


 …………。

 …………。

 やっぱり、やることないな。

 仕方ないので、バイトに行った。



 というのを一週間くらい続けてみたが。

 もしかしてこのままでは永遠に距離が縮まらないのではないか? という疑問を感じる。

 何しろ、一ミリたりとも距離が縮まっていないのだ。

 このゲームでは攻略対象に近付くことが最初の難関であることは、今までの傾向で何となくは分かって来つつあるが。 



 考えてみれば、私は前からこの二人を攻略対象ではないかと疑っていた。だから顔を合わせれば挨拶をして、何かイベントが起きないかどうかチェックし続けてきたのである。

 伊藤くんを本気で攻略していた時も、グンガニルさんにデレた時も、アイドルルートの時も、佐藤攻略中も、戦闘力を上げるのに必死になっていた時も全て。

 その意味で彼らは既に顔なじみと言って良い。


 にもかかわらず、その全ルートで何の進展もナシ。

 私と彼らはお互いにモブ。通りすがりに挨拶をするだけの関係以上に発展することは決してなかった。



 これは考えるべきところである。

 このまま挨拶運動を一年にわたって繰り広げても、たどり着くのは前に見た『何事もない』ノーマルエンドである可能性が高い。

 その未来を避けるために、私に出来ることとは?



「かわいいですね。あの、その子のお名前、なんて言うんですか?」

 そう! ヤツらは絶好の仲良くなるためのアイテム、『犬』を常にぶら下げているのだ。

 相手の大事にしているモノをホメる、これ、お近づきになるための確実な手段。

「前から可愛いなって思ってて。私、犬、好きなんですう」


 ううむ。あの辛かったアイドル修業がこんなところで役に立つとは。

 自然にキャラを作って演技できる自分がコワイ! 悪女への階段を上がった私!

 ちなみに犬はキライではないが、特別好きというほど好きでもない。



「ハヤテって言うんですよ」

 落ち着いた方(イケメン度やや上)が、ニッコリと教えてくれた。

「ハヤテくんって言うんだ。あの、触ってもいいですか?」

「いいですよ」

 と言ってくれる。

 私は手を伸ばしてハヤテをなでた。


「あ、そいつメスです」

 

 メスかよ! 

 思わずコケそうになった。ハヤテと来たら、オスだろ普通。


「そ、そうなんだ。ハヤテちゃーん、カワイイですねぇ~」

 ひきつりながらも、何とかアイドルスマイルを保つ私。

 こうしてようやく、彼らと私の事実上のファースト・コンタクトは達成されたのだった。

 

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