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25 いきなりのグンガニルさん攻略?!

『無理です。ごめんなさい』


 渾身の女子力を絞り切っての、私の魂のバーニングハートは、あっさりと無効化されてしまいましたとさ。ヘコむわ。ゲームとは思えないほどダメージでかいわ。燃え尽きたぜ、真っ白に。


 いいの。どうせ私の女子力なんてこんなもんなの。これだけ頑張ってパラ上げて好感度上げたはずなのに、ゲームの攻略キャラ(しかもブヨ気味ヲタ男子)にも門前払いされてしまうという、そんな程度の女ですよ私なんて。もう消えてなくなりたいです。



 そして耳に蘇るリアル元カレの最後の言葉。

『咲さあ。ウザいんだよね。頑張ってますアピールも、初めカワイイと思ったんだけどさ。重いわ。自分のことばっかりじゃなくて、もう少し周り見ろよ。俺が今何考えてるとか、気にしたことある? その点アイツはさ、俺のこと分かってくれて受け容れてくれて……(以下新しい彼女のノロケ)』


 あああああああ、重くて自分のことでいっぱいいっぱいのイノシシ女で悪かったわねえ!

 ゴメンナサイごめんなさい生まれて来てゴメンナサイ。でもここに存在してるんだから仕方ないじゃん。あとアンタの新カノ、裏表激しいって入社三ヶ月目で既に女子の間で有名だったよ。だまされてるからね、絶対!



 とか、いらん思い出まで蘇ってきて完璧に鬱状態に陥る私だった。

 それなのに。

「咲、いい調子だねー。好感度どんどん上がってるよ!」

 脳天気な顔と声でおっしゃるゲーム開発責任者。


「どこが?」

 問い返す私の声はものすごくとげとげしい。

「あの展開のどこがいい調子なの? むしろあそこでバッドエンドにならなかったことに驚いたんだけど」

「え? このゲーム、別に告白失敗はバッドエンドじゃないし」

 ケロリとおっしゃる梨佳さん。

「むしろ、そういうのは途中経過じゃない? 山あり谷ありの恋愛を楽しむの。それが乙女ゲームの醍醐味でしょ?」


「梨佳。マスターの時と言ってることが違う」

「だってマスターのシナリオは『穏やかさ』がコンセプトだから」


 じゃあ伊藤くんのシナリオコンセプトは『山あり谷あり』なのかい。

 ああ。コイツの頭ん中、一回見てみたい……と思ってから、正にあの『マニアック』のゲーム世界こそがこの女の脳内なのだと思い当たった。


 梨佳……カオスすぎるよ……。

 そして楽しめねー……楽しめねーよ……。無駄にトラウマだけが増えていくよ……。


 それでも今日も『マニアック』にダイブ。お金のためだ、仕方ない。

 ちなみに私は会社側といろいろ交渉し、あまりに遠い『フルコンプ時の五百万』は賞金的な扱いにしてもらった。だから毎日地道にダイブしていれば一ヶ月あたりおおよそ家賃+光熱費程度のバイト代をいただけることになっている。もちろんそれでも食費もろもろまだ足りないが、その辺りは失業手当でカバーする。

 早くもっとマトモな仕事見付けないと。そう思う今日この頃。




 というわけで今日もお仕事。ゲームにダイブしたのはいいけれど、伊藤くんにいく勇気がすっかり萎えてしまった。

 パンツ丸出しの件でクラスメートからからかわれたりしたけど、それはどうでもいいんだよね。どうせアバターだし。乙女ゲーで主人公アバターのパンチラして誰が喜ぶんだという気もするが、もうその程度ではツッコむ気にもならない。


 伊藤くんは相変わらず怯えた獣状態だし。

 私もどうアプローチしたらいいのかもう分らんし。

 ひたすらシャイモラに心の癒しを求める。ゲームの中でネトゲ廃人まっしぐら。

 グンガニルさんと友情を育むノーマルエンドとかでもいいな。もう、それで十分私は癒やされるから。

 イブは普通にバイトの予約を入れた。



 そんなある日。

「サキーンさんは、クリスマスイブって彼女とデートとかするんですか?」

 とグンガニルさんから聞かれた。

「いやいやいや。彼女なんていませんよ」

 苦い笑いを浮かべる私。

 そもそも女だし。伊藤くん攻略も暗礁に乗り上げてるし。

「じゃ、友達と遊ぶとかですか?」

「いやいやバイトですよ」

 考えてみると淋しいスケジュールだな。乙女ゲーなのに冷たい風が心の中を吹きぬけていくよ?


「仕事熱心ですね」

 いえ。ゲームシステム上の重大な問題点だと思います。

「そうなんだ。俺も学校の仲間とちょっと騒ぐんですけど、先輩たちもバイトがあってすぐ終わっちゃうから、もし良かったらその後に会えるかなって思ったんだけど……無理ですよね」


 へ。


 一瞬思考が停まる私。


 それってまさか、デートのお誘いー? それもクリスマスに?!



 いや待て。グンガニルさんはサキーンのことを男と思ってるはず。それにこの人は攻略対象じゃないのでは?

 待て待て待て。マスターの例もあるし、隠れ攻略対象ということは十分ありうる。

 そもそも梨佳は問い詰めないと攻略対象キャラを教えてくれない。私が何も考えずグンガニルさんと親密になっていくのをニヤニヤしながら楽しんでいる……とか、ものすごいありうる。

 そう言えば今日も『好感度上がってる』とは言ったけど、『誰の好感度』かは言ってなかったぞ?



 また、知らないうちにフラグ立ってた?!

 まさかの、グンガニルさんエンドありなのかーーー?!



「あ。すいません。イヤだったらいいんです」

 私の沈黙に、慌てて引こうとする謙虚なグンガニルさん。

「違います違います! リアルで会ってもらえるなんて思わなかったので驚いちゃっただけで、あの、嬉しいです!」

 とりあえず全力で嬉しさアピールする私。


 でも住んでいるのは近くなのかな。

 と思ってからここはゲーム世界であり、存在しているのは主人公キャラの住む街だけなのだという事実に気付いた。



「あの。私、怒里威夢町というところに住んでいるんですが、分かりますか?」

 と聞いてみる。

 ちなみに怒里威夢町(どりいむちょう)というのは『マニアック』の舞台となる町の名前である。夜露死苦上等すぎて、乙女の夢感がゼロどころかマイナス無限大になっている恐ろしいネーミングである。

 梨佳……恐ろしい子。


「あ、偶然ですね、良かった近くです」

 と返ってくる予定調和なお答え。間違いない。心の拳をグッと握りしめる私。

 これは攻略ルートだ!



 そして私たちは当日の打ち合わせをした。

 私のバイトが終わった後の午後九時に、例のマスターが経営する喫茶店で待ち合わせの約束をする。

 こっちのルートではマスターと私は他人なんだけど、さんざんバイトしたから喫茶店の雰囲気はよく分かっているわけで。自分のホームグラウンドでグンガニルさんを迎え撃とうという肚である。


「じゃお互いにシャイモラのパッケージを持って、店の前で待ってるということで」

「はい。あの」

 深呼吸をしてから、心を決めて伏線を張っておく。

「リアルの僕を見たら驚くかも。僕……きっとグンガニルさんが想像してるのと違うから」

「俺もマジカッコ悪いんで。引かないでくださいねー」

 とかグンガニルさんはおっしゃるが。


 多分、そっちの驚きの方がハンパないと思うよ。何しろこっちはネナベカミングアウトだからね。

 今さらだけどもっと美少女降臨☆なアバターにしておけば良かったかなあ。



 そして当日。

 思い切り気合いを入れた服装(しかしマスターへのバレンタイン攻略時に着たものと同じ)で決戦に旅立つ私を見て、

「山田さん、どうしたの? この時間からデート?」

 とバイト先の人に茶化される。


 ええ、そうですよ。

 いささかの勝利感をもって静かに微笑む私。

 さあ、グンガニルさん! どこからでもかかってこい。

 


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