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105 それはタワシではありません

 クリスマスディナー(含む鍋)は好評であった。

 締めにうどんを投入するころには、みな満足の表情を浮かべている。ちなみに鍋の締めはうどんに限る。私としては、これは譲れない。


「やっぱりみんなで鍋を囲むのっていいよなあ」

 満足そうな小林。

「そうだな」

 肉をハヤテちゃんにやる中村さん。そしてうどんを楽しむ私に、アヤちゃんが目くばせした。待ってアヤちゃん、私、まだうどんを食べたい。


 しかしゲームのイベントというものは、時にプレイヤーの意志を無視してどんどん進んでしまうものなのだった。仕方ない、うどんよりシナリオクリアだ。うどんはバイトが終わったらリアルで食べることにしよう。


 私がうなずくと、アヤちゃんは食器を下げるフリをして立ち上がった。私もそれに続く。

 そして私たちは、キッチンの棚に隠しておいたプレゼントを持って帰ってきた。


「メリー・クリスマス!」

 声をそろえて言う。しかし実際は、アヤちゃんが二回、私が一回かんだので、『メメメリー・ククリスマス!』と、変なエフェクトかかってるみたいになった。


「これはハヤテちゃんに」

 まずは犬へのプレゼント、というのも事前に打ち合わせたとおり。中村さんの好感度の上下はなかなかに繊細なので、細かいところでも犬優先にしておいたほうがいいだろうという私の判断だ。

 アヤちゃんには『まずハヤテちゃんにプレゼントを渡すことで場を和ませ、自分たちの緊張もほぐす』のだ、と説明しておいた。


 プレゼントは犬用おもちゃ。

 理想的なNPC らしく、プレイヤーの犬にいつでも一歩を譲ってくれる優しいハヤテちゃん。どんな無茶なステータスの犬が現れても合わせてくれる良い子である。

 そんなハヤテちゃんは、仲良くなって情報を集めると『犬用おもちゃコレクター』であることが判明する。おもちゃはいくつあっても喜ぶ系。かじって楽しいものと、適度に転がるものが好きらしい。


 ということでチョイスしたのは、『かんでも大丈夫』というぬいぐるみ。

 ハヤテちゃんも大型犬なのでどれだけ持つかは謎だが、二人でかわいいのを選んだ。気に入ってくれるといいなあ。


「ありがとう。良かったな、ハヤテ」

 中村さんが笑顔になる。ホント、この人の頭には犬のことしかないな。しかし犬を優先にしていればいいので、ネタが割れてしまえば扱いやすくもある。


「そ、そそ、そしてこれ、中村さんに、です」

 かみまくりながら、アヤちゃんはプレゼントを差し出す。中は、ハヤテちゃんの写真を使ったマグカップだ。リアルにもあるけど、こういうサービスいいよね。小林みたいに、すぐに割りそうな人相手にはおすすめできないが。


「これは小林さんに。メリー・クリスマス!」

 アイドルっぽい、あざと可愛いふるまいは中村・小林にはあまりウケない(そしてアヤちゃんにはもっとウケない)とわかっているので控えめに。でも少しはかわいさアップするように努力しながら、私もプレゼントを差し出す。


「えー、俺にも? 嬉しい、ありがと!」

 明るく笑い、何も考えていない様子でさっそく包みを開ける小林。

「うわー、すごい。かっこいいね。何これ、でっかいタワシ?」

「……マフラーなんですけど。私の手編みの」


 基本テンションが高いせいで体温も高いのか、小林は真冬でもジャケットを羽織っただけだったりとか、『あと1枚着せたい』みたいな恰好をしていることが多い。そして家庭的な感じに飢えていると読んだので、手編みのマフラーというベタな選択をしたのだが。


 リアル・ゲーム内を問わず手編み初挑戦だったので、シャイモラ(ゲーム内MMORPG ゲーム、『暁のシャイニングモラトリアム』)で手に入る鎖帷子系の防具にも似た、ずっしり重くかつ伸縮性に優れない耐久力の高そうな代物に仕上がってしまったことは認めよう。

 けど、『タワシ』はないんじゃない? こんなサイズのタワシがあるか。あと、クリスマスプレゼントにタワシって、どんな嫌がらせだ。

 

 アヤちゃんと中村さんは普通にプレゼントで盛り上がっているのに、何だよこの小林の反応は。

 私の手芸スキルが低いからいけないの? 私の女子力が足らないの?


「あ、マフラーだったんだ。ごめん。タワシにしてはかっこいいと思った!」

 そして失言をしても気まずさを全く見せない小林。このダイヤモンド級のメンタル硬度、いっそうらやましいかもしれない。


 小林は私の作ったマフラーを首に巻いた。

「うん。重いし、固くてゴワゴワしてるけどあったかいよ! 山田さん、ありがとう!」

 それはホメ言葉なのか? 確かに私の作ったマフラーは、ウール百パーセントなのにふんわり感ゼロで、衝立のように小林の顔の周りに屹立しているのだけれども。


 けれど、小林があんまりいい笑顔を浮かべるので私はつい、

「その……初めて作ったので、あまり上手くできなかったんですけれど。あの、吹き矢くらいは防げると思うので」

 あせって、意味のわからないフォローをしてしまった。くそう、やっぱりオシャレなアイテムというより、シャイモラの防具だよ。敵NPC の吹き矢も投げナイフも防ぐよアレ、たぶん。


「そうなんだ。強そうだね!」

 小林はやっぱり他意のない笑顔でそう言った。なんでだかそれを見つめているのが恥ずかしくなって、私は横を向いた。

 

 

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