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09 林の中の訓練

 ユーグレは、はっとした。


 スナイプに恋愛経験をきかれた。そうか、恋愛に関して経験が薄いということを気にしているのか。だから経験が豊富な人間を求めているのかもしれない。

 二度と婚約破棄されない人間になろうとしている。


 訓練場を見回してスナイプをさがした。


 ユーグレがどれくらい考えていたのか、もう訓練場に姿はない。

 だが遠くへは行っていないはず。

 住居は、兵士たちと同じ側、兵士たちのいる区画にあるはずだ。とにかく大通りへ。


 まだ訓練時間中だったが訓練場を抜け出て、ユーグレは裏路地を通って近道をした。

 狙い通り、ちょうど大通りを歩いてくるスナイプとサクルがやってくるところだった。


 恋愛経験をアピールし、それから……。

 路地から出ようとしたが、思いとどまった。


 いま出ていって失敗したら、今後難しくなる。だが予想のつかない返答をされる可能性は充分ある。

 焦って結果を求めるより、彼女の好み、あるいは生活の特徴などを調べ、それから迫ったほうが良いのではないか。

 ユーグレはスナイプたちの後を追った。



 なぜか二人は、通りからも、住居からも離れていく。どこに行くのか。


 隠れながら追跡を続ける。

 それからふと、なぜ、一緒にいるサクルが矢筒を持っているのだろうかと気になった。矢筒だけだ。

 王女は肩にカバンをかけて歩いている。

 王女が荷物を自分で持つのは普通ではないが、重要な荷物ならおかしくはないか。


 気づけば、町から出た。門番たちにあいさつをしている。

 門が閉まっていく。

 閉じる直前、門番たちは門から目を離し、門を操作する手回しレバーに集中していた。そのスキをついてユーグレも外に出た。


 彼女たちは話をしながら、まっすぐ丘を登っていくようだ。どこに行くつもりか。

 ただ、見晴らしのいい草原だ。追えば気づかれる。

 追わずに突っ立っていれば門番に気づかれる。


 仕方なく、ユーグレは彼女たちの様子を見ながら壁沿いを走り町の入口から離れた。

 町の壁沿いを進んで木陰に隠れる。


 見ていると、彼女たちは林の中に消えた。


 ユーグレはスナイプのカバンを思い出す。ハイキングにでも行くのか?

 矢筒には細長いパンでも入っているというのか?


 どうも変だ。


 その日、ユーグレはずっと陰にひそんで、荷物を届ける馬車の下に張り付いて町の中にもどった。

 ユーグレが帰ってもまだ二人はもどってこなかった。

 


 それとなく仲間にきくと、スナイプたちはたまに町の外に出かけるのだという。

 草原側は安全だし、サクルがついていれば問題ないと判断されていた。

 甘い判断だ。

 魔族がこちら側に来ないのは、経路が寸断されているので集団行動が取れないというだけで、こうしてユーグレが来ることはできるというのに。

 さらに魔族と無関係でも、王女の誘拐を目的とした犯罪集団でもいたらどうするのだろうか。ユーグレは、サクルの戦力に対する印象を上方修正しておいた。


 王女たちは三日に一度、午後に出かけるようだったので、ユーグレは特別な薬を飲んで発熱し、その日の訓練を休んだ。

 すぐ回復したので午前中に馬車の下に張りついて外に出て、林の中で待った。


 午後、狙い通りに出てきた二人は林の中に入っていった。

 街道をそれて、木々の間に入っていく。道はないが慣れた様子で、枝を踏みながら進んでいく。

 ユーグレは慎重に、土か、やわらかい葉の上を歩いた。


 ユーグレは何度も木の陰に隠れた。

 考えすぎだと思うが、スナイプは何度も気にするように振り返りながら歩いていたからだ。


 そしてしばらく進んだ先、林の中で木がすくない広場のようなところでユーグレは見た。


「あれは……」

 スナイプがカバンから取り出したのは、黒く、ゆがんだ形をしている小型の弓。

 あれは魔族の武具ではないか。

 それで射るスナイプ。


 飛び出した矢は、木に刺さった。

 木はたくさんあるからおかしなことではない。

 異様だったのはまず距離だ。三百メートルはある。

 それから望遠鏡で確認して驚いた。

 矢は、先に刺さっていた矢の後部、ノックの部分を正確にとらえていたのだ。


 矢を裂くように矢が刺さり、その矢をさらに、裂くように次の矢が刺さる。


 この距離で、あの弓を使い、そんな芸当ができるということは。


 長距離射撃をしていたのはスナイプ王女だったのか……!?

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