08 ユーグレの任務
希望者に、エスタが個別に訓練をつけていた。
「次」
エスタが言うと兵士が前に出た。
ユーグレだ。まだスナイプがユーグレを気にしていたことは、エスタは知らない。
二人で木の槍を構える。
先は丸まっていて、ほぼ棒だが、要所を打てば骨も折れる。
ユーグレが先に動き、エスタの首を突こうとする。
からみつくように槍を動かしたエスタが、攻撃を止めただけでなく、がっちりとユーグレの槍を止めて動かせなくなる。
と、ユーグレは手を離して前に出て、腰から抜いた木剣で斬りかかる。
エスタは槍を引いて短く持ち、ユーグレの右手を突いた。木剣を落とす。
さらにユーグレは前に出て、左手でエスタの手首をつかむと、体を回転させるように接近して手首をひねる。
エスタの体が回転した。
地面に打ちつけられる寸前、エスタは体をひねって着地。
逆にユーグレを投げて地面に倒すと、首元に槍の先を突きつけた。
「まいりました」
ユーグレが手をあげると、エスタは槍を引いた。
二人とも呼吸が乱れていたが、笑顔だった。
自然と拍手が起きる。
「いいですね。武器に固執せず突き進む動作の切り替えがなめらかで、相手を倒すという目的に集中できています」
「ありがとうございます」
「ユーグレさんでしたか。槍が専門ですか?」
「いえぜひ、弓を教えていただきたいです。あの長距離射撃を!」
「では、訓練が終わったあとにでも」
「よろしいんですか?」
「はい」
「お前、うちの隊に来いよ」
などと言う声もあったが、ユーグレは首を振った。
「いやぼくは、長距離射撃でこの町を救いたいですね」
その言葉に、冷やかすような声が上がった。
ユーグレはさがり、エスタが続けて他の希望者との訓練を始める。
ユーグレはそのまま訓練の輪から外れた。
木陰に移動し、懐から出した、指の先ほどの小さな石を握る。
ぼんやりと光った。
『進捗はどうだ』
石から声がした。離れた場所と会話ができる魔法石だった。このあたりならば魔力は封じられていない。
「ジェイド・エスタリオンから、訓練後に指導を受ける約束を取りつけました」
『よし。任務は覚えているな』
「身柄を拘束、連れ帰り魔族として洗脳し長距離射撃兵として採用するのが最善、できないようなら始末します」
『いいだろう。あの長距離射撃は危険すぎる』
「かなりの戦闘力を保持していますが、魔力を感じないので、近接戦闘は問題なさそうです」
魔力障害がある場所で戦闘が行われるせいか、この町は魔力を持たない者が多い。
『わかった。終わりしだい報告をしろ』
「はい」
ユーグレは石をしまった。
そのとき目が合った。
実際は百メートルほど距離があり、合ったであろうと想像するだけだった。
スナイプ王女だ。
スナイプがユーグレの方へ歩いてくる。
隣には女性兵士。ユーグレは記憶をたどって、サクルという、第三部隊の副隊長だと思い出した。
剣を得意とし、槍相手でも戦える珍しいタイプだったはずだ。
目的はなにか。
さっき、短い接触があった。あのときに好意を抱いたのかもしれないとユーグレは考えた。
それにユーグレは、人間の女からすれば魅力的に映る姿をしている。
話によれば、スナイプ王女は王都で婚約を解消され、こんなところまで連れてこられたという。
相手を見つけて、すぐにでももどりたいと思っているのではないか。
彼女は、エスタに対する人質として使えるのではないか?
「どうされました? スナイプ王女」
ユーグレは笑顔を浮かべた。
「あなた、名前はなんていうの?」
「ユーグレと申します」
「ユーグレは、恋愛経験が豊富?」
ユーグレは、言葉に詰まった。どう答えるべきか。
「人並みですが」
これでいいだろう。さあ、いったいどんな話で好意を持たせればいいか。
「あ、人並み? あんまり詳しくないのね、じゃあ」
スナイプはくるりと振り返り、いま来た道をもどっていく。
……ええ?
…………終わり??
………………失敗した???




