05 これが王女の狙撃
「うーん、やっぱりおいしい」
スナイプは朝食の果物を食べていた。
今日はりんごとオレンジと、スナイプが見たこともない赤い果実で甘みが凝縮されている赤い果物だった。大きさは小さいが、エスタが皮をむいてくれるのでフォークを動かすだけだ。
「ああおいしい。お城で出てくるものよりおいしいんじゃない?」
「本来ならこの町のものを仕入れたいくらいでしょうが、距離がありすぎて、新鮮さが失われてしまうのです」
「ねえ、エスタも食べて。こんなにジューシーなりんご食べたことない!」
スナイプはエスタのフォークで切り分けられたりんごを刺して、口に運んでやる。
エスタも嫌がることなく、スナイプのやることに身を任せながらまだ果物を切り分けていた。
「スナイプ様。昨夜も果物しか召し上がっておりませんが」
「私思うの。果物だけ食べていても、必要な栄養はとれるんじゃないかって」
「好き嫌いはいけませんよ」
「私が試してみるのはどう? 人は、果物だけを食べて生きられるのかどうか。エスタは果物だけしか食べなかったこと、ないの?」
「わたしも一時期、訳あって果物しか食べられない時期もありましたが」
「どれくらいの期間?」
「三年ほどでしょうか」
「そんなに!? はい決まり。人間は果物です」
スナイプが拍手を始めると、エスタはにこにこと見守っていた。
そのとき廊下から、ドスドスと元気のいい足音が聞こえてくる。
「サクルだと思う?」
「どうでしょう」
ノックの音。
どうぞ、とスナイプが返事をすると、ドアが開いた。
「おはようございます! サクルです!」
「知ってる」
「朝食はとられましたか!」
「食べてる」
「終わり次第、ぜひ、来ていただきたいところがあります! よろしいでしょうか!」
「よろしいと言わなければ終わらないんでしょう?」
「はい!」
スナイプとエスタが、サクルについていくと町を出た。そのまま街道を歩く。
来るときに通った、丘に通じるゆるやかな坂道だ。
「どこへ行くの?」
「すぐそこですよ!」
そう言われて到着したのは、丘の上だった。ちょうど、前線の町に来るときに林から出てきて視界が広がった、あの場所だ。
「ピクニック?」
だったら果物を持ってくればよかった。敷物もいるし……。
「ちがいます!」
スナイプの考えをばっさりと切り捨てたサクル。
「今日はこれから、王女に長距離射撃を見せていただきたいのです!」
「ん?」
「あそこをごらんください!」
平原、町の方ではなく丘から見て右手、街道から外れた場所に人の姿があった。
十人いる。距離は五百メートルほどだった。
的も立てられている。
「あそこを弓で狙っていただけますか!」
サクルは言った。
「あの的を?」
「やはり、的が見えるのですね!」
サクルは嬉しそうに何度もうなずいた。
「いかがでしょうか!」
「いいけど……。わざわざ人を呼んで、どうして?」
「王女の弓の力を見せるのです! そうするだけで、王女はこれから、この町に欠かせない人間になるのです!」
「よくわからないんだけど。あなたがやったら?」
「自分には無理ですよ!」
サクルはブルブル首を振った。
弓が苦手なのだろうか、とスナイプはサクルを見つめた。
「まあ、別にいいけど……」
日課の射的をできなくなってもう何日も経っている。スナイプは、なんとなく日課をこなせない気持ち悪さを感じていたところだった。
「やらされるのは、自分の楽しみとは違いますか?」
エスタの言葉がしっくり来た。
「そうね」
昨日もよくわからない射撃をやらされた。あまりいい気分ではない。
「も、申し訳ない! 自分は、スナイプ様の力を教えてやりたいというだけで……!」
サクルが一歩さがって頭を下げた。
「彼女がスナイプ様の今後を考えているというのは本当だと思いますよ」
エスタが言う。
「そう? まあ、お世話になっているし、ちょっとくらいならいいけど」
「ありがとうございます!」
「エスタ」
「はい」
エスタは頼まなくても、上着の内側から黒い弓を取りだした。
矢はサクルが用意していた。
「もういいの?」
「あ、お待ち下さい!」
サクルはなにかポケットから取り出して、大きく振った。やがて光り始めると、待っている人たちの方でも同じように光るものを振っていた。
「どうぞ!」
「はい」
即座にスナイプは矢を放った。
的の中心に当たると、近くの人たちが手を上げてなにか言っている。
光るものをブンブン振り回していた。
スナイプも、ちょっと、なにかストレスのようなものが晴れたような気がした。
「やった! やりましたね!」
サクルが手を叩く。無邪気に感じられる様子に、スナイプは微笑んだ。
「ところでサクルさん」
エスタは言った。
「はい?」
「これは、みなさんをどのように集めたのですか?」
「ふふ、驚くものを見せる、絶対に後悔させない、と集めましたよ」
サクルが得意げにする。
「朝はあまり時間がないので、とにかく集まってもらわないといけなかったので!」
「であれば、スナイプ様が狙撃したと思うでしょうか」
「はい?」
「サクルさんがやった、と考えるのが自然では?」
「は? いえいえいえ、は?」
「王女がやったというより、サクルさんが独自の訓練をし、皆を驚かせる成果を見せた。そう受け取られるほうが自然だと思いますがねえ」
エスタの言葉に、サクルの顔が青ざめた。
「すぐに誤解を解くべきですね!」
と走り出そうとしたサクルをエスタが止め、ささやく。
「飛び抜けた力を持っている王女が、特別に魔族に狙われるリスクがあります。代わりにあなたが矢面に立っていただけますか?」
エスタの言葉にサクルが目を丸くした。
「ねえ、おすすめの果物、まだあるでしょ? 新参者に隠してるようなやつ。それちょうだいよ」
二人の会話を知らないスナイプは、そんなことを言っていた。




