29 のぞみ
ユーグレはスナイプの部屋に入り、テーブルについた。
「魔族が来るの?」
「はい。そこでスナイプ様に手助けをしていただきたいんです。ゼンセンでのように、弓で要所を攻撃してもらいたい」
「かまわないけど?」
「ありがとうございます」
「変なの。私のためでもあるでしょう?」
スナイプは笑った。
「スナイプ様は、この国が好きですか?」
「ええ! この国でのんびり、平和に暮らしたい」
「それがのぞみですか?」
「のぞみ?」
「スナイプ様の、のぞみはなんですか」
ユーグレは言った。
「のぞみ……」
「はい。のぞみはございますか?」
「私は……。私は、のんびり、平和に暮らしたいけれど」
「特別なのぞみはないと?」
「……」
スナイプはユーグレを見た。
「あなたは?」
「わたしは、スナイプ様と、のんびり、平和に過ごすことができればなによりだと考えております」
すこし黙って、スナイプはユーグレを見ていた。
「本当?」
「はい。スナイプ様ののぞみはなんですか?」
「私の、のぞみ。そうね。あなたと同じかな」
スナイプは微笑んだ。
「ありがとうございます」
「ふふ」
「ではひとつだけ、お願いがあります。よろしいですか?」
「なあに?」
「そののぞみ、はっきりと、口にしていただいてよろしいでしょうか」
ユーグレはスナイプを見つめた。
スナイプは目を大きく開いて、それからすこし顔を赤くしたあと、微笑んで、真顔になった。
スナイプが手を差し伸べた。
ユーグレがその手を取る。
「私ののぞみは、ユーグレさんと、のんびり、平和に過ごすこと」
視界がゆがんだ。
いや、ゆがんでいなかったかもしれない。
部屋の様子が変わっている。
スナイプの寝室ではない。おそらくスナイプの部屋だった場所は私室となり、別に二人の寝室が用意されたのだろう。そうだった世界に切り替わったとでもいうべきか。
「そろそろ寝ましょう」
スナイプが言った。見た目は変わっていない。
部屋には大きなベッドがあった。
そこに並んで横になった。
これが当たり前のようだ。
「今日はね、変わった草が生えてたの。ハートみたいな形の葉っぱでね」
スナイプは話を始めた。
ユーグレは適度に相槌を打ちながら聞いていた。
のんびり暮らすというスナイプの、のぞみは叶ったようだ。
そして。
「のぞみはなんだ」
きた。
ゆっくり体をねじると、ベッドの近くに、それ、が来ていた。
スナイプがのぞみを叶えたのであれば、ユーグレは王族の仲間に入ったはず。後からではどうかという不安もあったが、問題なかったようだ。
王族の願いを叶える、それ。
のぞみを聞いてくれるというわけだ。
ユーグレは魔族ではなくなった、という話もあった。
しかし優先すべきことがある。それが叶えられる状況でもある。
「人間をすべて殺せ」
ユーグレは言った。覚悟はできていた。




