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25 夜の会議

 兵舎の会議室に入ると、中は明るかった。

 すでに五人いた。その中にダイジもいた。

 全員、四十代、五十代くらいの年代だ。


 大きなテーブルの上には地図が広げられている。中心に王都があって、端には、駒のようなものが置かれている。外向きの駒と内向きの駒だ。四つずつ、八個ある。


「彼は?」

「前線のゼンセンにいたユーグレ殿です」

「どう思う」

 端的にきかれた。


「魔族にバレてしまったんじゃないでしょうか」

「バレた?」

「力を持って抵抗をしてくるのは前線だけで、そこさえ乗り越えてしまえば好きなようにできてしまうと」

 そう伝えたのはユーグレなのだが。

 伝えてからの行動は予想以上に早かった。


 ドアが勢いよく開いた。

「おい!」

 入ってきたのはレオンだ。


「なにか?」

 エスタが言った。

「魔族がやってきたとはなんだ! 話をきかせろ!」

「いまはちょっと。もうすこししてから、お伝えします」

「なら、どうしてそいつがここにいる!」

 レオンはユーグレを指した。


「彼は前線基地経験者ですから」

「そいつが裏切り者なんじゃないのか!」

 レオンは言った。


 ヤケクソで言っているにしては的を射ている。ユーグレはすこし感心した。


「わたしがですか?」

「急に、これまで伝わらなかった情報が流れているなら、おかしいだろうが!」

「変化は彼が来たこと以外にもあります。ひとつのことにとらわれるのは危険です」

 ユーグレがあえて黙っていると、エスタが代わりに言ってくれた。


「しかし、そいつの出自にはわからないことも多いそうだな!? なぜ、信用できる! 信用できる根拠は、前線での成果だったようだが、それも魔族との共謀であったなら、なんの信頼材料にもならない!」

 いちいち、的確な指摘をしてくる。

 これからは、肉体でケンカを売るのをやめて、頭でやりあったらどうだろう。


「これはどういうことでしょうかね」

 ユーグレは、テーブルの上の地図を指した。


「兵の行動が、よくわからないのですが」

 駒は、それぞれの軍の兵の動きを表しているのだろう。


 戦いが始まって何時間も経っていないらしいが、それぞれの軍はぶつかっていない。

 魔物の軍が、人間の軍の横を通って、中央に向かっている。


「他の地域はわかりませんが、ゼンセンに関しては、毒ガスを使ってゼンセンを滅ぼしてからのほうが、よろしいのでは?」

「……毒ガスに限りがあるのだ。だから、王都を壊滅させるために使えないのだ!」

 レオンが言う。いちいち、なるほどと思えることを言う。


「では、わたしを王都から追放でもしますか?」

 ユーグレは言った。

「いえユーグレ殿が追放されることはございません」

 レオンを見た。てっきり怒鳴るかと思ったが、真顔で黙っていた。


「王都の内情を知った方は、二度とここから出ることはできません」

「は?」

「例外として、王女と結婚するなど、はっきり王家の関係者となられたならば、公務などで外に出ることは認められております」

「そんな話は聞いていませんが……」

「言っておりませんので」

 エスタは堂々としたものだった。


 レオンが近づいてくると、ユーグレの耳元で言う。

「つまり、お前はこのまま王家に入るか、これだ」

 首を切るようなジェスチャーをした。


「なるほど」

「スナイプとは、うまくやったもんだな」

 レオンは、スナイプが特別なことを知っているのか。


「まあ、ベリガルも悪い女じゃない。おれにべったりなところは、いい女だよ」

 ユーグレは、余計なことを言うのはやめておいた。


「スナイプ様をお呼びして、すこしお話します」

 エスタが言った。


「エスタ。その前にそいつを調べろ」

「なにをでしょうか」

「魔族か、そうでないかだ」

「それは……」

「なにかおかしいか? むしろ、そいつが魔族だったほうが、納得できるんじゃないのか?」

 そう言って、小さなナイフを出した。


 魔族の血の色は緑、などと言われているが、いろいろな色がある。

 ここに来てからユーグレは、血が赤くなる薬剤を服用していた。色ではわからないはず。


「ここに血を垂らせ。それでわかる」

 ナイフの鞘をテーブルに置いた。

 小さなくぼみがある。


「専用の魔道具ですか」

 そんなものまで持ち歩いているとは。


「やれ」

 レオンの声。


 誰もレオンを止めようとしない。それが彼らの声でもあるということか。


「はい」

 ユーグレがナイフを取ると、エスタが油断なく姿勢を整えた。

 血を垂らし、結果を見る。もしユーグレが魔族だったとしたら、その瞬間が一番、攻撃される可能性があると知っているのだ。


 まあ、ここで反抗したところでエスタに殺されるか、スナイプに仕留められる未来しか見えない。

 それより、魔族であってもスナイプを愛している、などと訴えたほうが生き残る可能性が増しそうだ。

 魔族に情報を流したという点については、毒ガスを使わせないように訴え、道中、魔族をスナイプに殺されるつもりだった、などと言っておくか。


 うまくいくだろうか。

 まあ、しかし、この状況になったということを喜ぼうか。

 魔族も、見た目の状況だけでなく、王都を壊滅させる案を立てているだろうから。


 ユーグレは、やや諦めて、ナイフで左手の親指の先を切って、くぼみに近づけた。

 赤い水滴が落ちる。


「黒く染まれば魔族だ」

 

 それからたっぷり、三十秒は待った。


 レオンが舌打ちした。

「まあいいだろう」


 ユーグレが、魔族ではない、という結果が出た。

 誰より動揺していたのはユーグレだった。

 自分が、魔族ではない……?

 そんなバカなことがあるか。

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