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23 ベリガル

 夜、与えられた自室でくつろいでいると部屋がノックされた。

「はい?」

 ユーグレが返事をすると、ドアが開いた。


「……どなたです?」

 フードを被って長いコートを着ている。

 

 驚いたことに、入ってきてフードを外したのはベリガルだった。

 昼間と同じような露出度の高い服を着ている。


「ベリガル様? いったいなにを」

「ねえ、お酒あるかしらぁ」

 ベリガルは勝手に進んで来ると、ベッドに座った。

 脚を組む。

 組み替える。

 ぶざまに赤い下着が見えているが。ああいうものは隠すべきという最低限のマナーを知らないのだろうか。


「酒は、そのあたりにあると聞きましたが」

 ユーグレは、棚を見た。一番下の段に酒瓶が並んでいる。


「あるじゃなぁい」

 ベリガルは酒瓶を勝手に取り出すと、ユーグレのところへ持ってきた。


「ああ、わたしは飲まないので」

「あけてぇ」

 渡されたのはワインだった。


「コルク抜きは」

 そう言おうとしたら、ベリガルは体ごとユーグレに倒れ込んできた。


 反射的に体が動いて、軽く掌底を当てていた。


「あっ」

 と思ったもののすでに遅く、気絶したベリガルが腕の中にいた。


「……やばい」


 いや、殺したわけではない。

 目立った外傷はない。

 ごまかしうる!

 ごまかしきる!


 それより、なぜここにベリガルが。

 部屋に入ってきたベリガルの行動を振り返る。


 フードつきのコートで、隠れるようにやってきた。

 体を見せつけるようにしていた。

 相手はユーグレ。

 人間だ。人間の気持ちになって考えよう。


 そうだ、こいつはかつてスナイプの婚約者を奪ったことがある。

 ほとんどの男は女の体を求めるが、女から積極的に体を求めてくる場合もあるという。

 それか。だから下着など見せてきたのか。


 つまり、この女はユーグレに興味を持ったということになる。

 レオンから乗り換えようということか。

 すこし考える。


 ユーグレは、食事のあとにスナイプとすこし話をしたときのことを思い出していた。


『お姉様たちが、ユーグレのことを気に入ってくれたみたいで良かった』

 スナイプは言っていた。

『そうですか?』

『ええ。ユーグレもみんなと仲良くしてね』


 ユーグレはソファに寝かせたベリガルを見た。

 自分で城の中に連れていったらややこしいことになるだろう。細かい違和感にも対応できない。


 ユーグレはいったん部屋を出て、近くの部屋をノックした。

 シンペンが出てくる。部屋着だった。


「どうかされました?」

「急ぎ、エスタ殿を呼んでもらいたい。できるか」

「はい」

 余計なことを言わない男だ。


 五分ほどでエスタを伴ってもどってきた。一礼して、シンペンは部屋にもどる。


「なにか?」

「これを見てください」


 部屋に案内すると、ソファでベリガルはまだ眠っている。

 エスタはユーグレを見た。

「先ほど部屋に来まして。コートで正体を隠してここまで来たようです」

「兵舎は、城内ほど警備は厳しくないですからね」

 エスタはうなずいた。


「なにをしたのですか?」

「彼女が酒を誘ってきたのですが、倒れ込んできて、そのときにちょっと、いや彼女が転んで気絶してしまって」

「転んでね」

 エスタはすこし笑って、ベリガルのあごに触れた。


「折れてはいませんね」

 打ったとバレた? いや、転んで打った、ということだ。慌てるな。

「面倒なことになりますか?」

「ベリガル様が他の男性の部屋で意識を失うということは、よくあることですので。いま使用人を呼びましょう」

「そうですか」

 常識外れの人間で良かった。


「その前にひとつ。失礼ですが、王女に余計な接触はしていませんか?」

「……身もふたもない言い方をすれば、手を出したかということですか? いいえ、彼女に興味はありません」

「わかりました」


 エスタはシンペンを呼んだ。

 それからしばらく待っていたら、男女の使用人がやってきてベリガルを連れていった。眠ったままだったが、コートをかけて男が背負い、去っていった。慣れていると感じたし、シンペンは想像以上にいろいろなことをやらされているようだ。


「そういえば、会食で、王からなにか今後に関する質問を受けたそうですね」

 残っていたエスタが言った。


「ああ、はい。目標があるのかと」

「さしつかえなければ、なんと?」

「争いのない世界をつくりたい、と申し上げました」

 人間が完全に排除された世界だ。


「なるほど、すばらしい」

「いえいえ。スナイプ様がおっしゃっていたことと同じことです」

「王になるのであれば、スナイプ様よりベリガル様をお選びになったほうが、道は近いですが」

「は?」

「ベリガル様は気の多い方ですが、節穴ではないですよ。他の王女から声をかけられましたか?」

「第一王女のギリアジル様には肉でもどうかと会食に、第三王女のビネッド様にはワインでもどうかと誘われました」

「お二方が非常に興味があるものです。別の王女と婚約を結び直すことも、この国では、よくあること、ですよ」

 想像以上にややこしい。


「いや、しかしスナイプ様のほうが近いのでは」

「なぜ?」

 エスタの言葉にはっとした。


 普通に考えて、スナイプのほうが近いわけがない。

 もし近いとするなら、それは、なにか特別な力でも持っているという場合だけではないか。

 願望が叶う宝。

 それを持っているのでもないかぎり、スナイプなど選ぶわけが……。


 いや、現実味のない能力は、あるじゃないか。


「あの長距離射撃で、わたしはこの城に入り込めたようなものですよ?」

 そう言うと、エスタは笑った。


「正直な方だ」

「わたしは、なにもできません」

「ゼンセンでは力を見せてもらいましたが」

「ただの兵士としての力です」

「……スナイプ様の弓の秘密、知りたいですか?」

 エスタの言葉に、思わず勢い良くそちらを見てしまった。


 エスタは微笑みを浮かべている。

 まあしょうがない。実際に知りたいのだから。

「教えていただけるのですか? お願いします」

 ユーグレは素直に言った。


「では参りますか」

「いまからですか?」

「お忙しいですか?」

「いいえ」


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