22 会食
兵士についていくと、ユーグレは個室を用意された。
ただの個室だが、兵舎の、一級兵士が住めるといううちのひとつの部屋だ。
応接室のような部屋と、書斎、寝室。それぞれ広くはないが充分だ。
ゼンセンの三人部屋を思えば快適さに大きな差がある。
「前任者は?」
「ちょうど配置換えになって、空きになっていました」
兵士は言った。
「ちょうど」
「シンペンといいます。ユーグレ様の身の回りのことはわたしに申し付けください」
ひとり、秘書というか、雑用係がつくらしい。
「これからなにをすればいいんですかね」
「敬語は不要です」
「なにをすればいい?」
「これから指示があるはずです。それまでは、婚約者としての役割をまっとうせよ、とのことです」
婚約者として。
そのとき、ドアが開いた。スナイプだ。
「ノックを忘れた、ごめんなさい!」
スナイプの表情は明るかった。
「なにか?」
「今夜の夕食、ユーグレさんも同席するようにって、父が」
王が。
「それじゃあね」
スナイプは去っていった。
横にいたエスタも会釈をして、去っていった。
なるほど。
なるほどなるほど。
かなり、ユーグレの身の回りに起きていることが、スナイプの願望による後押しがされていると感じる。
願望が叶っている。とは強く感じる。
おそらく、一級兵士としての業務には、ほとんど関わらないですむのではないか。
あとは本当に願望が叶う秘宝なのか、確認だ。
気をつけなければならないのは、思っていたような秘宝ではなかったという場合。その注意だけは欠かしてはならない。
できるだけスナイプの願望と争わない行動をとる必要がある。
そして本当に願いを叶えられるとわかったら、奪取し、スナイプを始末する。
たとえどんな願いが叶えられるとしても、殺されるという自覚なしに生きながらえることはできない。それこそ、狙撃だ。
「なにをなさいますか?」
シンペンが言った。
「わからん」
「君がユーグレ君か」
夕食には、王と王妃、それから第一王女から第四王女まで、それと第二王女のベリガルの婚約者、レオンもいた。
「はじめまして、お目にかかり光栄です」
「ただの兵士が婚約者なんて、すごいのねぇ」
ベリガルが言った。
「彼は一級兵士です!」
スナイプが言った。
「あらあら、必死になっちゃって、かわいいわぁ」
スナイプは口を結んだ。
「それはわたしも気になるところですね」
レオンが言った。
「それに見合う活躍をしたという話ですが、実際、一級兵士としての活躍ができるのかは別の話です。なにごとも、見合った場でできることというのはありますのでね」
レオンは優雅に食器を扱う。
それにひきかえユーグレはもたもたと、事前に聞いたテーブルマナーをなんとか思い出しながら、周囲を盗み見るように食事をしていた。
「なにごとも、やってみなければわからん」
王が言うと、レオンは口の端で笑った。いまはダメだと言っている、ととらえたようだ。
一番重要なのは王に気に入られることだ。それで宝物関係を調べられるようになるのがいい。
「王は、チャンスを与えてくださるのですね」
ユーグレは言った。
「無論だ。そうしなければ先はない」
「あ」
ユーグレはフォークを落とした。
拾おうとしたら使用人が素早くやってきて、新しいフォークを置いていった。
「しかし生まれ持った優勢は縮まらない」
レオンが勝ち誇ったように言う。
生まれ持った優勢。
「テーブルマナーの話ですか?」
ユーグレは言った。
「おや失礼? 気にしていらっしゃったかな?」
レオンがにやつきながら言う。
「いえ。テーブルマナーで劣れば恥をかくだけですが、武力で劣れば死にます。まだ良かったと思っていますよ」
王の、息のような笑い声が聞こえた。
レオンがユーグレをにらみつけていた。
「なにか?」
「……調子に乗らないことだ」
レオンが言った。
調子に乗る?
ユーグレは意味がわからなかった。
反応から察するに、バカにされたと思っているのだろう。
だが、王都で重視されるテーブルマナーではレオンが優れていて、ゼンセンで重視される武力ではユーグレが優れている。
そこに、どちらが優位とか、そういうものがあっただろうか。
本気で意味がわからない。
「わたしはあなたを力で倒すくらいしかできない、という意味なのですが」
レオンの歯ぎしりが聞こえた。
「そんなにお強いの?」
第一王女のギリアジルが言った。
「王都に相手はいないでしょう。いや、エスタリオン殿くらいでしょうか」
「エスタ? ふふ、冗談がお上手ね」
ギリアジルが笑いながら、舌なめずりをした。
王女たちが興味深げにユーグレを見る。
冗談?
いや彼は底が知れない。まさかエスタが軽んじられているのか?
それとも、そういう冗談なのか?
わからない。
この人たちは一体、自分たちの暮らしている王都に興味がないんだろうか。




