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15 ごかい

 ユーグレたちの前にやってきたのは、一見、人間の形をしている魔族だ。

 研究者であり、ユーグレと親交もある。もっとも、きちんと思考ができる魔族は少数だから、魔族同士は皆、それなりの関わりがあるのだが。


 メガネをかけた男、はドクタといった。


 スナイプとサクルは、まだ動かない。

 ユーグレは指で信号を出した。ドクタのメガネは視力補強用で、指先の動きもよく見えるはずだった。


 ふ・た・り・は・に・ん・げ・ん

 ゆ・み・ちょ・う・きょ・り・しゃ・げ・き・しゅ

 ドクタの表情が変わる。


「あなたは?」

 スナイプが言った。

「なんだお前ら……。どこから来た」

 ドクタは神経質そうにメガネをさわった。


 ゆ・み・きょ・り・と・わ・ず・つ・よ・い

 け・ん・き・ん・きょ・り・つ・よ・い

 ゆ・み・は・と・ん・ね・る・ま・え・ま・も・の・ぜ・ん・め・つ・さ・せ・た

 

「ここは魔族の施設でしょう? あなたはどうしてこんなところにいるの?」

 スナイプが言うと、ドクタは不快そうににらむ。


 ど・ち・ら・も・か・ん・か・く・て・き・な・ふ・る・ま・い


「まずぼくが質問をしたんだ。先に答えろ……」

「どこからって、トンネルだけど」

「どうやって見つけた」

「ふつうに見えたけど」

「ああ? 道具はなにを使った」

「ねえ、私が先に、あなたは? って質問したのだけれど、それにはいつ答えてくれるの?」

「質問が不明確だ。返答する側に頭を使わせる質問をするな」

「あなたはここの人?」

「そうだ」

「人間?」

「魔族だ」


 サクルがスナイプをおろして、剣を構える。

「魔族だったらなんだ。殺すか? あいにく忙しいんだ。殺すなら研究が終わってからにしてくれ」

「研究って、人間を殺すための魔族の研究?」

「そうだ」

「だったらやめてほしいんだけど」

「人間がここを攻めてくるから対抗してるんだろうが。あっちもこっちもふさぎやがって。おれたちになんの恨みがある」

「人間がたくさん殺されました!」

 サクルが言う。


 や・を・か・い・しゅ・う・の・う・りょ・く・あ・り


「だから?」

「だからって!」

「お前は、家族が犬に食われたら、世界中の犬を殺してまわるのか? ああ?」

 ドクタは舌打ちをくりかえす。


「大変なことだな。一生かけても終わらんだろうががんばれ」

「それはちがいます!」

「どうちがうんだ? 犬はおれみたいにしゃべらないからか? ワンちゃんはさぞかわいいか?」

「それは……」


 会話に意味はない。

 さっきからドクタは服の中にある魔道具を起動し、信号を発している。

 人間には聞こえない。犬の話をしていたが、笛にも、人間には聞こえないが犬にだけ聞こえる犬笛というものがある。それで呼んでいる。


 要するに時間を稼いでいる。


「人間が攻めてきたから、魔族が抵抗しているだけだ。周囲の岩山にまでなにかして、逃げられないようにするとは、魔族を害虫かなにかとしか思っていないようだな」

「実際、害虫じゃないか!」

「本音が出たな。人間という、世界を覆い尽くす害虫が、偉そうにしゃべる」

「なにを!」

 怒らせすぎて、サクルがいまにも斬りかかりそうだ。


「おい魔族」

 ユーグレが言うと、ドクタは目を向けた。


「お前自身が人間を殺していなくても、魔族の殺しに加担してるじゃないか。そこはどう考えるつもりだ」

「知らん。興味もない」

「なんだと!」

 スナイプたちには聞こえていないようだが、魔物が集まってきている。


 は・ん・い・こ・う・げ・き・あ・り・か・く・れ・ろ


 それはドクタからユーグレへの信号だった。

 範囲攻撃。毒ガスや炎、電撃など、一帯を狙ったものだ。

 矢があっても抵抗できまい。

 矢は残り9本か。


 や・だ・と・お・も・う・な

 て・い・こ・う・りょ・く・た・か・し


 各ホールには、範囲攻撃だったり、魔物の暴走や不測の事態に備えて隠れられる場所が用意されている。


 ご・びょ・う・ご・が・す


 ドクタからの信号。


「ちょっと待ってろ」

 堂々とドクタは後退した。

 姿が見えなくなり、サクルは警戒を強めるが追うことはない。


 ユーグレはスナイプたちに気づかれないよう、足音を殺してさがった。

 壁際のボタンを押すと、取っ手が浮き出る。

 ドアを開けて中に入った。

 密閉空間だ。明かりはあるが、やや息苦しい。

 人間なら五人くらいが入れる。こうした空間があと三ヵ所ある。


 ユーグレは深く息をついた。

 やっとゆっくりできる。今日は意味のわからない言動に振り回され続けた。

 これで。


 ドアが開いた。

 スナイプたちが入ってきて、ドアが閉まる。


「え……」

「よく見つけたのね! すごい嗅覚!」

 スナイプもサクルも、好意的にユーグレを見ていた。


「あ、え……?」

「毒ガスが来たの! でも、こんなところ、なにがあるかわからないのに、先に入ってくれたのね!」

「は……」

「ありがとうございました!」

 サクルも言う。


「ええと……?」

「もうしばらく待ったほうが良さそうね」

 十分ほど待って、ドアを開けた。


 部屋の全体に妙なにおいが残っているが、これは中和剤のにおいだ。

 換気もされている。


「裏切り者め」

 入口にドクタが立っている。


 ち・が・う・ご・か・い


 ユーグレは信号を送ったが、特大の舌打ちで返事をされた。

 どうする。

 どうする!

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