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14 研究区域潜入

 ユーグレは、わざと見通しの悪い道を進ませた。スキを見せれば長距離射撃をやりだすと言うに決まっている。


 岩場を歩かせる。すぐにスナイプが音を上げると思ったが、早い段階でサクルが背負って歩くことになった。

「矢筒を持ちましょう」

「これはどうも!」


 なんという幸運か。

 スナイプを背負うサクルの手がふさがるために、ユーグレは矢筒を確保することに成功した。

 このまま拠点に入れる。


 魔物は回避するように歩いた。こんなバケモノ相手にしたら、貴重な資源が失われるだけだ。


 ユーグレは、戦闘研究区域の近くで立ち止まった。


「あの岩山、どう思います?」

 ユーグレは言った。


「結構、高いですね!」

 サクルは元気に言った。

「いや、あそこに横穴が空いてますよね。もしかしたら、出入り口なんじゃないかと」

「おお! たしかに!」

「あまり大きな声を出さないほうがいいんじゃない?」

 スナイプのもっともな指摘に、ユーグレは感動した。


「たしかにそうですね! いえ、そうですね……」

「では、中に入って様子を見てみましょうか」

「どうして?」

 スナイプが言った。


「どうしてって……。様子を見たいと言っていませんでしたか?」

 まともなことを言っている。

 どうした? 進化したのか?


「お腹が空いてきたから、もう帰りたいなって」

「……中で、食料を調達できるかもしれませんよ」

「あっても、肉でしょ? 私、肉は食べたくないし」

「どちらにしても、町にもどるまでにはしばらくかかりますよ」

「ドライフルーツで我慢する」

「せっかく来たんだから、ちょっと見ていきませんか?」

 サクルが言う。


 ユーグレはベルトの槍を確認する。

 いまやるべきか?


「まあ、見るだけなら」

「じゃあ」

 と、サクルはスナイプを背負ったまま入口の正面から入っていく。

 どうかしている。一生隊長になれないだろう。


 戦闘研究区域の広い入口から入っていく。

 玄関の空間から三つに分岐し、それぞれのホールで戦闘力の研究を行う。


 ホールには誰もいなかった。

 天井から、染み出したような形の赤黒い鉱石が垂れている。それが光を放っていた。


「気持ち悪い色の光」

 スナイプは見上げて言った。

 まだサクルの背中にいる。


 ユーグレは気づいた。

「ちょっと、先を見てみます」

 と急いで先の広間に通じるぽっかり開いた出入り口へ向かった。矢筒を返せと言われたらまずい。


 誰もいなかった。

 三十メートル×三十メートル、天井は二十メートルくらいある。

 魔力で強化しているので暴れてもかまわない。


「誰もいない」

 背負われたままやってきたスナイプが言った。


 残りの二つの広間も見てみたが、そちらも使用されていない。

 強力な魔物が入れば、圧倒できたかもしれないのだが。


「誰もいないのね」

「そのようですね」

「じゃあ帰りましょうか」

 運がなかったか。


 いや、最初から運なんてなかった気もする。

 この女を王都に帰らせる方法を考えたほうがいいかもしれない。


 三つ目の広間でユーグレがそんなことを考えていたときだった。


 入口の方から、ぞろぞろと、にぎやかな足音が聞こえてきた。

 最高のタイミングだ。


「なんの音でしょう」

 サクルがさすがに、足音を立てないようスナイプを背負ったまま、出入口に近づいた。


 研究中の魔物の足音は金属をジャラジャラと鳴らしているようでもあり、木を棒で打っているような音でもあったり、直感的にはわかりにくい。

 

「ユーグレ、矢筒を貸して」

 スナイプが言った。

「あ、あー!」

 ユーグレはわざとらしく転んで、大きな声を出した。

 矢筒が転がり、音を立てる。


 魔物たちの足音が止まった。

「すみません!」

 ユーグレは叫んだ。

 これで人間がいると気づいたはず。魔族はすみませんなんて言わない。


 素早く向かってくる。

 よし!


 近づいてきた音にサクルたちは急いで後退した。

 人間の倍くらいの身長の魔物が顔を見せる。


 丸い体に足が十本、目が四つ。

 サクルとスナイプを見て、目が赤く光る。


 加勢することを示すため、ユーグレは頭に角を出した。

 自分は味方だ!


 ……!?

 魔物の口が縦横に裂けて開いた。

 まずい。

 通常の戦闘タイプではない。

 なのに知能が低そうだ。


「毒ガスか!?」

 ユーグレは叫んだ。

 巻き込まれる!


 すると、落ちた矢筒から矢が何本も、すごい速さでスナイプに向かって飛んでいく。

 見ずに受け取ったスナイプが射る。何度も。

 開いた口を縫い付けるように閉じた。


「毒ガスって、これでいい?」

 スナイプが振り返ったので、急いでユーグレは角を引っ込めた。

 ちょっと間に合わなかったので頭に手をあててごまかす。


「あ、だ、だいじょうぶかと……」

 口を縫い付けられた魔物が、混乱したように目をぱちぱちさせ、前後に細かく動いている。


 ついに矢を呼び寄せ始めやがった。

 どうするこれ……。


「なにごとだ」

 声がした。

 ユーグレが知っている魔族の声だった。


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