13 こいつら、早くなんとかしないと
岩山の端、魔族たちが倒れている場所。
足元も岩場で、ここはまだ高低差があって視界が悪い。スナイプたちはまだ地域の様子を把握できていないはずだ。
ユーグレは、ちらりとスナイプの矢筒を見た。
回収した矢も含めて、十三本。まだ戦闘力がある。
「驚いた? 実は、弓矢で遠くの魔族を狙っていたのも、エスタじゃなくて私なの」
スナイプは言った。
それは言わなくてもいいだろう! いまは近距離で戦ってたんだから別だと思わせられるじゃないか! わざわざ、自分から情報を出すな! とユーグレは叫びたい気持ちをこらえた。
「それは、とても驚きですね。あなたのように可憐な女性が、こんなに弓を扱えるなんて」
「可憐だそうですよ!」
サクルがニコニコとスナイプに話しかける。
状況を考えろ。そんな話をしている場合か。
予想しないやり取りばかりで、ユーグレはイライラしてきた。
いや、これはイライラなのか。不安を抱えているだけなのだろうか。
「この弓だと、あまり筋力がいらないそうなの」
スナイプは黒い弓を見せた。
スナイプの腕くらいの長さしかない。素材の反発力としてはまったく足りていないだろう。
弓がくねるように動いた。
スナイプが、はっとしたようにユーグレを見る。
「このことは、他の人には言わないで欲しいのだけれど、かまわない?」
「ええ、わかりました」
「興味がある?」
スナイプは弓を差し出した。
弓がまた、くねるように動いた。
「持ってみても?」
「どうぞ」
弓を確保できる。
サクルの位置を確認しながら弓を受け取った。彼女を始末し、スナイプにこれからの行動を強要してもいいだろう。
が、離してしまう。
おっと、とスナイプが落ちそうになる弓を空中でつかんだ。
「失礼」
「驚く人が多いから。動くでしょ?」
ユーグレは弓を見た。
いま自分がなにをさわったのかわからなかった。弓に、手から体の中に侵入されるかと思ったのだ。
人間にはあまり影響がないのかもしれない。
わけのわからないことしか出てこない。
「では、帰りましょうか」
ユーグレは言った。もうこれ以上、ものを考えたくない。
「ここって、魔族たちが住んでいるところ?」
「そのようですね」
「じゃあ、魔族たちが住んでいるところを見に行く?」
スナイプは言った。
ユーグレにももう、そんなことを言い出すんじゃないかという心の準備はできていた。
「たしかに、ちょっと見たいですね!」
サクルは言った。
お前は止めろ。
「いや、どんな魔物が現れるかわかりません。三人では不安があります」
「このあたりの魔物はだいたいやれますよ!」
サクルは笑った。
「いや、サクルさんがそんなに戦果を上げたっていう話は聞きませんが……」
「自分、指揮するのを忘れて突っ込んじゃうんで副隊長なんですよ! それに最近は出番待ちが多いんです!」
こいつはこいつでヤバい情報しか出てこない。
「でも死んだことはないですよ!」
「そりゃ、いま生きてますからね」
ユーグレが言うと、サクルは満足そうにした。
「はっはっは! これは一本取られましたね!」
「はは……」
なにか、変なお約束に巻き込まれた脱力感があった。
「とにかく……」
ふとユーグレは思った。
なぜ自分は止めようとしているんだ。
逆ではないか。
あまりにおかしなことを言われたせいで逆転していた。
こいつらを誘い込むべきだろう?
「すこしなら、見ていってもいいかもしれませんが……」
「そうでしょう? 安全なんだから、見ていったほうがいいと思うの」
とスナイプ。
「しかし、過信は禁物ですよ。王女。いつでも命を落とす心配をしなければ、生きて帰れないかもしれません。ここは、そういうところだということは、よく覚えておいてください」
「わかった」
スナイプは真面目な顔でうなずいた。
いや、だから、どうして忠告をしているんだ!
くそ! くそ!
もうすこし、こいつらを騙して本拠地に連れ込む満足感を、味わわせてくれ!




