12 危険人物
三人はまた馬車に乗り込み、移動を続けていた。
そしてユーグレは考えていた。
「このドライフルーツおいしい。普通に食べたときはいまいちだと思ったのに」
「そういうものもあるんですよ、スナイプ様」
スナイプとサクルが楽しそうに話をしている。
ピクニック気分なのだろう。
いつまで経っても洗脳が効いてこないのだが。
スナイプは弓が干渉しているとして、サクルに効かないのはなんなんだ? 異常に高い身体能力もあいまって、不気味だった。
かんたんにいえば、気持ち悪いとユーグレは感じていた。
ひらめいた。
前線にもどろう!
もどる気がなかったので、彼女たちを連れ出したあとの、兵士への言い訳などは考えていなかった。これから考える必要がある。
しかし彼女たちといつまでも一緒にいることに、言いしれない不安があった。
価値観が違いすぎているような、大きな違和感だ。
自分の感覚で戦えないかもしれない。
そうだ、と思う。ここで彼女たちと別れ、本拠地にもどるか。評価が下げられ、このあとユーグレの扱いが悪くなるかもしれないが、それはそれだ。
さて、このあたりで用事があるとでも言って、いったん帰ってもらうか。
「ねえ、あれなんだと思う?」
スナイプが岩山のほうを指している。
なにがあるのかは、目視できない。
だが知っている。あそこには本拠地へ通じるトンネルがある。
なぜ見える。
距離的に難しい、というより無理だ。
あれが見えるということは異常に視力が良いということだ。
となると異常な弓の射撃はスナイプ王女がやっている、と思われることへの警戒感を持つべきではないのか?
サクルはニコニコとドライフルーツを食べている。
エスタリオンが必要なんじゃないだろうか?
「なんでしょうね」
ユーグレは言った。
「ちょっと寄ってみない?」
スナイプが言った。
「危険があるのでは」
「見るだけならいいんじゃないですか?」
サクルが言う。
「いや魔物が出るかもしれないですし」
「お任せください!」
サクルが元気に言った。
馬車を向かわせる。
まあ、中に入ろうとは言わないだろう。
「ちょっと入ってみない? こういう洞窟って入ったことないの」
スナイプは言った。
中は暗い。
ユーグレが先頭に立ち、魔法石で先を照らしながら歩いた。最後尾はサクルだ。
ユーグレの身長で、やや頭の上に余裕がある程度。左右は手を広げたくらいの広さはある。
道はゆるく左右にカーブしていて、振り返っても入口の光は見えない。
「そろそろもどりますか」
「中は涼しいのね」
スナイプが無視して言う。
「どうしてこんなところに洞窟があるの?」
「そうですね。不思議ですね」
「こういうところの奥に、宝箱が落ちてたりするんでしょ?」
「いやあ……? あの、怖くはないですか?」
「どうして? 二人がいるからだいじょうぶでしょ」
「そうは言えませんよ。凶悪な、巨大な魔物もいますからね」
「そんなに大きな魔物じゃ洞窟に入れないじゃない」
スナイプがクスクス笑った。
それはそうなんだが、この先にはそういうのもいるわけで。
……まあいいか。
ユーグレは切り替えた。
このまま仲間に入れるというのは難しいようだ。だったら始末しよう。
洞窟から出ればいろいろな魔物がいる。始末するにはうってつけだ。
誘い込まずに勝手に来てくれたことを喜ぶか。
「あ!」
スナイプが声を弾ませた。
洞窟ので出口が見えてきた。
岩山の、大きく凹んだ区画から掘り始めた洞窟だ。それほど長くない。
「なにがあるんだろう」
スナイプはユーグレを追い越して外に出た。
「スナイプ様!」
サクルが追う。
外の魔物は気づいただろう。
人間が入ってくればすぐ対応するはずだ。
サクルもさっきのように簡単にはいかない。腕が五メートルもあるような魔物もいる。
槍のような針を飛ばすような魔物だっている。
ユーグレは巻き添えを食わないようにその場で待った。
洞窟の外がにぎやかになった。多少は暴れられるか。
静まったので、外に出る。
「あ?」
魔物の死体が転がっている。
大きなものも小さいなものも、様々だ。
スナイプは弓を構えていた。
「あ、ユーグレさんも襲われた? 平気?」
スナイプが言った。
「いや、まあ……」
「あ、これ? 実は私、弓が得意なの。あ」
スナイプは真上に弓を射た。
鳥型の魔物に刺さる。
と、ほとんど同時に、ほとんど狙いをつけずに何度も射た。鳥が放った毒羽をすべて射落とした。
そして。
射た矢が戻ってきた。
他にもたくさんの矢が地面に転がっている。
「ああ、使っていたらなくなりそうだから、もどってきたらいいなと思ったら、近くの矢はもどせたの。みんな、こうやって戦ってるのね?」
スナイプは言った。
知らない。いやできない。
いや……。
「でも、びっくりした」
スナイプは、ふう、と息をついた。
どうしようこのバケモノ……。




