ダイヤモンド(米)は斜め上に 前篇
鴉野が時折斜め上の行動を取り、斜め上の考えを採る事は周辺の人間には羞恥の、もとい周知の事実であるが今回もそれなりに斜め上である。
「なんか最近疲れが酷いな」
そう思った鴉野は栄養剤を買うことにした。安物なら100円で買える。まとめ買いなら単価は30円ほど。
「高いな」
鴉野は思った。
「自作しよう」
確かに栄養剤を毎日買っていたら結構な出費になるにはなる。そもそも栄養剤に何が入っているのか解ったものではないのも確かだ。成分表示はあるにはあるが、『健康のために』と称してアプリを食ってばかりの人間が健康だった試しは全くない。自作できるならやりたいという発想である。
鴉野の母、由紀子さんは医者の薬を『毎日アプリ食うヒトと同じと思ってる』と言ってガチギレされたらしい。
『アプリは保険効きません!! 一緒にしないでください! 薬は効果があるからだしているんです!! 』
医者はもっとキレていい。
とはいえ、医者も商売なので風邪程度でも薬を出しまくる。
鴉野の行きつけの医者みたいに『痛み止めなんて症状が治るわけでもないのにイラネェ』と言う患者の言うことを『アハハ。その通りだな』と受け流すほうが珍しいのだ。ドンだけ常時怪我ばかりしているんだよ鴉野。ちなみに、足の裏の時と親知らずの時はさすがの鴉野も服用した。畏るべし親不知。
閑話休題。
栄養剤と言うモノを鴉野は調べてみた。
医者に行けば良く点滴を打たれる。あれの元はブドウ糖が多い。単価は恐ろしく安い。血中に直接糖分を送っているというわけだがまぁその割には高い。その割にはそこそこ効いた気になるので患者も欲しがることが多い。
「じゃ、余った食い物で糖分を補給しよう」
鴉野はこう思った。「甘酒を余った米で作る」と。
知らない人に補足すると一般的な甘酒は酒粕で作るため多少ながらアルコール成分がある。酒に弱い人なら酒の匂いが当然するようになる。酒粕如き、お菓子の代わりだったり、レアチーズケーキのチーズ替わりだったり、甘栗を漬けてお菓子で食べたり(可也美味しい)、味醂の酒粕が超美味しかったりするがまぁ曲りなりに客商売の人間がアルコールの入ったものを飲むのはいただけない。
そう言う訳で、第二の甘酒の出番になる。
糀菌で直接コメを発酵させるのだ。こうすればアルコールは無しだ。
しかも余った米を活かせて便利。甘酒は元々『飲む点滴』と言われその栄養価は高い。妊婦や赤ん坊の食事にも向いているそうだ。使わない手はないだろう。
「少なくとも点滴を受けるよりは良心的だ。点滴の天敵だけに」
下らない事言ってるんじゃない。
さっそくスーパーで買ってきた糀と余った米をお粥にしたものを混ぜて作ってみた。イケるイケる。
「ヨーグルトみたいにふやせないか」
斜め上の発想だが最後に味を引き締めるため本来ならば軽く煮沸するところをしないようにして、冷蔵庫で保管してみたところ数日くらいなら問題ないようだ。これにゲル状のお粥を足して半開きの炊飯器で六〇度保温して一昼夜すればちゃんと糀が仕事を行い、二回前後なら味が落ちないことを確認した。
炊いた玄米をお粥にしてミキサーで砕き、ゲル状にしてから糀菌と混ぜれば更に回数を増やせることも経験上解ってくる。砕くと効率よく糀菌が発酵作業をやってくれる。糀はデンプンを分解して甘みを作るからだ。
こうやっていると鴉野は当然の結論に達する。
「晩酌代を浮かそう」
こうして、鴉野は酒を造ろうと悪巧みするのである。
ちなみに酒造りは違法の為、これから先はフィクションである。念の為言っておこう。この先はフィクションなので製造法及び鴉野のやったことは嘘である。




