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無笑 ~正月から自称ヤクザが怒鳴り込んでくる程度にはどこにでもある日常編~  作者: 鴉野 兄貴


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遅れてきたセカイ系

「お前らの所為で世界が滅ぶのだよ!」

「エコだよそれは!」


 急に叫ぶ仮想人格君。ついに9月の終わりの残った暑気でおかしくなったのかな。


「鴉野さん。世界は温暖化で滅びるそうですよね」

「へぇ。いつの話さ」


「もう現時点でヤバいのです。これは鴉野さんたち大人とタイマンです」

「大人の怠慢だろ。てか一〇年で二酸化炭素排出量削減五〇%達成と聞いてマジ人類すげえと驚いたのだが」


 現時点で普通に沈みゆく国とかあるが少なくとも日本列島がこの10年以内に映画『天気の子』みたいになることはないと思う(※映画見ていない方ごめんなさい)。


「というわけで授業をストライキしたいのです」

「やめとけマジで」


 男たちは二時間かけてタピオカミルクティ屋前に並ぶ。おっさんである鴉野にとって仮想人格の正気を疑うが『鴉野さんにとってのラーメン屋です』と言われて否応なく応じる。


「ざっけんな殺すぞヴォケェ!」



 メニュー見て激怒する鴉野。狼狽する仮想人格。


「世界など滅びていい!」


「……えっとコレは今月の新商品ですよ。玉露ミルクティとほうじ茶ミルクティ。新作で美味しいって評判で」

「玉露を! 熱湯で淹れて! さらに三温糖を大量にブチコミ! その中に植物性油脂食品(※コーヒーフレッシュ)をブッコむなどありえん! 世界は滅びて良いぞ!」


 アホホドの行列の中、睨まれる二人。


「ちょっと。私達は最高の友達と今この瞬間を楽しむべく良い感じにタピるのを楽しみにしているのだからおじさんたち並ばないでよ」

「すいませんでした」


 子供に叱られる鴉野。


「あのさ。まだ友人の警備会社に入る前、ゆっこさんの求めで静岡の茶をふるさと納税謝礼品で手に入れた」


 ニートにとって10800円は結構する。

 サイトの不具合で二回注文した扱いになった。


「一回分しか払ってくれなかった」



 マジできついので回線がヤバい時に変なサイトを使うべきではない。


「それと先ほどの絶叫、何の因果関係が」

「……熱湯で高級茶を淹れないと『おちゃってかんじしないよね~』な母なのだよ。ゆっこさんは」


 まさに冒涜!


「このおちゃ美味しくない。やすものだね」


 母は人の茶でかような妄言を抜かしており。



「水出ししろもしくは氷を入れて冷蔵庫でゆっくりとかしてくれえええ??!」


 鴉野の魂の絶叫がわかるだろうか。

 どうしても熱湯でなくばお茶な気分がしないなら安物の煎茶や高級熱湯玉露を買ってほしい。マジで。


「人の金で焼き肉食いたい」


 それはわかる。


「ひとのいちまんえんで玉露を熱湯で淹れたい」


 戦争である。我は戦争を所望する。



「……まぁわかりました。鴉野さんには烏龍茶かブラックミルクティでいいすか」

「烏龍茶はわからんからお前の言うことに従う」


 なんか国連で16歳の女の子が環境に目を背けるなと演説したらしい。そして学校ストライキデモが世界的に広がっているけど日本では流行らないらしい。


「なんでそんなのはやるの」

「たった50%しか二酸化炭素削減していないからでしょ。世界はそのうち人間が住めない世の中になりますよ」


 まじか。

 消費税が10%になるってことは八円の税金が一〇円になるから実質125%、2.5割の大増税だというと「カラスノくんの言っていることがわからない」と言われたが、その現代人が「50パーの二酸化炭素排出削減はまだ足りない」というのを考えると今の子はみんな超絶大雑把で細かい違いは理解できないのか。


「俺が小学生だかの頃『逆襲のシャア』って映画あったのだけど」


「最近鴉野さん見てましたよね。ずっとみていなかったからAmazonPrimeVideoで」


 エコだよそれはだっけ?



「取敢えずなんかシャアさんが地球をいったんresetしようとして結局皆でやっぱやめするのだが、アレを当時の餓鬼の頃にみたら『そんなに人間アホじゃないし、そんな政治形態組織を支持する奴らはいねえだろ』って考えたと思うの」


 アニメに詳しい人、ちゃんとシャアさんの理念とそれに同調した人々の気持ちを代弁してください。


「それが何か」

「何年もしたらさ……あ。これは当時を知らない仮想人格にはわからんか」


 なんせお前、登場以来毎年出生年が若くなるもん。


「東西冷戦が終結したけど核兵器の脅威は残っていたので人類絶滅はリアルだったし、原発事故が起きたら放射能でヤバいって認識あったし、オゾンホールでオーストラリアが発がんリスクとかもう長らく言われて久しいが原油がなくなるとか言われていていたのさ」


「よくわからないけどそうなのですね」

 なんだよね。

 でもってさ。

 阪神大震災が起きてあれはマジで酷くてさ。

「元々ノストラダムスの大予言ってネタ本が結構売れていたのだが、これがカルトと交わって本当にサリン撒いた連中が現れたの」



 あの空気感は小説にして良いかもしれない。

 2000年問題をクリアした後のフヌケ感も。


「今の若い子、学校ストライキしてもサリンは撒かないでしょ」

「そう思う」

 逆に、学校ストライキって学校が当たり前な国の話だろ。めっちゃお金持ちで平和じゃん。

「世界は滅ぶからって強盗したりしたバカいるんだぞ」


 これまじらしいから笑えない。

 それと比べたら孫世代の人類危機のために就任して三年経っていない大統領を睨める程度には人類豊かなんだなあ。平和になったなぁと心から思うわ。


「オゾンホールがたった一〇年でふさがれたとか宇宙戦艦ヤマトがイスカンダルから帰って一年後並みの復興だぞ」


 すまん仮想人格。このネタはわからんか。


「ああ、ヤマトは最近やっていますから」

「は?」


「グリッドマンもヤマトもフェイトも大人気です」

「……今何時の時代だったっけ」


 リメイクすげえな。



「まぁ俺にいわせりゃ地球の未来は奇声あげるレベルで宇宙も羨んで喜びの歌上げるレベルなのだが」

「微妙にモーニング娘ネタは辞めましょう」


「俺、あわや世界恐慌って時に日本が『先進国カネ出せ。途上国守るぞ』とか『先進国が温暖化対策をし、後進国の発展を支える』って政策されているのをみている」

 地味に凄いぞ日本国の外交。

「地味にアメリカがA.S.E.A.N.の関税撤廃を画策して無茶しだしたら同調するフリして換骨奪胎しアメリカが入らないと成立しねえから入れっていうようになったとか大勝利でね。あと日本の金でアジア銀行作るって言われても元々あるしと断っているし」

 まぁそういうわけでだ。

「だから、その学校ストライキって学校が普通にあってご飯が普通に食える国だからこその娯楽な嫌悪感あるんだ。ごはんなくて学校いけない国は国じゃねえな感じをひしひしと。被害妄想かな」


 大人になる前に皆核だのなんだので死ぬって世界感と比べ、孫ひ孫が温暖化で滅ぶから施政者たちが悪い、我々の未来を返せと確定していない事にブチキレできる気の長い時代じゃない。


「タピオカに並ぶ女子高生レベルで平和だよね」

「まあ最高の友達と並ぶ、その後一緒に飲む前を写真に撮って皆にアピールするのが……」



 ん?


「あ”あ”あ”?! 今のなしなし!!」


 顔真っ赤だけど怖えよ。


 食い物が豊富で、同性愛が蔓延る程度にはものごとに寛容で、趣味や仕事をパートナーより優先できる世の中は出生率低い。逆にそういう世界は平和ともいえる。出生率低すぎると滅びるの一直線だけど。


「じゃ、鴉野さん的には世界は平和なのですね」


 豊かとは思っていないよ。

 資本主義で消費社会である以上、自分が稼いだ金を人にやりたくないのは人情だし、外国に資産を逃がしたいのは当たり前だ。


「まぁそれを認めると先進国内で格差が確定するから、閉塞感を若者は感じると思うぞ。なんせヒャッハーで貧富の格差を逆転できない」


 人類が自らを滅ぼす武器を得る前の世界では戦争には格差是正効果があって戦争を知らない若者がそれを望むことはあり得なくはない。


「でもフードバンクとか、トービン税とか世界はもっとやらなければならないことが一杯あると思うの」



 満たされれば無駄に子供も作らん。戦争もせん。あえて言うなら適正な競争が機能していればなおいいが別になくても人間はダラダラ生きるさ。


「たぶん。いやきっとかしら? わかんないけど」

「だって若者はサリンなど普通撒かんぞ。マジで」


 鴉野 兄貴は未来を応援しています。

 でもやっぱり玉露ミルクティは許せぬ。


「はいはい。すこしあげますから」


 うん。まぁ不味くはないか。イイや。もう。



 その日。鴉野は空腹なのに膨れ上がるタピオカの所為で夕飯が食べられず、朝飯を食う必要も感じないまま翌日も遅刻気味に出勤した。


「やべえwww これまじやべえwww さすが天下一品あっさりラーメン並みのカロリーの鬼だwww」


 うん、このタピオカ! セカイは決壊寸前だね!


 鴉野以外の世界しりのあなは相変わらず平和です。

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