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盤上のピーセス  作者: 悠々楽々
三章
56/196

開幕と怒り

 曠然(こうぜん)たる舞台の上にテルスは立った。

 四角形の舞台に沿うように等間隔に並んだ選手たち。ちょうど正面に見えるフードを被った選手の姿は、テルスから見れば豆粒ほどの大きさだ。直線距離で百メートルは優に超している。


 十二人の乱戦――それも魔法も飛び交う戦い――と考えれば狭いのか、広いのか。とりあえず、間合いを詰めるのには時間がかかりそうだ。

 足場を確かめるようにテルスは舞台を蹴る。が、予想と違う感触がつま先に広がり、視線を下に落とした。


 白い舞台はよく見れば石ではなく、よく均された地面だった。『土』の魔法でも使ったのか、二メートルほどの高さの舞台は磨かれた大理石と見紛うほど美しい。白い大地の上に遮るものはなく、上を見ればひたすらに青い空が遥か彼方まで広がっている。


 静かだった。雨のように降ってくる声援はうるさいほど大きいはずなのに、広い舞台の上では響くこともなく風に流されていた。


「ああ、いいね。こっちの方が居心地がいい」


 能天気なソルの声がフードの中から聞こえてきた。

 どうも、ソルは黒い上衣についているフードから観戦したいらしい。危ないと言っても主人? についてくるいいペット? なのである。

 まあ、保護用魔具キャスリングがあるから、いるのかもしれないが。


『さあ、選手の紹介もルールの説明も、もう不要ですね! 実況は私、デネビオラ・スワンが担当します。出場選手、浄化師の実力共に過去最高と謳われる今回の騎士選定(セレクション)。やはり、注目は浄化師なのに出場している四浄天テトラ・へクスのミユさんでしょう! 先輩、なんでそこにいるんですか! でも、観戦する方としてはおおいに盛り上がります!』


 予選のときと同じ甲高い声が、静寂を破って舞台に響く。声援と違ってこちらは魔法でも使っているのか、舞台の上にまでしっかりと届いていた。試合中もずっと喋られると、ちょっと邪魔そうだ。


「浄化師がいるそうだね」


「らしいよ。一番強いんだってさ」


 出場選手がどんな戦い方をするかはティアに教え込まれた。しかし、対策はしたといっても全員は無理だ。特にミユ・リースのような戦い方の人は対策が難しい。


「なんか、『小さな要塞とか城が迫ってくる感じ』って聞いた。そんな怖い人がいたら教えてくれ」


「ふむ。まあ、浄化師なら『浄』を使えばすぐに分かるだろう。僕が教えるまでもないさ」


 最初はどうかと思ったが、ソルがいてくれて良かったかもしれない。まったく縁のない、落ち着かない場所で、見知った存在が近くにいることは助かる。テルスの緊張も大分、解れてきていた。


『それではいよいよ開始の時間です!』


 歓声。そして、舞台上の緊迫した空気に観客が徐々に静まっていく。高まる緊張がはちきれそうになった瞬間、司会はありったけの声で合図を叫んだ。


騎士選定(セレクション)本戦……開始っ!!』


 合図と共にテルスは一陣の風となった。

 歓声を追い風に狙っていた標的を探し、舞台を駆けていく。しかし、テルスが誰かに狙いをつけているように、テルスもまた狙われていた。


「危ない! 僕が死ぬ!」


「いや、避けるから!」


 テルスに迫るは一条の光。

 耳元の細い悲鳴に呆れながら、テルスは余裕を持って正面から迫る突進を躱す。だが、安心するのはまだ早かった。


 なんか、魔法がいっぱい降り注いできていた。


 まずは挨拶代わり。

 そんな軽い気持ちで各々が中位くらいの魔法を放ったのだろう。

 

 なんて理不尽。俺は中位だってきついのに。文句を噛みしめながら、【魔弾】の流星群に追いかけられ、襲ってくる水の刃をかい潜り、振り下ろされた隕石と見紛う火の玉にテルスは大きく後退した。


(あ、危なかった……)


 当たらなかったとはいえ、気は抜く暇はない。

 最初の相手が爆発で巻き上がった粉塵の奥から姿を現した。


「はっはー! 一番手はこの俺が貰った!」


 粉塵が少し晴れた先にいたのは筋骨隆々の大男。上半身は裸。下半身は半ズボンというよりパンツに近い。おまけにボロボロのダメージパンツである。

 あと一歩踏み出せば、変態の道を征くであろう男は何も恥じることはないとばかりに、天に向かって吠えるように笑っていた。


「……あれは?」


「ファスター・モーニン。マテリアル《Ⅲ+》。見た目通りの人」


「ああ……人は僕が寝ている間に……その、進んでいるんだねえ」


 むしろ裸に近い分、あれは退化している気がする。

 そんな言葉を何とか飲み込み、テルスは舞い散る火の粉から離れるため、さらに後ろに下がった。

 火の粉の出どころはファスターの武器。

 人の腕程はある太い鎖を頭上で回しおり、その先端についている火の玉からは、まるで線香花火のように火花が零れていた。


「面白い魔法だ。火の玉を作って飛ばすのではなく、あの太い鎖の先端に固定しているのか。そして――」


 ファスターは大きく鎖を振り下ろし、火の玉を舞台に叩きつけた。

 先程とは比べ物にならない爆音。四方八方に散っていく破片と粉塵に、盤上の駒たちもまた散っていく。その姿も舞い上がる粉塵に視界が遮られ見えなくなっていった。


「火の玉は衝撃で爆発すると。いやはや、初めてこんな魔法の使い方をする人を見たよ。ユニークにもほどがある。で、テルス、最初の相手はどうやら決まったみたいだよ」


「そっか……まあ、運は悪くないか」


 テルスの眼前に残ったのは二人。

 

 爆心地で佇むファスター・モーニンと、

 

 長槍を振り回し粉塵を払うヴァン・スタッグ。

 

「まったく、これだから田舎者は困る。神聖な舞台に無駄な攻撃をしないで頂きたい。野蛮な駒者(ピーセス)


 ため息とともにヴァンは長槍をくるりと回し、構えを取った。

 夜会での出会いを思い出す、やたら気障な仕草。しかし、テルスにはその仕草がヴァンに似合って見えた。

 こんな戦いの場でもその茶髪は綺麗に撫でつけられ、上質そうな服や輝くような鎧はまさに騎士の姿だ。見た目やイメージで騎士を選ぶならば、テルスは大人しく敗北を認めるだろう。


 しかし、全裸に近いもう一人の駒者(ピーセス)はヴァンの騎士らしい佇まいを意識することはないようだった。


「はっ、この歓声が聞こえねえのか、おい? 盛り上がってるじゃねえかよ。観客も大満足ってもんだ。んで、まずはお前らが俺の餌なわけだが、どうする? 同時にかかってくるかい?」


「その必要はないな。何故か?」


「あ、んなもん――」


「自分の魔法の余波で傷つくような未熟者など、取るに足らない相手だからだ」


 返答を遮り吐き捨てたヴァンの言葉通り、ファスターの剥き出しの体には小さな傷ができ、僅かながら血も流れている。

 当然の帰結。ファスターは信じられないことに、自身にほど近い場所であの火の玉を炸裂させていた。熱や破片、そういった爆発の余波を避けようとは最初から考えていないようだ。

 その証拠はファスターの体に刻まれている。小さな古傷や少なくない火傷の痕があの無茶な行動が日常茶飯事であることを示していた。


「自分の魔法も耐えられなさそうな奴がよく吠えるこって。それにこれがいいんじゃねえか。癖になるぜえ……どうだ、試してみるかい?」


 お互いのことしか見えていないように二人は睨み合っている。

 そんな二人にとりあえずテルスは【魔弾】を撃った。あわよくば脱落しないか、という淡い期待を込めて。

 だが、流石は本戦に参加している実力者。ファスターはハエを払うように鎖で防ぎ、ヴァンは体を反らし回避した。


「くっ、会話の途中で攻撃とは無作法な」


「いや、もう始まってるし。悠長に会話している方が悪いと思う」


「そりゃそうだ! なら、とっとと始めるとしよう!」


 テルスとヴァンを同時に薙ぎ払おうとファスターの鎖が振るわれる。

 空気ごと押しつぶすような勢いで迫るモーニングスター擬き。だが、こんな大振りな攻撃では当たるどころか隙でしかない。

 屈んでファスターへ突進していくヴァンに続こうとすると、テルスの視界の端で不自然に火の玉が揺れた。


「うわ」


 先端の火の玉が小さく爆発した。それにより鎖が蛇のようにうごめき、テルスへ向かってくる。読めない。躱そうにも、どこに避ければいいか分からない。


(【魔壁】……防げるか?)


 咄嗟に魔力でできた壁を張り、テルスは数歩だけその場から下がった。その後を追うようにして迫る火の玉は、しかし、鎖に当たった【魔壁】によってその挙動を変え、テルスではなく地面を砕くにとどまる。


「器用な!」


 ヴァンの驚いた声が聞こえる。だが、それはテルスに向けたものではない。

 ヴァンの長槍はいつの間にかファスターの鎖に絡めとられていた。テルスはその瞬間を見ていないが、どうやらヴァンの攻撃は失敗に終わったようだ。


「あんたの攻撃は速いが真っ直ぐだ。出直してくるんだな、貴族様っ!」


 槍を左脇に挟み固定したファスターは大きく右手の拳を振りかぶる。あの巨体と巌のような拳、盛り上がる筋肉を見ればその破壊力の程は想像できる。が、


「思慮が足りないな。何故か?――槍だけでこの場に立てるわけがないからだ」


 嘲りと同時に、暴風が炸裂した。


「うおおおう!?」


 『風』の魔法に吹き飛ばされ、粉塵の向こうへ消えていくファスター。その魔法は奇しくもファスターの火の玉に似た炸裂の仕方だった。

 ヴァンの魔法はテルスが見たところ、自身の周囲に集めた風を放出し、加速することが主な使い方。今のはそれを一気に解放したもののようだ。


 それはつまり、今のヴァンが無防備ということに他ならない。


「【魔弾】、【魔弾】、【魔弾】……」


 灰の光が次々と閃く。無駄弾はない。狙いは全て急所という清々しいほど容赦のない奇襲が、ファスターを吹き飛ばし口元に満足気な笑みを浮かべているヴァンを襲う。


「くっ、不意打ちとは、君は誇り、っというも、のがっ、欠っ如している、な!」


「そんなこと言われても……」


 【魔弾】を防ぐ間もヴァンは文句を忘れない。一体どう攻撃すれば満足なのか。これでは正面から合図を出して攻撃しても文句を言われそうだ。そんなことを考えながら、ヴァンの背後に回り込んだテルスはその首を刈ろうと刀を振るう。


「なっ!? 【突風解放(ブラスト)】!」


 ためらいのない一撃に怯んだのか、ヴァンは風を解放した。しかし、その規模は先程の爆風に比べると弱々しい。ヴァンの魔力に気づき後退したテルスには微風しか届かない。


(分かれば風も躱せる、かー)


 冷静にテルスはヴァンを観察する。

 【魔弾】を防ぐ姿に余裕はなかった。対して『風』の魔法はかなり洗練されていたように思える。魔法はよく使っていても、近接戦闘の実戦経験はそうないのかもしれない。

 どう攻撃していこうか。

 テルスはいつもの森にいるかのように自然体で、ただ、標的を仕留める方法だけを考え始めた。


「はあ、はあ、まったく何なんだ君は? あまり、私の邪魔をしないでほしいのだが。君みたいなマテリアルすらない者を倒しても騎士になれ――」


「聞いておきたいことがあるんですけど」


 ヴァンの声を遮るようにテルスは問いかける。憤慨した様子のヴァンだったが、テルスの鋭い気配に開きかけた口を閉ざした。

 人ではなく魔物と対峙している如き気配。夜会のときと同一人物とは思えぬほど、テルスの姿は例えようのない不吉さに満ちていた。


「貴方は騎士になって何をしたい?」


「……なんだ、そんなことか。決まっている」


 それはヴァンにとっては取るに足らない問いかけだったのだろう。緊張が緩んだのか口元を綻ばし、ヴァンは笑みを浮かべた。そして、大仰に両手を広げ語り始める。薄く粉塵が覆うこの舞台で隠すことなど何もないとでも言うように。


「私にとって騎士になることこそが目的だ。そこから先は何もない。何故か?――それだけが全てだからだ。そう、この世は肩書が全てなんだ。騎士の称号さえあれば、我がスタッグ家にはさらなる財と名誉が約束される。そして、都合の良いことに対価すら支払うことなく、それらが手に入る。これで手を伸ばさない馬鹿がいると思うかい?」


「……ようは、ルナ・スノーウィルの望みはどうでもいいと」


「ああ、あの戯言か。まったく理解に苦しむよ。何故、わざわざ苦難に溢れる道を進もうとするんだろうか。ほら――」


「折れた翼で空を飛ぼうとする鳥は、籠に入れておいた方がいいとは思わないかい?」


 そうヴァンは言ってのけた。自身の正しさに曇りがないと信じているかのように、表情一つ変わらない無理解と無関心が塗りこめられた目で。


 ルナの願いを知ったうえで、この男はこちらの方が幸せになると断じた。そこにルナの理解など欠片も求めることなく、彼女の目に宿った想いの一つも知ろうともせずに。

 ヴァン・スタッグはルナの望みを叶えることはない。

 それが分かれば、もう用はなかった。


「確かに、そうかもしれない。でも――」


 その言葉が一つの正答だと理解はしている。その道の先に苦難が待ち受けているのなら止めることも優しさだと。


 しかし、人には身を灼かれようと焦がれるものがあるのだ。踏み出すこともできず抱えたままの願いもあるのだ。忘れられない想いがあるのだ。それすらも知らない者が、理解もしようとしない者が、分かろうとしない者が、


――勝手に人の道を決めるな。


「お前の隣にあいつがいるのは見たくない」


 その声はヴァンのすぐそばで聞こえた。

 瞬きの間に間合いを詰めたテルスにヴァンは目を見開き驚愕する。しかし、声を上げる時間は残っていない。

 声だけでなく、数発の【魔弾】がヴァンの身に迫る。だが、ヴァンもマテリアル《Ⅲ+》の実力者の一人。槍を舞うように振り回し、【魔弾】を全て撃ち落としていく。


 もっとも、それだけでテルスの攻撃は終わらない。もう標的は捉えている。あとはいつもと同じ手順を踏めばいい。森で人型の魔物を追い詰めるように一手ずつ、一手ずつテルスは詰めていく。

 最後の弾丸を撃ち落としたヴァンに、テルスは大きく刀を振り上げ斬りこんだ。


「ふっ、あま、いっ!?」


 しかし、大上段の構えはフェイント。上がった槍の防御を潜るようにしてテルスはヴァンの足を狙う。意表を突いた攻撃にヴァンの悲鳴が噛みしめた歯の隙間から漏れていた。


「何度、攻撃しっ、ようと……!」


 風の放出。ヴァンは瞬時に浮くことでこれを躱す。すぐ真下を通り過ぎる鋼の光と、ためらいの欠片も感じない空を切り裂く鋭い音。

 思わずといった様子でヴァンは顔をしかめるが、まだテルスの攻撃は続いている。咄嗟の行動にバランスを崩し、宙を泳ぐその体へ今度は至近距離から【魔弾】が放たれた。


「何故、かっ!? ま、【魔壁】!」


 深緑の【魔壁】が灰の【魔弾】を防いだ。【魔壁】には罅すらなく、その堅牢な盾に安堵したのかヴァンの口元に笑みが浮かぶ。


 だが、テルスの攻撃は終わっていない。


 自分の、それも至近距離に発現した【魔壁】により、視界は極端に狭まる。素早くヴァンの死角へと回り込んだテルスは首を貫く勢いで刀を突き出した。


「ぶ、【突風解放(ブラスト)】ォォオオ!」


 それに気づいたヴァンはあまりに迷いのない殺気に叫んだ。離れろという一心で渾身の魔力を込めたのか、ファスターの巨体を吹き飛ばした風よりは弱いものの、人ひとり吹き飛ばすには十分な突風が吹き荒れる。


――【道化の悪戯(ジョーカーズ・トリック)】ディバイド、バック。


 しかし、無情にも反撃の突風は斬り裂かれた。


 一閃。


 突きから刀を返し袈裟斬りに振るった一刀。

 それにより、風はテルスのことを避けていくかのように流れていく。それだけでなく、風はヴァンを裏切るかのように吹きすさぶ。自分の風で身動きができないヴァンはテルスの蹴りに大きく後ろに突き飛ばされ、


「う、おおおおっ! 【旋風狂車ニンブス・チャリオット】!」


 一切の余裕を捨て、切り札を切った。

 風を纏った神速の突進。狂ったように風は荒れ、渦を巻きながらヴァンへと集束していく。そして、集めた風が炸裂することでさらにその一撃は加速する。憐れな標的が貫かれ、狂風によって四散する姿を誰もが幻視するような一撃。


「――速いけど真っ直ぐ、か」


 その声はヴァンに届いただろうか。交錯は一瞬。終りはあっけないほど静かなものだった。


 半歩。

 風をすり抜けるようにして躱したテルスは、振り返ることなく走り始める。


 その背後では意識を失ったヴァンが倒れていた。保護用魔具キャスリングの効果も切れているだろう。

 すれ違いざまに首元に叩きこんだ一撃。それはヴァンの加速の勢いと相まって、必殺の一撃へと昇華した。ただ、テルスの方も無傷というわけにはいかない。


 痺れた手の感触を確かめるように握りしめる。

 キャスリングはあくまで魔力でできた鎧のようなもの。衝撃全てをなくすことはできない。

 あの勢いに手を出すのはいささか無謀ではあった。だが、あの絶好のチャンスを見過ごす気はテルスにはなかった。


「君にしては珍しく怒ってなかったかい?」


「……ちょっと」


 フードの中からの問いにぶっきらぼうに答える。

 故郷を解放したいと告げたルナの寂しそうな顔。それを無意味と断じられることにいらついてしまった。それに、いくら無謀と言われようと歩みを止めなければ、いつか想いは届くのだとテルスは信じていたいのだ。


――トリックの皆が笑う姿が見れるのだと。この先にルーンが背を押した未来があるのだと。


 だから、最初から全てを諦めるようなあの言葉にむきになってしまった。


「ふうー、冷静に、冷静に。落ち着かないと勝てるものも勝てない、と……」


 テルスは視線を素早く走らせ周囲を確認する。

 近くで戦っているのはファスタ―だろう。火の玉が宙を踊り、爆発の粉塵で対戦相手すら分からない……迷惑である。

 その他にも舞台のいたるところで参加者が衝突しているが、第三者の不意打ちを警戒してか派手な技は使っていない。これでは誰が誰かも分からない。


 折角、自由に奇襲ができそうなのにどうしようか、と考えるテルスは妙案を思いつく。

 分からないなら、分かりそうな奴に聞けばいいと。


「ソル、俺が勝てそうなのと、勝てなさそうなのは? あと例の浄化師はどこ?」


「僕に聞く当たり君も性格が悪い。というより、君は戦うとき性格が変わってないかい?」


「そうかなあ。いつもと一緒だと思うけど」


「……自覚ないんだね。えーと、一番勝ちの目が見えなさそうなのがその浄化師だ。かなり離れたところにいる、フードを被った白い服の子だよ。あとは、雷を使うエルフ、青い炎の男なんかも魔力が多く、強いだろうね……そして、そこの男も間違いなく強者だ」


「――よう、テルス」


 その声はテルスの正面から聞こえてきた。先程のヴァンの魔法でこの辺りの粉塵は完全に晴れた。遮るものは何一つない。


 メルク・ウルブズとの再戦が始まろうとしていた。


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