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盤上のピーセス  作者: 悠々楽々
幕間【二】
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エルフの森の人形姫と悪戯白鼠 3

 アルンとネズミが出会ってから数週間。

 箱入り娘は今日も悪友と一緒に頭を悩ませていた。

 べつに勉学に励んでいるのではない。深刻な悩みがあるわけでも、重大な問題が立ち塞がっているわけでもない。

 ただ……


「だからさ、もっと派手なことをしようよ。また花畑でも作っちゃう?」


「そうだね。今度はもっと変わった色の花に挑戦しようか」


 次の悪戯を考えているだけである。

 半分こにした林檎に噛り付きながら、一人と一匹はしょうもない予定を大真面目に話し合う。

 出会ってからまだひと月も経っていないというのに、アルンとネズミはもう両手で数えられないほど色んなことをした。


 一夜にしてあまりにアバンギャルドな庭を作り出して庭師を困らせたり。

 屋敷内に花畑を作ってメイドたちの顔を引きつらせたり。

 ルーンが見たことがなかった虹を作るために局所的な雨を降らし続けたり。

 風でボールを落とさない遊びをして、屋敷内を葉っぱだらけにしたり。

 

 もう、使用人たちはお転婆になってしまった箱入り娘とその悪友を止めることを諦めている。早くこの屋敷の主たちが帰ってこないものか、と祈る毎日だ。


「ん~、青色の花なんかどう? 私、見たことない!」


「え、青い花なんて森にいくらでも咲いているじゃないか。まったく、世間知らずには困ったものだよ」


「は? じゃあ、ネズミくんは何色がいいの? さぞ、珍しい色を提案してくれるんでしょうねえ」


「べつに一色にこだわらなくてもいいじゃないか。一つ一つ花弁の色が違うなんていうのはどうだい?」


「ふ、ふーん、中々いいね……でも、ネズミくんにそんな器用なことできるの? 私より精霊魔法が下手だもんなあ、精霊なのに」


「は? 何をたわけたことをぬかしているんだ、このちびエルフは」


「は?」


「は?」


 一触即発の空気に精霊たちがざわつく。

 この一人と一匹は仲良しだが、喧嘩も多い。こうして衝突するのは悪戯の回数を優に超えているだろう。

 しかし、今日は精霊が屋敷内を暴れ回ることはなかった。

 屋敷の使用人たちの願いが届いたかのように、閉ざされた門が開く音がした。











「父さま、母さま! おかえりなさい!」


 持ち望んでいた音が聞こえた瞬間、窓から飛び出したアルンは満面の笑みで両親に勢いよく抱き着く。


「おっと。ただいま、アルン……その様子なら元気にしていたようだね」


 文字通り飛びついてきたアルンを受け止めながら父、シャルルは苦笑を零す。

 母、ジュディも元気すぎる娘にあらあら、と笑みを浮かべていた。

 容姿も、その笑い方もよく似ている家族だ。違いなんて、少しだけ色合いが異なる緑の目くらいのもの。

 体の大きさを含めてそっくりな家族にアルンの後ろをついてきたネズミも目を丸くしていた。


「おや、そちらの精霊様は? アルンのお知り合いかな」


「うん、友達! すごいんだよ、この精霊のネズミくんはね……」


 アルンの「ほら、早く喋って!」と聞こえてきそうな視線に、ネズミはため息をつきながらその小さな口を開いた。


「はじめまして、エルフの族長。そちらの箱入り娘の暇つぶしに付き合わされている精霊だ」


 白いネズミの礼にアルンの両親は驚く。

 エルフの族長といえど、人語を解す精霊は予想外だったのだろう。


「あらあら、精霊様とお話できる機会なんてもうないかと思っていたのだけど……」


「そうだね、まさか王都以外で……」


 何だか少し怖いその視線にネズミは後ずさる。

 だが、自分よりも友人に興味を持つことを娘は許さなかった。


「ねえ! 外はどんなだったの。王都のお話をしてよ!」


 服を引っ張ってアルンは両親に外の話をせがむ。


「……そうだな。王都は広くてすごかったぞ」


「ええ。人も多くて建物もいっぱいあるのよ」


 返ってきた言葉にアルンは首を傾げる。

 少し暗くなった笑顔、ぎこちない両親の言葉。

 何だかこの話はしない方がいい気がする。

 アルンは幼いながらも、王都で何かあったのだと察した。そして、それがおそらく自分にとって都合が悪いということも。


「あ、あのね、ネズミくんと話していたんだけど――」


 そうして、話を逸らすようにアルンは友達との日々を語ろうとするが、


「な、なに?」


 アルンの声は爆音に遮られる。

 村から上がる黒煙。

 それはエルフの森ではほとんど見ることがない火の気配だった。

 森を愛するエルフたちにとって、失火など自然を傷つける行為は重罪に値する。こんな爆発がエルフたちの村で起きるはずがないのだ。

 爆音と緑が燃える匂いにアルンは強くシャルルの服を握りしめる。


「族長!」


「何があった?」


 息を切らして村から駆けてきた男にシャルルは鋭く声を発する。


「ヴォルテの奴が遅れて帰って来たんです! 血だらけだったから手当しようとしたら――」


「――待て。ヴォルテだと。それはフードルのことか?」


「は、はい」


「すぐに村の皆を避難させろ! 戦える者もだ・・・・・・! 絶対に私とジュディに加勢するな!」


「え、あ、何が……」


「フードルはもう死んでるの・・・・・! 王都であいつと戦って!」


「いや、でもあいつは確かに……」


 村の男は明らかに困惑していた。

 それはアルンやネズミ、騒ぎを聞きつけて外に出てきた使用人たちも同じだ。

 何が起きているか分かっているのはシャルルとジュディだけ。


 そして、それを説明する時間はなかった。


「――みつ、けた……」


 いつの間にか、門の向こうにそれ・・は立っていた。

 フードル・ヴォルテ。

 古くからハーレクイン家に仕える森の守り人の一族。

 そして、シャルルとジュディと共に王都に向かった一人だ。

 アルンも屋敷に来たフードルと話したことがある。面倒見のいい、優しい人だ。しかし、今のフードルにかつての面影はない。


 嘲笑を浮かべた表情や血に染まった服だけじゃない。

 エルフの目はその体に纏わりつく瘴気も映していた。


 父や母にある残滓や、魔物と戦った村人に付いているそれとは比べ物にならない濃さ。

 まるで魔物と対峙しているかのような恐怖をアルンは感じていた。


「どうしてここにいる。お前の狙いは王都のはずだ」


「王都だけを、ねらっているわけじゃ、ない。みつけた……おぼえた……エルフの村、忌々しいお前の――」


 かぞく・・・


 フードルの暗い瞳がアルンを映し――。


「失せろ。私の家族に近づくな!」


 シャルルとジュディが放つ雷撃と暴風がフードルを飲み込んだ。

 そして同時に、アルンやネズミ、使用人たちは風に吹き飛ばされ、屋敷に投げ込まれる。


 待ち望んだ家族との再会。それは望まぬ黒の訪れに引き裂かれた。

唐突に始まるVS災魔


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