表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/112

第十一話 性別X

その日の晩、一冴は眠れなかった。


寮を出てゆくという蘭の言葉が胸に刺さっている。


蘭にとって、ストーカーか何かのように一冴は思えたのだろうか。もしそうなら、蘭の居場所は自分が奪ったことになる。


眠れないまま数時間が経った。


一冴は上半身を起こす。


ほのかな月光が窓からさし込んでいた。


自分の手へと目をやる――男の身体へと。


この手や腕にしろ、毎晩剃らなければ、女子にしてはやや濃い毛が生えてくる。髭はまだ薄いと言えど、剃らなければ男子だと判ってしまう。


それだけではない――男子として生まれた以上、毎晩、こっそりと部屋から抜け出してしていたことも仕方なかった。空腹や睡魔に抗えないのと同様、その欲求からも抗えられない。男という生き物はこんなにも汚い。


男がいることがどれだけ恐ろしいか――という言葉が蘇った。その通りだ。気持ち悪いし怖いに違いない。蘭に愛されるばかりか、自分はここにいてはいけないのだ。


梨恵が目を覚ましたのはそのときだ。


ベッドから顔を上げて、声をかける。


「いちごちゃん、寝られんの?」


「――うん。」


「うちも。」


梨恵は上半身を起こす。


「やっぱり、鈴宮先輩のこと気にかかっとるん?」


「――うん。」


枕元のスマートフォンへと梨恵は目をやる。


「理事長先生は今ごろ寝とるかな?」


「たぶん。」


途端に、今まで言い表せなかった感情がやってきた。


一冴はうつむき、顔に両手をやる。


「俺が出ていけばよかったんだ――やっぱり。」


梨恵は首をかしげる。


「何で?」


「だって――ここにいちゃいけないの本来は俺じゃん。俺さえいなけりゃ、蘭先輩と菊花との関係も無茶苦茶にならなかったし――」


梨恵ちゃんにも――と言いかけ、抵抗を覚えた。


「伯伯伎さんにも迷惑をかけることなかった。」


「伯伯伎さん――って。」


批難するような声色に、一冴は少し後悔する。


「だって、俺、男だもん。」


目頭に熱いものを感じた。


泣きたくなかったため、仰向けになる。名実ともに、自分は今「男」なのだ。いくら女の格好をしていても、涙を見せたくないという意地はある。


梨恵ちゃん――などとは呼べないのだ、この声で。


「うち、いちごちゃんのことはずっと女の子だと思っとっただけど。」


その名前が胸に刺さった。いまだ「女あつかい」をされている。そちらのほうが本当はうれしいのだ。けれども、いたたまれない感情が今はある。


一冴は寝返りを打ち、顔をそむけた。


「男だよ――。本当は、こんな処にいちゃいけないんだ――女子寮に男がいたら、何するか分からない。気持ち悪いって思うの当たり前だよ。」


梨恵は、挑発するように問う。


「襲うの? うちのこと?」


男性らしい衝動が来ることを恐れ、一冴は身をちぢめる。


「襲わない。」


「なら――ええが。」


梨恵の言葉は温かい。


だが、慰められれば慰められるほど、今は抗いたくなる。


「けれど――蘭先輩はよくないよ。俺は――」


そこまで言い、妙な違和感を一冴は抱く。


この一人称は相応しくないような――そんな気がしたのだ。


「女じゃないじゃん――こんな身体。」


梨恵は首をかしげる。


「心は――女の子とかじゃないの?」


何と答えるべきか、一冴は迷った。


正直、「心が女性」という状態が分からない。そんなことは考えたこともなかった。だが、心が女性ではないということは、男性ということではないだろうか。


「心は――分からないけど」


「そう。」


梨恵は目を伏せる。


「けど――心に性別はないかもね。」


その言葉は一冴の胸に響いた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ