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第九話 寮を出る二人。

友人たちから取り残されるのを紅子は感じていた。


放課後――文藝部室には、菊花と蘭を除く全ての部員がいた。彼らと同じように、紅子は机に向かっている。


部誌は完成に近づいていた。今は、実際に掲載するレイアウトで原稿を印刷し、それを読んで誤字脱字の最終チェックを行なっている段階だ。


途中、気になって紅子はつぶやく。


「蘭先輩――今日も来ませんね。」


「うーん。」早月はうなる。「いくら生徒会の仕事が忙しくても、火曜と金曜日には必ず顔を出してたんだけどね。とりあえず、今はゲラだけ渡して、校正は寮でやってもらってるよ。」


「そう――ですか。」


れんげが不安そうに顔を上げる。


「来てない――って言えば菊花ちゃんも来てないね。」


「うん。」部長として真剣な表情を早月は見せる。「放課後は用事があるとかで――こっちもゲラだけ渡してるんだけど。」


「紅子ちゃん寮で同じ部屋なんでしょ? 何で来ないか知らないの?」


「いや――分かんないです。」


「――いちごちゃんは?」


一冴(いちご)は赤ペンを止める。


「いえ――知りません。」


その言葉が紅子は気にかかった。


先日から一冴(いちご)は元気がない。その原因が菊花や蘭にあることは何となく分かる。だが、それだけだ。一冴も菊花も紅子には何も話してくれない――菊花に話を聴いた梨恵でさえも。


友人であっても、打ち明けられないことはある。


しかし、まるで仲間外れにされているようだ。自分が知らないところで何かが起こっている。同志(タヴァーリシ)である一冴(いちご)のために何かをしたいと思っても――何もできない。


やがて十七時となった。紅子は一冴と下校する。


鎮守の杜を進んでいる間も、口数は少なかった。一冴(いちご)の顔は暗い。その向こうに、どんな感情が秘められているか紅子は知らない。


寮へと着き、昇降口へ這入った。


蘭と顔を合わせたのはそのときだ。


その右手には、大きな車輪つき鞄を持っていた。一冴(いちご)は顔をそむけ、ひと足先に下足場へ向かう。一方、紅子は立ち止まった。


「蘭先輩――どっかお出かけですか?」


蘭は暗い笑みを浮かべる。


「えゝ――実は、来週まで退寮しようと思ひまして。」


「――退寮?」


「はい。実家へ少し帰って来いと父から言はれてをりますの。先日も申し上げましたが、実は転校を勧められてをりまして――その相談のために、じっくりと家で話し合はうといふことになりました。当番の方には、迷惑をかけてしまふことは承知なのですが。」


「そう――ですか。」


「さういふわけで――学校へは明日から実家から通はうと思ひます。当番のことについては、朝美先生とももう相談済みです。しばらくのあひだ、お(いとま)をいたゞきます。」


「――はあ。」


それでは――と軽く一礼し、蘭は寮から出ていった。


下駄箱の前では、何やら思い詰めた顔で一冴(いちご)(たたず)んでいる。


恐る恐る、紅子は声をかけた。


「蘭先輩――退寮するって。」


「うん。」


そこから先は、言葉が続かなかった。


沈黙したまま、それぞれの部屋へ帰ってゆく。


一〇八号室のドアを開けたときのことだ。――


部屋から出て行こうとする菊花と顔を合わせた。背中には仏壇を縛りつけ、大きな鞄を持っている。思わず紅子は固まった。


「た、同志(タヴァーリシ)菊花――うばすて山みたいな格好して、何だ?」


菊花は涙ぐんだ声を上げる。


「いや、ちょっと寮から出て行こうと思って。」


蘭が出ていくと知ったあとだけあり、驚愕した。


「な、な、なぜだ?」


菊花の目に、じわりと涙がにじむ。


「だって、私、いちごちゃんに会わせる顔なんかもうないんだもん――。どうせ、親にわがまま言って入寮したんだし、それだったらもうご先祖様と一緒に出ていった方がいいじゃん。」


そうして、紅子を押しのけて菊花は部屋から出ようとする。


仏壇につかみかかり、菊花を引きとめた。


「ま、ま、待て! 早まるな! とりあえず話を聴かせてくれ! ご先祖様だけ帰して菊花は残ってくれぇっ!」

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