ゲームブック【外伝】(四十六頁目)
ゲームブック【外伝】(四十六頁目)
地下墓地は、暗く冷たい。全ての明かりは消え去り、頼りになるのは自分の右手に握られた松明のみ。
「以前もこんなに暗かったっけ?」
「いや、もう少し明るかったな。ダンジョンがクリアされて閉鎖したのが関係しているのか……?」
地下墓地に突入したのは三人。俺と、ノブ、山本さんの三人だ。月白の葡萄亭に残るアルが心配だし、さやも不安定だから連れてくるわけにもいかない。そうなってくると護衛に誰か残る必要があるって言うのでミカさんが残る事になったのだ。
アルは「アロロさんの仇討ちに行くんだ!」と言ったが、さすがに深夜の地下墓地に連れて歩くのは抵抗がある。山本さんが根気よく説得して、やっと納得したのだった。
「何にしても、何かでそうな雰囲気だなぁ」
「地下墓地ですからな」
「うらめしや……」
ノブがおばけの真似をしようとしたが、山本さんの鋭い視線を感じてやめた。それが正解だろう。それぞれの持つ松明の光を軸にして、墓地の中をゆっくり歩いていく。アロロやさやを襲った何者か、それの姿を探す。
しかし、すぐに見つかるものでもない。
「なぁ、敵ってどんなやつかな?」
「さあなー、巨大首長幽霊とかかもな」
「武者の亡霊の可能性もありますぞ」
そもそも実際はどんな形をしているのか、それすらもわからない。
「ゾンビとかグールの可能性もあるかな?」
「そうだなぁ、でも」
「でも?」
「アロロは短剣で刺されてるわけだろ?なら少なくともそれを扱える知能と、身体があるわけだ」
「あぁ、確かに。なら幽霊マンモスが犯人の説は消えたな」
「そんな説は最初からねえよ」
訳の分からない冗談を言い合いながら、歩いていると、スウッと背の高い人影を見つけた。
「……あれ」
何か言いかけると、シッとノブが俺を制した。その身長は……二メートル以上ある。しかしひょろりとしたシルエット。
さあ、どうすべきか。
「……!?」
そう思った瞬間。くるりと振り向いて、そいつがこちらをみる。顔が……無い!?いや目玉の部分と口の部分にはぽかりと空洞がある。しかし明らかに無機質、生き物の表情とは程遠い。
ボッ!!
一瞬、三人の松明が明るく輝いたと思うと、次の瞬間に火が消えた。瞬時に辺りが真っ暗闇になる。
「消えた!?」
「気をつけろ!こいつただのモンスターじゃない!俺の、偵察者としてのセンサーに引っかからん、気配がさぐれねえ!」
「ええ!?」
暗闇の中、刃が滑る音がする。山本さんが抜刀したらしい。
「キィィイイイイイエエエエ!!」
「……」
「キエイィ!エェェェェェェイッ!!!」
ひゅうん、と空を斬る音、数度の斬撃。俺は慌てて左手にMPを込める。
「フラムッ」
ボッ!と拳大の火球があたりを明るく照らす。
魔法形状変化、俺のSRスキルによって放射される炎は一まとまりになり、松明の代わりに周囲の闇を払った。
「山本さん!?」
先の声の方向を見ると、山本さんは刀を杖の代わりにして、膝を土につけていた。
「おい、大丈夫か」
俺とノブが駆け寄る。外傷はほとんどない。左肩に少し出血があるが、怪我自体は大したことはなさそうだ。しかし。
「……うぬ」
どうも様子がおかしい。うつろな目をして、虚空を見つめている。絶対やばいやつだ。どうしよう。ノブの方を見るとすぐ後ろにまでのっぺらぼうが迫ってきていた。
「ノブ!?後ろ!!」
「チッ!」
ノブが、大上段から振り下ろされた短剣を回避する。全く近づいてきた気配がない、幽霊か!!
「こいつ、気配がない!幽霊なのか!?」
「いや。身体はあるぜ、そうじゃなけりゃ武器は持てねえ」
「でも、なんか変だ。怖いぞこいつ!」
「そりゃそうだけどよ!」
前動作もなく突然つっこんできた。そののっぺらぼうを紙一重で回避して、すれ違いざまに右手で抜いた導きの剣で腹を凪いだ。やけに固い。ギャリっと音を立てて火花が散った。
「固いぞ!?」
「固い……?そうかこいつが!」
戦えるのは俺とノブだけ。しかもあの短剣、ただの攻撃じゃないのは明らかだ。一発でも食らっちゃまずい。なるべく大きく距離を取って攻撃を回避していく。
「なにか知ってるのか?」
「ああ、こいつ。人造人間だ。ルルリリが作ろうとしてたって話だったが、完成していたのか」
「ルルリリってあの?」
「そうだよ!お前の知ってるあのルルとリリだ!」
再びつっこんできた人造人間の短剣を、導きの剣で打ち払った。
「人造人間脳喰!人間の脳みそ……というよりその中身!情報を食う化け物だ」
「情報って……だから記憶を?」
「ああ。気をつけろ、血を吸われると記憶が吸い取られるぞ」
いつの間にか人造人間の持つ短剣は一本から二本へ増えている。剣術と言うよりはがむしゃらな振り方だが、かすめてもダメだと言うのでは間合いが詰められない。かと言って、逃げ回っていてもいずれ捕まる。
切り札を切るしか無いな。どうせ俺はそんな器用な闘い方ができる方じゃないんだ。
パッと左手に灯していたフラムの照明を消し去った。
「フラム……!うおおおっフラム……ベルジュ!!」
左手に、魔法力による炎の光剣が出現する。右手に導きの剣、左手には魔法剣。
「二刀流には、二刀流で!ルルリリに作られた人造人間だって言うのなら、同じように吹き飛ばしてやる!」




