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中学時代 後編

「じゃあ、続きを話そうかな」


「お、おう……」


***


 クラスでいじめが発生して3週間ほど経ったときに、家で夕食後に両親に話があると言われた。どうやら、澄香からいじめのことがばれたらしい。


 澄香から話を聞いたらしい母が父に説明するために、俺がクラスでいじめられていることやその経緯について話した。それは、クラスで言われていた内容と同じもので、明らかに俺が悪いようにとられるものだった。母は話を途中で遮るのを嫌うので、その話を黙って聞いていた。その話が終わり。父が口を開いた。


「その子には謝ったのか?」


 意味が分からなかった。普通はその話が本当かどうか聞くだろと思った。


(黙って聞いてたから、認めたと思われたのか?)


「いや、謝ってないけど、それは――」


「悪いことをしたなら謝らなきゃダメでしょう!」


 普段こういう時に話を遮ると「まだ私が喋ってるでしょ!」と言って怒ってくるのに、自分は喋らせてくれなかった。こんなに俺のことを信じてくれないとは思わなかった。俺がそんなことをしていない可能性を1ミリも考えてくれないとは思わなかった。


 まさか両親にまでこんな反応をされるとは思っていなかった俺は、思いっきり机にこぶしを振り下ろし立ち上がった。普段、感情が爆発することは少ないのだが、制御できなかった。でも、自分が机をたたいて出した音で、冷静になった。


(こんなに、俺は信用されてなかったのか)


 そう思うと、両親のこともどうでもよくなってしまった。さっきまではそれは違うと反論をしようとしていたのだが、その気力すらなくなってしまった。


 いきなり、俺が机をたたいたことで驚き、茫然としている両親を無視して俺は部屋に戻った。いや、戻ろうとした。俺の部屋の前に妹がいて戻れなかった。二つ下の中学1年生の妹。思春期だからなのか話すことが少なくなったけど、それでも昔はよく自分の後をついてきて慕ってくれていた可愛い妹だ。


「私も澄香ちゃんから聞いたよ」


「いやっ、それは――」


「最っ低だよ、お兄ちゃん」


 とどめの一撃だった。これで、俺の周りにいる人が全員俺のことを信じてくれていないことがわかってしまった。


 自分の部屋に入って机に座り、日記を開き考えた。最近は暗い出来事や暗い感情しか書かれていない日記に先程起こったことを書き込み、3週間分の日記を見返しながら考えた。今まで考えていなかった、何がいけなかったのか、なんでこんなことになってしまったのかということを考えた。


(1年生の時、なぜ自分はいじめられたのか。人気者の女子を振ったから。なら、なぜ告白されたのか。俺の顔がよかったからだろうか。なぜ後輩は亮介を利用してまで、俺に近づこうとしたのか。俺が優秀だったから。……なんだ、根本的な原因は全部俺じゃないか)


 そう考え、自分が嫌になった。俺は今まで自分はいい人に分類されるだろうと思っていた。人には親切にするように心がけてきたし、人を傷つけるようなことをしないようにしてきた。でも、それでも、俺は人を傷つけてしまう最低の人間なんだろう。


(自分はクズで、周りからゴミでも見るかのように見られて当然なんだ。この顔が悪いんだ。大体のことは人並み以上にできてしまうのが悪いんだ。)


 だから、それは捨てようと思った。次の日から、俺はマスクを着けて生活するようになった。体育の時もわざと手を抜くようにした。


 いじめについて、親から学校に連絡がいったらしく、話し合いと謝罪の場が持たれた。俺は暴力を振るわれたことを認めなかった。俺みたいなやつを殴って、問題になるなんて可哀想だと思ったから。


 結局、俺へのいじめの問題はうやむやになって終わった。それからは、家には夜になってから帰るようにした。志望校は遠めの学校を選び、合格した後、一人暮らしをしたい旨を両親に話した。反対されたのだが、一人暮らしのメリットを並べ、最後に一人になりたいというとしぶしぶ認められた。


***


「ということで今一人暮らしなんだよね」


「いや、今の話の着地点そこなのかよ……。待って、結構壮絶で涙出そうなんだけど」


「まあ、要するに……怖いんだよ。顔を出すのも、部活をするのも、体育を真面目にやるのも」


「……なるほどな。……宮本さんも怖いのか?避けてたみたいだけど」


「あー、それも、そうかな。……有輝と宮本さんがいて、中学時代がフラッシュバックしたというか……」


「ああ……」


 これについては、本当に申し訳ないな。


「今の話」


「うん?」


「俺は翔太のこと好きだしいいやつだと思ってるからな」


 本当に、3週間程度の付き合いで、なぜそんなに信じてくれるのだろうか。正直、友達でいたいとは思っているが、昔の亮介みたいに心から信じ切れているわけではない。裏切られてもいいように、心のどこかで一線を引いている気がする。でも、そう言ってくれるのはうれしかったし、有輝のことは信じたいと思った。


「ありがとう」


「だから、今日みたいに呼び出されて一人で行ったりするなよ?行くなら俺もついて行くからな」


「うん、ほんとにありがとう」


 色々話して、すっきりした。ずっともやもやとしていたものが薄れたような感覚だ。


「そういえば、宮本さんとは何で仲良くなったんだ?最初来た時、お礼とか言ってたけど」


「ああー、別に仲良くなったわけじゃないと思うんだけど、宮本さんが昼に来た日の前の日に、落とし物探すの手伝ったんだよ」


「へえ」


「1時間半くらい探して見つかったんだけどね」


「1時間半⁈」


「うん、なんかヘアピンを落としたんだって」


「ああ、あれか」


 あれ、と言うくらいだし、トレードマークみたいな感じなんだろうな。


「……宮本さんに謝らないとかなあ。明らかに避けちゃったし」


「うーん、どうだろうなあ。謝られても向こうもびっくりすると思うけど……。まあ、明後日昼休みに来たらでいいんじゃないか?明日は学校休みだし。別に悪いことしたわけではないしな。というか、その時俺居て大丈夫か?また、中学のこと思い出すんじゃ……」


「いや、色々話してなんかすっきりしたし、大丈夫だと思う」


「それならいいけど、無理すんなよ?」


「うん」


 ちょっと避けたくらいでいきなり訪ねられて謝られてもびっくりするだろうし、そもそも宮本さんとの仲は一緒に探し物したってだけだし、もし昼休みにまた来るなら謝るってことでいいかな。


「あれ、宮本さんって昨日は来てたの?」


「ああ……。……ちょっと言いにくいけど、来て、クラスの奴に翔太の噂教えられて、そのまま帰らされてたよ」


「……」


 そうなのか……。今日はクラスに来ていたのだろうか。まあ、来てないだろうな……。宮本さんはかわいいし、そういうやつに対しての警戒心は普通の人より強いだろう。



 話したいことは大体話したので、少ししてファミレスを出る。


「翔太、また明後日な」


「うん、また」


 色々あったけど、今日の日記の内容は明るいものになりそうだ。

中学生澄香「多分、翔太が悪いんだと思います」

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