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ただいま

ミーンミン……ジーーーーー…………





「はあ……」


 実家の最寄り駅の改札を出たところで、ため息が出てしまう。胸のもやもやしたものが吐いた息と一緒に出ていってくれればいいのだけど、そうはいかなかった。


 ほかの人の邪魔にならない場所で立ち止まって考える。


 前回来たのはゴールデンウィークだから……三か月前くらいか。そう考えると長いような短いような……。あの時よりは、景色に色がついたような気がする。それは夏だからか。


空を見ると濃い青色にところどころ白い雲が浮かんでおり、遠くには存在感のある入道雲が佇んでいる。そして日差しは強く、じりじりと肌を焼く。もう、夏なんだよなあ……。




 ……さて、そろそろ行こうかな。



 ……あれ?


少ししてから昔のように実家へと続く道の方へと足を向けようとしたのに、足が全く動かない。歩こうとしても膝が震えるように動くだけ。


 え、え?……勘弁してくれよ……。……と、取り敢えず少し休むか。


 正直、かなり動揺しているけどそれしかできることがない。……ああ、こんなことなら母さんが迎えに行くと言っていたのを断らなければよかっただろうか。いや、それはそれでなあ……。





 しばらくしゃがみ込んでから立ち上がると、何とか歩くことができた。


 良かった……。少し予定していた時間からずれてしまったし、急がないといけないな……。はあ……先が思いやられる……。












「はあ……はあ……」


 実家に近づくに連れて、足はどんどんと重くなり、息が上がる。真夏だというのに少し寒い気がするし、立ち止まって休みたいところだけど、ここでそれをすると絶対に動けなくなる。実家も近いしもう少しの辛抱だ。


「はあ……ふう……ついた」


 時計を見ると伝えていた時間から5分ほど経っていた。……だいぶ早く家を出たのにな。


 ここまで来ればと思い、立ち止まって水筒のお茶を少し飲む。そして、外ではいつもかけている眼鏡を外した。


 左手にはつい5か月くらいまで暮らしていた実家があり、右手奥には澄香の家がある。まさか澄香に鉢合わせするなんてことはないと思いたいところだけど、ここでうだうだしていてはその可能性が大きくなってしまう。早く入らないと。


 敷地内に入って、鞄からいつも使っている鍵とは違う鍵を取り出す。少し震えている手でゆっくりと鍵を鍵穴に入れて、深呼吸をしてから鍵を回した。


 扉を開けて中へ入る。


「たっ……ただ、いま」


 帰ったらまずは絶対に言おうと決めていた言葉は、消えてしまいそうな声になってしまった。


 これでは絶対聞こえていないなと思う程に小さな声になってしまったのだけど、その予想は外れて返事が返ってきた。


「お兄ちゃん、おかえり」


「!……遥」


 来るならリビングからお母さんが出てくるもんだと勝手に思っていたから、妹が洗面所の方から来たことに驚いてしまった。


「ただ……いま」


 そう言うと、遥はキッチンの方に歩いていく。


 そして、遥がキッチンに顔を出して、お母さんに俺が帰ってきたということを言うと、聞こえていた料理音が聞こえなくなって母さんが出てきた。


「翔太、おかえり」


「ただいま……」


「暑いし、疲れたでしょ。何か飲む?」


「……いや、大丈夫。ありがとう」


 ついさっき飲んだところだしな……。


「……えっと……、ご飯、もうすぐできるから」


 そう言うと、母さんはキッチンの方に戻っていった。


 俺は鞄を持って遥の後ろを追いかけるようにして、遥の部屋の隣にある俺の部屋へと向かった。



 部屋に入ると、中は前回帰ってきた時と同じようにきれいに掃除されている状態だった。


 取り敢えず、帰ってきた目的の一つを達成させておくか……。


 押入れを開けて、奥の方に入っている段ボール箱を取り出す。そしてその段ボールの中から日記が入っている箱を取り出した。そこには当然俺の日記が並んでいて、前回来たときに少し開いた前年度の日記だけが並んでいる日記の上に置かれていた。


 ……あれ?ちゃんと並べておいたと思っていたのだけど……。……ああ、そう言えば、遥が急に入ってきたから急いで片付けたんだっけ。


 箱を押入れから出して、持ってきていた鞄に入れた。


 ……これで、よし。鞄に入るかわからなかったけど、結構余裕を持って入れることができたな。



 部屋を見渡すと中学時代ものが色々ある。小さいころから使っていた時計や中学の家庭科で作った猫の顔が縫われているフェルト生地のボール。あとは部活で取ったバドミントンの大会の賞状や、小学5年生の誕生日プレゼントにもらった馬の形の立体パズルなんかもあった。


 その中の猫のボールを手に取る。


 これは、持って帰ろうかな。宮本さんがかわいいの好きだと言っていたし、このボールは自分で言うのもなんだけど、かなり可愛くできていると思うから。この前うちに来たときにまた来たいと言ってたからな……。


 ボールを鞄に入れて、ついでにその横に置いてあった馬の立体パズルも入れた。これはクリスタルパズルというやつで綺麗だと思うし、見方によっては可愛いと思ったから。


――コンコン……ガチャッ


 ……遥か。


「あの、お兄ちゃん……」


「あ、ご飯?」


「いや、その、そうじゃ――」


「ご飯できたよー」


 ドアを開けて遥が小さく何かをつぶやいたところで母さんの声が聞こえてきた。


「あ……」


 遥が母さんの声に反応して声の方に顔を向けたと思ったら、ちらちらとこちらを見てくる。……?何か言いたげな感じだ。


「……うぅ、はーい」


 遥は母さんに返事をしてリビングへと向かってしまった。……何だったんだ?



 ……ご飯か。母さんの料理を食べるのは久しぶりだな。


 これからの予定は、今日はここに泊まって、明日家族全員でお墓参りに行くことになっている。夜になったら父さんが帰ってくるだろう。その時に、出来れば家族全員で話をしよう。中学の時の話を、今度は、逃げないで。








次回は母視点の可能性があるかもしれない。

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